~WTI原油先物がゴールデンクロスに、アリババはもはやバリュー株!?~

~WTI原油先物がゴールデンクロスに、アリババはもはやバリュー株!?~

投資情報部 李 燕

2023/09/14

9/7-9/13の香港市場は続落しました。米長期金利の先高感がくすぶる中、人民元安も相まって、投資家はリスク回避姿勢を強めました。ハイテク分野をめぐる米中対立の激化懸念も売りを助長しました。

今回のトピックスは、「もはやバリュー株のアリババ、経営陣の若返りで成長狙う」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数とハンセンテック指数(ローソク足)の年初来推移

注:9/13(水)までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の年初来推移(2022年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(9/13(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02319 蒙牛乳業 [モンニュウ・デイリ] 3.9% 5.1% -9.5% 乳業大手。連日の自社株買いが明らかになり、買われた。
02688 新奥能源 [ENNエナジー] 3.7% -6.4% -43.6% 天然ガス供給会社。大手証券会社が投資判断を「買い」に引き上げ、買い材料となった。
00762 中国聯通[チャイナ・ユニコム] 3.5% 0.5% -4.5% 通信キャリア。大手証券会社が投資判断を「中立」から「アウトパフォーム」に引き上げた。
01810 小米集団 [シャオミ] 2.8% -3.6% 9.0% スマートフォン・IoT家電大手。会社側が月内の新製品発表を予告し、買われた。連日の自社株買いも支えとなった。
06098 CG SERVICES 2.6% 9.0% -4.2% 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。連日の自社株買いが明らかになり、買われた。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00868 信義玻璃控股 [信義ガラス] -7.4% -5.0% -10.1% 大手ガラスメーカー。インドネシアでの工場建設をめぐる不透明感が嫌気された。現地住民が環境問題を理由に工場建設に反対していると報じられた。
02313 申洲国際 [シェンジョウインター] -7.6% -9.2% 2.2% ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。需給要因のもよう。大手投資ファンド数社が同社の持ち株比率を引き下げた。
00016 新鴻基地産[サンフンカイ・プロパティーズ] -8.0% -7.6% -20.7% 不動産会社。2023年6月期の通期業績が市場予想を下回り、売りが膨らんだ。
00386 中国石油化工 [シノペック] -8.8% -7.4% -10.7% 石油・石油化学製品大手。配当の権利落ちによる影響。中間配当の権利落ち日が9/7だった。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] -9.2% -8.7% 0.0% パソコン(PC)大手。ハイテク分野をめぐる米中対立激化懸念が重石となった。株価が節目の9香港ドル台の維持に失敗した後、下落が顕著だった。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01810 小米集団 [シャオミ] 2.8% -3.6% 9.0% スマートフォン・IoT家電大手。会社側が月内の新製品発表を予告し、買われた。連日の自社株買いも支えとなった。
06060 衆安在線財産保険 0.0% 3.7% 7.8% オンライン保険大手。1-8月期の保険料収入が前年同期比32%増となり、買われた。
02015 理想汽車[リーオート] -0.8% -3.0% 28.0% 新興EVメーカー。欧州連合(EU)が中国製EV(電気自動車)で補助金をめぐる調査を開始すると発表し、EV関連銘柄が売られた。同社は、9/10までの月間販売台数が引き続き好調だったことが判明し、他の積極的に欧州進出を図っているEVメーカーより下落率は限定的だった。
00285 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] -0.9% 1.4% 43.4% BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。大手証券会社が投資判断と目標株価を引き上げた。軟調地合いのなか、下落率は限定的だった。
01024 快手(Kuaishou Technology) -1.1% 0.2% 8.3% ショート動画大手。連日の自社株買いが支えとなり、下落率は限定的だった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] -7.4% -9.6% -4.7% ソフトウェア会社。米ソフトウェア大手のオラクル(ORCL)がクラウド事業の売上伸び鈍化で大幅安となり、香港市場でもソフトウェア関連銘柄が売られた。
00020 SenseTime Group Inc -7.5% -5.1% -36.5% AIソフトウェア大手。米ソフトウェア大手のオラクル(ORCL)がクラウド事業の売上伸び鈍化で大幅安となり、香港市場でもソフトウェア関連銘柄が売られた。
09626 ビリビリ -8.7% -7.3% -18.1% 動画プラットフォーム大手。会社側が「技術的アップグレード」を理由に新ゲームのダウンロードを一時的に停止すると発表し、売り材料となった。この措置がゲームの収益に悪影響を与える可能性があると大手証券会社が指摘したことも、売りを助長した。
09898 微博 -8.7% -6.4% -18.1% ソーシャルメディア・プラットフォーム運営会社。50日移動平均線の回復に失敗し、売りが加速した。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] -9.2% -8.7% 0.0% パソコン(PC)大手。ハイテク分野をめぐる米中対立激化懸念が重石となった。株価が節目の9香港ドル台の維持に失敗した後、下落が顕著だった。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

9/7-9/13の香港市場では、ハンセン指数が2.4%下落、ハンセンテック指数は3.6%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は4.1%下落しました。

米長期金利の先高感がくすぶる中、人民元安も相まって、投資家はリスク回避姿勢を強めました。ハイテク分野をめぐる米中対立の激化懸念も売りを助長しました。

米金利動向や米中対立の影響を受けやすい情報テクノロジーが下げを主導しました。半導体受託生産(ファウンドリ)大手のSMIC(00981)やパソコン大手のレノボグループ(00992)、検索エンジン・AI大手の百度(09888)がそろって大きく売られました。EC大手のアリババ(09898)は、傘下の食料品店チェーン「盒馬」の新規株式公開(IPO)計画に関する棚上げ報道が嫌気され、下落しました。JDドットコム(09618)は、大手証券会社が目標株価を引き下げ、売られました。

エネルギーも大幅に下落しましたが、主に石油メジャー3社の配当の権利落ちによる影響です。ペトロチャイナ(00857)CNOOC(00883)シノペック(00386)の権利落ち日が9/7-9/11に集中したためです。なお、原油先物価格は石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC主要産油国で構成する「OPECプラス」の減産で先高観が強く、テクニカル要因からも上昇は続く可能性が示唆されています(図表4)。権利落ちの影響で下落した石油メジャーは再び上昇を取り戻す可能性がありそうです。

図表4 WTI原油先物価格の推移(2019年以降)

※BloombergをもとにSBI証券が作成。



工業は、アップル(AAPL)関連銘柄が売りに押されました。中国当局による”iPhone使用禁止”をめぐる懸念(※)で、アップルの大手サプライヤーの瑞声科技(02018)や舜宇光学(02382)が大幅安となりました。同じくアップルのサプライヤーであるBYD電子(00285)は大手証券会社が目標株価を引き上げたこともあり、下落率は限定的でした。

(※9/13付レポート「【米テック株ウォッチャー】アップルの急落:2つの中国リスク、テスラの上昇:AI期待」も合わせてご参照願います。)

投資家のリスク回避姿勢の強まりを受け、ディフェンシブの電気通信は逆行高となりました。チャイナモバイル(00941)やチャイナテレコム(00762)、チャイナユニコム(00728)の通信キャリア大手が買われました。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「もはやバリュー株のアリババ、経営陣の若返りで成長狙う」です。

かつて中国の代表的な「グロース株」として注目されてきたアリババ(09988)ですが、足元では予想PERが10倍を下回っており、もはや「バリュー株」と言えます(図表4)。中国と米国の主要ネット銘柄を比較してみると、アリババや百度(09888)などは明らかに米国の同業より低く評価されています。

図表5 中国および米国の主要ネット銘柄のバリュエーション比較(9/13時点)

注:PERは株価収益率、PSRは株価売上高倍率です。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。



足元でアリババが売られた要因は、主に以下の2つです。

1)傘下の食料品店チェーン「盒馬」の新規株式公開(IPO)計画の棚上げ

Bloombergによると、アリババは潜在的な投資家への打診によって得た「盒馬」に対する評価額に失望し、「市場環境の好転を待ってから盒馬のIPO計画を進める方針を決めた」そうです。アリババの株価評価において事業再編・IPO計画の進展が注目されているなか、「盒馬」のIPO棚上げは他のIPOにも影響を与えるのではないかと懸念されました。それについてアリババは、「代わりに他部門の上場を優先させる」としています。

2)クラウド事業会長兼CEO張勇氏の辞任

アリババの組織再編とIPO計画において、クラウド事業はIPOの際の評価価値が最も高いと見込まれています。そのクラウド事業のトップに就任したばかりの張勇氏が突然辞任し、ネガティブ・サプライズとして捉えられました。張勇氏の後任として新CEOに就任した呉泳銘氏が張勇氏ほど知名度が高くないことも、漠然とした売りを助長したもようです。

ちなみに新CEOの呉泳銘氏は、アリババの創業メンバー18人のうちの1人です。アリババが6月に事業再編を発表した際、創業メンバーでの再出発という色合いを強く出していたため、呉泳銘氏の抜擢は必ずしもネガティブ・サプライズではないと言えます。

なお、今回の役員体制の変更は、アリババが経営環境の変化に対応するために「若返り」を図ったとみられます。長年アリババCEOとして勤めてきた張勇氏が1964年生まれであるのに対し、呉泳銘氏は1975年生まれで今年50歳です。

呉CEOは社員向けの就任挨拶の中で、「今後4年以内に1985年中盤から1990年以降に生まれた世代が中心となるよう経営管理チームを刷新し、より多くの若い世代がアリババの中心的戦力となれるような仕組みを作る。」と表明しました。今後の事業戦略については、「AIとユーザー体験を戦略上の最優先事項とし、AI主導のテクノロジー事業やインターネットプラットフォーム、自社の世界的商業ネットワークといった分野への戦略的投資を強化する。」と表明しました。

ハイテク分野においてはAIが今後の成長のカギとなる可能性が高まるなか、アリババは事業再編・IPO計画だけでの対応にとどまらず、経営陣の「若返り」を通じて企業内部から変革を起こそうしています。したがって、今回の役員体制の変更は、予想外ではあるものの、ネガティブ・サプライズではないと思います。今後、新経営陣によりAI主導のテクノロジー事業やインターネットプラットフォーム分野で成長を取り戻すなら、アリババはバリュー株からグロース株に返り咲くかもしれません。



※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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