~「セル・イン・メイ」になるか?~

~「セル・イン・メイ」になるか?~

投資情報部 李 燕

2023/04/27

4/20-4/26の香港市場は調整しました。米中対立激化に対する懸念が再び強まり、投資家はリスク回避姿勢を強めました。

今回のトピックスは、”「セル・イン・メイ」になるか?”です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:4/26(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(4/26(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02688 新奥能源 [ENNエナジー] 3.3% 6.2% -14.1% 天然ガス供給会社。大手証券会社が天然ガスに対する需要は今年持ち直す見込みだとし、買い推奨した。
00857 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] 2.7% 25.4% 27.8% 中国石油・天然ガス最大手。中国当局がガソリンとディーゼル燃料の国内価格を引き上げたことが引き続き、材料視された。
00012 恒基兆業地産[ヘンダーソン・ランド] 2.7% 0.4% -10.0% 香港の不動産会社。テクニカル要因のもよう。下値支持線として機能してきた200日移動平均線に近づいた後、反発した。
00386 中国石油化工 [シノペック] 2.6% 10.5% 22.5% 石油・石油化学製品大手。中国当局がガソリンとディーゼル燃料の国内価格を引き上げたことが引き続き、材料視された。
00322 康師傅控股 [ティンイー] 2.0% -4.4% 2.4% 大手食品メーカー。?特段材料はなく、需給要因のもよう。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00960 龍湖集団 [ロンフォー・グループ] -9.4% -2.9% -20.2% 中国不動産大手。中国当局が不動産税導入の基盤となる全国統一の不動産登記制度を整備し、不動産株が売られた。市場では不動産税の導入はまだまだ先との見方が主流となっているが、軟調地合いも相まって売り材料となった。
09988 アリババ・グループ -9.7% -2.3% -29.1% EC・フィンテック大手。米中対立激化に対する懸念が再び強まり、比較的海外投資家の持ち株比率が高い銘柄群がそろって大幅安となった。
01378 中国宏橋集団 -9.9% -4.2% -15.6% アルミニウム製品メーカー。世界アルミ大手のアルコア(AA)が1-3月期に予想外に赤字となり、連れ安した。
00981 中芯国際 [SMIC] -10.4% 20.4% 17.4% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。ハイテク分野をめぐる米中対立激化の懸念が再び強まり、半導体をはじめとするハイテク株が売られた。
02269 薬明生物 [ウーシー・バイオロジクス] -12.6% -4.3% -34.5% バイオ医薬品開発受託大手。同業の薬明康徳(02359)の決算を嫌気した。薬明康徳は1-3月期に新薬開発関連の業務が予想外に鈍化した。米中対立激化懸念の再燃も海外売上高比率の高い同社にとって重石となった。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02018 瑞声科技 [AACテクノロジーズ] -0.6% -12.7% -26.9% 音響部品メーカー。特段材料はなく小動きとなった。軟調地合いのなか、比較的株価が底堅いのは、4月上旬にすでに大幅に下落したためと考えられる。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] -1.4% -11.8% -26.7% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。大手証券会社が目標株価を引き上げた。軟調地合いのなか、下落率は限定的だった。
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] -1.7% -6.9% -22.5% 大手家電メーカー。特段材料はなく、需給要因のもよう。
06618 京東健康(JD Health) -1.8% -13.1% -21.7% JDドットコム(09618)傘下のインターネットヘルス大手。同社を含むインターネットヘルス株に対する見直し買いが報じられた。軟調地合いのなか、見直し買いを支えに下落率は限定的だった。
01024 快手(Kuaishou Technology) -1.8% -10.8% -29.2% ショート動画大手。競争激化といった悪材料は既に株価に織り込み済だとし、大手証券が投資判断「買い」を維持すると表明した。買い優勢とはならなかったが、下落率は限定的だった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09988 アリババ・グループ -9.7% -2.3% -29.1% EC・フィンテック大手。米中対立激化に対する懸念が再び強まり、比較的海外投資家の持ち株比率が高い銘柄群がそろって大幅安となった。
00981 中芯国際 [SMIC] -10.4% 20.4% 17.4% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。ハイテク分野をめぐる米中対立激化の懸念が再び強まり、半導体をはじめとするハイテク株が売られた。
00020 SenseTime Group Inc -10.6% -15.9% 8.0% AIソフトウェア大手。ハイテク分野をめぐる米中対立激化の懸念が再び強まり、AI関連を含むハイテク株が売られた。
09868 小鵬汽車[シャオペン] -10.9% -6.4% -8.9% 新興EVメーカー。詳細は本文をご参照願います。
09866 蔚来汽車 [ニオ] -11.2% -12.7% -33.5% 新興EVメーカー。詳細は本文をご参照願います。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

4/20-4/26の香港市場では、ハンセン指数が3.0%下落、ハンセンテック指数は5.6%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は7.6%下落しました。

米中対立激化に対する懸念が再び強まり、投資家はリスク回避の姿勢を強めました。

きっかけは、米バイデン大統領が対中投資抑制策を5/19に開かれるG7サミット(主要7カ国首脳会議)前に公表する予定だと報じられたためです。ブルームバーグ報道によると、バイデン大統領は「半導体や人工知能(AI)、量子コンピューティングなど、米国企業が主導的な役割を果たす分野に的を絞り」、米国企業の対中投資を制限する大統領令に、数週間以内に署名することを目指しています。

一部のアナリストは、今回の報道は2月時点の報道と比べると目新しい内容はなく、市場は過剰反応しているとの見方を示しました。米国をはじめ世界株式市場を取り巻く投資環境が悪化しており、世界経済の先行き不透明感に対する懸念が強まっていることも、投資家のリスク回避を誘っていると指摘しました。

業種別では、投資家のリスクセンチメントに左右されやすい情報テクノロジーやバイオなどハイテク株が軟調でした。

情報テクノロジーは、海外投資家の持ち株比率が比較的高いアリババ(09988)や百度(09888)、半導体受託生産大手のSMIC(00981)、AIソフトウェア大手のセンスタイム(00020)が下げを主導しました。バイオ関連銘柄は、米国市場に同時上場しているザイラボ(09688)の下落が顕著でした。ヘルスケアは、新薬開発の受託大手である薬明康徳(02359)の下落も響きました。薬明康徳は1-3月期の決算発表で新薬開発関連の業務が予想外に鈍化し、売りを誘いました。バイオ医薬品開発受託大手の薬明生物(02269)も連れ安しました。両者は海外売上高比率が比較的高く、米中対立激化懸念の再燃も重石となりました。

素材も、利益確定売りが優勢でした。リチウム生産量で世界2位のチリが国内のリチウム産業を国有化すると表明し、リチウム大手の天斉リチウム(09696)やガンフォンリチウム(01772)が急落しました。天斉リチウムは、同社が資本参加しているチリのリチウム大手SQM(SQM)が国有化ニュースで急落したことも嫌気されました。

アルミ大手の中国アルミ(02600)や中国宏橋(01378)は、世界アルミ大手のアルコア(AA)が1-3月期に予想外に赤字となり、連れ安しました。ツージンマイニン(02899)や山東黄金(01787)など産金株は、金先物価格の下落を嫌気しました。もし米連邦準備制度理事会(FRB)が今後利下げに転じた場合、金は株式に対して相対的に良好なパフォーマンスを出すことが難しくなると、中国国内の大手証券会社が示したことも、産金株の利益確定売りを誘いました。

新興EV(電気自動車)3社は、世界EV最大手のテスラ(TSLA)の決算を嫌気し、大幅安となりました。テスラは1-3月期の決算で値下げにより利益率が予想以上に低下したほか、今後値下げを継続する可能性も示唆しました。EV業界をめぐる競争激化と値下げによる利益率の押し下げを警戒し、ニオ(09866)とシャオペン(09868)、リーオート(02015)の新興EV3社がそろって売られました。

一方、中国の新エネルギー車最大手のBYD(01211)は、底堅く推移しました。同社は値下げ競争の中でも堅調な販売実績を出していることが株価を下支えました。ブルームバーグは4/26に、「BYDが中国で最も売れた乗用車ブランドに、1-3月に独VW抜く」と報じました。同記事によると、ドイツのフォルクスワーゲン(略称、VW)は少なくとも15年間にわたって中国でトップのブランドでしたが、今年1-3月はBYDに逆転されました。

業種別では、公益やエネルギーが堅調でした。公益は、投資家のリスク回避を反映したディフェンシブ買いが背景と考えられます。電力大手のファネン パワー(00902)は、1-3月期の決算内容が予想を上回ったことも好材料となりました。ファネン パワーは石炭価格の下落と電力価格の上昇が追い風となり、1-3月期は黒字転換を果たしました。電力株のダタンパワー(00991)や中広核電力(01816)も逆行高となりました。ただ、風力発電大手の龍源電力(00916)は1-3月期の調整後EPS(1株当たり利益)が市場予想を下回り、売り優勢となりました。

エネルギーは、石油・天然ガス大手のペトロチャイナ(00857)やシノペック(00386)が52週高値更新を試しました。中国当局がガソリンとディーゼル燃料の国内価格を引き上げたことが引き続き、材料視されました。

今回のトピックス

今回のトピックスは、”「セル・イン・メイ」になるか?”です。

ウォール街の相場格言として、「Sell in May」(セル・イン・メイ、5月に株を売る)が有名です。4月相場も終わりに差し掛かっているため、この時期は「セル・イン・メイ」が意識されやすいと言えます。今回は、中国株の代表的な株価指数であるMSCI中国指数のデータを用いて、過去20年間の経験則を検証してみたいと思います。

図表4 過去20年間のMSCI中国指数の4月と5月の月間騰落率

注:1)2023年4月の騰落率は4/26までです。
2)4月の予想PERは2023年を除き4月末データで、2023年は4/26時点のデータです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表4を確認してみると、MSCI中国指数の5月のパフォーマンスは、過去20年間で9勝11敗でした。下落した年が上昇した年をやや上回りましたが、五分五分の結果とも言えます。つまり、必ずしも「セル・イン・メイ」にはなっていないことが分かります。

また、前月のパフォーマンスが翌月に影響を与える可能性もあると考えられるため、4月の騰落率も確認してみたいと思います。過去20年間の実績からすると、4月と5月のパフォーマンスは14年間が逆相関となりました。つまり、4月上昇・5月下落あるいは4月下落・5月上昇した年が20年のうち14年です。確率的に7割の試算となります。

上記を合わせると、MSCI中国指数の場合、五分五分の「セル・イン・メイ」の確率よりも、5月のパフォーマンスが4月と逆転する確率(7割)のほうが高いことが示されました。

そこで、今年4月のパフォーマンスを確認してみると、4/26までMSCI中国指数は6%下落しました。もし、過去の7割の確率に従えば、今年5月のMSCI中国指数は反発するかもしれません。

バリュエーション(株価水準)面からも、「セル・イン・メイ」の懸念は高くないことが示唆されています。4/26時点のMSCI中国指数の予想PER(株価収益率)は10.5倍となっています。この水準は、2007-2008年の世界金融危機時の15-16倍や、2015年のチャイナショック時と2018-2019年の米中貿易摩擦時の12-13倍を下回っています。

足元は米金融政策や世界経済見通しなど世界株式市場を取り巻く不透明感が強く、「セル・イン・メイ」が意識されやすい地合いとなっていますが、過去の経験測とバリュエーション面からすると、MSCI中国指数の場合、過度に警戒する必要はないのかもしれません。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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