~テスラのEV需要低迷懸念をよそに、中国EVメーカーは販売好調~

~テスラのEV需要低迷懸念をよそに、中国EVメーカーは販売好調~

投資情報部 李 燕

2023/11/02

10/26-11/1の中国株主要指数はまちまちでした。香港市場の主要指数は反発しましたが、米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は続落しました。HXC指数は一部銘柄が個別要因で大幅に下落したことが響きました。全般的には値ごろ感と中国の景気支援期待で買い戻しが入りました。

今回のトピックスは、「テスラのEV需要低迷懸念をよそに、中国EVメーカーは販売好調」です。

今週の中国株市況

図表1 主要中国株指数の年初来推移

注:11/1までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の年初来推移

注:業種別指数は香港市場のハンセン総合指数のサブ指数です。11/1までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 当社内売買代金上位10銘柄の騰落率と関連ニュース(注)

銘柄コード 銘柄名 騰落率  
NIO 蔚来汽車(ニオ)Inc ADR -2.0% 新興EVメーカー。米国株式市場でEV関連銘柄が売られ、連れ安した。世界EV産業に関わる3社の決算発表を受け(今回の「トピックス」部分を参照)、EVの需要低迷懸念が強まった。なお、中国の新興EVメーカー3社のうち、同社株の下落率がやや高いのは、販売実績に対する懸念によるものと考えられる。11/1に公表された10月の販売台数は16,074台で、前年同月比60%増(前月比でも3%増)となった。これまで販売が伸び悩んでいた同社にとっては、回復がみられ、11/1は株価が反発した。
BABA 阿里巴巴集団(アリババグループ)ADR 1.8% EC大手。中国が財政赤字の拡大と国債増発を承認し、買い材料となった。中国当局の措置により景気見通しの改善が期待された。しかしながら、10/31に発表された製造業と非製造業のPMI(購買担当者指数)はいずれも市場予想を下回った。景気懸念が根強い中、上昇率は限定的だった。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が「エヌビディア、中国からの50億ドル受注に暗雲」と報じたことも、同社を含む中国IT大手のAI関連事業に影響を与える可能性があると懸念された。なお、同社は10/31にAI大規模言語モデル「通義千問」のアップデート版を発表した。その際、経営陣は「中国のテクノロジー企業の80%とAI大規模言語モデル企業の半数がアリババクラウド上で稼働している」と明かした。
00700 テンセント(騰訊) -0.3% ゲーム・フィンテック大手。売り買いが交錯し、小幅安となった。下記の強弱材料まちまちの材料が影響した。同社はAI大規模言語モデルをアップグレードし、「テキストから図へ」の機能を正式に公開した。中国のゲーム業界規制当局が公表した10月の新規認可作品には同社のゲームタイトルはなかった。株式の需給面では、筆頭株主による売却観測が再び浮上した一方、中国本土の投資家が同社株を買っていると報じられた。
XPEV シャオペン ADR 9.9% 新興EVメーカー。米国株式市場でEV関連銘柄が売られ、連れ安する場面もあったが、証券会社の買い推奨と10月の販売好調を支えに買い優勢となった。大手証券はEVの普及が進む中国で、同社は成長と収益性向上の強い道筋を示していることを理由に、同社を最も有望な新興EVメーカーに挙げた。11/1に発表された10月の販売台数は2万2台となり、前月比31%増となった。月間販売台数で初めて2万台超えとなったほか、新型「Xpen G6」が単月で8,741台出荷されたことも好感され、11/1は株価が7%上昇した。6月末に販売開始となった新型「Xpen G6」は生産懸念が浮上したが、10月の販売実績からすると生産能力は拡大したもよう。この点がシャオペンの株価上昇率が他の新興EVメーカーより高い理由になったと考えられる。
01211 比亜迪 ( Byd ) -3.4% 中国EV最大手。10/30に発表した7-9月期決算は10月中旬の暫定値通り、前年同期の2.3倍となり、四半期ベースで過去最高益を記録した。新エネルギー車の販売拡大やコスト管理を支えに、粗利益率は4-6月期の18.7%から22.1%に、営業利益率は同5.0%から7.5%に改善した。好決算を受け、買われたが、その後は株式の需給懸念で利益確定売りに押された。10/31にバークシャー・ハサウェイが10/25に同社株を売却(保有比率は8.05%から7.98%に低下)したことが明らかになった。短期的には需給要因として警戒されそうだが、好業績は株価の下支え要因となろう。なお、同社は10/31にプレミアムSUVタイプのEV「宋L(Song L)」の予約発売を開始した。「宋」シリーズは同社の人気車種で、今年4月の上海モーターショーで披露した「宋L」は洗練されたスタイルで注目を集めた。人気シリーズの新車種投入は今後の販売拡大につながるとみられる。
00941 チャイナモバイル 0.1% 中国通信キャリア最大手。前週は市場予想を下回った決算を受け、利益確定売りに押されたが、その後は大手証券会社の買い推奨を受け、買い戻しが入った。ただ、月末のポジション調整の売りで下落する場面もあり、結果的には小幅高となった。
PDD PDD ホールディングス ADR -4.2% EC大手。「独身の日(11/11)」セールイベントをめぐり、競争激化懸念で売られたもよう。競合のアリババ(BABA)が加盟店に対し、他のプラットフォームで同じかそれ以下の価格設定をしている加盟店が見つかった場合、当該加盟店とその商品はイベントから除外されると伝えたと一部で報じられた。他方、商品によってはやはりPDDのプラットフォームの価格が一番安いとも報じられている。なお、株価下落は月末のポジション調整による需給要因も大きく影響したとみられる。11/1は大手証券の買い推奨もあり、買い戻しが入った。
LI リーオート ADR 3.2% 新興EVメーカー。米国株式市場でEV関連銘柄が売られ、連れ安する場面もあったが、好調な販売実績を支えに買い優勢となった。10月の販売台数は4万422台で、月間ベースで初めて4万台を超えた。テスラ(TSLA)のイーロン・マスクCEOが決算発表で需要低迷を懸念するコメントを出し、世界のEV関連企業もEV市場について軟調見通しを示したが(今週の「トピックス」部分を参照)、中国の新興EV3社は10月も販売拡大が続いた。
02269 薬明生物技術 4.9% バイオ医薬品開発受託大手。大手証券会社の買い推奨と、子会社の香港上場をめぐる進展が買い材料となった。子会社のWuXi XDCは10/30に香港証券取引所に仮目論見書を提出した。仮目論見書によると、WuXi XDCの2023年上期業績は売上高が前年同期の2倍、純利益は前年同期比80%増となった。なお、同社はWuXi XDCの株式を60%保有している。
BILI ビリビリ ADR 1.2% 動画プラットフォーム大手。相場の地合い改善で買い優勢となった。10/30は中国が財政赤字の拡大と国債増発を承認し、中国株が買われる中、上昇した。ただ、10/31以降は反落した。テンセント(00700)やバイトダンス(未上場)など中国ソーシャルメディア運営各社が、50万人以上のフォロワーを持つインフルエンサーに対し、投稿時に実名表示を求めたと報じられ、材料視されたもよう。株価はひとまず50日移動平均を回復できるかどうかが注目される。

注:米国上場の中国企業ADRを含めた2023年7月-9月の中国株売買代金上位10銘柄で、売買代金順となります。米国市場と香港市場に同時上場している銘柄については、売買代金を合算の上、銘柄表記は売買代金の多い銘柄となっています。騰落率は11/1時点、過去5日間の株価騰落率です。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

10/26-11/1の中国株主要指数は、ハンセン指数が0.1%上昇、ハンセンテック指数は1.4%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は1.8%下落しました。

全般的に値ごろ感と中国の景気支援期待で買い戻しが入りましたが、米国上場の一部ADRが個別要因で大幅に下落し、HXC指数を押し下げました。

HXC指数の構成銘柄であるTAL エデュケーション ADR(TAL)は10/26に決算発表後、11/1までに17%下落しました。10/26に発表された7-9月期の決算は市場予想を上回りましたが、ヘッジファンドが同社株を空売りしていると表明し、売りが膨らみました。もっとも同社株は9月下旬の7ドル台から決算発表前には10ドル台を超える水準まで上昇したこともあり、利益確定売りを誘いました。同ヘッジファンドはAIバブルがはじけるとともに、同社株は3割下落するだろうと予想しました。

ヤム チャイナ ホールディングス(YUMC)は、10/31に市場予想を下回る決算を発表し、11/1に15%下落しました。7-9月期の既存店売上高が前年同期比4%増(ケンタッキー・フライドチキン(KFC)が同4%増)となり、市場予想の4.9%増(同5%増)を下回りました。なお、通期見通しについては、レストランの新設件数を従来の1,100~1,300から1,400~1,600に引き上げました。ただし、決算発表会で経営陣は9月と10月に需要が鈍化したと認め、売りが膨らみました。

香港市場の主要指数構成銘柄の騰落率上位・下位5銘柄は、図表4の通りです。消費関連銘柄が下落した一方、医薬品関連銘柄が買われました。

図表4 ハンセン指数指数とハンセンテック指数構成銘柄の騰落率

ハンセン指数構成銘柄の騰落率上位5銘柄と下位5銘柄

銘柄コード Bloomberg銘柄名 騰落率 企業概要
01177 中国生物製薬 [シノ・バイオファーマ] 15.4% 大手医薬品メーカー
03692 Hansoh Pharmaceutical 15.3% 医薬品大手
01093 石薬集団 [CSPCファーマシュ-ティカル] 14.1% 医薬品大手
00981 中芯国際 [SMIC] 11.1% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手
00288 万洲国際 [WHグループ] 8.3% 豚肉加工で世界最大手
銘柄コード Bloomberg銘柄名 騰落率 企業概要
01099 国薬控股 [シノファーム・グループ] -3.5% 医薬品流通大手
09888 百度 [バイドゥ] -4.1% 検索エンジン大手
03968 招商銀行(CMB) -5.0% 大手商業銀行
06862 海底撈(Haidilao) -12.9% 火鍋チェーン中国最大手
02331 李寧 [リー・ニン] -17.1% 中国国産ブランドのスポーツウエア大手

ハンセンテック指数構成銘柄の騰落率上位5銘柄と下位5銘柄

銘柄コード Bloomberg銘柄名 騰落率 企業概要
00981 中芯国際 [SMIC] 11.1% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手
01810 小米集団 [シャオミ] 7.7% スマートフォン・IoT家電大手
06618 京東健康(JD Health) 5.2% JDドットコム(09618)傘下のインターネットヘルス大手
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] 4.8% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手
01833 平安健康医療 [ピンアン・ヘルスケア] 4.2% 平安保険(02318)傘下のインターネットヘルス大手
銘柄コード Bloomberg銘柄名 騰落率 企業概要
00772 閲文集団(China Literature) -3.8% オンライン文学プラットフォームを運営
09888 百度 [バイドゥ] -4.1% 検索エンジン大手
01797 East Buy Holding Ltd -4.9% 漢字社名は「東方甄選」、オンライン教育会社
09866 蔚来汽車 [ニオ] -7.6% 新興EVメーカー
00285 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] -10.6% BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー

注:騰落率は11/1時点、過去5日間の株価騰落率です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。


消費関連ではスポーツ用品大手のリーニン(李寧)(02331)が大幅に下落しました。転換社債の発行による希薄化懸念が売りを誘ったほか、大手証券会社による目標株価の引き下げも嫌気されました。同証券会社は、単一ブランド戦略を取っている同社よりもマルチブランドを展開している競合の安踏体育用品(02020)の方が2024年に高い増収率を達成できるだろうと予想しました。

検索エンジン・AI大手の百度(09988)は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が「エヌビディア、中国からの50億ドル受注に暗雲」と報じたことが材料視されました。同社が強化しているAI関連事業に影響を与える可能性があると懸念されました。WSJは「米エヌビディアが、中国から受けた数十億ドル相当の来年分の注文に関し、キャンセルを余儀なくされる可能性が生じている。米政府による新たな輸出規制を受けたもので、中国のIT(情報技術)企業はAI技術に関する重要なリソースを失う可能性もある。」と報じました。

大手証券会社が米国上場の百度(バイドゥ)A ADR(BIDU)の目標株価を引き下げたことも嫌気されました。同証券会社は7-9月期は広告事業がマクロ経済の減速による影響を受けた可能性が高いと予想しました。一方、今後数カ月以内にAI関連サービスで「カタリスト(株価材料)」が出る可能性があるとし、投資判断「買い」を維持すると表明しました。なお、同社は11/1(引け後)に、中国版「ChatGPT」と言われている自社製品「アニーボット」について、最新版「アニーボット4.0」が月額料金59.9元のサブスクリプションで利用可能になると発表しました。料金設定は一部アナリストの予想を下回りましたが、AI関連への投資が収益につながる道筋が示されました。

バイオ医薬品大手の中国生物製薬(01177)や医薬品大手の翰森製薬(03692)、石薬集団(01093)などは大手証券会社が医薬品セクターを買い推奨したことを受け、そろって急反発しました。図表2の業種別指数の推移を確認してみると、ヘルスケア指数は「値固め」を経た後の反発となっており、株価上昇の見通しは続く可能性がありそうです。

半導体受託生産大手のSMIC(00981)は、ファーウェイ(華為技術、未上場)の新型スマートフォン「Mate 60 Pro」が販売好調と伝わり、買い材料となりました。「Mate 60 Pro」はSMICが生産した7nm(ナノメートル)の先端製品を採用しています。株式の需給面では中国本土投資家が連日、同社株を買っていると報じられました。他方、テクニカル指標のRSIは短期的に買われ過ぎとされる70%を超えており、短期的には利益確定売りに警戒する必要があるかもしれません。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「テスラのEV需要低迷懸念をよそに、中国EVメーカーは販売好調」です。

足元の世界株式市場では、電気自動車(EV)関連でマイナス材料が目立っています。世界EV最大手のテスラ(TSLA)のイーロン・マスクCEOは10/18の決算発表会で需要懸念を示唆しました(10/25付レポート「米テック株ウォッチャーテスラ:業績か、マスクCEOか、長期金利か」をご参照)。その後は、世界EV産業に関わる3社の決算発表を受け、EVの需要低迷懸念は一段と高まりました。

パナソニックホールディングス(6752)は7-9月期の車載電池事業の営業赤字転落の理由について、テスラの高級モデル向け電池の需要減によるものだと説明しました。車載半導体大手のONセミコンダクタ(ON)は10-12月期ガイダンスが市場予想を下回りました。経営陣は「EVは10-12月期も伸びるだろうが、期待していたほどは伸びないだろう」とコメントしました。先進運転支援システムに使用される半導体を製造するラティスセミコンダクター(LSCC)はアジア地域で7-9月期の終わりに見られ始めた需要の軟調さは10-12月期も続く見通しだと予想しました。

これらを受け、中国の主力EVメーカーの販売も鈍化するだろうと予想されていました。しかし、11/1に発表された新興EV3社とBYD(01211)の10月の販売実績はいずれも好調でした(図表5)。最大手のBYDは月間ベースで初めて30万台を突破しました。新興EV3社のうち、首位を走っているリーオート(LI)は引き続き好調で、月間ベースで初めて4万台超えとなりました。シャオペン(XPEV)も新型車の生産拡大を支えに2万台超えとなりました。出遅れ感のあるニオ(NIO)も10月は販売回復のペースが過去数か月よりやや加速しました。

中国の景気回復に対する懸念が根強いですが、実需のあるEV業界は好調さが続いています。政策面での支援に加え、EV各社が消費者の需要に応じて高性能かつ最新のテクノロジーを融合したEVを出しているためです。EVの普及はまだ道半ばと予想されるため、主力EV銘柄は引き続き、中長期的に注目に値すると考えられます。特に中長期的には販売拡大とともにスケールメリットや効率化による収益改善・拡大が期待できそうです。

図表5 主要EVメーカー4社の月次販売台数(2023年)

※BloombergをもとにSBI証券が作成。

図表6 主要EVメーカー4社の四半期販売台数

※BloombergをもとにSBI証券が作成。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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