~アリババの事業6分割、真意はECとAIの「二刀流」?!~

~アリババの事業6分割、真意はECとAIの「二刀流」?!~

投資情報部 李 燕

2023/03/30

3/23-3/29の香港市場は大幅に続伸しました。欧米の信用不安が緩和したことに加え、アリババ(09988)をめぐる好材料が投資家のセンチメントを押し上げました。

今回のトピックスは、「アリババの事業6分割、真意はECとAIの「二刀流」?!」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:3/29(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(3/29(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 18.1% 17.6% 34.7% パソコン(PC)大手。大手証券会社が投資判断を「アンダーウエイト」から「オーバーウエイト」へ、2段階引き上げた。同証券会社は、AIの導入拡大を背景にサーバー向け製品の成長余地は大きいと分析した。
00316 東方海外 15.3% 16.8% 7.6% 海上貨物輸送を手掛ける。2022年通期の決算内容が市場予想を大きく上回り、好材料となった。決算発表後、大手証券会社が投資判断を引き上げた。
09988 アリババ・グループ 14.1% 2.9% 10.5% EC・フィンテック大手。会社側が事業を6分割すると同時に、それぞれの事業体は今後、独自に資金調達や新規株式公開(IPO)を実施できると発表し、好材料となった。
00700 騰訊 [テンセント・ホールディングス] 10.8% 4.3% 20.9% ゲーム・フィンテック大手。中国本土投資家が3/6から連日買い越していると報じられた。アリババの事業6分割計画もネット大手に対する投資家センチメントの改善につながった。
03690 美団(Meituan) 7.4% -2.0% -23.8% 中国フードデリバリー最大手。2022年10-12月期の決算内容が市場予想を上回った。アリババの事業6分割計画もネット大手に対する投資家センチメントの改善につながった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01088 中国神華能源 [チャイナ・シェンファ・エナシ] -5.1% 0.0% 6.7% 石炭大手。中国関税当局が2023年4月から2023年12月まで引き続き、石炭の輸入関税ゼロを維持すると発表し、石炭株が売られた。大手証券会社が同社の投資判断を引き下げたことも売りを誘った。
02313 申洲国際 [シェンジョウインター] -5.5% -13.9% -9.8% ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。2022年下期の粗利益率が予想を下回り、大手証券会社が目標株価を引き下げた。
01378 中国宏橋集団 -6.5% -17.7% -1.1% アルミニウム製品メーカー。2022年通期の売上高は市場予想を上回ったが、純利益は市場予想を大幅に下回った。配当が前年比で8割減となったことも嫌気された。
00322 康師傅控股 [ティンイー] -6.6% 2.6% -4.9% 大手食品メーカー。2022年通期の売上高は6年連続で増加したが、コスト高で粗利益率が低下し、純利益は市場予想を下回った。決算発表後、大手証券会社が目標株価を引き下げた。
01093 石薬集団 [CSPCファーマシュ-ティカル] -9.7% -12.1% -10.8% 医薬品大手。2022年通期の決算内容はおおむね市場予想通りで、サプライズはなかった。ただ、決算発表と同時に、同社製の新型コロナ・ワクチンが国産製として初めて使用認可が得られたと公表したことが売りを誘った。ほぼ集団免疫が獲得されている状況下で、ワクチンの需要に対して疑問視する報道が多かった。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
03888 金山軟件 [キングソフト] 31.5% 45.6% 57.9% ゲーム・ソフトウェア大手。2022年通期の決算内容が市場予想を上回ったほか、同社がAI技術への投資を拡大すると表明し、買いが膨らんだ。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き上げた。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 18.1% 17.6% 34.7% パソコン(PC)大手。大手証券会社が投資判断を「アンダーウエイト」から「オーバーウエイト」へ、2段階引き上げた。同証券会社は、AIの導入拡大を背景にサーバー向け製品の成長余地は大きいと分析した。
00772 閲文集団(China Literature) 17.0% 20.3% 47.0% オンライン文学プラットフォームを運営。2022年通期の決算内容が市場予想を上回り、買い材料となった。
09898 微博 15.8% -9.0% 9.7% ソーシャルメディア・プラットフォーム運営会社。テクニカル要因のもよう。3/21にRSIが売られすぎサインとされる30%に下落した後、反発した。
09988 アリババ・グループ 14.1% 2.9% 10.5% EC・フィンテック大手。会社側が事業を6分割すると同時に、それぞれの事業体は今後、独自に資金調達や新規株式公開(IPO)を実施できると発表し、好材料となった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
06060 衆安在線財産保険 -1.6% 1.4% 17.1% オンライン保険大手。2022年通期の純損失額が市場予想以上となり、売り優勢となった。大手証券会社は損失拡大の要因は本業よりも投資評価損や為替差損によるものであるため、投資判断は「買い」を維持するが、市況の不安定さを考慮し、目標株価を引き下げた。
00020 SenseTime Group Inc -2.2% -3.3% 20.2% AIソフトウェア大手。主要株主であるソフトバンクグループが3月に入ってからも、同社株を売却していたことが明らかになった。ソフトバンクグループの持ち株比率は昨年6月末時点で18%だったが、今年3/21時点では15%を下回った。
00981 中芯国際 [SMIC] -2.8% 8.9% 8.1% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。米政権が半導体産業支援法の下で補助金を受け取った企業に対し、中国での増産上限を設定すると発表し、半導体株が売られた。
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] -6.1% -3.4% 5.3% オンライン旅行サービス大手。3/25までの一週間で東南アジア向けの旅行者数が前週比で減少したと現地紙が報じ、売り材料となった。
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] -6.9% -19.5% -21.9% ソフトウェア会社。ファーウェイ(未上場)が企業向けのERPシステム(企業の人・物・金を一元管理できるシステム)へ進出することが引き続き、材料視された。ERPシステム大手の同社にとって、ファーウェイが強力なライバルになることが警戒された。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

3/23-3/29の香港市場では、ハンセン指数が3.1%上昇、ハンセンテック指数は5.9%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、5.0%上昇しました。

欧米の信用不安が緩和したことに加え、アリババ(09988)をめぐる好材料が投資家のセンチメントを押し上げました。アリババは3/28(香港市場引け後)に事業を6分割すると同時に、それぞれの事業体は今後、独自に資金調達や新規株式公開(IPO)を実施できると発表しました。それを好感し、アリババの株価は3/29に急反発(12%高)しました。

アリババをめぐる動きは、アリババを筆頭株主とするネット大手に対する中国当局の”締め付け終了”とみる向きも多く、ネット大手株がそろって買われました。テンセント(00700)は中国本土投資家による買いが連日続いていると報じられたこと、美団(03690)は市場予想を上回った決算を発表したことも、支援材料となりました。

上記3銘柄の構成比率が高い情報テクノロジーは8.9%高となり、業種別上昇率でトップとなりました。AI(人工知能)の導入拡大に対する恩恵期待で、キングソフト(03888)やレノボグループ(00992)が大幅に上昇したことも、同サブ指数を押し上げました。

業種別上昇率で2位となったのは、生活必需品でした。青島ビール(00168)が市場予想を上回った決算を発表し、上昇をけん引しました。大手証券会社がビール業界の回復を見込み、同社を含むビール大手3社(他2社は、バドワイザーAPAC(01876)と華潤ビール(00291))の目標株価を引き上げたことで、ビール大手3社がそろって買われました。

EV(電気自動車)関連銘柄も、総じて堅調でした。アリババをめぐる好材料が中国株に対するセンチメントの改善につながったほか、新エネルギー車最大手のBYD(01211)の大幅増益も支援材料となりました。新エネルギー車の販売好調を支えに、BYDの2022年通期の純利益は前期より5倍以上に増加しました。ただ、事前に会社側が発表した業績予想に沿ったものでもあったため、BYDの上昇率はリーオート(02015)やシャオペン(09868)をやや下回りました。

なお、ニオ(09866)は逆行安となりました。同社経営陣が足元の値下げ競争について「純粋な値下げ(単に値下げすること)は自殺的な競争」だとコメントしたほか、特段材料はなかったようです。値下げ競争を否定する発言を嫌気した一部の投資家による売りが、EV関連銘柄に対するセンチメント改善を背景とした買いを相殺したようです。

中国株に対する投資家センチメントが改善したことを受け、ディフェンシブの電気通信は軟調でした。通信キャリア大手3社のチャイナモバイル(00941)とチャイナテレコム(00728)、チャイユニコム(00762)が売られました。

不動産株も、売り優勢でした。中国の中堅不動産デベロッパー・緑地ホールディングス(600606、SBI証券取り扱いなし)の張CEOが不動産市場の低迷は2023年も続く見通しだと発言し、売り材料となりました。なお、張CEOは地域(たとえば大都市と中小都市)間で大きな温度差があるとし、今後は業界で淘汰と二極化が進む可能性があると指摘しました。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「アリババの事業6分割、真意はECとAIの「二刀流」?!」です。

アリババ(09988)が3/28に、事業の6分割・上場検討を発表したのは、同社の創業者である馬雲氏が外遊を終え、中国本土に戻っていると報じられた翌日の出来事でした。「偶然すぎる」タイミングが市場で話題を呼んでいます。

なお、市場であまり取りあげられていない「偶然の出来事」がありました。アリババが事業分割を発表した3/28の午前、国家インターネット情報弁公室は「企業の合法的な権利を保護する」と表明しました。また3/28の夕方、中国工業情報化部は「民営企業とプラットフォーム企業が国家の重大な技術革新に参加することを支援し、世界クラスのデジタル産業クラスターを構築する」と表明しました。

アリババの事業6分割・上場検討をはじめとする一連の出来事は、ネット大手に対する中国当局の締め付けが緩められた証拠と言えます。そして、アリババの事業分割の詳細と、中国当局のデジタル産業を強化する方針を合わせて考えると、中国当局はハイテク分野において半導体だけでなく、デジタル産業にも注力していく予定で、その分野に強い民営企業のノウハウを活用していく意向のようにみえます。

アリババの事業分割計画を確認してみると(図表4)、以下2つの特徴が浮かび上がります。

図表4 アリババの事業6分割計画

会社発表資料の表記順 各事業部門の名称 含まれる事業
1 クラウド・インテリジェンス・グループ クラウド、AI(人工知能)、ビジネス向け対話アプリ「釘釘」
2 タオバオ・天猫コマース・グループ 中国国内ECの「タオバオ」、「天猫(Tmall)」など
3 ローカルサービス・グループ 地図アプリの「高徳」およびフードデリバリーサービスの「餓了麽」
4 グローバル・デジタル・コマース・グループ 国際EC業務(たとえば、傘下の東南アジアECの「Lazada」)
5 デジタル・メディア&エンターテインメント・グループ 娯楽・メディア
6 菜鳥スマート・ロジスティクス・グループ 物流サービスの菜鳥

※会社発表資料もとにSBI証券が作成。

1)従来のクラウド事業が、「クラウド・インテリジェンス」に変わったこと

クラウド・インテリジェンス・グループに含まれる事業にはこれまでのクラウドに加えて、AIやビジネス向け対話アプリが入っています。クラウドと同時に、AIをはじめ、今人気を博しこれから成長が期待できる生成AI分野も強化していく方針が伺えます。

2)発表資料で「クラウド・インテリジェンス・グループ」が「1」として挙げられ、同社の主力事業であるECより上にあること

通常の認識ですと、売上高規模が高いECがまず示されると思われますが、売上高の数パーセントしかないクラウド事業が含まれている「クラウド・インテリジェンス・グループ」が最初に表記されている点は、注目に値すると思います。同部門は、現アリババCEOの張勇氏が最高責任者を兼任する唯一の部門にもなる予定です。

上記2点からすると、アリババはこれまでの主力事業であるECを基盤にしながら、これからはクラウドやAIにより注力していく方針のようにみえます。いわば、今回の事業分割は、次の成長ステージに向けた組織再編とも言えます。

なお、アリババは3/30の日本時間9時に、今回の事業分割についてアナリスト向け電話会議を開催しました。以下が電話会議の主なQ&Aです(なお、クラウド部門やAI関連の質問はありませんでした)。

Q:今回の事業分割により、最も変わることは?

A(張CEO):最大の変化は、各事業グループがそれぞれ独立した事業体になることです。それにより、独自の資金調達あるいは新規株式公開(IPO)を模索することができます。(備考:これにより同社の企業価値に対する評価は変わるだろうと予想し、大手証券会社数社が目標株価を引き上げました。)

Q:なぜ今回のタイミングで事業分割を発表したのか?

A(張CEO):4月から新年度が始まるためです。実際はすでに今回の事業分割に先駆けて(2021年12月に)事業セグメントを変更しました。

Q:どの事業が先に、いつ上場する予定ですか?

A(張CEO&徐CFO):「タオバオ・天猫コマース・グループ」(中国国内EC事業)を除けば、各事業グループは独自の資金調達あるいはIPOを模索するでしょう。各事業グループは準備が整った時点で、上場を目指します。事業分割が完了し、各事業グループがスピンオフした際、アリババは株主価値を高めるためにより多くの方法と手段を持つこととなるでしょう。

総合的にみると、電話会議では今回の事業分割がIPOを意識したものであることが一段と鮮明になりました。また、アリババが株主価値を重視する姿勢を強く示した印象です。これは同社株にとって大きな支援材料となりそうです。今後は、事業分割後のIPOの進展が注目されます。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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