決算発表シーズン終了で次の物色材料は?

決算発表シーズン終了で次の物色材料は?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2023/08/15

日経平均は反発。米ハイテク株が軟調な中、円安の進行や好決算銘柄が相場を押し上げる

8月第2週の(8/7-11)の日経平均は、前週末比280円9銭高(+0.87%)と週足ベースで反発。ハイテク株を中心に米国株が弱含みする中、円安の進行や好決算銘柄が相場を押し上げた格好です。また、中国政府が団体旅行の解禁方針を発表したことによるインバウンド関連への期待感や、世界的な資源価格の上昇によって好業績となったエネルギー関連株が株高をけん引しました。

同期間の米国市場では、ダウが+0.6%と上昇した一方でナスダックが▲1.9%と軟調でした。週初、格付け会社のムーディーズが中小銀10行の格下げと、主要6行も格下げの方向で見直すと発表。前週のフィッチによる米国債の格下げに続き、株式市場の重しとなりました。また、米政府は先端半導体、量子技術、AIの3分野で対中投資の規制強化を発表。エヌビディアなどAI期待で株価が堅調だったハイテク株にとって、利益確定売りの呼び水となったもようです。SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)は週足ベースで今年最大の下落幅でした。一方、インフレ指標が概ね予想通りとなって市場に安心感をもたらす中、ディフェンシブセクターが堅調に推移し株式市場を下支えました。

同期間は4-6月期の決算発表が佳境を迎えた週であり、業績や見通し次第で各企業の株価も一喜一憂しました。日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(8/4~10、図表7)の首位は、日本板硝子(5202)です。8/9(水)の1Q(4-6月期)決算では、値上げの浸透などを理由に、通期利益予想を大幅上方修正しました。2位の明治ホールディングス(2269)は、業績見通しの上方修正こそありませんでしたが、大手証券会社が目標株価を引き上げたことが好感されたもようです。他には、インバウンド期待の一角として、三越伊勢丹ホールディングス(3099)とJ.フロント リテイリング(3086)がランクインしました。

下落率上位(8/4~10、図表8)は、全ての銘柄が期中に決算発表をした企業です。首位のニコン(7731)を始め、減益が目立った企業や見通しの不透明感が伝わった企業がほとんどの顔ぶれとなりました。また、4-6月期業績が好調であっても、9位の川崎重工業(7012)のように足元の株価が高値圏にあった場合、利益確定として売られたパターンもありました。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(8/4~10)

図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位(8/4~10)

決算発表シーズン終了で次の物色材料は?

23年4-6月期の決算発表シーズンがようやく一巡しました。図表9は東証プライム市場に上場する3・6・9・12月期決算企業の4-6月期決算を一覧表にまとめました。業績の変動が大きいソフトバンクグループ(SBG)を除く全体の業績は、営業利益が前年同期比+14.5%、税引利益が同+11.8%と、二桁増益を達成しました。製造業では、半導体不足の緩和や円安の進行を追い風に、輸送用機器など加工組立業の業績が堅調に推移しましたほか、金融セクター(銀行、保険、証券・商品先物)についても利益回復の動きが見られました。今回の決算発表は、3月期決算企業から見れば、通期業績に対して第1コーナーを曲がったばかりとなります。通期業績に対して、まだまだ先は長いですが、今後も堅調な業績が維持できるか注目されるところでしょう。

図表9  主要企業の23年4-6月期の業績概要 

  • ※Quick Workstation Astra ManagerのデータをもとにSBI証券が作成


決算発表シーズンが一巡したことで、市場参加者は再びマクロへの関心を強めると考えられます。そうした中、足元で気になる動きをしているのが、米国の長期金利(10年国債利回り)と円相場と考えられます。足元、米10年国債利回りは一時4.2%と、昨年10月以来の水準に上昇しています。10年国債利回りの上昇は、先月にも見られており、その時は上旬に発表された雇用関連指標が堅調だったことで利回りが上昇し、その後、中旬に発表されたインフレ関連指標において物価上昇が抑制されていることが示唆されたことで利回りが低下に転じました。しかし、今月は雇用関連統計が堅調に推移した後、10日発表の7月消費者物価指数が前年同月比+3.2%と市場予想を下回る伸び(ただし、伸び率は前月から拡大)となるなど、インフレが抑制されている内容だったにもかかわらず、利回りの上昇傾向が続いています。10年国債利回りが昨年10月の高値水準である4.24%を突破すれば、上昇に弾みがつく可能性があり要注意となります。

そして米長期金利の上昇は、日米金利差の拡大となって円相場において円安・ドル高要因となっており、円相場は145円台半ばと昨年11月以来の145円台に到達しております。図表10は日米金利差と円相場のマトリクスですが、過去の日米金利差の水準と、現状の円相場は概ね妥当な水準と言えるでしょう。前述した通り、米長期金利が今後、一段と上昇するようであれば、さらなる円安進展が考えられます。ただし、現状から更なる円安は日本による為替介入(円買い介入)の思惑が強まることが予想されます。また、米金利の上昇を受けて、米国株が下落するなどリスク回避の動きが強くなれば、安全資産としての円買いが強まる可能性があります。つまり、実際には、金利差拡大の円安と、リスク回避と介入観測による円高材料が綱引きするため、簡単に円安が進む訳ではないと考えられます。昨年10月に円相場は150円台に到達しましたが、この時はユーロ離れによるユーロ安・ドル高の動きが、円安・ドル高に波及したためと考えられます。したがって、一気に円安が進むとすれば、ユーロ下落などの要因が重なる必要があると考えられます。

図表10  円相場と日米金利差のマトリクス

  • ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成

国内株式市場では、これまでの円安進展を背景に輸出株を物色する動きが見られました。ただ、今後は円安が進みにくいと想定されることなどを考慮すると、輸出株物色の動きに歯止めがかかることも想定されます。そうした中、裏を突く格好で選好されると考えられるのが、インバウンドなどを含めた消費関連銘柄と考えられます。

とりわけインバウンドに関しては、8/10(木)に中国政府が日本への団体旅行を解禁すると発表しました。訪日外国人旅行者数は6月に月間200万人を突破するまで回復しています。中国以外の旅行者については、概ねコロナショック前の水準を回復しているのに対し、コロナショック前に全体の3割強を占めていた中国からの旅行者は、中国政府による制限措置のため回復が遅れていました。そのため、今回の中国政府による措置は、コロナショック前の年間3,000万人強の訪日外国人旅行者の回復、ひいてはインバウンドの拡大に向けて大きな弾みとなることが期待されます。

※7月訪日外客数は8/16(水)に発表される予定です。

図表11  訪日外客数の推移

  • ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成

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