「相場乱高下」に「好業績」は勝てるのか?
投資情報部 淺井一郎 鈴木英之
2023/10/17
日経平均は米長期金利に振り回されて乱高下
10月第2週(10/10-13)末の日経平均は、前週末比1,321円32銭(4.3%)高と週足ベースで4週ぶりに反発しました。この週は10/9(月)が「スポーツの日」で休場のため、4営業日でした。10/10(火)~10/12(木)に3営業日続伸で約1,500円上げた後、10/13(金)に反落(178円安)。続く週明け10/16(月)は大幅安(656円安)でした。
前週に続き、米10年国債利回りが、日本株に大きな影響を与えました。米10年債利回りは10/6(金)に4.8%台まで上昇した後、10/11(水)には4.5%台まで低下し、日本株市場に安心感をもたらしました。この週は、地区連銀首脳等から、政策金利の再引き上げに対し慎重な見方を示す声が目立ち、金融引き締め懸念が後退しました。
ただ、この週米国で発表されたインフレ関連指標は、微妙な数字が続きました。
10/11(水)9月生産者物価(前年同月比)・・・事前予想+1.6%、実績+2.2%、前回+2.0%
同コア生産者物価(前年同月比)・・・事前予想+2.3%、実績+2.7%、前回+2.5%
10/12(木)9月消費者物価(前年同月比)・・・事前予想+3.6%、実績+3.7%、前回+3.7%
同コア消費者物価(前年同月比)・・・事前予想+4.1%、実績+4.1%、前回+4.3%
10/13(金)10月ミシガン大学消費者信頼感指数
・予想インフレ率(1年)・・・事前予想+3.2%、実績+3.8%、前回+3.2%
・予想インフレ率(5~10年)・事前予想+2.8%、実績+3.0%、前回+2.8%
総じて、市場予想を上回る指標が多く、インフレ懸念を再燃させる結果となりました。しかし、エネルギー価格の上昇が影響している部分が強く、コア消費者物価は予想通りの数字にとどまり、上昇緩和方向が続いていることに変わりはありません。
イスラエルとパレスチナの対立は深刻化しており、市場のリスク回避姿勢を高めています。ただ、同問題は、安全資産への回帰の形で債券買いにつながり、長期金利の低下要因になっています。
日経平均採用銘柄の週間騰落率上位(10月第2週・図表7)としては、レーザーテック(6920)が10/12(木)に年初来高値を更新するなど、半導体関連銘柄の上昇が目立ちました。同社の他に、アドバンテスト(6857)、東京エレクトロン(8035)、ルネサスエレクトロニクス(6723)などが上位を占めました。10/11(水)に韓国サムスン電子の決算が発表され、半導体市況の底入れが意識された模様です。
日経平均採用銘柄で下落率の大きかった銘柄(10月第2週・図表8)としては、セブン&アイ・ホールディングス(3382)が2位でした。10/12(木)に発表された上期決算では「営業最高益」となりましたが、9/1(金)発表の業績予想と大差なく、材料出尽くしとみられたようです。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(10/6~10/13)
図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(10/6~10/13)
「相場乱高下」に「好業績」は勝てるのか?
今週から日米を中心に決算発表が本格化してきます。
そこで本稿では決算発表シーズンの注目ポイントをご紹介いたします。
まず、米国では先週から主力企業の決算発表が始まっています。
S&P500種指数採用銘柄の業績予想(リフィニティブ予想)では、23年3Q増益率は前年同期比+2.2%と2四半期ぶりの増益が予想されています。22年4Qから23年2Qにかけて収益は低調だったのに対し、23年4Q以降は二桁前後の増益が予想されています。今回の決算発表では米企業業績のボトムアウトが鮮明になるか否か注目されるでしょう。
また、10/13時点での23年3Qの予想増益率は前年同期比+2.2%と小幅増益予想に留まっていますが、例年は、数多くの企業が、事前のアナリスト予想を上回る業績で着地する傾向があります。そのため、予想増益率は決算シーズンが進むにつれて上方修正されていく傾向があり、今回の決算シーズンでもどれだけ上方修正されていくのかが注目されます。
近年の米決算シーズンにおける米国株式市場は、GAFAMに代表されるビッグテックの堅調な業績が、相場を支えていく傾向あります。それだけにこうした企業の業績動向に対する市場の注目は非常に高いと言えるでしょう。今週は18日にネットフリックス、テスラが決算発表を予定。来週もアルファベット(24日)、マイクロソフト(24日)、メタ(フェイスブック、25日)、アマゾン(26日)など、多くのビックテック企業が決算発表を予定しています(いずれも現地時間)。
更に、今週は米国以外でも注目のハイテク関連企業の決算発表が予定されています。オランダではASMLホールディングスが18日、台湾では台湾積体電路製造(TSMC)が19日に、それぞれ決算発表を行う予定であり、こちらも市場の注目が高いと考えられます。
※各企業の決算発表予定日は、今後、予告なく変更される可能性があります。米国企業の発表予定は現地時間ベースです。
図表9 米主要企業(S&P500採用銘柄)の業績推移
- ※リフィニティブのデータをもとにSBI証券が作成
一方、国内では先週まで大手小売企業など2月・8月期決算の決算発表が続いたのに対し、3月期決算企業などの決算発表は、来週23日のニデック(旧:日本電産)を皮切りに本格化します。
決算発表予定社数(図表10)を見ると、東証上場企業の決算発表は、11/6(月)の週がピークとなりますが、主力銘柄(日経平均採用銘柄)に限ると、10/30(月)の週にピークを迎えるなど、全体よりもやや発表のタイミングが早まっています。
図表10 国内上場企業の決算発表予定社数
- ※日本取引所グループ(JPX)のデータをもとにSBI証券が作成
今回の決算発表シーズンについては、総じて見た場合、実績については4-6月期に続いて堅調さが示される一方、見通しについては保守的になる可能性が考えられます。
企業業績の全体の動きを確認するべく、9月調査日銀短観(全国企業短期経済予測調査)に注目すると、大企業・製造業の業況判断DIは+9と2期連続で改善、大企業・非製造業は+27と21年3月調査以降で改善が続いています。業況改善を背景に企業業績についても堅調な推移が予想されるでしょう。一方、先行きについては大企業・製造業が+10と若干の改善に留まり、大企業・非製造業は+21と悪化するなど、先行きについて企業が慎重な見通しを持っていることがうかがえます。また、同調査が実施された後、イスラエルをめぐる中東情勢が著しく緊迫化するなど、先行き不透明感が強まっています。企業サイドとしては、先行きについて保守的になりすぎることはあっても、なかなか強気な業績見通しを示すことが難しいと思われます。
したがって、決算発表前に好業績期待で買われている銘柄については、決算発表のタイミングで保守的な業績予想が示されることで市場の失望を誘い、決算発表後に売りが膨らむ可能性には注意が必要でしょう。もっとも、会社計画が保守的過ぎる場合は、今後の業績の上振れにつながることが期待されるため、決算発表後に売られた場合、むしろ押し目買いの好機となる可能性があるでしょう。
図表11 日銀短観 業況判断DI
- ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
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