植田総裁の見方に変化!?当面はバリュー株優位の展開か?

植田総裁の見方に変化!?当面はバリュー株優位の展開か?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2023/09/12

日経平均は小幅反落。大台回復なるも、円高が重しに

9月第1週末(9/8)の日経平均は、前週末比103円78銭安(▲0.32%)と週足ベースで小幅反落。9/6(水)までは8連騰となり、約1ヵ月ぶりに大台である33,000円台まで回復しました。ただし週後半からは、中国でアップルなど海外メーカーの携帯端末の使用規制が報じられ、アップルが下落。同社に部材等を提供している企業や、米中対立の深刻化懸念から中国での売上高比率の高い企業等の関連株に売りが広がりました。

また、米経済指標が堅調であったたことからFRB(米連邦準備制度理事会)による金融引締め長期化観測が広がり、日米ともにグロース株が劣後する展開でした。同期間はTOPIXバリュー株指数が+1.3%であったのに対し、TOPIXグロース株は▲0.6%です。米国でも、ナスダックは▲1.3%と、NYダウの▲0.7%を下回る展開となりました。

日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(9/1~9/8、図表8)では前述の要因から、中国での売上や生産の割合が一定数ある資生堂(4911)やニデック(6594)等がランクインしています。首位のサイバーエージェント(4751)は大手日系証券が、目標株価を引き下げたことが売り材料となりました。人気ゲームの周年イベントの好調の反動を、引き下げの要因に挙げています。他には、公募増資と転換社債で2,000億円の大規模な資金調達を行うと発表したJFEホールディングス(5411)は需給の悪化が意識され、売りが広がりました。

日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(9/1~9/8、図表7)では、前週6位だった三井E&S(7003)*が首位です。円安が追い風になりやすく、PBRが低く割安感のある輸送用機器・機械・鉄鋼などの業種から多数ランクインしました。また、ロシアやサウジの減産計画延長により、世界的に原油高となった影響で出光興産(5019)が9位に食い込んだ形です。

9月第2週の日経平均は3日続落でスタート。円高ドル安の進行が下落圧力でした。ただ、銀行株は大幅高となりました。9日(土)付、読売新聞による植田日銀総裁のインタビューで、早期の金融政策修正を意識させる発言があったことが影響を及ぼした格好です。

*三井E&S(7003)は、10/2(月)以降、日経平均採用銘柄の算出から除外されます。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(9/1~8)

図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(9/1~8)

植田総裁の見方に変化!?当面はバリュー株優位の展開か?

9/9(土)、読売新聞において、植田日銀総裁による初の単独インタビューが報じられました。同氏は、賃金上昇に確信が持てた段階になれば、大規模金融緩和の柱である「マイナス金利政策」の解除を含めた政策変更の可能性を示唆。更に、現状は緩和的な金融政策を維持しつつも、年内に(緩和解除)が判断できる材料が出揃う可能性がある、との見解を示しました。


植田総裁の発言に対し、にわかに市場では日銀が早期に金融緩和から出口戦略へ舵を切るとの思惑が強まり、週明けの金融市場では、円相場が先週末の1ドル147円台後半から夕方に一時146円割れへ円高が進行。また、日本の10年国債利回りは約9年8ヵ月ぶりに0.7%を上回って上昇しました。東京株式市場では、金利上昇に弱いグロース株や値がさ株が軟調だった一方、銀行を中心に金融株が大きく買われており、日経平均株価から東証株価指数(TOPIX)を割ったNT倍率は、下落に拍車がかかりました。

図表9 10年国債利回りとNT倍率

  • ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成


今年4月に発足した植田体制では、金融政策に対し「物価目標の実現にはまだ距離があり、粘り強い金融緩和が必要」とし、黒田前体制のスタンスが概ね維持されていました。これまで日銀は、金融政策として長期金利をゼロ%程度に操作する「イールドカーブ・コントロール(YCC)」の変更(誘導レンジの拡大)を行っており、こうした政策変更も出口戦略の1つと言えなくもないのですが、やはり日銀にとって本命と言えるのは、政策金利の引き上げとなります。現状、マイナス0.10%の政策金利(金融機関が日銀に預ける当座預金の一部に適用される金利)について、マイナス金利を解除し、さらにそれを引き上げていくことは、実は、金融政策のハンドリングを取り戻したい日銀にとって悲願と言って過言ではないのです。


もっとも、今回の植田総裁の態度の変化を疑いの目で見る向きもあり、それは即ち、円安進行を食い止めるための体の良い「口先介入」といったものです。植田総裁は金融緩和からの脱却を匂わせる発言で円安をけん制しつつも、実際には緩和継続の姿勢が変わっていないとの見方もあります。確かに、こうした見解は無視できず、仮にそうであれば、市場はまんまと思惑に引っかかったと言えるのかもしれません。


とは言え、現状の日本経済に目を向けると、デフレ脱却に向けた動きが確認できることも確かです。9/1(金)に内閣府が発表した2023年4-6月期GDPギャップ(日本経済の需要と供給のバランス)は、+0.4%(約2兆円の需要超過)と19年7-9月期以来、15四半期ぶりにプラス転換しました。GDPギャップは物価情勢の長期的な見通しを判断する上で重要な指標であり、今後もプラス基調が続けば脱デフレに向けた確度が一段と高まるでしょう。ちなみに、GDPギャップは、内閣府だけではなく、金融当局である日銀からの推計値が発表されています(両統計は推計方法が異なる)。日銀のGDPギャップは23年1-3月期でマイナスとなっていますが、内閣府と同様に4-6月期にプラス転換を達成するか注目されるところです(日銀の4-6月期GDPギャップは10/4(水)発表予定です)。

図表10 GDPギャップ(内閣府 VS. 日銀)

  • ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成

国内では来週9/21・22に日銀金融政策決定会合が予定されています。同会合で植田総裁がどういったスタンスを打ち出すかは不明ですが、同会合に向けて市場では、政策スタンスの変更に対する思惑が織り込まれやすいと考えられます。円相場については、日米金利差の観点から米国金利(が日本の金利よりも)上昇することで再び円安となる可能性があるものの、日本の長期金利については、政策修正期待を背景に上昇含みで推移することも想定されます。その場合、株式市場はグロース株よりも金融株を中心とするバリュー株物色の動きが継続する可能性が考えられるでしょう。



図表11 日米金利差と円相場

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