~ファーウェイが復活、メリットとデメリットの銘柄は?~

~ファーウェイが復活、メリットとデメリットの銘柄は?~

投資情報部 李 燕

2023/09/07

8/31-9/6の香港市場は強弱材料まちまちのなか、主要指数は小幅安となりました。

今回のトピックスは、「ファーウェイが復活、メリットとデメリットの銘柄は?」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数とハンセンテック指数の年初来推移

注:9/6(水)までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の年初来推移(2022年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(9/6(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00981 中芯国際 [SMIC] 10.0% 12.4% 3.8% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。ファーウェイの新型スマホ「Mate60 Pro」を分解した調査の結果によると、「Mate60 Pro」は噂通り、SMICが生産した7nm(ナノメートル)の先端製品を採用していることが判明し、買われた。
06098 CG SERVICES 6.6% 1.0% -13.1% 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。親会社のデフォルト回避と中国当局による追加の不動産支援観測を受け、不動産株が買われた。
02319 蒙牛乳業 [モンニュウ・デイリ] 6.1% 4.6% 14.6% 乳業大手。業績回復期待で買われた。8/30に発表した今年上期の業績は市場予想をやや下振れたが、会社側は下期の消費回復を見込み、通期の売上高ガイダンスを維持した。
00883 中国海洋石油 [CNOOC] 5.3% 5.5% 14.2% 中国石油・天然ガス大手。原油高を好感した。サウジアラビアとロシアが現行の自主的な原油供給制限を年末まで延長することが判明し、原油先物価格が上昇した。
02899 紫金鉱業集団[ズージン・マイニング] 5.1% 6.5% -10.8% 金・銅の採掘大手。中国本土上場のA株に対する自社株買いに加え、銅先物価格の回復が買い材料となった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01810 小米集団 [シャオミ] -6.2% -7.3% -20.1% スマートフォン・IoT家電大手。4-6月期の業績は市場予想を上回ったが、ライバルに市場シェアを奪われる懸念が生じ、売られた。8/29に発売開始となったファーウェイの新型スマホ「Mate60 Pro」の販売が好調と報じられたことが嫌気された。
01099 国薬控股 [シノファーム・グループ] -7.5% -3.1% -1.3% 医薬品流通大手。今年上期は売上高が市場予想をやや上回ったが、調整後EPS(1株あたり利益)が市場予想を下回り、売られた。
02269 薬明生物 [ウーシー・バイオロジクス] -12.3% -2.7% 6.8% バイオ医薬品開発受託大手。月末月初をはさんだ需給要因のもよう。中国本土投資家と大手投資ファンドによるポジション調整の売りが報じられた。
00316 東方海外 -13.6% -10.7% -44.9% 海上貨物輸送を手掛ける。大手証券会社が同社の業績は下期にさらに悪化する可能性があると予想し、売り材料となった。
02688 新奥能源 [ENNエナジー] 0.0% -10.6% -44.8% 天然ガス供給会社。市場予想を大幅に下回る業績を発表して以来、下落トレンドが続いている。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00981 中芯国際 [SMIC] 11.6% 8.9% 1.2% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。ファーウェイの新型スマホ「Mate60 Pro」を分解した調査の結果によると、「Mate60 Pro」は噂通り、SMICが生産した7nm(ナノメートル)の先端製品を採用していることが判明し、買われた。
00285 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] 5.7% 2.9% 57.8% BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。前週に好業績を発表した後、大手証券会社が相次いで目標株価を引き上げ、大幅に続伸した。
00020 SenseTime Group Inc 5.3% 1.9% -25.0% AIソフトウェア大手。中国当局が同社と百度(09888)の一般向けの生成AI(人工知能)サービスを承認し、買い材料となった。
06060 衆安在線財産保険 5.0% 4.3% 9.5% オンライン保険大手。2023年上期は保険料収入が前年同期比37.5%増となり、買われた。
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] 4.0% 2.5% 6.2% 大手家電メーカー。2023年上期の業績はおおむね市場予想通りだった。中国当局による追加の不動産支援観測が買い材料となった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
03690 美団(Meituan) -4.4% -0.2% 5.3% 中国フードデリバリー最大手。月末月初をはさんだ需給要因のもよう。中国本土投資家と大手投資ファンドによるポジション調整の売りが報じられた。
03888 金山軟件 [キングソフト] -5.6% -4.8% -2.0% ゲーム・ソフトウェア大手。AI関連銘柄として注目されている同社に対し、大手証券会社がAIによる業績の押し上げ効果は限定的との見方を示し、売られた。
01810 小米集団 [シャオミ] -5.6% -4.9% 8.3% スマートフォン・IoT家電大手。4-6月期の業績は市場予想を上回ったが、ライバルに市場シェアを奪われる懸念が生じ、売られた。8/29に発売開始となったファーウェイの新型スマホ「Mate60 Pro」の販売が好調と報じられたことが嫌気された。
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] -6.5% -2.8% 5.0% ソフトウェア会社。月末月初をはさんだ需給要因のもよう。中国本土投資家と大手投資ファンドによるポジション調整の売りが報じられた。
01797 East Buy Holding Ltd -10.9% -8.8% 23.9% 漢字社名は「東方甄選」、オンライン教育会社。2023年5月期の売上高は前年の7.5倍になり、黒転転換を果たした。おおむね予想通りの好業績で、短期的な材料出尽くし感で利益確定売りが優勢となった。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

8/31-9/6の香港市場では、ハンセン指数が0.2%下落、ハンセンテック指数は0.4%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は0.2%下落しました。

米長期金利の上昇と中国の景況感の下振れを受け、投資家のリスク回避姿勢が再び強まりました。一方、中国の不動産市場をめぐる好材料が相場を下支えし、主要指数の下落率は限定的でした。

8/31に発表された中国の非製造業PMI(購買担当者指数)は前月に続き市場予想を下回りました。非製造業部門はこれまで中国経済の回復をけん引してきただけに、景況感の悪化懸念につながりました。ただ、製造業PMIは市場予想を上回り、前月に続いて回復しました。

中国当局は前週に大都市を対象に住宅ローン規制を緩和しましたが、今後は中小都市にも適応されるとの観測が出ました。なお、北京と上海では住宅ローン規制が緩和された直後の週末(9/2-9/3)に不動産販売が急回復しました。中国では例年、9月と10月は住宅販売のピーク期に当たるため、その直前の住宅ローン規制緩和は効果が発揮しやい可能性があります。

また、不動産大手のカントリーガーデン(02007)が9/5の支払い日にドル建て債の利払いを実施し、ひとまずデフォルトを回避したことも、市場に安心感を与えました。ただ、カントリーガーデンの利払いは9月中旬も続くため、その動向には引き続き注意が必要です。

上記の不動産市場をめぐる好材料を支えに、素材と不動産が上昇ました。金・銅大手のツージンマイニン(02899)や中国アルミ(02600)は銅およびアルミニウムの先物価格の上昇も好感されました。石油・天然ガス大手のCNOOC(00883)やペトロチャイナ(00857)は原油先物価格の上昇で続伸しました。原油高は、サウジアラビアとロシアが現行の自主的な原油供給制限を年末まで延長することが判明したためです。

一方、ヘルスケア、コングロマリットは軟調でした。ヘルスケアは、米長期金利との連動性が比較的高く、米10年債利回りが再び上昇に転じたことが重石となりました。特に8月中旬以降に反発したバイオ医薬品開発受託大手の薬明生物技術(02269)が利益確定売りに押されました。コングロマリットの下落は、主にスワイヤ A(00019)の特別配当の権利落ちの影響によるものです。

個別銘柄では、スマートフォン市場での新たな動きを受け、関連銘柄で明暗が分かれました。これについては、「今回のトピックス」部分で取り上げます。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「ファーウェイが復活、メリットとデメリットの銘柄は?」です。

【ファーウェイが復活】

米商務省が2019年に国家安全保障上の懸念を理由にファーウェイ(華為技術、未上場)を事実上の禁輸リストに加えてから、ファーウェイは苦境に立たされました。米国の制裁措置で特にこれまで好調だったスマートフォン事業の落ち込みが激しく、ファーウェイの売上高はその後、下落しました。

しかし、今年2023年上期のファーウェイの業績は売上高が前年同期比3%増、純利益は同218%増に回復し、サプライズとなりました。中国国内の証券各紙は「ファーウェイの大逆襲」や「大逆転」、「王者の帰還」といったタイトルでファーウェイの業績記事を掲載しました。

図表4 ファーウェイの1-6月期の売上高と純利益の推移(2019年-2023年)

※ファーウェイの公式発表をもとにSBI証券が作成。純利益は2019年以降に発表された売上高純利益率をもとに算出したものです。


また、ファーウェイの復活記事では業績回復のほかに、次の2つも出来事も取り上げられています。

1つ目は、中国国内でのスマートフォン市場においてファーウェイのシェアが2023年4-6月に上位5位に返り咲いたことです。米国の制裁で最も打撃を受けてきたスマートフォン事業が回復したことが示されました。

2つ目は、ファーウェイが8/29に5G(第5世代移動通信システム)の速度に達している新型スマホ「Mate60 Pro」の発売を開始したことです。ファーウェイは米国の輸出規制により、5Gに対応する先端半導体の調達が制限されています。そのため、「Mate60 Pro」の発売開始は米国の制裁にもかかわらず、ファーウェイが5Gスマホを製造できていることを意味します。それを可能にしたのは、「1万点を超える部品の国産化を実現した」ことだと中国現地紙が報じています。

「Mate60 Pro」の滑り出しは、好調のようです。上海や北京、深センなどのファーウェイ直営店では行列ができるほどの盛況ぶりで、EC通販サイトでは販売開始から1分間で売り切れたと報じられています。かつての新型iPhoneの発売時にみられた光景です。

なお、「Mate60 Pro」は9月中旬に発売されるアップル(AAPL)の「iPhone 15 Pro」と同じ価格帯の製品となっています。ファーウェイが「iPhone 15 Pro」の発売開始より先に「Mate60 Pro」の発売が突如始まったことは興味深いです。偶然とは言い難いタイミングからすると、アップルにとってかつての強力なライバルが復活し、5Gスマホ市場へ復帰したことを意味します。

【メリットとデメリットの銘柄は?】
ファーウェイが本格的に復活した場合、中長期的にはファーウェイのサプライヤーがメリットを享受し、ファーウェイのライバルは競争激化によってデメリットを被る可能性があると考えられます。ただし、短期的には下記2つの不透明要因に注意する必要がありそうです。

1つ目は、ファーウェイをめぐる米国の対中半導体輸出規制の不透明感です。

米国商務省が2022年10月に発表した輸出規制では、先端半導体の製造に必要な装置や技術の対中輸出が制限されています。半導体製造機器の主要輸出国である日本やオランダもこれらの規則に従うことに同意しています。そのため、7nmの先端半導体プロセスで生産されているとみられるファーウェイの新型スマホ「Mate60 Pro」が発売されたことは、米国の対中輸出規制がうまく機能していないのではないかの議論を呼んでします。

Bloombergによると既に9/6に、「マコール米下院議員はSMICがファーウェイへの供給により制裁に違反したと見受けられ、SMICへの調査が正当化されると述べた」、「米議員がSMICをめぐり調査を求めた」と報じています。調査が実施され、調査結果で違反が判明された場合、半導体の輸出規制やファーウェイの今後の生産に影響が出る可能性もあり、今後の動向を注視していく必要がありそうです。

2つ目は、ファーウェイのサプライヤーは通常、アップル(AAPL)や他のスマートフォンメーカーのサプライヤーでもあるため、ファーウェイだけの動向に左右されない点です。

図表5 ファーウェイのサプライヤーとライバル(香港上場株)

ファーウェイとの関係 銘柄名 株価騰落率(8/29-9/6) 備考
ファーウェイのサプライヤー SMIC(00981) 20.5% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。ファーウェイの新型スマホ「Mate60 Pro」を分解した調査の結果によると、「Mate60 Pro」はSMICが生産した7nm(ナノメートル)の先端製品を採用している。
BYDエレクトロ(00285) 13.9% スマートフォン部品・受託製造メーカー。アップル(AAPL)のサプライヤーでもある。
舜宇光学(02382) 3.1% 大手光学機器メーカー。アップルのサプライヤーでもある。
丘タイ科技(01478) 2.1% カメラモジュールのメーカー。アップルのサプライヤーでもある。
瑞声科技(02018) -2.4% 音声機器メーカー。アップルのサプライヤーでもある。
ファーウェイのライバル 小米 B(01810) -3.6% ファーウェイと同じくAndroid OSを採用しているスマートフォンメーカー。

注:ファーウェイのサプライヤーやライバルは中国本土に上場している銘柄が比較的多く、香港市場(および米国市場)に上場している銘柄は比較的少ないため、銘柄数が限られています。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。


たとえば、ファーウェイのサプライヤーの株価が9/7(前場)に揃って下落したのは、アップルの中国販売懸念によるものです。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が「中国は(一部)中央政府機関の職員に対し、米アップルのiPhoneやその他の海外ブランドのデバイスを業務で使用したり、職場に持ち込んだりしないよう命じた」と報じたためです。したがって、これらの銘柄は今後、ファーウェイとアップルの販売動向、ひいてはスマートフォン市場の回復具合にも左右されそうです。

なお、中国のスマートフォン市場はまだ最悪期を脱していないかもしれませんが、コロナ禍でたまっていた買い替え需要は年後半から来年にかけて増加すると見込まれます。9月以降はファーウェイやアップルの新製品発表が買い替え需要を刺激するとみられます。

ただ、アップル製品に関する報道が事実で、それが全ての中央政府機関に広まるのであれば、中国ブランドのスマートフォンメーカーが買い替え需要の恩恵をより受ける可能性があります。もし、アップルの販売が鈍化し、中国ブランドのスマートフォンの販売がアップルの減少分を補えるのなら、スマートフォンのサプライヤーあるいは中国ブランドのスマートフォンメーカーは恩恵を受けるとみられます(9/6前場で小米(01810)が上昇した理由です)。


※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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