~中国当局は、恒大集団を救済するのか?!~
投資情報部 李 燕
2024/02/02
1/26-2/2の中国株主要指数は大幅反落しました。香港高裁による不動産大手の恒大集団に対する清算命令や米中対立激化懸念が中国株の売りにつながりました。
今回のトピックスは、「中国当局は、恒大集団を救済するのか?!」です。
今週の中国株市況
図表1 主要中国株指数の推移(2023年以降)
注:2024/2/1までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数の推移(2023年以降)
注:業種別指数は香港市場のハンセン総合指数のサブ指数です。2024/2/1までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 当社内売買代金上位10銘柄の騰落率と関連ニュース(注)
銘柄コード | 銘柄名 | 騰落率 | 関連ニュース等 |
NIO | 蔚来汽車(ニオ)Inc ADR | -5.5% | EV関連銘柄が売られた。EV大手のテスラ(TSLA)が1/24の決算発表で、異例なことに2024年の納車台数を発表せず、販売鈍化を示した。中国のEV最大手BYD(01211)は、1/26に発表した2023年通期の純利益速報値が市場予想を下回った。仏自動車大手ルノーは1/29に、EVとソフトウエア開発を手掛ける「アンペア」部門の新規株式公開(IPO)を取りやめると発表。EV業界ではマイナス材料が続いた。香港高裁による不動産大手の恒大集団に対する清算命令や米中対立激化懸念(本文参照)も、中国株の売りにつながった。2/1は小幅反発した。1月の納車台数が1万55台(前月比44%減、前年同月比18%増)で、おおむね市場通りとなった。 |
00700 | テンセント(騰訊) | -6.6% | 大手証券会社がゲーム事業の成長鈍化を予想し、目標株価を引き下げた。同社の年次社員総会(1/29)で、馬化騰CEOがやや慎重なコメントを発したことも、売りを誘ったもよう。中国現地紙によると、馬CEOは新しく発売されたゲームが期待に応えていないと述べたという。また、AI製品の開発については、急ぐのではなく、大規模言語モデル「Hyunyuan」を様々な事業に統合し、効率を高めることが重要だと強調した。AIの導入による収益への貢献は先になる可能性があるとの指摘が見受けられた。 |
BABA | 阿里巴巴集団(アリババグループ)ADR | -1.9% | 中国株の売りが響いた。香港高裁による不動産大手の恒大集団に対する清算命令や米中対立激化懸念(本文参照)が中国株の売りにつながった。ただ、同社は1/23に、創業者・馬雲氏と会長・蔡崇信氏が2023年10-12月に株式を取得したことが判明し、下落率は限定的だった。今回の株式取得により、馬氏はアリババの筆頭株主に、蔡氏はそれに次ぐ2位の株主になったという。馬氏が筆頭株主になったことで、同氏がアリババへの経営現場に復帰する可能性もあるのではと、中国現地紙が報じた。両氏による株式取得を報じたのが、アリババ傘下のサウスチャイナ・モーニング・ポストだったこともあり、アリババ側が意図的にメッセージを発したとの指摘もある。 |
01211 | 比亜迪 ( Byd ) | -11.6% | 会社側が1/26に発表した2023年通期の純利益速報値が市場予想を下回り、売られた。テスラ(TSLA)が1/24の決算発表で、異例なことに2024年の納車台数を発表せず、販売鈍化を示したことも、EV関連銘柄の下落を助長した。ただ、1割を超える下落率となったのは、香港高裁による不動産大手の恒大集団に対する清算命令や米中対立激化懸念(本文参照)による中国株売りの影響も大きい。なお、同社は3/26に決算発表を行う予定だが、それに先立って1/26に業績速報値を公表した。それによると、2023年通期の純利益は290億~310億元(前年比74.5%~86.5%増)になる見通しだ。会社側は発表資料で、「2023年の増益は海外売上高の伸びと強力なコスト管理によるものだ」と説明した。通期純利益では過去最高となる見込みだが、市場予想の315億元には届かなかった。同社が業績速報値を発表した後の機関投資家の売買動向を確認してみると、売り買いが交錯した。なお、2/1(引け後)に発表された1月の納車台数は20万1,493台(前月比41%減、前年同月比33%増)となった。1月の海外販売台数は3万6,174台で、過去最多となった。ただ、中国国内の納車台数は市場予想をやや下回った。 |
PDD | PDD ホールディングス ADR | -12.4% | 「トランプ氏の対中関税60%」報道を嫌気し、急落した。米ワシントン・ポスト紙は1/27に、トランプ氏が再選されれば、中国からの輸入品すべてに60%の関税を課すことを検討していると報じた。同社は、米国で格安ECサイト「Temu」 を展開しており、中国製品を米国の顧客に販売している。もし、トランプ氏再選・60%の対中関税導入となれば、成長分野として期待されている「Temu」のビジネスに影響を与える可能性がある。なお、香港高裁による不動産大手の恒大集団に対する清算命令を受けた中国株売りも、下げ幅を助長したとみられる。一部のアナリストは、「トランプ氏の対中関税60%」への反応は時期尚早で、大幅下落はニュースをきっかけとした一部投資家の利益確定売りが背景と指摘した。今回の急落を受け、同社の時価総額は競合のアリババ(BABA)を下回った。なお、「トランプ氏の対中関税60%」報道前後のコンセンサス・レーティングと目標株価(Bloomberg集計によるもの)にはいずれも変化がみられず、機関投資家の売買動向も小動きだった。急落場面での売りは、主に個人投資家によるものと想定される。 |
XPEV | シャオペン ADR | -6.4% | EV関連銘柄が売られた。詳細はニオのコメント部分を参照されたい。同社については、大手証券会社が目標株価を引き下げたことも響いた。同証券会社は、同社の1-3月期の販売台数と利益率は予想を下回る可能性があるとした。2/1は小幅反発した。1月の納車台数が8,250台(前月比59%減、前年同月比58%増)で、おおむね市場予想通りだった。 |
BILI | ビリビリ ADR | -3.0% | 大手証券会社が目標株価を引き下げた。その理由について、2023年10-12月期の業績にはサプライズはないとみられるうえ、2024年はマクロ環境のマイナス影響を受ける可能性があるとし、予想PSR(株価売上高倍率)を下方修正したためと説明した。 |
02269 | 薬明生物技術 | -29.5% | 米国の規制懸念で急落した。米超党派議員は1/25に、外国の敵対勢力による米国の機密遺伝子データや個人健康情報の窃盗を防止するための法案を提出した。同「2024年米国遺伝子情報への外国からのアクセス禁止法」(以下、「禁止法」)では、中国共産党のような外国の敵対勢力によって所有または管理され、国家安全保障を脅かすような商習慣を持つすべてのバイオテクノロジー企業が連邦契約や助成金、融資を通じて米国の税金を受け取ることを禁止するものである。「禁止法」草案では同社CEOの経歴に触れた部分があり、同氏が軍事医学アカデミーや軍事的背景を持つ組織で働いたことがあるとのコメントがあった。それについて同社は1/29に、下記のように否定した。「同社CEOは軍事医学アカデミーや軍事的背景を持つ組織で働いたこともなければ、軍事的背景を持つ組織から報酬を受け取ったこともない」。しかし、株価の反転にはつながらず、同社株は1/31まで下落した。2/1は小幅ながら反発した。上記の「禁止法」について、米国上院国土安全保障委員会が審議日を決める前にさらに議論を深める必要があるとし、審議を延期したことが好感された。「禁止法」ニュース後の急落を受け、大手証券会社数社が買い推奨した。うち1社は、投資判断を「ホールド」から「買い」へ引き上げた。もう1社は、足元の株価急落は過剰反応であり、たとえ「禁止法」が実施されたとしても同社に対する影響は限定的になる見込みだと示した。なお、機関投資家の売買動向を確認してみると、その間売り買いが交錯した。ただ、一部の世界大手機関投資家はポジションを増やした。 |
00941 | チャイナモバイル | -2.9% | 中国株をめぐる軟調地合いやテクニカル要因で反落した。テクニカル指標の1つであるRSIが短期的に買われすぎの70%に近づいた後、反落した。 |
175 | 吉利汽車 | -7.6% | EV関連銘柄が売られた。詳細はニオのコメント部分を参照されたい。同社が一部車種について値下げを実施したことも売りを誘った。なお、2/1(引け後)に発表された1月の納車台数は21万3,487台(前年同月比110%増)で、うちEVは3万6,317台(前年同月は306%増)、PHEV(プラグインハイブリッド車)は2万9,505台(前年同月比4,919%増)となり、予想外の好調さとなった。 |
注:米国上場の中国企業ADRを含めた2023年10月-12月の中国株売買代金上位10銘柄で、売買代金順となります。米国市場と香港市場に同時上場している銘柄については、売買代金を合算の上、銘柄表記は売買代金の多い銘柄となっています。騰落率は2/1時点、過去5日間の株価騰落率です。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
1/26-2/1の中国株主要指数は、ハンセン指数が4.0%下落、ハンセンテック指数は7.4%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は2.5%下落しました。
前週の反発から再び下落した要因は、1)香港高裁による不動産大手の恒大集団に対する清算命令、2)米中対立激化懸念の強まりです。1)については、「今回のトピックス」部分で取り上げます。2)は、図表4の通りです。
図表4 米中対立激化懸念につながった主な出来事
※Bloombergおよび各種報道をもとにSBI証券が作成。
中国株主要指数の構成銘柄の騰落率は、図表5の通りです。
ほぼ全面安となる中、ビール大手の百威亜太控股(01876)やカジノ大手の銀河娯楽(0027)、新興EVメーカーのリーオート(LI)が逆行高となりました。百威亜太控股(バドワイザーAPAC)は、大手証券会社が2023年10-12月期の粗利益率は引き続き拡大した可能性があるとし、買い推奨しました。銀河娯楽は、1月のマカオのカジノ収入が市場予想を上回り、買い材料となりました。2月は旧正月連休の影響でカジノ収入の回復は一段と期待できると、大手証券会社が予想したことも買いを誘いました。
リーオートは、EV業界をめぐる悪材料(図表3のニオのコメント参照)でEV関連銘柄がそろって大きく下落した中、逆行高となりました。主な上昇分は2/1によるもので、その日に発表された1月の納車台数が買い材料となりました。リーオートは1月に3万1,165台を納車し、前月比で38%減少しましたが、前年同月比では106%増加しました。新興EV3社のうち、リーオートが最も好調だったことも、同社株に対する見直し買いにつながりました。
なお、ニオの1月の納車台数は1万55台(前月比44%減、前年同月比18%増)、シャオペンは8,250台(前月比59%減、前年同月比58%増)となりました。ただ、1月の販売鈍化はおおむね市場予想通り(※)だったこともあり、ニオとシャオペンの米国上場株も、2/1は小幅ながら反発しました。
※例年1月は自動車販売の閑散期です。たとえば、新興EV3社の2024年1月の納車台数は前月より44%減少しましたが、2023年1月も40%減少していました。今年1月については一段の販売鈍化が懸念されましたが、実績はおおむね市場予想通りとなりました。
図表5 主要指数の構成銘柄の騰落率
注:騰落率は2/1時点、過去5日間の株価騰落率です。ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数の主要構成銘柄は、2024年1月末を基準に時価総額ベースで上位10銘柄となっております。中国企業ADRの代表銘柄の一つであるPDDホールディングスADR(PDD)は、現時点で同指数の構成銘柄には含まれておりません。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
今回のトピックス
今回のトピックスは、「中国当局は、恒大集団を救済するのか?!」です。
香港高裁による不動産大手の恒大集団に対する清算命令が中国株の重石となっています。恒大集団の債務問題がクローズアップされるたびに、「中国当局は恒大集団を救済するのか?」とささやかれます。それによって、中国株や中国経済の見通しが変わると思われる方が多いためです。
今回は、「恒大集団の清算命令」後の中国当局の対応を踏まえながら、その質問への答えと中国株・中国経済の見通しを考察してみたいと思います。
まず、「恒大集団の清算命令」後の中国当局の対応は、図表6の通りです。
図表6 「恒大集団の清算命令」後の中国当局の対応と株式市場の動向
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成。
図表7 中国本土の株価指数連動型EFTへの資金流出入(2014年以降)
注:資金流出入は代表的なETF5銘柄の合計で、月次ベースのデータです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表6の中国当局の対応を確認してみると、今のところ「恒大救済」の動きはないようです。2/1までの対応は、地方政府レベルでは不動産プロジェクトの支援供給リストの作成と銀行への融資協力要請、中央政府レベルでは財政支出拡大(規模は現段階で不明)、中央銀行は「政府補助住宅の建設や荒廃した都心部の再開発を含む大型プロジェクト」向けのPSL資金枠拡大となっています。これらの措置は、いわば恒大問題による業界全体および中国経済への波及を制御しようとするものです。
なお、中国当局は2015年の不動産支援時に、「政府補助住宅の建設や荒廃した都心部の再開発」と似た分野に支援したことがあります。当時は「バラック地区再開発」というもので、3年間の計画で行いました。住宅購入制限の大幅緩和などに比べると、それほど強力ではないかもしれませんが、2015年当時は不動産市場の回復につながりました。
足元の「政府補助住宅の建設や荒廃した都心部の再開発」に向けた取り組みが、2015年当時の措置に相当するかどうかを判断するのは、時期尚早と考えられます。したがって、これまでの措置で十分かどうかは、今後の資金供給(持続性と規模)やそれによる経済指標(特に不動産市場のデータ)の改善があるかないかを確認したうえで、判断する必要がありそうです。中国株や中国経済の見通しもそれに左右されるため、足元で言えることは、過度な悲観も過度な楽観も避けるべきかもしれません。
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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