~中国株総売りの中、キラリと輝く逆行高銘柄~

~中国株総売りの中、キラリと輝く逆行高銘柄~

投資情報部 李 燕

2024/01/12

1/5-1/11の中国株主要指数は下落しました。1/13の台湾総統選を控え、地政学リスクを警戒した海外投資家が中国株のポジションを引き下げました。

今回のトピックスは、「中国株総売りの中、キラリと輝く逆行高銘柄」です。

今週の中国株市況

図表1 主要中国株指数の推移(2023年以降)

注:2024/1/11までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2023年以降)

注:業種別指数は香港市場のハンセン総合指数のサブ指数です。2024/1/11までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 当社内売買代金上位10銘柄の騰落率と関連ニュース(注)

銘柄コード 銘柄名 騰落率 関連ニュース等
NIO 蔚来汽車(ニオ)Inc ADR -10.5% EV関連銘柄が売られた(要因は本文をご参照ください)。地政学リスクを懸念した中国株の売りも、下げを助長したとみられる。ニオの場合は、同社CEOが年初の社員向け書簡で、「今後2年間は自動車業界にとって最も重要な変化期となり、競争の激しさは想像を超えるだろう」と述べたことも、売りを誘った。
00700 テンセント(騰訊) -3.8% 株価が節目の300香港ドルの回復に失敗した後、続落した。中国本土投資家が連日同社株を売ったと報じられた。大手証券会社が足元の下落を利用してポジションを構築すべきだと主張したが、特段材料視されなかった。テンセントは昨年12月におよそ100億元に上る規模(月間ベースで昨年最多)の自社株買いを実施。今年に入ってからも連日自社株買いを実施していることが明らかになった。
BABA 阿里巴巴集団(アリババグループ)ADR -3.1% 大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。今四半期(1-3月期)の決算内容について、保守的な予想を示すアナリストが多く、うち1人はアリババの事業転換には時間がかかるだろうと指摘した。地政学リスクを警戒した中国株の売りも株価の下落につながったとみられる。
01211 比亜迪 ( Byd ) 1.3% EV関連銘柄が売られる中、逆行高となった。昨年12月に打ち出した新型EV「宋L」の販売状況は競合より良好で、初月で1万台を突破した。同社傘下でプレミアムブランドを展開する仰望(Yangwang)自動車は、新車種「仰望U7」を打ち出す予定だと発表した。BYDは中低価格帯で足場を固めた後、プレミアム市場への進出を強化しており、昨年秋ごろに「仰望U9」(スポーツカー)と「仰望U8」(SUV)を打ち出した。「仰望U7」はプレミアム新エネルギー車のうち、乗用車のフラグシップモデルとして、販売価格は「仰望U9」や「仰望U8」と同じく100万元(約2,000万円)に上る予定となっている。100万元台の車が作れるようになったのは、BYDのブランドイメージの向上につながっている。
PDD PDD ホールディングス ADR 2.4% 軟調地合い中、逆行高となった。大手証券会社が目標株価を引き上げた。Bloomberg報道によると、バロン・エマージング・マーケット・ファンドは2023年10-12月に同社株への投資を増やした。同時に競合のアリババ(BABA)のポジションを減らし、JDドットコム(JD)のポジションを解消したことが明らかになった。
XPEV シャオペン ADR -11.2% EV関連銘柄が売られた(要因は本文をご参照ください)。なお、シャオペンの副会長はCNBCの取材に対し、「X9」(1/1にリリースした新車種)は多目的乗用車(MPV)のEVセグメントにおいて、ゲームチェンジャーになるだろうと表明した。また、自社は2024年に業界を上回るスピードで成長するだろうとの見方を示した。なお、「X9」は1/13から納車開始の予定となった。
BILI ビリビリ ADR -6.8% 大手証券会社2社が目標株価を引き下げた。うち1社は、中国当局によるゲームの新規制草案を受けて規制をめぐるリスクプレミアムを更新(従来より高く)したためだと説明した。
02269 薬明生物技術 7.8% 会社側が予想外に2024年の業績見通しを上方修正し、急反発した。1/10に開催された大手証券会社のバイオ・カンファレンスで同社は、2024年の増収率は10%半ばになるだろうとし、従来の10%台前半から小幅ながら上方修正した。同時に新規プロジェクト数が2023年通年で132件となったと明かした。12月中旬に2023年の業績について軟調な見通しを示した際、11月までの新規プロジェクト数を公表したが、それから試算すると、12月には予想外に多く新規プロジェクトを獲得したことになる。2024年については、4-6月期に予想される需要の大幅回復を反映し、新規プロジェクト数の目標について従来の80件から110件に上方修正した。業績見通しの上方修正を受け、大手証券会社が投資判断と目標株価を引き上げた。
00941 チャイナモバイル 1.6% 軟調地合いの中、好配当銘柄が買われた。中国本土投資家が連日同社株を買っていると報じられた。
00175 吉利汽車 -2.2% 強弱材料まちまちの中、小幅安となった。同社の2023年の自動車販売台数は168万6,516台(前年比18%増)となり、年間目標を達成した。新型EV「銀河E8」は1/5に正式に発売された。ただ、現地報道によると、同社の高級EVモデル「Lynk&Co 09」は1/2から値下げが実施されたもよう。なお、同社は2024年の販売台数目標を190万台(前年比13%増)に設定しており、うち新エネルギー車については前年比66%増(2023年は約36%増)を目指している。

注:米国上場の中国企業ADRを含めた2023年10月-12月の中国株売買代金上位10銘柄で、売買代金順となります。米国市場と香港市場に同時上場している銘柄については、売買代金を合算の上、銘柄表記は売買代金の多い銘柄となっています。騰落率は1/11時点、過去5日間の株価騰落率です。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

1/5-1/11の中国株主要指数は、ハンセン指数が2.1%下落、ハンセンテック指数は4.2%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は4.3%下落しました。

1/13の台湾総選挙を控え、地政学リスクを警戒した中国株の売りに加え、電気自動車(EV)関連銘柄の下落が指数を押し下げました。

EV関連銘柄が売られた理由は、主に以下の3つです。
1)競争激化懸念を理由に、大手証券会社数社がEV関連銘柄の目標株価を引き下げた。
2)中国の1月第1週のEV販売台数が大手証券会社の予想を下回った。
3)EV電池世界2位のLGエネルギー(373220)が発表した2023年10-12月期の決算内容が市場予想を下回り、EVの需要軟調懸念につながった。

EVの競争激化懸念は、2023年初めにも起きました。2023年1-3月は2022年末の新エネルギー車補助金の終了による影響もあり、EVメーカー各社は販売減に見舞われました。ただ、その後は競争激化の中でも各社は販売拡大を実現しました。中国におけるEVの普及はまだ道半ばにあり、各社が積極的に新車を投入したことも販売拡大につながりました。結果的に、2023年通年ではEV関連銘柄は逆行高を演じました。

2024年も同様な展開になるかどうかはまだ不明ですが、短期的な販売動向よりも月次や四半期ベースの販売動向を確認していく必要がありそうです。他方、2023年と比較した際、2024年のハードルがやや高くなっている点は否めません。2023年の好調な販売を受け、2024年は販売拡大ペース(前年比の増加率)は鈍化すると見込まれるためです。したがって、各社は市場予想以上の実績を出す必要があります。同時に2024年は投資家が販売台数に加えて、利益指標をより注目するようになると予想されるため、各社は売上高だけなく利益拡大や赤字縮小の実績を示す必要もあります。

一方、中長期的にみると、中国のEVを含む新エネルギー車の普及は今後も続くと予想されます。2023年の厳しい競争の中で勝ち組の地位を獲得したBYD(01211)やリーオート(LI)は、引き続き注目に値すると考えられます。中国の国営新華社通信は1/11に、国務院が2023年9月に発表した「美しい中国」建設計画を引用し、中国は2027年までに新車販売のうち45%を新エネルギー車にすることを目指していると再び表明しました。新エネルギー車の販売が当局の予想を下回った場合、何らかの支援措置を打ち出す可能性がありそうです。

なお、中国株主要指数の構成銘柄の騰落率は、図表4の通りです。EV関連以外の主要中国株もそろって売られましたが、主に地政学リスクを警戒した中国株ポジションの圧縮によるものとみられます。

図表4 主要指数の構成銘柄の騰落率

注:騰落率は1/11時点、過去5日間の株価騰落率です。ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数の主要構成銘柄は、2023年12月末を基準に時価総額ベースで上位10銘柄となっております。中国企業ADRの代表銘柄の一つであるPDDホールディングスADR(PDD)は、現時点で同指数の構成銘柄には含まれておりません。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

一方、医薬品開発受託大手の薬明生物(02269)と無錫薬明康徳(02359)は逆行高となりました。薬明生物が予想外に2024年の業績見通しを上方修正したためです。詳細は、図表3の薬明生物のコメント部分をご参照ください。

半導体受託生産(ファウンドリ)大手の華虹半導体(01347)やSMIC(00981)も小幅ながら反発しました。大手証券会社が半導体をめぐる米国の対中輸出規制による影響は株価に十分織り込んでおり、中国の半導体大手は今後、半導体国産化の恩恵が期待できるとし、買い推奨しました。

スポーツ用品大手2社の株価は明暗が分かれました。安踏体育用品(02020)が急反発した一方、リーニン(李寧)(02331)は大幅に下落しました。リーニンは大手証券会社による目標株価の引き下げが響きました。安踏体育用品は会社側が公表した2023年10-12月期の業績予想が市場予想を上回り、買い材料となりました。子会社のAmer Sportsが米国で新規公開株式(IPO)を申請したことも買いにつながりました。

なお、台湾総選挙を控えた地政学リスクを警戒した売りは1/11の反発からすると、やや収まる気配もあります。市場で最も警戒しているのは、「台湾有事」や米中対立の激化ですが、実際にこれらが起きる確率はそう高くないというのが市場のコンセンサスです。

確かに習近平国家主席は新年の演説で台湾に言及し、「祖国統一は歴史的必然であり、台湾海峡両岸の同胞は手を携え、民族復興の偉大な栄光を分かち合うべきだ」と述べています。ただ、Bloomberg記事は「米高官によると、習近平国家主席はバイデン大統領との会談で、中国軍が2027年までに侵攻に向けた準備を整えることを目指しているとの見方に不満を示し、それは誤りだと述べた」と報じました。また、習近平国家主席は1/1に、米バイデン大統領に宛てた祝電(両首脳は国交樹立45年の祝電を交換)で、「相互尊重と平和共存を堅持することが中国と米国の正しい関係であることを歴史が証明している」と述べました。

これらの動きからすると、中国は長期的には「祖国統一」を目指しつつも、米国とは台湾問題でこれ以上の対立激化は避けようとしているように見えます。背景として、中国が米国と競っているのはハイテク分野であることが挙げられます。いわば米中対立の”主戦場”は台湾ではなく、テクノロジー分野であるためです。たとえば、米中対立の発端となったのは台湾問題でなく、中国が技術立国を目指すために掲げた「中国製造2025」であることがそれを裏付けていると言えます。

他方、短期的には1/13の台湾総選挙の結果とそれを受けた中国当局の対応に、海外投資家は注目することとなるでしょう。「抗中派」当選+それを受けた中国当局の「タカ派」姿勢の組み合わせとなれば、海外投資家は一段と中国株を敬遠する可能性があります。一方、無事にイベントを通過すれば、中国株売りは収まる可能性がありそうです。同時に、中国の不動産問題をめぐる懸念が緩和されれば、見直し買いにつながるかもしれません(不動産市場の動向についてはBloomberg記事「中国クレジット市場、ストレス緩和の兆し-債務返済計画の説明相次ぐ」をご参照ください)。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「中国株総売りの中、キラリと輝く逆行高銘柄」です。

2024年は中国株ににとって軟調なスタートとなりました。下落要因は、1月初めの週は過度な米利下げ期待に対する修正によるもので、2週目は台湾総選挙を前に地政学リスクに対する警戒によるものです。投資家のリスク回避という意味では共通しますが、それを受け、中国株はほぼ全面安の展開となりました。しかし、その中でも逆行高を演じた銘柄がありました(図表5)。

図表5 主要指数構成銘柄の年初来騰落率上位5銘柄

注:HXC指数の場合は構成銘柄のうち小型株も多いため、時価総額ベースで上位30銘柄のうちの騰落率上位5銘柄となっています。PDDホールディングス(PDD)は指数構成銘柄ではありませんが、時価総額が大きく中国株ADRの代表格の一つです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

逆行高となった銘柄を確認してみると、中国の景気見通しが軟調な中でも業績見通しが改善した銘柄が目立ちます。たとえば、オンライン旅行予約最大手のトリップドットコムグループADR(TCOM)(香港上場株は携程集団(09961))や、バイオ医薬品開発受託大手の薬明生物技術(02269)です。

コロナ禍を経て中国の消費者は「モノ」への支出には慎重になっていますが、「体験」(たとえば旅行)への意欲は健在です。旅行先では買い物への出費は抑えているかもしれませんが、航空機チケットやホテルの予約は必要最低限の旅行の出費と言えます。元旦連休中の予約状況が好調だったことからすると、旧正月連休(中国本土は2/10-2/17)も期待できるかもしれません。ただ、旅行関連銘柄は、旧正月連休前は利益確定売りに押されやすい点には留意する必要があるかもしれません。

バイオ医薬品の開発受託が主力事業の薬明生物技術は、バイオ医薬品メーカーの資金調達や投資の状況に影響を受けやすいです。バイオ医薬品メーカーの資金調達や投資は米国の金利動向に影響されやすいです。薬明生物技術が2023年12月に予想外に多い新規プロジェクトを獲得できたのは、2024年の米金利低下見通しも影響したかもしれません。同社は1/10に2024年の増収率について、従来の10%台前半から10%半ばに上方修正し、今後についても楽観的な見通しを示しました。業績悪化に対する懸念は最悪期を脱出した可能性が高く、中長期的に投資妙味が増している言えそうです。

ミニソグループホールディングADR(MNSO)やPDDホールディングスADR(PDD)の場合は、コストパフォーマンスの良い商品を取り扱っている点で共通しています。コロナ禍を経て中国の消費者がより堅実になっていることが背景です。この動向はしばらく続くと予想されるため、両社は引き続き、消費者の節約志向の恩恵を受けられそうです。PDDホールディングスは今後、海外展開による業績への貢献も期待できそうです。

オンライン教育サービス大手のニューオリエンタル エデュケーションADR(EDU)は、2023年12月は利益確定売りに押されましたが、今年に入ってからは再び上昇トレンドを取り戻しています。同社は中国当局による厳しい規制強化を乗り越え、事業多角化戦略を実施してきたことが、業績回復と株高につながりました。業績回復は今後も続く見通しで、株価は堅調に推移(株価変動はやや大きい銘柄)する可能性がありそうです。

図表6 主要逆行高銘柄の業績予想コンセンサス(注)

  2023年度 2024年度
銘柄名 増収率 増益率 増収率 増益率
トリップドットコムグループ ADR(TCOM) 121.44% 579.44% 16.58% 1.16%
薬明生物技術(02269) 15.24% -1.45% 20.38% 25.37%
PDDホールディングス ADR(PDD) 81.08% 62.52% 39.24% 37.67%
  2024年度 2025年度
銘柄名 増収率 増益率 増収率 増益率
ミニソグループホールディング ADR(MNSO) 30.64% 34.94% 17.91% 20.29%
ニューオリエンタル エデュケーション ADR(EDU) 30.17% 21.99% 105.92% 40.81%

注:1)トリップドットコムグループ ADR(TCOM)と薬明生物技術(02269)、PDDホールディングス ADR(PDD)は12月期決算、ミニソグループホールディング ADR(MNSO)は6月期決算、ニューオリエンタル エデュケーション ADR(EDU)は5月期決算のため、年度の表記が異なります。
2)業績予想コンセンサスはREFINITIVの集計によるものです。
※弊社ホームページのREFINITIVデータをもとにSBI証券が作成。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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