自社株買い実施を期待できる銘柄を予想

自社株買い実施を期待できる銘柄を予想

投資情報部 鈴木英之/栗本奈緒実

2023/10/20

自社株買い実施を期待できる銘柄を予想

日本株は、米10年国債利回りの動きに振り回されています。米10年債利回りがはじめに4.8%台に乗せたのが10/3(火)ですが、その日に米主要株価指数が大きく下げ、それを嫌気する形で日経平均株価も10/4(水)に急落して安値を付けました。その後、同利回りが一旦低下すると株価も盛り返す展開になっています。しかし、現地時間10/18(水)の米10年国債利回りは4.9%と2007年7月以来の高水準まで上昇。10/19(木)の日経平均株価は611円安となりました。

しかし、過度の不安は不要だと思います。本質的に米金利上昇が日本株の悪材料である訳でないためです。今回の米金利上昇のひとつの背景に、予想外に米景気が強いことがあげられますが、米景気が強いこと自体は日本株にとってもプラス材料と考えられます。

重要なことは「日本株」を取り巻く環境が変わりつつあることです。東証が、PBR1倍割れ企業が多いことを問題視し、企業に対策を求めたことで、努力を始めた企業も多いと思います。PBRを引き上げるため、自社株買いも重要な対策のひとつです。ただ、自社株買いは手段であって、目的ではないことも理解すべきでしょう。

こうした中、10月下旬以降、東京市場で決算発表が本格化します。3月決算企業の「中間決算」が発表の中心となります。後述するように、11月は5月に次いで、自社株買いの決議が多い月になります。そこで、今回の「日本株投資戦略」では、近い将来自社株買い実施を発表しそうな銘柄を抽出すべく、以下のようなスクリーニングを行なってみました。

(1)東証プライム市場上場

(2)時価総額(自己株式含む)が1,000億円以上1兆円以下

(3)2020年~2022年、10/20~12/31に自社株買い決議の発表を行った経緯のある企業

(4)会社予想PER(株価収益率)が15倍以下

(5)PBR(株価純資産倍率)が0.9倍(解散価値)未満

(6)予想ROEが8%以下・・・東証プライム市場の平均PBR(10/30)は8.3%

(7)3月決算銘柄

(8)現時点で自社株買いを実施中の銘柄は除く

図表1の銘柄は上記(1)~(8)の条件をすべて満たしています。掲載は(5)のPBRが低い順になっています。

図表1をご覧いただければご理解いただける通り、地銀の占める比率が高くなっています。PBR、PERが低く、ROEの改善余地が大きい銘柄が多いためです。ただ、内外で金利上昇観測が強まる中、逆に地銀を含む銀行株は、金利上昇に強い傾向があり、現在は買われやすくなっています。逆に、金利が低下する局面では、売られやすくなるため、リスク要因として注意したいところです。

■図表1 自社株買い実施を期待できる銘柄を予想

取引 チャート ポートフォリオ コード 銘柄名 終値(円)(10/19) PBR(倍) 予想ROE 予想ROE
8377 8377 8377 8377 ほくほくフィナンシャルグループ 1,686 0.35 3.01% 本年も5月に自社株買い決議。PBR、ROEともに引き上げ余地大か
7380 7380 7380 7380 十六フィナンシャルグループ 3,880 0.36 4.90% 本年も5月に自社株買い。2022年以降3回決議しており積極的
8366 8366 8366 8366 滋賀銀行 3,775 0.41 5.08% 2019年以降7回自社株買いを実施。2022年は11月に決議
9409 9409 9409 9409 テレビ朝日ホールディングス 1,627 0.42 4.09% 前回は2020年11月。株価は夏以降調整中
7189 7189 7189 7189 西日本フィナンシャルホールディングス 1,748 0.46 4.91% 2017年以降10回実施。TSMC熊本進出で地盤の九州に追い風?
8381 8381 8381 8381 山陰合同銀行 999 0.49 4.55% 昨年11月、本年5月と続けて自社株買い。5月決議分は9月に終了
7167 7167 7167 7167 めぶきフィナンシャルグループ 432.5 0.51 4.66% 2019年以降11月に3回自社株買い決議。前回は5月に決議し、8月に終了
8334 8334 8334 8334 群馬銀行 710.9 0.56 5.62% 2002年以降23回自社株買い実施。本年は5月に実施
4114 4114 4114 4114 日本触媒 5,426 0.58 4.00% 昨年11月に5年ぶりに実施。前期・今期と業績は低迷
2730 2730 2730 2730 エディオン 1,481 0.72 5.56% 09年以降、10回自社株買いを実施。予想ROE5%台で引き上げ余地
6804 6804 6804 6804 ホシデン 1,745 0.73 6.89% 26.3期までに100億円以上の自社株買い&消却が目標。23年6月まで実施済は10億円
7864 7864 7864 7864 フジシールインターナショナル 1,676 0.76 5.81% 19年以降、活発に自社株買いを実施。現在の株価は平均取得単価2,300円台を大きく下回る
8331 8331 8331 8331 千葉銀行 1,126 0.77 6.36% 10年代突入以降、ほぼ毎年自社株買いを行った実績あり(20年のみなし)
5333 5333 5333 5333 日本碍子 1,808 0.86 6.75% 19年から連続で自社買いを実施。減益予想で予想ROE低下。前期末は自己株式の消却も実施
9364 9364 9364 9364 上組 3,038 0.90 6.56% 5年連続で自社株買いを実施。予想ROE6.5%台で上昇を狙う?
  • ※会社公表データ、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
  • ※予想PERやPBRの計算のベースになる発行済株式数は自己株式数を除いています。予想純利益は会社予想ベースです。
  • ※予想ROE=予想EPS/前期株主資本で計算しています。
  • ※予想EPS=会社予想純利益/自己株式数を除く発行済株式数。
  • ※上組のPBRは、小数第3位まで入れると0.896倍であり、スクリーニング条件(5)を満たしています。

自社株買いは過去最高ペース

東京株式市場では、上場企業の自社株買い(金額ベース)が過去最高ペースになっています。

2001年の商法改正により、金庫株(自社株保有)が解禁され、取得可能株数に対する規制も撤廃されました。これを受けて、2002年に自社株買いが急増し、その後も取得枠としては年間8兆円程度が上限で推移してきました。2022年には、1,067社の企業が9.4兆円(取得枠ベース)の自社株買い決議を実施し、2000年以降で最高を記録しました。

2023年は2022年の記録を抜きそうです(図表2)。1~8月の8ヵ月(年間の3分の2)で6.6兆円ですから、このままのペースで年末までいけば、9.9兆円となり、過去最高を更新する計算です。

現在、東証はPBR1倍(解散価値)割れの上場企業等に、株価が割安に放置されていることに対する対策を練るよう要請しています。PBRを高めるには、業績向上を図ったり、財務戦略を見直したり、IR活動を強化することも重要ですが、自社株買いの実施は、ひとつの有効な戦略であるとみられます。2023年の自社株買いが年間で「最高」を更新する可能性は大きそうで、自社株買いを実施しそうな企業に、今後市場の関心が高まるのではないでしょうか。

なお、自社株買い決議(金額ベース)が年間で多い月は、3月決算銘柄の多くが決算発表をする5月が「断トツ」です。次いで、中間決算が発表される11月が2番目に多くなっており、今後は当面、自社株買い実施銘柄の活躍に期待したいところです。

■図表2 国内上場企業の自社株買い金額

  • ※Quick Workstation Astra Manager よりSBI証券が作成。取得枠(取締役会で決議された取得枠)は左軸で単位は兆円。

■図表3 国内上場企業の自社株買い金額(月毎・2000~2022年の合計)

  • ※Quick Workstation Astra Manager よりSBI証券が作成。自社株買いの取得枠(取締役会で決議された取得枠)を月毎に合計したものです。

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