~中国の利下げとEV支援~

~中国の利下げとEV支援~

投資情報部 李 燕

2023/06/22

6/15-6/21の香港市場は反落しました。中国当局による景気支援策の遅れや米中関係をめぐる不透明感が利益確定売りを誘いました。

今回のトピックスは、「中国の利下げとEV支援」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の推移(日足、6ヵ月)

注:6/21(水)までのチャートです。今回より一目均衡表ではなく、移動平均線の表示となります。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(6/21(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00002 中電控股 [CLPホールディングス] 9.6% 5.1% 9.1% 電力会社。大手証券会社による目標株価の引き上げやオーストラリアの電力会社への出資観測が好材料となった。
01093 石薬集団 [CSPCファーマシュ-ティカル] 4.1% -7.9% -15.7% 医薬品大手。子会社が開発した新薬の医薬品登録が承認され、買い材料となった。
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] 3.8% 5.1% -5.0% 大手家電メーカー。中国本土上場のA株に対し、自社株を実施したことが明らかになり、香港株も買い優勢となった。
00267 中国中信 [シティック] 3.0% -2.1% 11.3% コングロマリット。資源関連事業も手掛ける。大手投資ファンドが保有株比率を引き上げた。
00011 恒生銀行[ハンセン・バンク] 2.7% 3.4% 2.4% 香港の大手銀行。米利上げ継続の観測を受けたHIBOR(香港銀行間取引金利)の上昇で買われた。ドルペック制を採用している香港の政策金利は米国と連動するため、HIBORが上昇した。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02007 碧桂園 [カントリー・ガーデン] -8.0% 3.2% -26.7% 中国不動産大手。前週は中国当局による景気支援期待で買われたが、支援策の遅れが警戒され、売り優勢となった。
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] -8.3% -7.8% -17.2% 大手光学機器メーカー。経営陣が6/15の投資家向け説明会で、世界のスマートフォン販売見通しを下方修正し、売り材料となった。大手証券会社はマイナス材料はほとんど株価に織り込まれているとしながらも、目標株価を引き下げた。
01088 中国神華能源 [チャイナ・シェンファ・エナシ] -9.2% -14.5% -6.5% 石炭大手。配当落ちによる影響。配当の権利落ち日が6/21だった。
00981 中芯国際 [SMIC] -9.7% -1.7% 9.2% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。米バイデン政権が韓国と台湾の大手半導体メーカーに対し、半導体の対中輸出規制の適用除外措置を延長する方針だと報じられ、売り材料となった。同措置より、同社への代替需要は減少すると懸念された。
02269 薬明生物 [ウーシー・バイオロジクス] -14.5% -10.4% -23.2% バイオ医薬品開発受託大手。詳細は本文をご参照願います。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02015 理想汽車[リーオート] 5.5% 19.3% 50.7% 新興EVメーカー。北京工場の生産許可が正式に下り、年内に生産を開始する見通しとなった。新エネルギー車の税制優遇措置の延長も好材料となった。
09868 小鵬汽車[シャオペン] 4.6% 22.4% 15.2% 新興EVメーカー。北京市が同社の運転支援機能の導入を承認した。新エネルギー車の税制優遇措置の延長も好材料となった。
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] 3.8% 5.1% -5.0% 大手家電メーカー。中国本土上場のA株に対し、自社株を実施したことが明らかになり、香港株も買い優勢となった。
09866 蔚来汽車 [ニオ] 3.0% 18.7% 5.9% 新興EVメーカー。新型SUV「EL6」を発表し、買い材料となった。新エネルギー車の税制優遇措置の延長も好材料となった。なお、アブダビ首長国が同社に7%出資することになった。アブダビ政府が過半数を所有する投資会社CYVN Holdings LLCは同社の新株発行を引き受けるほか、テンセントから同社の株式を一部取得する。
03888 金山軟件 [キングソフト] 1.8% 7.3% 8.2% ゲーム・ソフトウェア大手。人民日報がAIの発展を促す論説を発表し、AI関連株が買われた。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01024 快手(Kuaishou Technology) -7.1% 9.7% 3.0% ショート動画大手。中国当局による景気支援の遅れを警戒し、利益確定売りに押された。同社株は前週まで4週連続で上昇していた。「6/18」の販促イベントでは販売好調が伝わったが、イベント終了に伴う材料難も警戒されたもよう。
09626 ビリビリ -7.6% -13.3% -32.4% 動画プラットフォーム大手。前週は中国当局による景気支援期待で買われたが、支援策の遅れが警戒され、利益確定売りに押された。「6/18」の販促イベントでは販売好調が伝わった。
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] -8.0% -7.7% -27.7% ソフトウェア会社。大手投資ファンド数社が保有株比率を引き下げた。株価が節目の12香港ドル台を突破できなかったことが確認された後、売りが加速した。
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] -8.3% -7.8% -17.2% 大手光学機器メーカー。経営陣が6/15の投資家向け説明会で、世界のスマートフォン販売見通しを下方修正し、売り材料となった。大手証券会社はマイナス材料はほとんど株価に織り込まれているとしながらも、目標株価を引き下げた。
00981 中芯国際 [SMIC] -9.7% -1.7% 9.2% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。米バイデン政権が韓国と台湾の大手半導体メーカーに対し、半導体の対中輸出規制の適用除外措置を延長する方針だと報じられ、売り材料となった。同措置より、同社への代替需要は減少すると懸念された。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

6/15-6/21の香港市場では、ハンセン指数が1.0%下落、ハンセンテック指数は2.3%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は2.9%下落しました。3指数は、いずれも200日移動平均まで押し戻されました。


下落要因は、主に下記の3つです。

1)中国当局の景気支援の遅れ

中国当局が不動産市場や内需支援に向けた景気支援策を検討する会議を6/19に開催したと報じられました。そのため、市場ではその後すぐ(週末か翌月曜日に)、一連の景気支援策が発表されると期待しました。しかし、発表がないまま、李強首相は6/19に、就任後初となる欧州訪問のためドイツに到着したと報じられました。早期の政策発表は期待薄となり、利益確定売りを誘いました。

2)米中関係に再び暗雲

米ブリンケン国務長官が6/18訪中し、6/19には習近平国家主席とも会談したことで、米中関係の改善期待が持たれました。米バイデン大統領はブリンケン国務長官が訪中する前日に、習近平国家主席と数カ月以内に会談することを望むと語っていました。しかし、米バイデン大統領は6/20に政治資金集めのイベントで習近平国家主席を「独裁者」になぞらえる発言をしました。2月の気球騒動以降、ようやく実現できた米中対話の再開に水を差すこととなり、中国政府は「公の場での政治的挑発」だと非難しました。米中関係の改善は容易ではなく、不透明感は当面続くことが示唆されました。

3)「パウエルFRB議長の議会証言前」と連休前のポジション調整

6/21(米国時間)はパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言が予定されていました。FRBは6月に一旦利上げを停止しましたが、市場ではパウエル議長が「タカ派」傾斜の証言を行う可能性が高いとみていました。その結果が明らかになる6/22は香港と中国本土市場がともに端午節で休場となります。パウエル氏が「タカ派」発言した場合の米国市場の下落が警戒し、投資家は連休を前にポジション調整の売りを進めました。

短期的に再び不透明感が強まったことで、主要3指数は200日移動平均線の維持を試す展開となりそうです。

業種別では、ディフェンシブの公益を除けば、売り優勢となりました。中でもヘルスケアの下げが顕著でした。一部の主力銘柄が悪材料で急落し、セクター全体の地合いを一段を悪化させました。バイオ医薬品開発受託大手の薬明生物技術(02269)が軟調な業績見通しを示し大幅安となり、バイオ医薬品大手の百済神州(06160)はアッヴィ(ABBV)が同社を特許侵害で提訴し急落しました。

なお、弊社の売買代金で上位にある薬明生物技術は、半期決算のため決算発表は8月の予定ですが、6/20に投資家向け説明会を実施ました。その際、2023年上期の増収率は1桁前半に低下する見通しを示しました。1-5月の新規プロジェクト数は25と、前年同期の47を大幅に下回ったことも明らかにしました。経営陣は、世界の医薬品業界の現状について、その冷え込み具合を「米国は冷蔵庫」、「中国は冷凍庫」とたとえ、特に資金調達環境が厳しいとの認識を示しました。それが同社の新規プロジェクトの減少につながったほか、前年同期はもともと高水準だったと説明しました。ただし、通期のガイダンスについては、従来予想(前年比30%以上の増収と調整後純利益は同26%以上の増加)を維持しました。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「中国の利下げとEV支援」です。

【中国の利下げ】

4月と5月の主要経済指標が全般的に市場予想を下振れたことを受け、市場では利下げへの期待が高まっていました。特に中国人民銀行が6/12に予想外に短期金利の7日物リバースレポ金利を引き下げた後、利下げ予想は一段と高まりました。その後、中国人民銀行は6/15に1年物中期貸出制度金利を0.1%引き下げ、6/20には事実上の政策金利であるローンプライムレート(LPR)の1年物と5年物金利をそれぞれ0.1%引き下げました。

図表4 中国の主要金利の推移(2015年6月以降)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。


今回はほぼすべての金利が引き下げられたことになりましたが、相場の押し上げ効果は限定的でした。その要因は、6/12の短期金利引き下げ後、既に株高になったことに加え(つまりある程度織り込まれていた)、市況の部分で確認したように景気支援措置をセットで打ち出さなかったことが投資家の失望を誘いました。

したがって、短期的には中国当局が早期に包括的な景気支援策を打ち出すかどうかが重要になってきます。中国当局が過去ほど成長率を重視しなくなっていることを踏まえると、過度な政策期待(米中関係も然り)は禁物かもしませんが、金融緩和姿勢を鮮明に打ち出したことからすると、一段の景気支援措置は遅かれ早かれ発表されると予想されます。また、過去の経験からすると(図表4)、利下げは一度限りとはならず、年後半は金融緩和が続く可能性がありそうです。

【EV支援】

相場全体が冴えないなか、電気自動車(EV)関連銘柄は底堅く推移しました。中国当局が6/12に、新エネルギー車購入時の優遇税制措置を2027年末まで延長すると発表したためです。

中国で新車を購入する際、通常10%の自動車取得税がかかります。ただ、新エネルギー車の場合は適用されておらず、この措置の期限は2023年末までとなっていました。それを2027年末まで延長したことは、中国当局が引き続き、新エネルギー車の普及を後押ししていくことが示唆します。

政府の後押し効果は大きく、たとえば、今はほとんどの人は新車を購入する際、EVをはじめとする新エネルギー車を選択するようになっています。中国EV最大手のBYD(01211)が2022年4月にガソリン車の生産を終了したのは、このようなトレンドが背景にあります。

中国当局が新エネルギー車購入時の優遇税制措置の延長を発表した後、アナリストたちは主要EVメーカーの予想EPS(1株当たり利益)を小幅ながら上方修正しました(図表5)。

図表5 中国の主要EVメーカーの株価と予想EPSの推移(年初来)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

中国のEV販売は、今年1-3月(1Q)はテスラ(TSLA)が仕掛けた値下げ競争の影響で販売がやや軟調でしたが、4月初めにテスラが値上げを実施してからは持ち直しています。値下げ競争に参加しなかったニオ(09866)は、挽回を図るべく足元で値下げを実施しました。ただ、全般的にみると、年初のような激しい値下げ競争は終焉に向かいつつあります。今後、政策支援がより明確になったことで、販売回復は続く可能性があります。

図表6 中国の主要EVメーカーの販売動向(四半期ベース、2023年は月次ベース)

※Bloombergおよび各社資料をもとにSBI証券が作成。

図表7 中国の主要EVメーカーの株価

銘柄(Bloomberg銘柄名) 株価(6/21) 52週高値 52週安値
BYD(01211) 264.60香港ドル 333.00香港ドル 161.70香港ドル
リーオート(02015) 136.20香港ドル 165.30香港ドル 52.05香港ドル
ニオ(09866) 73.35香港ドル 199.20香港ドル 57.60香港ドル
シャオペン(09868) 43.50香港ドル 142.80香港ドル 24.75香港ドル

※Bloombergおよび各社資料をもとにSBI証券が作成。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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