~李強首相とネット大手、夏休み前のレジャー関連銘柄~

~李強首相とネット大手、夏休み前のレジャー関連銘柄~

投資情報部 李 燕

2023/07/13

7/6-7/12の香港市場はハンセン指数が下落した一方、ハンセンテック指数は続伸しました。ハンセン指数の構成比率が高い銀行株や不動産株が下落した一方、アリババ(09988)を筆頭としたネット大手は大きく買われたためです。

今回のトピックスは、「李強首相とネット大手、夏休み前のレジャー関連銘柄」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の推移(日足、6ヵ月)

注:7/13(木)13.45(香港時間)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(7/12(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09988 アリババ・グループ 8.7% 7.0% -6.5% EC・フィンテック大手。傘下のアント・グループをめぐる規制の不透明感が払しょくされ、買い材料となった。詳細は本文をご参照願います。
02313 申洲国際 [シェンジョウインター] 7.9% 18.0% 1.2% ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。無印良品が決算発表で中国事業の回復を示し、買い手掛かりとなったもよう。大手証券会社は同社顧客の中国事業の業績好調を理由に、買い推奨した。
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] 3.7% 2.5% -4.4% 大手家電メーカー。同社は中国本土上場のA株の自社株買いを実施してきたが、7/6の取締役会では香港上場のH株に対する自社株買いが承認され、買い材料となった。
00883 中国海洋石油 [CNOOC] 3.6% 1.3% -0.4% 中国石油・天然ガス大手。原油先物価格が持ち直し、買い材料となった。足元の原油高は、OPECプラスの減産による累積効果や米国の原油在庫の下落、および中国の景気支援期待が背景とされている。
00027 銀河娯楽 [ギャラクシー・エンターテインメント] 3.5% -2.5% -0.8% カジノ大手。大手証券会社が投資判断を「買い」に引き上げ、買い材料となった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01929 周大福珠宝集団[チョウタイフックジュエリー] -9.6% -11.0% -17.3% 宝飾類の小売会社。配当落ちによる影響。配当の権利落ち日が7/12だった。
00960 龍湖集団 [ロンフォー・グループ] -10.1% -10.0% -30.4% 中国不動産大手。不動産株が売られた流れの一つ。また、配当落ちによる影響もあった。同社の配当の権利落ち日が7/7だった。
03988 中国銀行(BOC) -11.6% -13.3% -11.3% 4大銀行の一角。配当落ちによる影響。配当の権利落ち日が7/6だった。
00939 中国建設銀行(CCB) -12.2% -14.9% -16.4% 4大銀行の一角。配当落ちによる影響。配当の権利落ち日が7/6だった。
01398 中国工商銀行(ICBC) -12.4% -16.9% -14.9% 4大銀行の一角。配当落ちによる影響。配当の権利落ち日が7/6だった。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09988 アリババ・グループ 8.7% 7.0% -6.5% EC・フィンテック大手。傘下のアント・グループをめぐる規制の不透明感が払しょくされ、買い材料となった。詳細は本文をご参照願います。
09868 小鵬汽車[シャオペン] 8.2% 55.2% 47.5% 新興EVメーカー。6/29に正式に発売された新型のミドルサイズSUV「G6」の販売好調が報じられ、買い材料となった。世界大手投資銀行が投資判断「買い」で新規カバレッジを開始したことも、投資家のセンチメントを押し上げたもよう。
09866 蔚来汽車 [ニオ] 7.9% 34.5% 15.7% 新興EVメーカー。6月の販売動向からすると7月も販売回復が続く見通しだとし、大手証券会社が買い推奨した。別の大手証券会社は投資判断「買い」でカバレッジを再開した。
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] 3.6% 1.3% -0.4% 大手家電メーカー。同社は中国本土上場のA株の自社株買いを実施してきたが、7/6の取締役会では香港上場のH株に対する自社株買いが承認され、買い材料となった。
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] 3.5% -2.5% -0.8% オンライン旅行サービス大手。中国の空港の旅客数は7/1-7/5に約900万人に達したと報じられ、買い材料となった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01833 平安健康医療 [ピンアン・ヘルスケア] -3.1% -4.3% -7.9% 平安保険(02318)傘下のインターネットヘルス大手。需給要因のもよう。一部の大手投資ファンドが保有株比率を引き下げた。
00981 中芯国際 [SMIC] -3.2% -8.8% -15.0% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。半導体露光装置メーカーのASMLが中国市場に特別仕様のDUV露光装置を投入する計画はないと発表し、売り材料となった。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] -3.4% 8.3% -2.0% パソコン(PC)大手。4-6月の世界PC出荷台数が前年同期比13.4%減となり、連続6四半期で低下したと伝わり、売り材料となった。
00020 SenseTime Group Inc -5.8% -17.5% -43.4% AIソフトウェア大手。前週の売りは市場の観測通り、大株主であるアリババ(09988)による保有株比率の引き下げだったと判明し、売り優勢が続いた。
00772 閲文集団(China Literature) -6.1% -1.9% -26.7% オンライン文学プラットフォームを運営。大手証券会社2社が売上高の鈍化を予想し、目標株価を引き下げた。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

7/6-7/12の香港市場では、ハンセン指数が1.3%下落、ハンセンテック指数は1.6%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は6.4%上昇しました。

ハンセン指数が下落した一方、ハンセンテック指数とHXC指数が上昇したのは、ハンセン指数の構成比率が高い銀行株や不動産株が下落したのに対し、アリババ(09988)を筆頭としたネット大手は買われたためです。

銀行株の下落は、ひと言でいうと、中国4大銀行が7/6と7/10に配当の権利落ち日を迎えたためです。配当金分だけ株価が値下がりすることにより、4大銀行の株価は10%以上下落しました。不動産株は、6月の販売低調が響いたほか、大手の龍湖集団(00960)が配当の権利落ちの影響で大きく下落し、指数を押し下げました。

ネット大手株は、アリババが上昇を主導しました。アリババ傘下のアント・グループをめぐる規制の不透明感が払しょくされたためです。中国人民銀行は7/7にアント・グループに対し、違法行為があったとしておよそ71億元の罰金を科したと発表しました。罰金額が予想の範囲内だったほか、これをもってアント・グループに対する調査は終了したと捉えられ、好材料となりました。今後は、アント・グループのIPO計画も復活する可能性があると期待され、アリババが急反発しました。

中国当局がネット大手を称賛したことも、上昇要因となりました。中国の経済政策を統括する国家発展委員会は7/12に、ネット大手に対する調査データや事例を引用しながら、プラットフォーム企業が技術革新への投資を促進していると称賛する声明文を発表しました。

声明文では、「プラットフォーム企業への調査に基づくと、時間総額ベースで中国トップ10位のプラットフォーム企業は今年1-3月期に投資を増やしており、半導体や自動運転、新エネルギーなどの分野への投資額は前四半期より15.6%増加した」としたうえ、具体例として半導体とAI分野への投資ではテンセント(00700)と美団(03690)、農業とサービス分野の発展支援ではアリババの名を挙げました。中国当局が強化している半導体や自動運転、新エネルギーの分野でネット大手の貢献を評価しました。

ネット大手以外では、電気自動車(EV)関連銘柄も買われました。6月の販売実績を受けた今後の販売回復に対する期待と、値下げ競争の終了を示唆する出来事が好材料となりました。きっかけは、7/6にBYD(01211)やテスラ(TSLA)、ニオ(09866)、シャオペン(09868)など16社のEVメーカーが公正な競争を維持し”異常な価格設定”の回避を約束する承諾書に署名したことです。

なお、7/8に中国自動車工業協会(CAAM)は、異常な価格設定の排除をうたった上記の合意を撤回しました。承諾書の中で「価格設定」に言及したことが不適切であり、国内の独占禁止法が定めている原則に反しているためと説明しました。したがって、”合意撤回”は実質的な意味をもつより、独占禁止法の定めに対処した側面が強いと言えそうです。実際、7/6の公正な競争に関する承諾書は、中国工業情報部(自動車を含む産業を統括する中央政府部門)がCAAMに指示したものです。

したがって、EV業界をめぐる値下げ競争が終了を迎えている可能性が高いことは変わらないと思います。足元ではネット大手の急反発で投資家はネット大手により注目する可能性がありますが、年後半は引き続き、EV関連銘柄に注目したいと思います。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「李強首相とネット大手、夏休み前のレジャー関連銘柄」です。

【李強首相とネット大手】

中国の国営テレビCCTVは7/12夜に、李強首相がアリババ(09988)やJDドットコム(09618)などのネット大手の幹部たちと座談会を開催したと報じました。座談会で李強首相は、プラットフォーム企業に対し、今後も技術革新を進め、雇用の創出と国際競争力の向上において大いに力を発揮することを求めました。また、地方政府に対し、プラットフォーム企業にさらなる支援を提供するよう促しました。

今年3月に新たに首相に就任した李強氏の活動からすると、初外遊では欧州を訪問し、対外的には欧州との関係改善を図ろうとしています。対内的には今回、首相として初めてネット大手の幹部たちと直接会談し、支援を表明したことになります。

「欧米(特に米国)とのデカップリング」と「対内の規制強化」は、海外投資家にとって中国株投資で最も警戒しているリスクの2つとなっています。李強首相は、この2つの問題に対処し始めているようです。なお、海外投資家にとってみれば、今回の動きだけで上記のリスクが消えたと断定するのはまだ早く、今後の持続性を確認したい思惑も強いと思います。

他方、中国株のバリュエーションが大きく低下したことを考えると、ネット大手などのテック株は下値リスクよりも上値のポテンシャルがある状況だと言えます。7月に入ってから、ネット大手の構成比率が高いハンセンテック指数とHXC指数が反発したのは、このようなリスクリワード(期待損失と期待収益)の考え方からきたものとも解釈できます(図表4)。7/12の李強首相によるネット大手への支援表明で、見直し買いは続く可能性がありそうです。

図表4 ハンセンとハンセンテック、HXC指数の年初来推移(2022年12月末=100として指数化)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表5 ハンセンテック指数に連動するETFと同指数の構成銘柄の騰落率

銘柄コード 銘柄名 関連分野 7月の騰落率(7/12まで) 年前半の騰落率
03033 CSOP テック ETF ハンセンテック指数に連動するETF 4.2% -5.5%
09868 小鵬汽車[シャオペン] EV 19.2% 30.4%
09866 蔚来汽車 [ニオ] EV 12.0% -3.4%
09988 アリババ・グループ EC・フィンテック 10.7% -5.9%
06060 衆安在線財産保険 オンライン保険 8.2% -0.9%
02015 理想汽車[リーオート] EV 7.5% 76.4%
09618 JDドットコム EC 7.0% -39.9%
09888 百度 [バイドゥ] 検索エンジン 6.9% 18.9%
09626 ビリビリ 動画プラットフォーム 6.0% -37.5%
01347 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] 半導体受託生産(ファウンドリ) 5.7% -6.1%
00285 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] スマートフォン部品・受託製造 5.1% -5.6%
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] オンライン旅行サービス 4.6% -0.4%
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] ソフトウェア会社 4.4% -37.4%
03690 美団(Meituan) フードデリバリー 4.1% -30.0%
06618 京東健康(JD Health) インターネットヘルス 3.9% -30.7%
01024 快手(Kuaishou Technology) ショート動画 3.6% -24.6%
01810 小米集団 [シャオミ] スマートフォン・IoT家電 3.5% -2.0%
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] インターネットヘルス 3.4% -29.2%
09898 微博 ソーシャルメディア 3.3% -30.2%
09999 網易 [ネットイース] ゲーム 3.0% 33.3%
09698 万国数拠服務 データセンター 2.6% -47.8%
00700 騰訊 [テンセント・ホールディングス] ゲーム・フィンテック 2.5% 4.5%
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] パソコン(PC) 1.7% 27.5%
02018 瑞声科技 [AACテクノロジーズ] 音響部品 1.6% 3.4%
03888 金山軟件 [キングソフト] ゲーム・ソフトウェア 1.6% 18.2%
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] 光学機器 -1.0% -15.8%
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] 家電 -1.6% -7.3%
01833 平安健康医療 [ピンアン・ヘルスケア] インターネットヘルス -2.0% -11.1%
00981 中芯国際 [SMIC] 半導体受託生産(ファウンドリ) -3.9% 22.0%
00772 閲文集団(China Literature) オンライン文学プラットフォーム -4.3% 8.8%
00020 SenseTime Group Inc AIソフトウェア -13.5% -6.8%

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※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

【夏休み前のレジャー関連銘柄】

中国の学校では7月初旬から8月が夏休みとなっているため、これから本格的に夏休みに突入します。多くの親は子供の夏休みに合わせて長期休暇を取る傾向も強く、いわば8月までは夏休み期間と言えます。

中国経済をめぐっては、足元で消費の回復の鈍さが懸念されていますが、旅行の予約状況は好調のようです。たとえば、中国の空港の旅客数は7/1-7/5に約900万人に達し、コロナ前(2019年)を超えました。また、過去の経験からすると、マカオのカジノ収入も7月から10月(国慶節連休がある月)にかけて増加する傾向が強いです(図表6)。

今年は「ゼロコロナ政策」解除後の初の夏休みとなるため、海外旅行に対する需要は高いと想定されます。したがって、今年の夏休みは、投資家の弱い予想を超えて旅行が回復する可能性があるかもしれません。

図表6 マカオのカジノ収入の推移

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表7 主なレジャー関連銘柄

銘柄 関連分野 株価(7/12) 52週高値 52週安値
携程集団(09961) 旅行予約 285.00香港ドル 321.80香港ドル 159.80香港ドル
華住集団(01179) ホテル 32.95香港ドル 42.25香港ドル 20.10香港ドル
銀河娯楽(00027) カジノ 52.75香港ドル 59.80香港ドル 33.55香港ドル
金沙中国(01928) 28.35香港ドル 31.55香港ドル 12.50香港ドル
永利澳門(01128) 7.66香港ドル 10.32香港ドル 2.95香港ドル
MGMチャイナ(02282) 10.00香港ドル 11.22香港ドル 3.01香港ドル
澳門博彩(SJM)(00880) 3.44香港ドル 5.14香港ドル 2.31香港ドル

スクロールできます

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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