~中国の景気支援は今度こそ本気か、意外な支援分野も浮上~
投資情報部 李 燕
2023/07/27
7/20-7/26の香港市場は上昇しました。中国当局が不動産政策緩和と景気支援強化を表明し、好材料となりました。
今回のトピックスは、「中国の景気支援は今度こそ本気か、意外な支援分野も浮上」です。
今週の中国株市況
図表1 ハンセン指数の推移(日足、6ヵ月)
注:7/26(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)
注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(7/26(水)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00960 | 龍湖集団 [ロンフォー・グループ] | 13.3% | -5.0% | -16.3% | 中国不動産大手。中国当局による不動産支援表明で買われた。詳細は本文をご参照願います。 |
00241 | 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] | 9.3% | 14.0% | -4.6% | アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。ヘルスケア関連株に対する見直し買いがみられるなか、大手投資ファンドが同社株の持ち株比率を引き上げた。 |
01109 | 華潤置地 [チャイナ・リソーシズランド] | 9.2% | 3.9% | -5.5% | 中国不動産大手。中国当局による不動産支援表明で買われた。詳細は本文をご参照願います。 |
00688 | 中国海外発展 [チャイナオ-バ-シ-ズランド] | 8.9% | 3.9% | -9.8% | 中国不動産大手。中国当局による不動産支援表明で買われた。詳細は本文をご参照願います。 |
03968 | 招商銀行(CMB) | 6.8% | -0.1% | -10.1% | 大手商業銀行。マクロ経済や銀行業界に対する軟調な見通しは既に株価に十分反映されているとし、大手証券会社が買い推奨した。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00386 | 中国石油化工 [シノペック] | -2.4% | -2.8% | -13.9% | 石油・石油化学製品大手。原油先物価格の上昇の持続性に対し、不透明感が意識され、利益確定売りがみられた。 |
00857 | 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] | -2.7% | 4.8% | 6.6% | 中国石油・天然ガス最大手。原油先物価格の上昇の持続性に対し、不透明感が意識され、利益確定売りがみられた。 |
06098 | CG SERVICES | -3.0% | -12.4% | -30.7% | 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。大手証券会社が親会社のカントリーガーデンの株価はさらに35%下落する余地があると予想し、売り材料となった。 |
00992 | 聯想集団 [レノボ・グループ] | -5.2% | -0.1% | 2.8% | パソコン(PC)大手。配当の権利落ちによる影響。権利落ち日が7/26だった。 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | -15.3% | -15.7% | -19.0% | 大手光学機器メーカー。会社側が1-6月期の純利益は前年同期比65-70%減になる見通しだと発表し、悪材料となった。大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
09866 | 蔚来汽車 [ニオ] | 12.5% | 21.2% | 44.1% | 新興EVメーカー。中国当局が景気支援強化を表明し、好材料となった。同社は同業に比べて株価に出遅れ感があり、買いが膨らんだもよう。 |
01024 | 快手(Kuaishou Technology) | 9.4% | 16.4% | 22.9% | ショート動画大手。4-6月期は広告収入の回復を支えに売上高が前年同期比25%増に回復する見込みだとし、大手証券会社が買い推奨した。 |
00241 | 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] | 9.3% | 14.0% | -4.6% | アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。ヘルスケア関連株に対する見直し買いがみられるなか、大手投資ファンドが同社株の持ち株比率を引き上げた。 |
09626 | ビリビリ | 7.1% | 13.1% | -17.0% | 動画プラットフォーム大手。中国当局が景気支援強化を表明し、好材料となった。同社は同業に比べて株価に出遅れ感があり、買いが膨らんだもよう。 |
09898 | 微博 | 5.9% | 8.7% | -16.0% | ソーシャルメディア・プラットフォーム運営会社。中国当局が景気支援強化を表明し、好材料となった。同社は同業に比べて株価に出遅れ感があり、買いが膨らんだもよう。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
01347 | 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] | -3.0% | 0.4% | -27.8% | 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。中国本土系の大手投資ファンドが保有株比率を引き下げた。同社は中国本土のA株上場を控えており、一部の大手投資ファンドはA株への乗り換えを考えているようだ。 |
00992 | 聯想集団 [レノボ・グループ] | -5.2% | 0.0% | 2.9% | パソコン(PC)大手。配当の権利落ちによる影響。権利落ち日が7/26だった。 |
03888 | 金山軟件 [キングソフト] | -5.9% | 3.9% | -5.0% | ゲーム・ソフトウェア大手。大株主による保有株比率の引き下げが明らかになり、売り材料となった。 |
02018 | 瑞声科技 [AACテクノロジーズ] | -11.4% | -10.1% | 1.7% | 音響部品メーカー。会社側が1-6月期の純利益は前年同期比55-65%減になる見通しだと発表し、悪材料となった。大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | -15.3% | -15.8% | -19.1% | 大手光学機器メーカー。会社側が1-6月期の純利益は前年同期比65-70%減になる見通しだと発表し、悪材料となった。大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
7/20-7/26の香港市場では、ハンセン指数が2.2%上昇、ハンセンテック指数は2.5%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は7.1%上昇しました。
中国当局が7/24に開催された中央政治局会議で、不動産政策緩和と景気支援強化を表明し、好材料となりました。これまでは中国当局が政策支援を「出し渋った」こともあり、今回の中央政治局会議に対しても市場の期待はそう高くありませんでした。しかしながら、予想に反して中国当局は景気支援を強化すると表明しました。
なお、HXC指数の上昇率がより高いのは7/26(米国時間)の上昇分も反映されたためです。7/26の米国市場では、中国新興EV(電気自動車)メーカーのシャオペン(XPEV)が急騰(26.7%上昇)し、他のEV銘柄にも買いが波及しました。独フォルクスワーゲンがシャオペンに7億ドル出資し、最終的に同社株式を4.99%保有する予定だと報じられたためです。Bloombergによると、フォルクスワーゲンとシャオペンは少なくとも2種類の新型EVを計画しており、最初のモデルは2026年に発売される予定です。
香港市場では、中国当局による不動産政策緩和の表明を受け、不動産と素材が堅調でした。不動産大手の龍湖集団(00960)や中国海外発展(00688)が反発を主導しました。素材は、不動産市場の回復期待で建設資材関連の中国アルミ(02600)やコウセイコパー(00358)、ツージンマイニン(02899)などがそろって買われました。
ただ、リチウム大手のガンフォン(01772)と天斉リチウム(09696)は逆行安となりました。広州先物取引所で7/21から取引が始まった炭酸リチウム先物が上場初日に大幅に下落したためです。下落要因は、取引中の炭酸リチウム先物が主に2024年1月以降の物となっており、同時期には需給のギャップが縮み、供給過剰になると見込まれているためです。このような炭酸リチウム価格の先安観は、リチウム大手にとってはマイナス材料ですが、EV関連銘柄にとってはプラス材料となりそうです。
ヘルスケアも、堅調でした。中国当局が進めてきた薬価改革をめぐり、薬価の引き下げ率の半減を含めた緩和措置が発表されたためです。詳細に関しては、今回のトピックス部分で取り上げます。
一方、工業は、逆行安となりました。主にスマホ部品関連銘柄の舜宇光学(02382)と瑞声科技(02018)が下落を主導しました。両社とも1-6月期は大幅減益になる見通しだと発表し、悪材料となりました。会社側の発表を受け、アナリストたちが両社の目標株価を引き下げたことも売りを助長しました。スマートフォン市場をめぐっては、回復が予想以上に遅れており、底打ちのタイミングがずれ込む可能性が高くなりました。どれくらいずれ込むかは、主力企業の4-6月期の決算発表会でヒントを探る必要がありそうです。
今回のトピックス
今回のトピックスは、「中国の景気支援は今度こそ本気か、意外な支援分野も浮上」です。
【中国の景気支援は今度こそ本気か】
中国の景気支援をめぐっては、市場では期待と失望が繰り返されてきました。中国当局が今年3月に2023年のGDP成長率目標を5.0%前後と控えめに設定してから、市場では大規模な景気支援策はないとの見方が主流になりました。しかしながら、弱い経済指標が発表されるたびに景気支援を期待する声も大きくなりました。それに対して中国当局は、ある程度の支援を表明するのにとどまり、投資家は「想定内」と感じつつも失望感を味わってきました。
したがって、7/24の中央政治局会議で中国当局が包括的な支援表明を発表したことは、市場にとってポジティブ・サプライズとなりました。中国当局が今回示した政策運営方針の特徴は、主に図表4の通りです。
図表4 中国当局が7/24に示した政策運営方針
※Bloombergおよび各種報道をもとにSBI証券が作成。
上記の8つの分野は、いずれも市場で懸念している分野です。今回の政策運営方針でそれらが網羅されていることは、中国当局の現状認識が市場と一致していることを意味します。これは政策運営において非常に重要です。というのは、これまでは中国当局が経済の低迷を十分認識していないがゆえに、目先の景気鈍化よりも中長期的な構造改革を優先し、支援措置が遅れている可能性があるためです。
次に、それぞれの現状認識を踏まえたうえで、支援方針が示されたことはポジティブと言えます。具体的には、リスク抑制分野(たとえば不動産市場やネット大手などの民間企業、地方債務)に対しては、従来の「タカ派」スタンスから「ハト派」姿勢へシフトしたこと、消費と技術革新といった従来の強化分野に対しては一段と支援を強化していく方針が示されました。
他方、過去と同様に、今回も支援表明にとどまっており、またも「口約束」と捉えられる可能性もあります。したがって、株高が続くかどうかは、中国当局が早期に具体策を打ち出せるかどうかにかかってくると思います。4月の中央政治局会議と比較した際、今回は中国当局も緊迫感を感じているようです。よって、今後は順次、関連政策を打ち出すこととなりそうです。
【意外な支援分野も浮上】
中央政治局会議が開催された7/24に、中国の医薬品分野を統括する国家医療保障局は医薬品の価格設定に関する新たな規則を発表しました。国家医療保障局は過去数年にわたり、医療保険が適応される医薬品の価格引き下げに取り組んできました。今回発表された2つ規則では、一定条件を満たす医薬品に対して緩和措置が設けられました。
長年の薬価引き下げの取り組みが終盤に向かいつつあることが示されました。つまり、ヘルスケア関連分野に対しても、中国当局は「手綱を緩め始めている」(支援へシフトする)ようです。ヘルスケア関連株に見直し買いが入ったのは、このような中国当局の政策転換が大きく寄与しています。
ヘルスケア関連分野はネット大手と同様に、中国当局がどこまで「手綱を緩める」かについて期待と不安が入り混じっている分野です。ネット大手に対して中国当局が本格的に支援へ傾いたことからすると、ヘルスケア関連分野もいずれ同様な支援分野となりそうです。
なお、ここ2年のヘルスケア株の軟調は、新型コロナ関連の特需が剥がれたことによる部分も大きいです。しかしながら、およそ2年の株価調整を経てバリュエーションも大きく低下したことからすると、コロナ特需の反動からくる業績の悪化はある程度株価に織り込まれた可能性があると考えられます。
4-6月期が業績の底となるかどうかは、依然として主力企業の業績発表で確認する必要がありますが、ヘルスケア業界をめぐる規制緩和で業績の持ち直しが予想より早まる可能性もありそうです。主力銘柄では、世界のバイオ医薬品受託製造大手の薬明生物(02269)に注目したいと思います。同社は1-6月期の業績悪化見通しを既に公表したため、株価はそれを織り込んでいる可能性が高いうえ、足元では子会社の分離上場というポジティブ材料もあります。個別銘柄の場合はボラティリティが高くなりがちですが、指数に連動するETFなら分散が効き、ある程度ボラティリティを抑えることができます。
図表5 ヘルスケアサブ指数の主要構成銘柄とETFの株価騰落率と予想PER
銘柄コード | Bloomberg銘柄名 | 7月の騰落率(7/26まで) | 1-6月の騰落率 | 予想PER | 過去5年平均PER | 目標株価 | 7/26終値 |
02359 | 無錫薬明康徳 | 13.8% | -24.2% | 20.0 | 63.0 | 115.38 | 70.85 |
02269 | 薬明生物 [ウーシー・バイオロジクス] | 11.2% | -37.3% | 29.3 | 107.3 | 77.93 | 42.05 |
06618 | 京東健康(JD Health) | 11.3% | -30.7% | 60.5 | - | 76.24 | 54.00 |
06160 | ベイジーン | 14.4% | -20.0% | - | - | 173.49 | 119.8 |
03692 | Hansoh Pharmaceutical | 1.3% | -15.1% | 23.8 | - | 16.85 | 12.72 |
01177 | 中国生物製薬 [シノ・バイオファーマ] | 3.5% | -25.4% | 17.7 | 30.1 | 5.45 | 3.52 |
00241 | 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] | 16.8% | -29.2% | 95.9 | - | 6.57 | 5.42 |
09688 | Zai Lab Ltd | 16.4% | -14.6% | - | - | 49.53 | 24.00 |
02820 | Global X チャイナバイオETF | 5.0% | -17.2% | - | - | - | 58.2 |
注:ETFを除くと、時価総額順となっています。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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