~カントリー・ガーデンのデフォルト懸念とチャイナリスク~

~カントリー・ガーデンのデフォルト懸念とチャイナリスク~

投資情報部 李 燕

2023/08/17

8/10-8/16の香港市場は続落しました。中国の景気懸念が一段と強まり、ほぼ全業種で売り優勢となりました。

今回のトピックスは、「カントリー・ガーデンのデフォルト懸念とチャイナリスク」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数とハンセンテック指数の年初来推移

注:8/16(水)までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の年初来推移(2022年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(8/9(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00762 中国聯通[チャイナ・ユニコム] 3.8% 1.8% -8.5% 通信キャリア。リスク回避の動きが強まるなか、ディフェンシブ銘柄として買われた。
00941 中国移動 [チャイナモバイル] 1.6% 2.3% -0.2% 中国通信キャリア最大手。リスク回避の動きが強まるなか、ディフェンシブ銘柄として買われた。
00322 康師傅控股 [ティンイー] 0.9% -6.8% -12.3% 大手食品メーカー。テクニカル要因のもよう。RSIが短期的に売られ過ぎサインとされる30%に近づいた後、小幅ながら反発した。
01093 石薬集団 [CSPCファーマシュ-ティカル] -0.9% -10.2% -25.5% 医薬品大手。テクニカル要因のもよう。RSIが短期的に売られ過ぎサインとされる30%を下回った後に買われ、下げ率が限定的だった。
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] -1.0% 1.0% 19.2% オンライン旅行サービス大手。中国当局が日本や韓国、米国などの地域を対象とした団体旅行を解禁し、買い優勢だったが、テクニカル要因を警戒した売りで小反落した。RSIが短期的に買われ過ぎサインとされる70%を超えたタイミングで利益確定売りに押された。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01997 九龍倉置業 [ワーフ・リアルエステート] -10.7% -22.0% -21.9% 香港地場の不動産会社。大手証券会社が目標株価を引き下げ、売り材料となった。
01211 比亜迪 [BYD] -11.0% -16.4% -5.7% 中国EV最大手。テスラ(TSLA)が予想外に再び値下げを実施し、EV関連銘柄が売られた。中国の景気懸念が強まったことも、リスク回避の売りを助長した。
00968 信義光能 [シンイー・ソーラー] -11.6% -17.4% -16.4% 太陽光発電ガラスメーカー。中国国内の大手証券が投資判断を「中立」に引き下げ、売り材料となった。
00669 創科実業 [テクトロニック・インダストリーズ] -14.1% -7.2% -2.5% 海外が主力市場の大手電動工具メーカー。1-6月期の純利益が前年同期比18%減と、市場予想以上の減少となり、売りが膨らんだ。決算発表後、大手証券会社が投資判断と目標株価を引き下げた。
02007 碧桂園 [カントリー・ガーデン] -25.2% -47.5% -51.5% 中国不動産大手。デフォルト懸念が浮上し、大幅安となった。詳細は本文をご参照願います。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
06060 衆安在線財産保険 -0.2% -9.3% -7.6% オンライン保険大手。会社側が1-6月期は小幅ながら黒字転換する見込みだと発表した。軟調地合いのなか、株価がほぼ横ばいとなった。
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] -1.0% 1.0% 19.2% オンライン旅行サービス大手。中国当局が日本や韓国、米国などの地域を対象とした団体旅行を解禁し、買い優勢だったが、テクニカル要因を警戒した売りもみられた。RSIが短期的に買われ過ぎサインとされる70%を超えたタイミングで利益確定売りに押された。
00700 騰訊 [テンセント・ホールディングス] -2.5% -7.2% -4.6% ゲーム・フィンテック大手。決算発表を前に、売り買いが交錯した。なお、8/16引け後に発表された4-6月期の決算内容は市場予想を下回った。中国経済の持ち直しでオンライン広告は回復したが、主力のゲームが軟調だった。
01810 小米集団 [シャオミ] -3.0% -4.1% 5.0% スマートフォン・IoT家電大手。軟調地合いのなか、比較的下げ幅が限定的だった。サムスン製品よりも薄型の折りたたみスマホ「Xiaomi Mix Fold 3」を発表し、支援材料となっている。
09898 微博 -3.5% -10.7% -19.8% ソーシャルメディア・プラットフォーム運営会社。特段材料はなく、需給要因のもよう。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09868 小鵬汽車[シャオペン] -9.5% -27.9% 65.3% 新興EVメーカー。テスラ(TSLA)が予想外に値下げし、EV関連銘柄が売られた。中国の景気懸念や米国の金利上昇も投資家のリスク回避につながった。
09626 ビリビリ -10.0% -13.9% -17.4% 動画プラットフォーム大手。中国の景気懸念や米国の金利上昇で投資家のリスク回避姿勢が高まり、売られた。
00020 SenseTime Group Inc -10.1% -17.8% -31.5% AIソフトウェア大手。中国の景気懸念や米国の金利上昇で投資家のリスク回避姿勢が高まり、売られた。
01347 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] -15.3% -26.2% -27.7% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。4-6月期の決算内容が市場予想を下回り、売り材料となった。決算発表後、大手証券会社が目標株価を引き下げた。
09866 蔚来汽車 [ニオ] -16.6% -20.8% 44.0% 新興EVメーカー。テスラ(TSLA)が予想外に値下げし、EV関連銘柄が売られた。中国の景気懸念や米国の金利上昇も投資家のリスク回避につながった。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

8/10-8/16の香港市場では、ハンセン指数が4.8%下落、ハンセンテック指数は5.7%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は6.9%下落しました。

主な下落要因は、中国の景気懸念が一段と強まったことですが、米国の金利上昇も投資家のリスク回避につながりました。

8/15に発表された中国の7月の鉱工業生産と小売売上高はそれぞれ前年同月比3.7%増、2.5%増にとどまり、いずれも市場予想を下回りました。前週の貿易統計に続き、景気回復の息切れ感が示されました。

前週にデフォルト懸念が浮上したカントリー・ガーデン(02007)をめぐっては、中国国内の人民元建て債券の取引停止や返済の延期交渉が明らかになりました。カントリー・ガーデンは8/16に、社債の償還について多大な不確実性があると認めました。主力経済指標の鈍化と相まって、カントリー・ガーデンの苦境は不動産市場だけでなく、中国の経済全般に対する懸念を助長しました。

業種別では、不動産のほか、不動産市場と関連性の高い素材や金融が下げを主導しました。一般消費財も、電気自動車(EV)関連銘柄の売りで下げが顕著でした。テスラ(TSLA)が予想外に再び値下げを実施したことが響きました。ただ、EV関連銘柄の下落率が大きかったのは、中国の景気懸念と米国の金利上昇を受けた世界投資家のリスク回避も大きく影響しています。

一方、投資家のリスク回避姿勢を反映し、ディフェンシブの電気通信は買い優勢でした。通信キャリア大手のチャイナモバイル(00941)やチャイナテレコム(00762)が小幅ながら続伸しました。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「カントリー・ガーデンのデフォルト懸念とチャイナリスク」です。

不動産大手のカントリー・ガーデン(02007)のデフォルト懸念が急激に高まったことを受け、不動産不況が浮き彫りになりました。中国の不動産市場は当局の支援表明を受け、年初から販売が持ち直しましたが、ここ2-3カ月はやや息切れ感が出てきています。特に7月の販売は予想外に大きく鈍化しました。

都市別では上海や北京などの大都市よりも、カントリー・ガーデンが主力とする地方都市の回復の鈍さが目立ちました。それがカントリー・ガーデンの資金繰り悪化とデフォルト懸念につながっています。カントリー・ガーデンの苦境はまた、当局の「支援不足」も反映しているかもしれません。中国現地紙によると、カントリー・ガーデンは昨年末に大手国有銀行数行から1,500億元の融資枠を得ていましたが、今のところ「どれも実質的な融資につながっていない」ようです。

報道が事実なら、国有銀行の行動からすると、今回の不動産支援は2015年と比較した場合、「当局の本気度が足りない」印象が否めません。2015年当時も大手銀行は最初の段階では支援を出し渋っていましたが、中国当局が本格的に不動産支援に動き出すと、当局と歩調を合わせるようになりました。

カントリー・ガーデンの知名度や規模からすると、デフォルトした際の影響は大きく、不動産市場のみならず中国経済全般的にとっても大きなリスク要因になり得ます。一刻も早く即効性の高い措置が求められている状況と言えます。2015年のように、銀行支援が実行されるだけなく、住宅ローン政策や税制緩和などを含む包括的な支援が必要かもしれません。

8/16時点での中国当局の動向を確認してみると、「支援表明」にとどまっています。中国国内でもカントリー・ガーデンのデフォルト懸念が大きく報じられていることからすると、何らかの支援措置が早急に打ち出される可能性はあると思います。一方、対応が遅れるリスクもゼロではないので、市場ではチャイナリスクとして大きく警戒される可能性もあります。

過去の経験を確認してみると(図表4)、チャイナリスクが警戒された際は、中国国債の保証料率に当たるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が急上昇する傾向があります。そのうち特に取引が多い5年物CDSの水準は、チャイナリスクを測る一つの指標として使われています。

図表4 中国の輸5年物CDSとMSCI中国指数の推移(過去10年)

※Bloombergおよび各種報道をもとにSBI証券が作成。




今回もカントリー・ガーデンのデフォルト懸念が高まったことを受け、中国の5年物CDSが急上昇しました(図表4の一番右側)。8/16時点の5年物CDSは76ベーシスポイントとなっており、絶対値でみた水準でいうと、決して高いわけではありません。ただ、不動産市況や景気鈍化が深刻化した場合、一段と高まる可能性もあり、警戒が必要です。たとえば、チャイナリスクが大きく警戒された2015-2016年の時は、100ベーシスポイントを超える水準が続きました。

株式市場との関連性でみた場合、チャイナリスクが高まった局面では当然ながら中国株売りの局面でもありました(図表4)。一方、中国の5年物CDSが急騰後、ピークを付けた際は、株式市場の底と重なっているケースも多いです。

なお、恒大集団(03333)がデフォルトしてからの5年物CDSとMSCI中国指数の動きを確認してみると、足元は2022年末時のような悲観ムードではないことが読み取れます。当時はゼロコロナ政策の堅持や不動産・ネット大手に対する規制強化が重なり、中国の景気見通しが最も暗かった時期でした。その後、いずれも緩和されたことで、5年物CDSの下落と株高につながりました。

次に、カントリー・ガーデンにデフォルト懸念が浮上してからの動きを確認してみると(図表4の一番右側)、過去の5年物CDSの急騰時に比べれば、MSCI中国指数の下落率はある程度抑えられています。考えられる要因は、中国株の下げが続いたこともあり、ある程度のチャイナリスクは株価に織り込まれている、あるいはバリュエーション面での割安感が下げ渋りにつながっている可能性があります。したがって、短期的には「警戒は必要、過度な悲観は不要」かもしれません。



※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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