~これから何が中国経済を支えるのか?~

~これから何が中国経済を支えるのか?~

投資情報部 李 燕

2023/07/20

7/13-7/19の香港市場は、主要指数が小幅高となりました。主な上昇は李強首相によるネット大手への支援表明(7/12夜)後によるもので、7/17に第2四半期のGDP成長率が発表された後は売り優勢でした。

今回のトピックスは、「これから何が中国経済を支えるのか?」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の推移(日足、6ヵ月)

注:7/19(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(7/19(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02269 薬明生物 [ウーシー・バイオロジクス] 6.8% 6.7% -25.2% バイオ医薬品開発受託大手。業績改善期待と低バリュエーションを理由に、大手証券会社が買い推奨した。米インフレ低下による追加利上げ懸念の後退も支援材料となった。それにより、世界バイオ業界の資金調達状況が改善すると期待されている。
00762 中国聯通[チャイナ・ユニコム] 6.7% 7.1% -10.6% 通信キャリア。大手証券会社が買い推奨した。業績の安定と株主還元の強化、低バリュエーションを理由に挙げた。
00316 東方海外 6.6% 15.1% -28.5% 海上貨物輸送を手掛ける。海運業界の見通し改善で買われた。北米路線は6月から貨物量が緩やかながら回復しており、欧州航路では世界コンテナ船大手のマースクとCMAが7月末に値上げを実施する予定だと報じられた。
00857 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] 6.0% 8.3% 13.1% 中国石油・天然ガス最大手。WTI原油先物価格の上昇を好感した。主要産油国による減産が米原油在庫の増加による価格上昇の圧力を相殺し、WTI原油先物価格が持ち直した。
02899 紫金鉱業集団[ズージン・マイニング] 5.5% 9.9% -11.5% 金・銅の採掘大手。金先物価格の上昇で買われた。米国のインフレ鈍化で米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルが終わりに近づいているとの見方が強まり、金先物価格が持ち直した。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02007 碧桂園 [カントリー・ガーデン] -4.1% -11.3% -36.5% 中国不動産大手。不動産株が売られた流れの一つ。詳細は本文をご参照願います。
02628 中国人寿保険 [チャイナ・ライフ] -5.1% -10.9% -16.7% 大手保険会社。不動産市場の見通し悪化懸念で保険株が売られた。保険会社は運用の投資先として不動産関連資産(債券などを含む)を保有している。
00868 信義玻璃控股 [信義ガラス] -5.1% -6.1% -21.9% 大手ガラスメーカー。不動産市場の見通し悪化懸念で、ガラスを含む建設資材関連株が売られた。
00960 龍湖集団 [ロンフォー・グループ] -6.2% -16.8% -33.6% 中国不動産大手。不動産株が売られた流れの一つ。詳細は本文をご参照願います。
00881 中升集団 -7.1% -10.2% -25.3% 自動車販売会社。大手証券会社が目標株価を引き下げた。新車販売のマージン悪化やアフターセールス事業の減速などで、今年上期は前年同期比で減益となる見通しだと分析した。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00285 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] 11.5% 17.1% 20.1% BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。会社側が今年上期の純利益は前年同期比で115%-146%増になる見通しだと発表し、好材料となった。
03888 金山軟件 [キングソフト] 8.9% 10.7% -3.7% ゲーム・ソフトウェア大手。大手証券会社が買い推奨した。企業向けソフトウェアのAI導入は今後の収益拡大につながる見通しだと予想した。マイクロソフト(MSFT)がAI版「Microsoft 365 Copilot」を月額30ドルから提供すると発表したことも、支援材料となった。
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] 5.9% 10.5% -8.4% ソフトウェア会社。ソフトウェア株が買われた流れの一つ。マイクロソフト(MSFT)がAI版「Microsoft 365 Copilot」を月額30ドルから提供すると発表したことを受け、香港市場でもソフトウェア株が買い優勢となった。
01024 快手(Kuaishou Technology) 4.4% 8.1% 12.0% ショート動画大手。大規模言語モデルを生かしたユーザー支援サービスについて、社内テストを実施していると報じられ、買い材料となった。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 3.9% 5.6% 0.1% パソコン(PC)大手。パソコン市場の回復期待で買われた。調査会社Canalysが世界のパソコン出荷台数は4-6月期に前年同期比で11.5%減となったが、前四半期比では11.9%増だったと発表した。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01347 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] -1.7% 3.9% -28.1% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。中国本土上場の手続きが本格的に始まり、一部の投資家が「噂で買い事実で売る」に従い売却を進めたもよう。
00700 騰訊 [テンセント・ホールディングス] -2.1% 0.4% -6.8% ゲーム・フィンテック大手。大株主による保有株比率の引き下げを嫌気した。報道によると、大株主のProsusは自社株買いの資金を調達するため、テンセント株を徐々に売却していることを明かした。 Prosusはテンセントへの出資比率を年2-3%ずつ縮小し、今年末には24-25%程度になると予想しているという。
09866 蔚来汽車 [ニオ] -3.3% 8.3% 14.3% 新興EVメーカー。リーオート(02015)が発表した7/3-7/9の週次EV販売データによると、販売順位(新興EVメーカーのみ)がリーオート>ニオ>シャオペンとなり、ニオとシャオペンが売られた。
09868 小鵬汽車[シャオペン] -4.0% 14.4% 39.5% 新興EVメーカー。リーオート(02015)が発表した7/3-7/9の週次EV販売データによると、販売順位(新興EVメーカーのみ)がリーオート>ニオ>シャオペンとなり、ニオとシャオペンが売られた。
06060 衆安在線財産保険 -4.6% 3.3% -14.6% オンライン保険大手。会社側が今年上期の保険料収入は前年同期比37.6%増になったと発表。1-5月の同34.0%増と比べると、緩やかながら増加傾向だが、保険株が総じて軟調のなか売り優勢となった。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

7/13-7/19の香港市場では、ハンセン指数が0.5%上昇、ハンセンテック指数は0.8%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は2.5%下落しました。

前半は、李強首相によるプラットフォーム企業への支援表明で、ネット大手が上昇を主導しました。7/17-7/19(※)は、予想を下回る中国の第2四半期のGDP成長率を受け、全般的に売り優勢となりました。(※香港市場は7/17に、台風の影響による「シグナル8」発令で取引停止となりました。)

香港市場は業種別で、素材と電気通信、エネルギーが堅調でした。素材は、金・銅大手のツージンマイニン(02899)や銅大手のコウセイコパー(00358)が上昇をけん引しました。米国のインフレ鈍化で米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルが終わりに近づいているとの見方が強まったことを受け、ドル安と金・銅の先物価格の上昇が進み、買い材料となりました。

電気通信は、通信キャリア大手のチャイナユニコム(00762)とチャイナモバイル(00941)が買われました。大手証券会社が通信キャリアの業績の安定と株主還元の強化、低バリュエーションを理由に、買い推奨しました。

エネルギーは、石油・天然ガス大手のペトロチャイナ(00857)や中国海洋石油(00883)が買われました。主要産油国による減産が米原油在庫の増加による価格上昇の圧力を相殺し、WTI原油先物価格が上昇したことが好材料となりました。ペトロチャイナは7/19に年初来高値を付けました。

一方、生活必需品と不動産は軟調でした。生活必需品は、6月の小売売上高の伸び率が予想外に鈍化し、売り材料となりました。個別材料があった青島ビール(00168)やバドワイザーAPAC(01876)などビール大手が下げを主導しました。青島ビールは高価格帯製品の販売好調の持続性に対する懸念で売られました。バドワイザーAPACは、大手証券会社が4-6月期の業績は為替の影響が響く可能性があるとし、目標株価を引き下げました。

不動産は、業界見通しの悪化懸念が重石となりました。経営再建中の不動産大手の中国恒大(03033)が2021年と2022年は合計810億ドルの赤字だったと発表したほか、中堅不動産デベロッパーの遠洋グループ(03377)はドル建て債券のクーポン支払いを実施しなかったと報じられました。7/17に発表された1-6月の不動産投資が市場予想を下回ったことも、業界見通しの悪化懸念につながりました。

なお、遠洋グループの債務負担問題が明らかになった後、中国当局は資金繰りが悪化している不動産デベロッパーを支えるために、金融機関に融資返済の1年延長を求めました。このような金融支援により、ある程度市場の不安を和らげるかもしれませんが、現段階での対症療法よりも、中国当局が表明している包括的な支援措置を打ち出すかどうかがより重要になってきます。タイミングとしては、7月末に開催される中国共産党の中央政治局会議で関連支援策が発表されるかどうかが注目されます。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「これから何が中国経済を支えるのか?」です。

7/17に発表された中国の第2四半期のGDPは前年同期比6.3%増となり、市場予想(7.1%増)を下回りました。同時に発表された6月の小売売上高も前年同月比で3.1%増にとどまり、市場予想(3.3%増)を下振れました。

それを受け、市場では景気回復を後押しする一段の政策支援を求める声が高まると同時に、「これから何が中国経済を支えるのか?」と不安視する声も増えました。今回は、今年1-6月の固定資産投資の伸び率からそのヒントを探ってみたいと思います。

1-6月の固定資産投資は前年同期比3.8%増となり、市場予想の3.4%増を上回りました。中国経済に対する従来のイメージに沿うと、不動産市場の投資が減った分、インフラ関連投資が固定資産投資を支えた可能性が高いという結論になりがちです。しかし、実際の中身はそれだけではありませんでした。

まず、産業別固定資産投資の伸び率を確認してみると(図表4)、確かに不動産業が含まれている第三次産業の伸び率が1.6%と低く、インフレ関連や製造業の投資が含まれている第二次産業の伸び率は8.9%と比較的高水準でした。

図表4 1-6月の固定資産投資の伸び率(1)(前年同期比、%)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。



次に、より詳細な産業分類による固定資産投資の伸び率を確認してみます。図表5からは、道路運送や鉄道運輸、電力・ガス・熱供給・水道業などインフラ関連の伸び率が軒並み20%を超えました。確かにインフラ関連投資が固定資産投資を支えていました。

一方、中国当局が強化している「ハードテック」関連分野の伸び率も堅調でした。自動車や電気機械器具は、EV(電気自動車)やバッテリー、クリーンエネルギーなどと関わる分野で、中国当局が支援している分野です。自動車業界をめぐっては、今年1-6月はガソリン車の衰退が進んでいる一方、EVを含む新エネルギー車の普及が加速していることが明らかになりました。

図表5 1-6月の固定資産投資の伸び率(2)(前年同期比、%)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。



そして、今年1-6月に中国の自動車輸出台数が214万台となり、前年同期比で75.7%増となりました。実際、中国は1-3月期に四半期ベースで初めて世界最大の輸出国になりました。中国国内市場でも、かつては海外自動車メーカーが市場を支配していましたが、今年1-6月はBYD(01211)が独フォルクスワーゲンを抜き、ブランド別販売台数で中国トップとなりました。しかも、BYDは既に昨年にガソリン車の生産を終了しており、今年1-6月に販売されたのはすべて新エネルギー車です。

このように中国では、新エネルギー車などの「ハードテック」が存在感を増しています。世界テック業界で注目の的となっているAI(人工知能)をめぐっても、中国当局は支援する方向で政策を進めています。米国企業に追随して中国企業がいち早くAI関連製品やサービスを打ち出している点からしても、AI分野で中国が米国に対抗しうることを示唆します。

半導体分野では、米国の対中輸出規制などの影響が懸念されていますが、米国の措置はむしろ中国の国産化を促しています。直近の例として、2つ挙げられます。

一つ目は、「不死鳥」のファーウェイの最新動向です。米国の制裁で5Gスマートフォンの生産停止に追い込まれていたファーウェイですが、年内に5Gスマートフォンのフラッグシップモデルを刷新する計画です。チップ設計ソフトウェアの技術進歩に加え、中国製半導体に切り替えることで達成可能になったとみられます。

二つ目は、中国への輸出が禁止されているエヌビディア(NVDA)製品の代替品を作る壁仞科技(Biren Technology)が年内に香港上場する見通しとなったことです。Biren Technologyは、グラフィックス・プロセッシング・ユニットやクラウド・コンピューティングなどの分野に注力しており、AI半導体王者のエヌビディアに対抗する最も有望な中国企業のひとつとして注目されています。

最後に、深セン在住の筆者の元同僚の言葉をご紹介したいと思います。コンサルタントの同氏は、「米国が仕掛けている”デカップリング”はむしろ中国企業に発展のチャンスを与えています。これからの中国経済を支えるのは、これらの”デカップリング”分野となるでしょう。」と言っています。投資のヒントとしては引き続き、中長期的にハンセンテック指数に連動するCSOP テック ETF(03033)に注目したいと思います。



※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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