~「もしトラ」リスクを過大評価?!トランプ前政権下では、中国株高~

~「もしトラ」リスクを過大評価?!トランプ前政権下では、中国株高~

投資情報部 李 燕

2024/01/19

1/12-1/18の中国株主要指数は大幅に続落しました。「もしトラ」に対する警戒、しぼむ景気支援期待、軟調な経済指標が売り要因となりました。

今回のトピックスは、「「もしトラ」リスクを過大評価?!トランプ前政権下では、中国株高」です。

今週の中国株市況

図表1 主要中国株指数の推移(2023年以降)

注:2024/1/18までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2023年以降)

注:業種別指数は香港市場のハンセン総合指数のサブ指数です。2024/1/18までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 当社内売買代金上位10銘柄の騰落率と関連ニュース(注)

銘柄コード 銘柄名 騰落率 関連ニュース等
NIO 蔚来汽車(ニオ)Inc ADR -15.1% EV関連銘柄が大幅下落した。主な要因は、下記の3つである。1)中国の新エネルギー車販売の鈍化、2)テスラ(TSLA)の値下げによる競争激化懸念、3)EUによる中国製EVに対する関税導入観測。1)中国自動車業界団体によると、中国の新エネルギー車販売台数は1/1-1/14に前年同期比で33%増加したが、前月の同時期よりは21%減少した。ただ、同団体は1月全体では前月比15%減になると予想しており、1月後半は前半より販売がやや持ち直すと見込んでいる。2)テスラは中国だけでなくEUでも値下げを実施。それを受け、世界的なEV需要鈍化懸念が一層強まった。3)Bloombergは、EUが早ければ6月にも中国製EVに対する暫定関税を導入する可能性があると報じた。なお、中国株に対する悲観ムードの強まりも、EV関連銘柄に対するポジション圧縮につながったとみられる(詳細は本文を参照されたい)。
00700 テンセント(騰訊) -3.4% 中国株に対する悲観ムードの強まりで続落した。大手証券会社が軟調な中国景気見通しを理由に目標株価を引き下げたことも、嫌気された。ただ、テンセントの下落率は他の主力中国株よりは低かった。年初から続いている自社株買いが下支えになっていると思われる。
BABA 阿里巴巴集団(アリババグループ)ADR -6.0% 中国株に対する悲観ムードの強まりで続落した。1/11は同社がECサイトの販売者向けに新しいAIツールのテストを行っていると報じられ、反発したが、中国株総売りの中、株価は節目の70ドルを下回った。
01211 比亜迪 ( Byd ) -7.5% EV関連銘柄が大幅下落した。主な要因は、ニオのコメント部分を参照されたい。
PDD PDD ホールディングス ADR -6.1% 中国株に対する悲観ムードの強まりで利益確定売りに押された。大手証券会社数社が同社の目標株価を引き上げたが、軟調地合いの中、材料視されなかった。
XPEV シャオペン ADR -19.4% EV関連銘柄が大幅下落した。主な要因は、ニオのコメント部分を参照されたい。
BILI ビリビリ ADR -11.0% 中国株に対する悲観ムードの強まりと大手証券会社による目標株価引き下げで大幅安となった。
02269 薬明生物技術 -4.4% 中国株に対する悲観ムードの強まりで売られた。自社株買いや大手証券会社による目標株価の引き上げは、材料視されなかった。
00941 チャイナモバイル 0.0% 自社株買いに支えられ、株価は横ばいとなった。リスク回避が強まる中、大手証券会社がディフェンシブ銘柄として同社を買い推奨したことも、株価の底堅さにつながった。
175 吉利汽車 -4.0% EV関連銘柄が下落した。主な要因は、ニオのコメント部分を参照されたい。

注:米国上場の中国企業ADRを含めた2023年10月-12月の中国株売買代金上位10銘柄で、売買代金順となります。米国市場と香港市場に同時上場している銘柄については、売買代金を合算の上、銘柄表記は売買代金の多い銘柄となっています。騰落率は1/18時点、過去5日間の株価騰落率です。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

1/12-1/18の中国株主要指数は、ハンセン指数が5.6%下落、ハンセンテック指数は9.3%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は6.9%下落しました。

中国株の売りが強まった要因は、主に以下の3つです。


1)「もしトラ」に対する警戒

過去1週間で主要指数が大きく下落した取引日を確認してみると、台湾総選挙で対中強硬派が勝利した翌1/15ではなく、翌々日の1/16以降でした。1/16に急落したタイミングを確認してみると、「2024年の米大統領選の共和党候補選出に向けたアイオワ州党員集会で、トランプ前大統領が圧倒的に勝利を収めた」と伝わったタイミングと重なります。トランプ氏が共和党候補として圧勝したことで、市場では「もしトラ」(もしトランプ氏が米大統領に再選されたら)に対する警戒感が強まり、中国株売りの展開となりました。トランプ氏が前回の大統領期間中で、一連の対中強硬策を発動したためです。

2)しぼむ景気支援期待

中国人民銀行は1/15に、中期貸出制度(MLF)の1年物金利を2.5%に据え置きました。景気鈍化を受け、市場ではMLF金利の引き下げを期待していましたが、予想外の利下げ見送りとなりました。翌1/16に、李強首相は世界経済フォーラム(WEF)年次総会で、昨年は大規模な景気刺激策を打ち出すことなく、5%前後の成長目標を達成できたと発言しました。前日の利下げ見送りと合わせて考えると、中国当局は多少の景気減速を容認しており、今年も大規模な景気支援策を打つ出す意向はないことが示唆されました。

3)軟調な経済指標

1/17に発表された中国の2023年10-12月期のGDP成長率は5.2%となり、市場予想と一致しました。しかし、12月の不動産投資や小売売上高は小幅ながら市場予想を下回りました。緩やかなペースとはいえ、中国の景気鈍化が続いていることが示されました。

上記3つの要因を受け、海外投資家は中国株のポジションを一段と圧縮しました。もっとも、日本株の好調さが際立つ中、中国株から日本株への資金シフトも指摘されています。海外投資家の保有比率が比較的高い銘柄(たとえば、電気自動車(EV)関連銘柄)の下落が顕著なのは、このような背景もあったと考えられます。

なお、テクニカル指標からは売られ過ぎサインも出ており(たとえば、主要指数および主力株のRSIはいずれも30%に近づいおり)、短期的には自律反発を狙った買いが入る可能性があるかもしれません。1/18には、中国本土投資家がハンセンテック指数に連動するETFを買い越したと報じられています。それを受けてか、ハンセンテック指数は1/18に小反発しました。

他方、本格的な見直し買いが入るためには、テクニカル指標よりも中国株や経済見通しの改善につながる材料、たとえば政策転換といった好材料が必要と言えましょう。そのような材料がなかなか出てこない場合、海外投資家の中国株離れは続く可能性があり、主要指数の戻り幅は限定的となるかもしれません。

他方、EV関連銘柄を筆頭とした主力中国株の急落ぶり(たとえば5日間で2割下落)は、2022年秋ごろの中国株売り時の「セリング・クライマックス」を彷彿させます。2022年当時は、中国当局による予想外の政策転換が株価反転のトリガーとなりました。今のところ政策転換のシグナルは乏しいです(※)が、前回と同じく「セリング・クライマックス」のような売り方が続いた場合、中国当局も動き出すかもしれません。香港証券取引所(00388)のCEOは1/18に、「香港株(香港上場株)への信認欠如による売りで、市場は”降伏売り”の状態に近づいている」との認識を示しました。

※なお、1/18の中国現地報道によると、自動車産業に関連する国家部門は主要自動車メーカー及び部品メーカーと座談会を開催したそうです。座談会では新エネルギー車産業の質の高い発展と新エネルギー車消費の促進、企業の海外市場開拓の奨励などがテーマとして取り上げられました。今回の座談会は、当局が現状確認のために行う定期的なものなのか、それとも今年初めの販売鈍化や競争激化懸念を受けて急遽主催したものかどうかは不明です。ただ、新エネルギー車の販売鈍化が伝わった翌日にニュースが流れたことからすると、中国当局は販売動向を注視しているようです。中国自動車関連団体は1/17に、1/1-1/14の新エネルギー車の販売台数は前年同期比で33%増加しましたが、前月の同時期よりは21%減少したと公表しました。

中国株主要指数の構成銘柄の騰落率は、図表4の通りです。ほぼ全面安の中、東方海外(00316)CNOOC(00883)などが逆行高となりました。海運大手の東方海外は、世界海運大手2社のトップが紅海の混乱は数週間から数カ月続く見通しを示し、買い材料となりました。石油・天然ガス大手のCNOOCは、原油先物価格の動向(上昇後・小幅下落)に沿った動きとなりました。

図表4 主要指数の構成銘柄の騰落率

注:騰落率は1/18時点、過去5日間の株価騰落率です。ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数の主要構成銘柄は、2023年12月末を基準に時価総額ベースで上位10銘柄となっております。中国企業ADRの代表銘柄の一つであるPDDホールディングスADR(PDD)は、現時点で同指数の構成銘柄には含まれておりません。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「「もしトラ」リスクを過大評価?!トランプ前政権下では、中国株高」です。

「もしトラ」(もしトランプ氏が米大統領に再選されたら)という言葉は最近、金融市場だけでなくメディアでも大きく取り上げられています。市場関係者の中では、「もしトラ」を2024年の最大リスクに挙げている方もいます。中国株に関してはトランプ氏が対中強硬派として有名なこともあり、「もしトラ」となった場合は米中対立激化・中国株売りの構図を想定している投資家も多いようです(「今週の中国株市況」部分を参照してください)。

しかし、前回のトランプ政権時は中国株安というより、中国株高の展開となっています。中国株が大きく売られたのは、むしろトランプ政権下よりもバイデン政権下でした(図表5)。

図表5 MSCI中国指数の推移(2013年10月以降)

※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成。

その背景要因として、まず、トランプ氏は「ディールメーカー」であることが挙げれると思います。ビジネスマン出身のトランプは、「優れたディールメーカー(交渉の達人)」と自称しています。対中政策においても、当時は中国との駆け引きを重視し、「押す」ばかりでなく、時には「引く」こともできました。その意味でいうと、バイデン大統領の方がトランプ氏より「対中強硬派」かもしれません。

次に、バイデン政権下では米中対立もさることながら、中国当局によるネット業界や不動産市場への規制強化も株安につながりました。昨年からは一段の景気鈍化懸念も、中国株の重石となっています。したがって、中国経済や中国株の見通しにおいては政治要因もさることながら、経済のファンダメンタルズの方がより重要と言えます。少なくとも、前回のトランプ政権時の経験から言えることは、「もしトラ」=「中国株売り」は「早とちり」かもしれません。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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