米国「最後の利上げ」と日米株式市場の今後は?
投資情報部 鈴木英之 栗本奈緒実
2023/10/31
軟調な展開つづく。7-9月期決算発表では、中国経済の先行き不安が浮上
10月第4週(10/23-27)末の日経平均は、前週末比267円67銭安(▲0.86%)安と週足ベースで続落。米国市場でも、S&P500とナスダックが直近の7月高値から10%超安となり、調整局面に入った状態です。
中東での地政学リスクに対する懸念が一段と意識されています。そのような中、東京株式市場では短期的な自律反発や好決算を発表した企業が押し上げる形で、週前半には心理的節目の31,000円を取り戻そうとする動きとなりました。
しかし、週後半にかけ、決算内容や業績見通しが嫌気された複数の大型米ハイテク株の下落。さらにイスラエル軍がガザへの地上作戦を拡大させていると伝わり市場心理が悪化。加えて、日本では日銀の大規模金融緩和政策に対して、修正観測が浮上。国内長期金利が10年3ヵ月ぶり高水準まで上昇し、ハイテク株を中心に株価を押し下げた格好です。同期間、中小型で高PER銘柄の多い東証グロース市場指数は▲1.84%と特に強い逆風が吹きつけた結果でした。
また、同期間は7-9月期の決算発表が本格化を迎え、動意づいています。
日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(10/20~27・図表7)には、決算内容が好感された銘柄が複数ランクイン。首位の富士通(6702)は26日(木)の大引け後に7-9月期決算を発表。4-6月期は16億円の営業赤字でしたが、7-9月期は464億円の黒字転換となったことで、業績の持ち直しが好感されたとみられます。
日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(10/20~27・図表8)の首位は、23日(月)の大引け後に決算発表を行ったニデック(6594、旧:日本電産)です。4-9月期累計で純利益は過去最高を更新しました。一方、中国経済の先行き不安等を背景に、今後の成長の柱に掲げるEV向け製品の販売台数見通しの下方修正を実施。中国市場の低迷が意識され、中国での売上比率を一定数以上有する他の銘柄にも売りが波及しました。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(10/20~27)
図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(10/20~27)
米国「最後の利上げ」と日米株式市場の今後は?
米国において、FED(連邦準備制度)の加盟銀行は、一定割合の預金を中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)に積まなければなりません。それに対応すべく、銀行間で短期的な資金の過不足を調整し合うのがFF(フェデラルファンド)市場です。FF市場の金利は、FRBが誘導目標となる金利水準を定めており、それが政策金利です。また、政策金利の変更を含む金融政策決定の場がFOMC(米連邦公開市場委員会)です。
FRBはこれまで、政策金利を、多くは複数回引き上げる「利上げ局面」と、同金利を、多くは複数回引き下げる「利下げ局面」を繰り返してきました。今ここで、「利上げ局面」の末、政策金利のピーク状態が続いた後に最初に来る政策金利引き下げを「最初の利下げ」と称することにします。一般的にFRBが政策金利を引き下げるのは、景気減速や後退によって米国経済が悪化した時、または悪化が心配される時とみられます。
図表9は、米政策金利の動きと、米10年国債利回り(米長期金利)、S&P500指数の動きを重ねたものです。その中で、FRBが「最初の利下げ」を決定した時、米国あるいは世界経済に起こっていたことを、吹き出しの中にまとめておきました。
図表9 米政策金利、米10年国債利回りの動きと米国株(週足)
- ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
- ※青線内の吹き出しのコメントは、「最初の利下げ」につながった代表的な経済的出来事を書いており、それに限定される訳ではありません。
- ※米政策金利は誘導目標の上限で示しており、10/31(火)時点では5.5%です。
- ※緑色部分は、最後の利上げから、直後の利下げ開始までの期間を示しています。
89年以降、「最初の利下げ」は(1)89年6月、(2)95年7月、(3)98年9月、(4)01年1月、(5)07年9月、(6)19年7月の6回あったとみられます。このうち、(3)はロシア危機、(4)はITバブル崩壊、(5)はサブプライムローン問題等、急速な経済悪化や金融システムの動揺を織り込んだものです。それに対し、(2)や(6)は「予防的な引き下げ」と言われる場合があります。
「最後の利上げ」から「最初の利下げ」に至る政策金利が天井状態の局面では、次第に利下げに向けての材料が積み重なってくると考えられます。すなわち、米長期金利は「最後の利上げ」の少し前にピークを打ち、「最後の利上げ」以降は、利下げを織り込み始めて低下するというのが、これまでの一般的パターンであったようにみられます。
今回、米長期金利は10/23(月)に一時5%台を付けました。それに対し、直近で「最後の利上げ」は7/26(水)でした。このまま7月が「最後の利上げ」だったとすると、「米長期金利のピークは最後の利上げの前」というパターンと違ってくることになります。
米長期金利は7/26(水)3.86%から10/30(月)4.89%まで約1%の幅で上昇してきました。市場が正しいのであれば、長期金利は今後「最後の利上げ」がある(7/26は「最後の利上げ」ではなかった)ことを織り込みにいったのではないでしょうか。
現在、短期金利市場の動きから、政策金利の織り込み度合いを示す「FEDウォッチ」(図表10)では、12月に政策金利が5.5-5.75%に上昇するとの利上げ観測は少数派で、7月が「最後の利上げ」であったする見方が有力です。しかし、図表9を考慮すると「最後の利上げ」について、注意が必要であると考えられます。
図表10 市場では「7月が最後の利上げだった」との見方が多数派だが・・・
- ※CMEのfedWatchツールの日本時間10/31(火)10:45時点のデータを用いて、SBI証券が作成。30日物FF金利先物の価格データに織り込まれていおる、各FOMCにおいて、その政策金利が実現される確率を示しています。あくまでも、市場の予想を示したものであり、数字は常に変化していますので、ご注意ください。
米政策金利について「最後の利上げ」が想定され、10年国債利回りが強含む状態が続く場合、日本株は大丈夫でしょうか。「金利上昇は株価にマイナス」と考える向きにとっては、日本株にもマイナス要因と映りそうです。
図表11は、日経平均と米10年国債利回りの動きを比較したものです。足元で、米10年国債利回りは急上昇となっていますが、日経平均株価はその中で33年ぶりの高値を回復したことを忘れてはならないと思います。
米10年国債利回りが上昇する時はおおむね、米国の景気が良い時なので、貿易等で深い結び付きをもつ日本にとってもプラス材料としてとらえられます。また、米10年国債利回りが上昇すると、日米長期金利差が拡大し、円安・ドル高になりやすいという傾向があります。その結果、グローバル企業を多く含む日経平均にも追い風が吹くと考えられます。
むしろ、注意すべきは米政策金利や米長期金利の低下局面かもしれません。98年9月「最初の利下げ」の後、日本では金融危機が深化し、01年1月の「最初の利下げ」の後、03年4月に日経平均がバブル後安値(当時)を付けました。07年9月の「最初の利下げ」の後は、サブプライム問題がさらに悪化し、08年9月のリーマンショックへつながっています。
米10年債利回りの高止まりは、日本株にとって悪い話ではないようです。
図表11 日経平均は米10年国債利回りの上昇に強い?
- ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
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