FOMCに隠されたまさか!のシナリオとは?

FOMCに隠されたまさか!のシナリオとは?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2023/03/28

長引く金融株安。反面、米長期金利低下でナスダックは大幅高!

3月第3週~4週(3/13~24)の日経平均は、前週末比758円72銭安(▲2.7%)と下落しました。

同期間は、米欧の金融システムへの懸念が、世界の主要株式市場で株価を押し下げました。金融株や関連性の高い不動産株を中心に、売りが目立ちました。反面、市場心理が悪化し、FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ観測が後退。さらに、リスク回避の債券買いが進み、米債利回りが低下したことで、割安感の生じた大型ハイテク株が選好された形です。同期間のNYダウが▲1.0%であるのに対し、ナスダックは+6.2%と著しくアウトパフォームしました。

大きな出来事として、日本時間3/20(月)朝、UBSによるクレディ・スイスの買収合意が発表されたことが挙げられます。クレディ・スイスの経営不安はかねてから広がっていましたが、筆頭株主が追加支援を否定したことで同行の信用不安が強まり、同行のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が急騰しました。UBSの救済合併は、歴史的な銀行統合であり、スイス政府が仲介し、何とか合意実現に繋がった形です。しかし、救済合併に伴い、クレディスイス発行の「AT1債 ▷(後述)」の価値がゼロとなることが判明し、市場心理を再び悪化させました。

▷▷▷「AT1債」とは自己資本として組み入れ可能な債券で、一定条件下で元本削減や株式転換の可能性がある証券。弁済順位は普通債より低くリスクが高い分、利回りが高いことが特徴。2008年の世界金融危機後、銀行の資本規制で自己資本比率の水準が定められ、この水準を維持するため、欧州の銀行を中心にAT1債の発行が相次ぎました。

ここで問題の焦点となったのは、同債券の無価値化ではなく、銀行の資本構造での一般的な弁済順位が覆ったという点にあります。

通常、銀行等が経営破綻した場合、債券は株式より弁済順位が優先されます。しかし、今回のクレディスイスの件では、AT1債が無価値になるのに対し、株式は1株につき0.76スイスフラン相当のUBS株を受け取れることになっています。債券と株式の一般的な弁済順位の逆転は、市場原則の根幹を揺るがしたとして、AT1債市場全体に売りが波及しました。

銀行はバーゼルⅢに準拠した「自己資本比率を維持」するため、AT1債を発行していました。前述のクレディスイスの件で、今後は債券市場での自己資本の調達は難しくなることが予想されます。となると、銀行の流動性に関する懸念が結果として加速する形となり、金融システムへの懸念が再び広がりました。日本にも影響は波及しており、図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(3/13~27)はほとんどが金融関連という顔ぶれです。

期間後半(第4週)には、欧州やアジアの当局や中央銀行が、従来の「債券>株式」の弁済順位を守ってゆく旨を表明し、市場では安心感が広がりました。ただ、24日(金)にドイツ銀行が劣後債の早期償還を発表するなどして、同社株式は大幅安しています。米欧の銀行経営を巡る懸念は、しばらくくすぶり続けそうです。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(3/13~27)

図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(3/13~27)

FOMCに隠されたまさか!のシナリオとは?

先週、米国で開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)は、いつも以上に注目される会合となりました。もともと同会合では、年明けの米国経済が堅調に推移する中で利上げペースが加速するかが注目されていました。しかし、3/10(金)にシリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻し、銀行システムへのストレスが高まると、急ピッチで行われた利上げの弊害が意識されるようになり、利上げが停止するのではないかとの見方が浮上しました。

そうした状況で行われた今回のFOMCでは、主に3つのポイントが挙げられます。

(1)政策金利(FFレート誘導目標):
  25bp(0.25%)利上げ (図表9)

(2) FOMCメンバーによる政策金利見通し:
  23年末の政策金利予想値(中央値)が前回比で据え置き (図表10)

(3)FOMCメンバーによる経済見通し:
  23年実質GDP成長率(中央値)が小幅下方修正に留まった (図表10)

まず(1)について、今回の利上げは一言でいうと“ハト派的利上げ”と思われます。SVBが経営破綻する前の金融政策は、タカ派色が強く、経済が堅調に推移していたことを背景に利上げペースの再加速(50bp利上げ)も視野に入っていました。そうした中で25bp利上げに留まったのはSVB破綻による経済への影響に配慮したためでしょう。逆に利上げ見送りとならなかったのは、それにより市場のハト派期待(利下げ期待)が過度に高まることを避けたかったのだと思います。インフレ率が高水準で推移する中、利上げ見送りでインフレ期待が高まれば、金融政策のコントロールが非常に困難になる恐れがありました。

図表9 政策金利(FFレート誘導目標)の推移

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成


また、(2)について、今回のFOMCで市場の注目は、23年末の政策金利水準(≒利上げの到達点:ターミナルレート)がどの程度、上方修正されるかにありました。しかし、蓋を開けると政策金利水準は前回と変わりませんでした(図表10)。今回のFOMCで25bp利上げが実施されたことを踏まえると、今回の利上げ局面はあと1回で終了ということになります。これもまた、SVB破綻が影響していると見られ、FRBの政策スタンスはハト派色が強まったと言えるでしょう。

ただ、パウエルFRB議長は記者会見で「FRB当局者は今年の利下げを見込んでいない」と述べ、年内に利下げへ転換するという一部の期待をけん制しており、ここでも市場が過度にハト派期待を織り込まないように配慮されています。

図表10 FOMCメンバーによる経済、政策金利見通し

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成


(3)はもっとも重要なポイントで、ここにFRBの隠れたメッセージがあると考えられます。今回の経済見通しでは、23年実質GDP成長率予想が前期比+0.4%と前回(12月時点)から0.1pt下方修正されました。下方修正幅は小さく、一見すると大したことがないように見えますが、問題は23年1Q(1-3月期)で、少なくともSVBが破綻する前までの米国経済が力強い成長を遂げていたことです。

アトランタ連銀が推計するGDP Nowによると、1Qの実質GDP成長率は、前期比年率+3.2%と推計されています(3/24時点)。また、米国は22年3Q(7-9月期)が同+3.2%、4Q(10-12月期)が同+2.7%と高成長が続いています。仮に23年1QもGDP Nowの推計値並みの高成長となった場合、23年通年でFOMCの経済成長率(前期比+0.4%)に留まるためには、23年2Qから4Qにかけて平均▲3.3%ペースで縮小することになります(図表11)。

これは計算上の話であり、多少は割り引いて見ていく必要がありますが、それでもFRBが米国経済の先行きに強い懸念をもっていることに間違いはないと思われます。このことを踏まえると、(1)や(2)で示したように、FRBの政策スタンスがハト派に傾いていることにもうなずくことが出来ます。

ただ、FRBとしては景気に配慮を見せながらも、インフレ抑制の手綱を緩めることは出来ません。金融政策は景気配慮(金融緩和)とインフレ抑制(金融引き締め)のバランスを取ることが非常に困難になっており、それだけに、市場としても金融政策の方向性を読み難くなっていると見られます。FOMCが終了し、今週以降、政策当局者が金融政策の考え方について見解を述べる機会が増えます。そうした中、どういった政策見通しが示されるのか注目されるでしょう。

図表11 米国実質GDP成長率のシミュレーション

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

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