~中国経済が弱い?!グロース株は復調の兆し~
投資情報部 李 燕
2023/05/18
5/11-5/17の香港市場は「景気敏感株売り、グロース株買い」の様相を呈しました。中国の4月の経済指標が総じて下振れたなか、主力のグロース株は予想を上回る決算が目立ったためです。
今回のトピックスは、「中国経済が弱い?!グロース株は復調の兆し」です。
今週の中国株市況
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:5/17(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)
注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(5/17(水)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
09888 | 百度 [バイドゥ] | 8.1% | -5.5% | -12.4% | 検索エンジン大手。好決算で買われた。1-3月期の売上高が市場予想を上回り、特に市場で注目の広告収入がプラスの伸びに転じた。経営陣は、回復基調は2Qも続く見通しだと示した。 |
09988 | アリババ・グループ | 6.6% | -10.4% | -14.1% | EC・フィンテック大手。詳細は本文をご参照願います。 |
09618 | JDドットコム | 5.9% | -3.9% | -31.8% | EC大手。2008年の米住宅バブル崩壊の予測を的中させた米著名投資家のマイケル・バーリ氏が1-3月に同社株を買い増したことが明らかになった。 |
01044 | 恒安国際 [ハンアン・インターナショナル] | 5.1% | -0.8% | -2.2% | 衛生用品メーカー。大手証券会社が投資判断を「中立」から「オーバーウエイト」に引き上げた。 |
00700 | 騰訊 [テンセント・ホールディングス] | 4.0% | -7.6% | -8.3% | ゲーム・フィンテック大手。決算発表を前に、業績期待で買われた。5/17引け後に発表された1-3月期の決算は売上高が市場予想を上回った一方、調整後EPS(1株当たり利益)は市場予想を下回った。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02313 | 申洲国際 [シェンジョウインター] | -8.5% | -22.8% | -29.5% | ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。需給要因のもよう。大手投資ファンドが保有比率を大幅に引き下げた。 |
00960 | 龍湖集団 [ロンフォー・グループ] | -10.1% | -24.3% | -24.0% | 中国不動産大手。中国の不動産投資と不動産販売の軟調で不動産株が売られた。 |
01378 | 中国宏橋集団 | -12.5% | -21.0% | -19.3% | アルミニウム製品メーカー。大手証券会社がアルミニウム価格の下落を予想し、売り材料となった。同証券会社はアルミニウム価格の供給面は雨季の影響、需要面は投資減と季節要因で下落する見通しだとした。 |
06098 | CG SERVICES | -13.4% | -33.4% | -37.8% | 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。中国の不動産投資と不動産販売の軟調で不動産株が売られた。 |
02007 | 碧桂園 [カントリー・ガーデン] | -17.8% | -31.7% | -36.5% | 中国不動産大手。ハンセン中国企業指数からの除外と中国の不動産投資と不動産販売の軟調が、売りを誘った。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02015 | 理想汽車[リーオート] | 17.8% | 14.8% | 23.0% | 新興EVメーカー。好決算で買われた。1-3月期の決算内容が市場予想を上回ったほか、4-6月期の売上高と販売台数のガイダンスも上振れた。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き上げた。 |
09888 | 百度 [バイドゥ] | 10.2% | -3.7% | -10.7% | 検索エンジン大手。好決算で買われた。1-3月期の売上高が市場予想を上回り、特に市場で注目の広告収入がプラスの伸びに転じた。経営陣は、回復基調は2Qも続く見通しだと示した。 |
09988 | アリババ・グループ | 8.4% | -8.9% | -12.6% | EC・フィンテック大手。詳細は本文をご参照願います。 |
09618 | JDドットコム | 7.8% | -2.1% | -30.6% | EC大手。2008年の米住宅バブル崩壊の予測を的中させた米著名投資家のマイケル・バーリ氏が1-3月に同社株を買い増したことが明らかになった。 |
09898 | 微博 | 7.6% | -5.2% | -22.3% | ソーシャルメディア・プラットフォーム運営会社。テクニカル要因のもよう。テクニカル指標のMACDから買いシグナルが示された後、上昇に転じた。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
03888 | 金山軟件 [キングソフト] | -3.4% | -13.9% | 13.5% | ゲーム・ソフトウェア大手。テクニカル指標のMACDから下降トレンドが続くことが示され、売り優勢となった。 |
00020 | SenseTime Group Inc | -3.9% | -21.0% | -11.2% | AIソフトウェア大手。米指数算出会社のMSCIが同社株について、MSCI中国指数の組み入れに適格ではないと発表し、売り材料となった。 |
09868 | 小鵬汽車[シャオペン] | -5.0% | -15.1% | 0.5% | 新興EVメーカー。BYD(01211)が打ち出した新車種は同業他社の中で同社にとって最も打撃になる可能性があると大手証券会社が分析し、売り材料となった。 |
01347 | 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] | -6.8% | -31.5% | -14.9% | 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。1-3月期の売上高と純利益は市場予想を上回ったが、4-6月期ガイダンスで示した粗利益率が市場予想を下回り、売り材料となった。 |
09698 | 万国数拠服務 | -24.6% | -40.8% | -52.0% | データセンターを運営。決算発表が近づくにつれ、売りが膨らんだ。オプション取引のデータからは同社株が決算発表の翌日に12%変動する可能性があると示唆された。決算発表による下落を警戒し、売り優勢となったもよう。 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
5/11~5/17の香港市場では、ハンセン指数が1.0%下落、ハンセンテック指数は3.7%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は4.2%上昇しました。
ハンセン指数が下落した一方、ハンセンテック指数とHXC指数が反発したのは、「景気敏感株売り、グロース株買い」が背景です。中国の4月の経済指標が総じて市場予想を下回る(図表4)なか、主力のグロース株は予想を上回る決算が目立ったためです。
図表4 4月の中国の主要経済指標
市場予想 | 4月 | 3月 | |
小売売上高 | 21.9% | 18.4% | 10.6% |
鉱工業生産 | 10.9% | 5.6% | 3.9% |
固定資産投資(年初来累計) | 5.7% | 4.7% | 5.1% |
不動産投資(年初来累計) | -5.7% | -6.2% | -5.8% |
主要70都市の新築住宅価格 | - | 0.3% | 0.4% |
5年物中期貸出制度の金利 | 4.3% | 4.3% | 4.3% |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
なお、「ゼロコロナ政策」解除後の中国経済の状況を確認してみると(図表5)、小売売上高と鉱工業生産が回復傾向を続けているほか、主要70都市の新築住宅価格も3カ月連続でプラスの伸びを維持しました。ただ、4月の新築住宅価格の上昇率は3月よりやや低下しました。不動産投資の持ち直しも4月は小幅ながら鈍化しました。
図表5 中国の主要経済指標の推移(前年同月比、2019年3月-2023年4月)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
全般的にみて、中国経済は回復が続いているものの、不動産市場の持ち直しは予想より遅いペースで進んでいます。小売売上高も4月は市場予想を下回りましたが、引き続き堅調で、消費が中国経済を下支えている構図がより鮮明になってきました。
不動産市場の回復遅れを懸念し、市場では5/16に発表された5年物中期貸出制度の金利の引き下げを求める声も上がっていました。しかし、中国人民銀行(中央銀行)は「据え置き」を発表しました。それにより、急浮上してきた金融緩和の期待が後退しました。
これらを受け、不動産と素材が大きく売られました。不動産大手のカントリーガーデン(02007)と龍湖集団(00960)、アルミ大手の中国アルミ(02600)、銅大手のコウセイコパー(00358)やツージンマイニン(02899)が大幅安となりました。
電気通信も軟調でした。通信キャリア大手のチャイナモバイル(00941)やチャイナテレコム(00728)がそろって売られました。通信キャリア大手は、AI関連のインフラ企業として今後成長が期待できることや国有企業改革の恩恵が受けられるとし、買い優勢が続きましたが、足元では高値警戒感、および業績への反映はまだ先との懸念から売り優勢となりました。
電気通信の調整は、グロース株の持ち直しも影響していると思います。これまでグロース株がやや軟調だったなか、電気通信はAI関連分野での成長を取り込めるとの期待もさることながら、ディフェンシブ株として買われた側面が強いです。
しかし、足元ではグロース株への資金シフトがみられています。EC大手のJDドットコム(09618)や検索エンジン最大手の百度(09888)、新興EV(電気自動車)メーカーのリーオート(02015)などが市場予想を上回った決算を発表したためです。グロース株の堅調な業績を受け、グロース株に対するセンチメントが回復しました。
アリババ09988)とテンセント(00700)も決算発表を前に、決算期待で買い優勢となりました。アリババは、米証券取引委員会(SEC)が同社の2022年3月期の財務報告書について最終承認したことに加え、経営陣がEC事業への投資を強化すると表明したことも、株高を支えました。
アリババとJDドットコムについては、2008年の米住宅バブル崩壊の予測を的中させた米著名投資家のマイケル・バーリ氏が1-3月に両社株を買い増したことが明らかになりました。ブルームバーグ報道によると、「両銘柄はバーリ氏率いるヘッジファンド運営会社サイオン・アセット・マネジメントの株式ポートフォリオの20%を占める最大の保有銘柄となっています。」(詳細は“バーリ氏がアリババ株保有倍増-中国テック株に「ビッグ・ロング」”をご参照願います。)
今回のトピックス
今回のトピックスは、「中国経済が弱い?!グロース株は復調の兆し」です。
市況の部分で確認したように、4月の中国の経済指標は総じて市場予想を下回り、「中国経済は弱い」印象を与えました。マクロ経済の弱さは株式市場にとって悪材料となり、足元では景気敏感株(バリュー株が多い)が軟調です。一方、グロース株は復調の兆しを示しています。
MSCI中国指数の推移を確認してみると、足元ではグロース株が持ち直している一方、バリュー株指数はやや軟調です(図表6の②の部分)。これと似たような動きは、昨年10月末にもみられました(図表6の①の部分)。昨年10月末にグロース株指数が復調の兆しを示した後、グロース株指数はバリュー株指数を大幅に上回るパフォーマンスとなりました。
図表6 MSCI中国グロース株指数とバリュー株指数の推移(過去1年)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
今回、グロース株が持ち直している主な要因は、主力企業の決算が市場予想を上回ったためです(図表7)。中国経済の景気回復や米中対立激化に対する懸念からグロース株は4月以降、バリュー株を下回るパフォーマンスとなりました。しかしながら、堅調な決算を受け、それらの懸念による売りは行き過ぎの可能性があると示され、見直し買いが入りました。
図表7 主要グロース株の決算と株価動向
銘柄コード | Bloomberg銘柄名 | 決算発表日 | 1-3月期調整後EPSの実績対市場予想比 | 決算発表後、5/17までの株価騰落率 |
01211 | 比亜迪 [BYD] | 2023/4/27 | 403.6% | 1.5% |
02015 | 理想汽車 | 2023/5/10 | 6.3% | 19.2% |
09618 | JDドットコム | 2023/5/11 | 32.6% | 6.4% |
09888 | 百度[バイドゥ] | 2023/5/16 | 24.6% | 2.4% |
00700 | 騰訊控股[テンセント・ホールディングス] | 2023/5/17 | -2.6% | - |
注:EPSは1株当たり利益です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
なお、5/17引け後に決算を発表したテンセント(00700)の1-3月期の調整後EPS(1株当たり利益)は市場予想を下回りました。それを受け、5/18前場のテンセントの株価は下落(約1%下落)しました。しかしながら、グロース株が多く含まれているハンセンテック指数は上昇しました。百度(09888)やアリババ(09988)など主力株が堅調で、指数を支えました。5/18前場の動きからすると、グロース株に対する見直し買いは崩れていないと言えます。
テンセントの調整後EPSは市場予想には届かなかったものの、売上高は市場予想を上回り、その伸び率は2022年第四半期以降で最大となりました。中国が「ゼロコロナ政策」を撤廃した後、テンセントの売上高は回復基調を続けています。主力企業の経営陣には、今後も回復が続くと見込むコメントが多く、業績の「底」は既に過ぎた可能性が示されました。グロース株の業績回復に対する期待は、株価を支える要因になると思われます。
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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