~米国が大きくくしゃみしたら?中国の消費以外の下支え役~

~米国が大きくくしゃみしたら?中国の消費以外の下支え役~

投資情報部 李 燕

2023/04/06

3/30-4/4(※)の香港市場は全般的に小動きとなりましたが、エネルギーや電気通信、半導体は大幅に上昇しました。
(※4/5は清明節のため休場)

今回のトピックスは、「米国が大きくくしゃみしたら?中国の消費以外の下支え役」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:4/4(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(4/4(火)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00981 中芯国際 [SMIC] 16.7% 23.5% 22.9% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。半導体株が買われた流れの一つ(詳細は本文をご参照願います)。大手証券会社が今年下期の需要回復を見込み、同社の目標株価を引き上げたことも買いを誘った。
01928 金沙中国 [サンズ・チャイナ] 11.2% 6.4% 4.3% カジノ大手。マカオの3月のカジノ収入が前年同月の3.5倍に増加し、カジノ関連銘柄が急伸した。
00857 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] 11.1% 12.9% 33.9% 中国石油・天然ガス最大手。2022年通期の純利益が過去最高を記録したほか、自社株買い計画を発表し、好材料となった。OPECプラスの減産発表を受けた原油高も買いを誘った。
00027 銀河娯楽 [ギャラクシー・エンターテインメント] 9.4% 6.2% 3.7% カジノ大手。マカオの3月のカジノ収入が前年同月の3.5倍に増加し、カジノ関連銘柄が急伸した。
00941 中国移動 [チャイナモバイル] 5.9% 5.9% 22.6% 中国通信キャリア最大手。大手証券会社が同社を含む通信大手株を買い推奨した。生成AIは今後の5G時代に新たなトラフィックをもたらす可能性が高く、データセンター(IDC)市場でシェアが高い通信大手は恩恵を受けると予想した。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09888 百度 [バイドゥ] -5.4% -1.7% 18.2% 検索エンジン大手。中国本土投資家による売りが報じられた。生成AI関連銘柄をめぐり、センスタイム(00020)が急伸し、資金移動が生じたもよう。一部大手投資ファンドは百度の持ち株比率を引き上げた。
01177 中国生物製薬 [シノ・バイオファーマ] -5.5% -3.3% -12.4% 大手医薬品メーカー。2022年通期の決算内容が市場予想を下回り、売りを誘った。大手証券会社が目標株価を引き下げた。
02688 新奥能源 [ENNエナジー] -5.5% -12.6% -13.2% 天然ガス供給会社。前週に市場予想を下回った決算を発表した後、大手証券会社が目標株価を引き下げた。
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] -7.6% -17.3% -14.3% 大手家電メーカー。2022年通期の決算内容が市場予想を下回り、売りを誘った。大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] -11.3% -7.7% -24.3% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。大手証券会社がインターネットヘルス関連銘柄の目標株価を引き下げた。同セクターについて、一部大手投資ファンドはポジションを縮小した。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00020 SenseTime Group Inc 24.4% 21.2% 41.7% AIソフトウェア大手。2022年通期の決算内容は市場予想を下回ったが、4/10に大型AIモデルの発表会を行う予定だと報じられ、中国本土投資家による買いが急増した。
00981 中芯国際 [SMIC] 16.7% 23.5% 22.9% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。半導体株が買われた流れの一つ(詳細は本文をご参照願います)。大手証券会社が今年下期の需要回復を見込み、同社の目標株価を引き上げたことも買いを誘った。
00285 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] 8.2% -0.2% -0.8% BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。会社側が米半導体大手のエヌビディア(NVDA)は一部業務で提携することを明かし、買い材料となった。業務全体に占める比率は現時点で小さいものの、今後は拡大する見込みだと示され、期待が膨らんだ。
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] 4.3% -0.8% -0.1% オンライン旅行サービス大手。海外旅行の回復報道で買われた。韓国(中国人にとって人気の旅行先の一つ)が3/11に中国からの入国者に対するPCR検査を廃止した後、ゴールデンウイークの韓国行き旅行予約(件数)は8倍に増えたと報じられた。
01347 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] 4.3% 8.0% 32.0% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。半導体株が買われた流れの一つ(詳細は本文をご参照願います)。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01833 平安健康医療 [ピンアン・ヘルスケア] -7.7% 2.7% -17.1% 平安保険(02318)傘下のインターネットヘルス大手。大手証券会社がインターネットヘルス関連銘柄の目標株価を引き下げた。同セクターについて、一部大手投資ファンドはポジションを縮小した。
06618 京東健康(JD Health) -8.0% -8.6% -24.2% JDドットコム(09618)傘下のインターネットヘルス大手。大手証券会社がインターネットヘルス関連銘柄の目標株価を引き下げた。同セクターについて、一部大手投資ファンドはポジションを縮小した。
00772 閲文集団(China Literature) -9.8% 7.1% 3.9% オンライン文学プラットフォームを運営。生成AIの「ChatGPT」関連銘柄として3月中旬から大幅に上昇した後、3月末からは利益確定売りが目立った。
09626 ビリビリ -11.1% 1.2% -20.9% 動画プラットフォーム大手。同社プラットフォームを利用している有名なコンテンツ制作者が利用を更新しないと公表し、売りを誘った。ただ、大手証券会社は同社のファンダメンタルズへの影響は限定的だとし、押し目買いを勧めた。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] -11.3% -7.7% -24.3% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。大手証券会社がインターネットヘルス関連銘柄の目標株価を引き下げた。同セクターについて、一部大手投資ファンドはポジションを縮小した。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況


3/30-4/4(※4/5は清明節のため休場)の香港市場では、ハンセン指数が0.4%上昇、ハンセンテック指数は0.3%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、3/30-4/5に2.9%下落しました。

HXC指数の下落は4/5による部分が大きいです。4/5の米国市場では景気後退懸念が再燃し、リスク回避が強まるなか、ハイテク株が売られました。

米AI(人工知能)ソフトウェアのシースリーエーアイ A(AI)の急落も、投資家のセンチメントに影響を与えました。シースリーエーアイは生成AIの「ChatGPT」関連銘柄として年初から急騰しましたが、空売り機関が会計問題を指摘し、急反落しました。中国版「ChatGPT」を打ち出している百度(BIDU)が連れ安しました。シースリーエーアイの会計問題疑惑が報じられたのは4/4の香港市場引け後で、翌4/5は香港市場が休場だったため、それによる(生成AI関連銘柄への)影響は4/6に出てくる可能性があります。

なお、3/30-4/4の香港市場では、業種をめぐる材料や決算動向が相場を主導しました。ヘルスケアと公益が軟調だった一方、エネルギーや電気通信、カジノは好調でした。

ヘルスケアは、2022年通期の決算内容が市場予想を下回った華潤医薬(03320)や泰格医薬(03347)が下げを主導しました。インターネットヘルス大手のアリババヘルス(00241)やJDヘルス(06618)は、大手証券会社が目標株価を引き下げたことを嫌気し、急落しました。同セクターについて、一部大手投資ファンドがポジションを縮小しました。

公益は、電力株が下げを主導しました。石炭価格の高止まりが収益を圧迫する見込みだとし、大手証券会社が主要電力株の目標株価を引き下げました。

エネルギーは、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」による追加減産の発表で原油先物が上昇し、石油大手が買われました。ペトロチャイナ(00857)と中国海洋石油(00883)は、2022年通期の決算内容が好調だったことも買いを誘いました。石炭大手のヤンクアン(01171)は、2022年通期の純利益と配当性向が市場予想を上回り、急伸しました。

電気通信も堅調でした。大手証券会社が買い推奨したチャイナモバイル(00941)とチャイユニコム(00728)が上げを主導しました。同証券会社は、生成AIは今後の5G時代に新たなトラフィックをもたらす可能性が高く、データセンター(IDC)市場でシェアが高い通信大手は恩恵を受けると予想しました。

カジノ関連銘柄も急伸しました。マカオの3月のカジノ収入が前年同月の3.5倍に増加したことを好感し、サンズチャイナ(01928) や銀河娯楽(00027)が大幅高となりました。なお、3月のカジノ収入は前年同月比で大幅に増加したものの、コロナ前の2019年3月と比べると、依然として5割程度にとどまっています。マカオの訪問者数とホテル稼働率もコロナ前の水準と開きがあることからすると(図表4)、カジノ収入は今後さらに回復する余地がありそうです。

図表4 マカオの訪問者数とホテル稼働率の推移

※会社発表資料もとにSBI証券が作成。


半導体株は、SMIC(00981)や華虹半導体(01347)が大幅高となりました。主に以下の要因によるものと考えられます。
1)国産化期待
中国当局が米半導体メーカーのマイクロン・テクノロジー(MU)から輸入した製品に関し、調査を始めたと発表しました。また、日本は先端半導体の製造装置の輸出管理を厳格化すると発表しました。いずれの動きも、半導体の国産化を加速させることになると期待されました。

2)半導体市況の底打ち期待
半導体の在庫調整が進むにつれ、半導体市況は今年下期に回復する可能性があるとの指摘が中国本土でも増えました。

3)生成AIによる需要拡大期待
米国市場と同様に、中国本土と香港市場では生成AIの応用拡大に伴う半導体需要の拡大が期待されています。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「米国が大きくくしゃみしたら?中国の消費以外の下支え役」です。

4/2にOPECプラスが予想外に追加減産を発表しました。その後発表された米国の経済指標も軟調だったため、世界株式市場では米国および世界経済の減速懸念が再燃しました。

ブルームバーグが事情に詳しい関係者を引用して報じたことによると、「OPECプラスが政策変更の必要性を感じ始めたのは、銀行危機が経済を脅かす中でブレント原油が1バレル=70ドル近辺と15カ月ぶり安値を付けた3月20日だった」とされています。OPECの事務局長は2月時点で「中国の経済再開に伴い、より明るい景気見通しを想定する」とし、3/7は「中国の今年の石油需要について、新型コロナウイルス関連規制の解除を受けて日量50万-60万バレル増加すると見通し」を示していました。したがって、今回の減産決断は欧米の銀行危機による影響を考慮したものと言えそうです。

中国にとってみれば、米国および世界経済の減速は輸出の鈍化を意味します。3月の中国の製造業PMI(購買担当者指数、景気の先行指数の一つ)では、新規輸出受注が2%ポイント下落し、外需の弱さが示されました。もし「米国が大きくくしゃみをした場合」、中国の経済回復にも影響を及ぼす可能性があります。

中国の主要経済指標の動向からすると、「ゼロコロナ政策」が撤廃された後、回復は緩やかなペースにとどまっています(図表5)。

図表5 中国の主要経済指標の推移(2013年1月~2023年2月)

※BloombergデータもとにSBI証券が作成。

中国当局が今年のGDP成長率について控え目な目標を設定している関係もあり、大規模な景気刺激策は打ち出していません。足元の景気回復は純粋に「ゼロコロナ政策」の撤廃に伴う「自然的な回復」となっています。また、図表5でみられるように、不動産市場の持ち直しが時間を要することも影響していると考えられます。

一方、不動産投資の伸び率が依然としてマイナスであるのに対し、不動産投資が含まれている固定資産投資の伸び率はプラスを維持しています。その伸び率は2月は5.5%となり、1月の5.1%より拡大しました。主な要因は、中国当局が経済を下支えるため、インフラ投資を強化しているためです。

4/4の中国政府系経済紙は、今年1-3月のインフラ投資は政府支援のもと、前年同期比10%増になる見通しだと報じました。また、業界識者の予測を引用し、インフラ投資は今年通年で10%増を維持する可能性があると指摘しました。世界経済に不透明感が増すなか、外需が予想以上に鈍化した場合、中国当局はインフラ投資を強化する可能性がありそうです。いわば、「ゼロコロナ政策」の撤廃に伴う消費の回復ととともに、インフラ投資の強化により、内需で経済を支える意向と考えられます。2008年の金融危機時の「4兆元投資」ほどではありませんが、インフラ投資は今年の中国経済の下支え役となりそうです。

図表6 香港上場の主要インフラ株の株価推移(2020年1月以降)

※BloombergデータもとにSBI証券が作成。

図表7 香港上場の主要インフラ株の株価とバリュエーション

銘柄名 4/4終値(香港ドル) 52週高値(香港ドル) 52週安値(香港ドル) 予想PER(倍) 過去5年平均PER(倍) PBR(倍) 過去5年平均PBR(倍)
中国中鉄(00390) 5.20 5.88 3.37 3.32 4.42 0.44 0.50
中国鉄建(01186) 5.94 6.38 3.75 2.38 4.07 0.24 0.43
中国交通建設(01800) 4.83 5.32 3.09 3.24 3.94 0.28 0.35

注:PERは株価収益率、PBRは株価純資産倍率です。
※BloombergデータもとにSBI証券が作成。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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