~販売好調なEVメーカーの株価調整理由、"実態"と乖離なら投資妙味も~

~販売好調なEVメーカーの株価調整理由、

投資情報部 李 燕

2023/10/05

9/28-10/4の香港市場は調整しました。米長期金利の一段高で世界同時株安となる中、中国株もさえない展開となりました。

今回のトピックスは、「販売好調なEVメーカーの株価調整理由、”実態”と乖離なら投資妙味も」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数とハンセンテック指数(ローソク足)の年初来推移

注:10/4(水)までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の年初来推移(2022年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(10/4(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
銘柄名 騰落率 関連ニュース等
02313 申洲国際 [シェンジョウインター] 7.2% ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。顧客であるナイキ(NKE)の予想を上回る決算と大手証券会社による投資判断・目標株価の引き上げが好感された。同大手証券会社は、年後半の受注が持ち直すとともに来年は業績回復が見込まれると予想した。
00016 新鴻基地産[サンフンカイ・プロパティーズ] 4.5% 不動産会社。国慶節連休を前に香港の不動産株が買われた。中国本土からの旅行客の増加でショッピングモールやホテルを運営する不動産会社が恩恵を受けると期待された。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] 2.8% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。大手証券会社が買い推奨した。同証券会社の調査によると、中国本土でのオンライン医薬品販売の比率は過去3カ月で30%増加した。
00017 新世界発展[ニューワールト] 2.3% 香港の不動産会社。国慶節連休を前に香港の不動産株が買われた。中国本土からの旅行客の増加でショッピングモールやホテルを運営する不動産会社が恩恵を受けると期待された。
01299 友邦保険 [AIAグループ] 2.1% アジアの保険大手。テクニカル要因と自社株買いが支えとなった。RSIが短期的に売られ過ぎサインとされる30%に近づいた後、反発した。9月初めから実施している自社株買いが10月に入っても続いていることも明らかになった。
騰落率下位
銘柄名 騰落率 関連ニュース等
01928 金沙中国 [サンズ・チャイナ] -7.6% 大手ガラスメーカー。9月のマカオカジノ収入が前年同月比404%増となり市場予想と一致したが、8月の同686%増より鈍化したことが嫌気された。もっとも9月の伸び鈍化は台風による影響もあり、10月は伸び加速が見込まれている。
01177 中国生物製薬 [シノ・バイオファーマ] -8.0% 大手光学機器メーカー。需給要因のもよう。大手投資ファンド数社が保有株比率を大幅に縮小した。
01093 石薬集団 [CSPCファーマシュ-ティカル] -8.0% 医薬品大手。需給要因のもよう。大手投資ファンド数社が保有株比率を大幅に縮小した。
00386 中国石油化工 [シノペック] -8.2% 石油・石油化学製品大手。原油先物価格が下落し、売り材料となった。
06098 CG SERVICES -8.8% 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。大手証券会社が投資判断と目標株価を引き下げた。親会社の債務問題による影響を理由に挙げた。

ハンセンテック指数

騰落率上位
銘柄名 騰落率 関連ニュース等
09868 小鵬汽車[シャオペン] 4.5% 新興EVメーカー。ロボット開発会社「鹏行」の株式75%を取得すると発表し、買い材料となった。「鹏行」は人間とロボットのインタラクション機能を備えるロボット研究に従事しており、シャオペンは買収により、自動運転技術への活用を狙う。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] 2.8% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。大手証券会社が買い推奨した。同証券会社の調査によると、中国本土でのオンライン医薬品販売の比率は過去3カ月で30%増加した。
00285 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] 1.9% BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。大手証券会社が目標株価を引き上げ、買われた。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 1.7% パソコン(PC)大手。中国の大手証券会社が投資判断「買い」で同社を新規カバレッジ開始した。なお、10/3にAIコンピューティングパワーに関する戦略と具体的な導入方法を発表した。
09866 蔚来汽車 [ニオ] 1.1% 新興EVメーカー。同社が転換社債の発行に加え、30億ドルの資金調達を計画していると噂を否定し、買戻しが入った。
騰落率下位
銘柄名 騰落率 関連ニュース等
09698 万国数拠服務 -4.6% データセンターを運営。米10年国債利回りの上昇を嫌気したテック株の売りが響いた。
00020 SenseTime Group Inc -5.0% AIソフトウェア大手。米11年国債利回りの上昇を嫌気したテック株の売りが響いた。
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] -6.7% オンライン旅行サービス大手。国慶節連休の最初の3日間の旅行収入は前年同期比138%増と報じられたが、材料視されなかった。米10年国債利回りの上昇を嫌気した米国上場のADRの下落に追随した。
03690 美団(Meituan) -6.9% 中国フードデリバリー最大手。会社役員2人が9月末に株式を売却した明らかになり、売り材料となった。
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] -7.1% ソフトウェア会社。需給要因のもよう。大手投資ファンド数社が保有株比率を大幅に縮小した。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。なお、今回より見易さの観点から騰落率は過去1カ月と過去3カ月は省き、過去5日間のみの掲載となります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

9/28-10/4の香港市場では、ハンセン指数が2.4%下落、ハンセンテック指数は2.1%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は1.7%下落しました。

米長期金利の一段高で世界同時株安となる中、中国株もさえない展開となりました。ただ、国慶節連休の影響もあり、売買はやや低調でした。ハンセン指数の下落率が他の指数より大きいのは、ドル高を背景とした商品価格の下落(ドル建ての商品価格はドルと逆相関の関係にある)や原油安を嫌気した素材とエネルギーの大幅下落によるものです。

金や銅の先物価格の大幅下落を受け、産金大手のツージンマイニン(02899)や銅大手のコウセイコパー(00358)がそろって売られました。石油関連銘柄は原油安を受け、利益確定売りに押されました。原油価格の下落は、ドル高懸念や原油価格の高値警戒感がくすぶる中、一部のトレーダーがもし原油価格が一定水準まで上昇した場合、サウジアラビアは減産から生産回復に転じる可能性があると指摘したことも響いたもようです。なお、サウジアラビアとロシアは10/4に、年末まで日量100万バレルを超える原油供給抑制を堅持すると発表しました。

リチウム大手のガンフォン(01772)と天斉リチウム(09696)も大幅に下落しました。ドル高による世界のリチウム先物価格の下落に加え、中国国内の炭酸リチウム価格が9/28までの2週間で9.6%下落したことも売り材料となりました。炭酸リチウム価格の下落は、多くの新エネルギー自動車メーカーが6月末の駆け込み需要以降、リチウム電池の購入ペースを落としていることが背景のもようです。今後について業界アナリストは、炭酸リチウム価格は川下企業による在庫補充で10月は持ち直す可能性はあるものの、供給過剰の懸念は年内まで続く見込みだと指摘しました。

ハイテク株も総じて売り優勢でしたが、電気自動車(EV)関連銘柄の一角やパソコン大手には買戻しが入りました。新興EVメーカーの小鵬汽車 A(09868)やニオ インク A(09866)、パソコン大手のレノボグループ(00992)などが逆行高となりました。それぞれの個別要因は、図表3をご参照ください。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「販売好調なEVメーカーの株価調整理由、”実態”と乖離なら投資妙味も」です。

中国経済が不動産低迷の影響で全般的に回復が弱いなか、新エネルギー車の販売好調が続いています(図表4)。新エネルギー車をめぐっては、2022年に購入補助金が終了したことで、今年1月は反動減がみられました。また、2-4月はテスラ(TSLA)が仕掛けた値下げ競争による影響もあり、一部の新興EV(電気自動車)メーカーは販売鈍化に見舞われました。しかし、5月以降は全般的に回復の勢いを取り戻しました。足元では高価格帯ブランドを手掛けるニオ インク A(09866)以外は、月次ベースでの販売拡大が続いています。

図表4 中国の主要新エネルギー車メーカーの月間販売台数(2021年1月-2023年9月)

注:BYDの場合はガソリン車と新エネルギー車(プラグインハイブリッド車+EV)を含めた販売台数です。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

図表5 中国の主要新エネルギー車メーカーの株価推移(2021年以降)

注:リーオートとニオ、シャオペンの場合は香港上場歴が比較的淺いため、株価は米国上場のADRとなっています。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

販売好調とは裏腹に、主要新エネルギーメーカー4社の株価は足元でさえない展開となっています(図表5)。

販売好調なEVメーカーの株価がさえない理由はマクロ要因として、以下3つが挙げられます。

1)「中国リスク」を警戒したリスク・プレミアムの上乗せ

2)米長期金利の一段高を受けたリスク回避志向の高まり

3)EV業界の競争激化懸念とEUによる中国製EVの補助金調査

1)「中国リスク」を警戒したリスク・プレミアムの上乗せ

「中国リスク」については中国株に共通する部分として、不動産低迷を受けた中国経済の回復懸念に加え、米中対立を背景として地政学リスクからくるものです。その影響で、主力EVメーカーも他の中国株と同様にリスクプレミアムが上乗せされ、株価が抑制されました。特に中国経済の見通しについては、不動産市場の影響が強く懸念されますが、不動産市場の回復が6月以降鈍くなったにもかかわらず、EV販売は総じて好調だった実績は無視されています。その背景は、下記の2)も影響しているとみられます。

2)米長期金利の一段高を受けたリスク回避志向の高まり

9月中旬のタカ派の米FOMC(連邦公開市場委員会)後、米長期金利はおよそ16年ぶりの高水準を更新しており、金利先高観や金利高止まりに対する懸念が強まっています。それを受け、世界の投資家はリスク回避姿勢を強めており、通常「リスク資産」としてみられがちな中国株や金利動向に敏感なグロース株(EV関連など)に売り圧力となりました。

新興EVメーカーの場合は赤字企業もあり、特に米国の金利動向の影響を受けやすくなっています。たとえば、主力EVメーカー4社のうち、BYDとリーオートは黒字ですが、ニオとシャオペンは赤字の状態です。ニオとシャオペンは値下げ競争による利益率低下懸念も相まって、赤字拡大もしくは黒字転換見通しの先延ばしが意識されやすくなっています。ただ、黒字のリーオートの方が足元でより下げていることからすると、米長期金利の一段高を警戒したリスク回避で利益確定売りの側面がより強いとも言えます。

3)EV業界の競争激化懸念とEUによる中国製EVの補助金調査

EV業界の競争激化懸念は、主にテスラが仕掛けてきた値下げ競争やテスラの販売鈍化が意識されています。テスラの7-9月期の世界出荷台数は43.5万台となり、約1年ぶりに減少しました。なお、販売減は工場のダウンタイム(稼働停止時間)が影響しており、テスラは年間180万台の出荷台数目標を維持しています。また、中国の主力EV各社の販売状況は図表4の通り、ニオを除けば回復が続いています。特にBYDは競争激化の中でもシェアを拡大しており、年内にはテスラを抜いて世界首位になる可能性もあると予想されています(10/3付Bloomberg記事「中国BYD、EV販売世界一の座に迫る-テスラの販売減少で」をご参照ください。)

なお、EUによる中国製EV(含むテスラ製)の補助金調査は、9月中旬に明らかになりました。EU域内での中国EVの販売比率はまだ低いですが、ここ1-2年で伸びが加速していることからEUの警戒を誘ったもようです。なお、調査は10/4に正式に開始され、今後9カ月以内に相殺関税などの暫定措置を課す可能性があるとBloombergが報じました。

現段階で中国EV各社の欧州売上比率は低く(ゼロの会社もある)、EUが相殺関税を導入したとしても短期的に業績への影響は限定的とみられます。ご参考として、9月中旬にEUの調査が報じられた後、アナリストたちによる各社の目標株価の修正率を確認してみると、-2.0%~1.0%の間となっています。それに比べると、中国EVメーカーの株価下落が顕著なのは、EUの措置よりも上記に挙げたマクロ要因1)と2)によるが大きいことが示唆されています。

図表6 中国の主要新エネルギーメーカーとテスラの目標株価と株価の変化率(10/4対9/12)

銘柄名 目標株価の変化率 株価の変化率
BYD(01211) -0.8% -9.3%
リーオート ADR(LI) 0.0% -13.6%
蔚来汽車( ニオ )Inc ADR(NIO) 0.6% -16.5%
シャオペン ADR(XPEV) -1.5% -3.6%
テスラ(TSLA) -1.9% -2.4%

ニオとリーオートの下落率がより大きいのは、ニオの場合は増資による希薄化懸念、リーオートは社外取締役による株式売却が嫌気された側面も強いようです。そのような個別要因(それも米長期金利の上昇で下落幅が増幅された可能性がある)がなく販売好調なBYDの下落率も相対的に大きいことからすると、BYDの株価は売られ過ぎ感があり、”実態”との乖離で投資妙味が出てきていると言えるかもしれません。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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