~アリババ:グロース株からバリュー株へ~

~アリババ:グロース株からバリュー株へ~

投資情報部 李 燕

2024/02/09

2/2-2/8の中国株主要指数は反発しました。中国当局が旧正月連休を前に、株価対策に動き出したためです。

今回のトピックスは、「アリババ:グロース株からバリュー株へ」です。

今週の中国株市況

図表1 主要中国株指数の推移(2023年2月以降)

注:2024/2/8までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2023年以降)

注:業種別指数は香港市場のハンセン総合指数のサブ指数です。2024/2/8までのチャートです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 当社内売買代金上位10銘柄の騰落率と関連ニュース(注)

銘柄コード 銘柄名 騰落率 関連ニュース等
NIO 蔚来汽車(ニオ)Inc ADR 1.9% EV関連銘柄が反発した。中国当局による1)電気自動車(EV)など新エネルギー車業界の輸出への支援、2)株価対策に対する期待で買われた。ただ、今後の具体策を見極めたい思惑も強く、上昇率は限定的だった。なお、1)と2)はともに本文を参照されたい。
00700 テンセント(騰訊) 5.7% ゲームの認可を受け、反発した。同社とネクソンが共同開発したゲーム「アラド戦記」の「地下城与勇士:起源」について、中国当局は数年にわたり認可していなかったが、2/2に承認が下り、ポジティブ・サプライズとなった。
BABA 阿里巴巴集団(アリババグループ)ADR -2.3% 中国当局による株価対策期待で買われたが、2/7は軟調な決算を受け、反落した。決算内容については、「今回のトピックス」部分を参照されたい。
01211 比亜迪 ( Byd ) 5.0% EV関連銘柄が反発した。中国当局によるEV業界への支援強化や株価対策(※)に対する期待で買われた。今回のEV業界への支援は貿易などの支援が主な内容となっている。海外売上高比率が比較的高いBYDに対する恩恵がより大きいと期待されていることから、BYDの上昇率は他のEV銘柄より大きかった。(※詳細は本文を参照されたい。)
PDD PDD ホールディングス ADR 0.1% 中国当局による株価対策期待で買われた。詳細は本文を参照されたい。ただ、今後の具体策を見極めたい思惑も強く、上昇率は限定的だった。大手証券会社が目標株価を引き下げたことも響いた。同証券会社は、2023年10-12月期の増収率は市場予想ほど高くない可能性があるとし、目標株価を引き下げた。
XPEV シャオペン ADR -0.6% 中国当局による1)電気自動車(EV)など新エネルギー車業界の輸出への支援、2)株価対策に対する期待で買われる場面もあった。ただ、同社が1月に一部の車種で値下げを実施したことが引き続き重石となり、上昇後は反落した。なお、1)と2)はともに本文を参照されたい。
BILI ビリビリ ADR 4.1% 中国当局による株価対策期待で買われた。詳細は本文を参照されたい。
02269 薬明生物技術 -16.2% 米国の規制懸念(※)が引き続き、重石となった。異常な株価変動を受け、会社側は「経営陣は会社の見通しに非常に自信を持っており、現時点で事業運営や財務状況に重大な悪影響が生じるとは予想していない」との声明を発表した。自社株買いも継続しているが、売りが優勢だった。機関投資家の売買動向を確認してみると、売り買いが交錯した。米国の規制懸念が浮上した1/25前と2/8までの目標株価(Bloomberg集計によるもの)を確認してみると、2/8時点で3%引き下げられた。他方、コンセンサスレーティングは4.62から4.67に引き上げられた。(※詳細は、2/2付レポート「~中国当局は、恒大集団を救済するのか?!~」の図表3部分を参照されたい。)
00941 チャイナモバイル 2.1% 2月に入ってから上昇トレンドを取り戻した。大手証券会社が目標株価を引き上げた。
175 吉利汽車 9.5% EV関連銘柄が反発した。中国当局による1)EV業界への支援強化と、2)株価対策に対する期待で買われた。同社は1月の販売実績が予想以上に好調だったことが支えとなり、上昇率が他より高かった。なお、1)と2)はともに本文を参照されたい。)

注:米国上場の中国企業ADRを含めた2023年10月-12月の中国株売買代金上位10銘柄で、売買代金順となります。米国市場と香港市場に同時上場している銘柄については、売買代金を合算の上、銘柄表記は売買代金の多い銘柄となっています。騰落率は2/8時点、過去5日間の株価騰落率です。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

2/2-2/8の中国株主要指数は、ハンセン指数が2.0%上昇、ハンセンテック指数は3.4%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は2.1%上昇しました。中国当局が2/6に株価対策を打ち出し、反発につながりました。

主な株価対策は、以下の通りです。

1)中国の証券監督当局は空売り規制を強化した。

2)政府系ファンドは上場投資信託(ETF)への投資拡大を表明した。

3)中国証券監督当局は上場企業に対し、自社株買いや配当を通じて株主価値の向上を図るよう要請。上場企業の合併・買収(M&A)に対しても迅速な審査を含めて支援すると表明した。

Bloombergが2/6に、「中国共産党の習近平総書記(国家主席)は、規制当局から本土の金融市場に関する説明を受ける予定だ」と報じたことも、新たな支援策への期待を高めました。ただし、2/7以降、新しい措置は打ち出されておらず、旧正月連休前(※)だったこともあり、主要指数は2/7以降、利益確定売りに押されました(※連休前は手仕舞い売りが出やすい)。

なお、経済分野においては新エネルギー車向けの支援措置が発表されました。中国当局は2/7に、「新エネルギー車の貿易と協力の健全な発展を支援するための意見書」(下記、「意見書」)を発表しました。主な内容は、図表4の通りです。

図表4 「新エネルギー車の貿易と協力の健全な発展を支援するための意見書」(一部抜粋)

※Bloombergおよび各種報道をもとにSBI証券が作成。

「意見書」の内容からすると、中国当局は電気自動車(EV)など新エネルギー車の輸出に対して、金融面や物流面などで支援を強化する意向です。今回の「意見書」はあくまでもガイドラインであり、各項目の詳細については今後、明らかになっていくと思われます。なお、図表4の上段からすると、中国当局は貿易摩擦の激化に繋がらないよう、企業に対して海外との研究開発協力や海外でのコンプライアンス能力の向上を求めており、当局もそれを支援すると表明しています。

今回の「意見書」を受け、海外売上高比率が比較的高い自動車メーカーの比亜迪 (Byd)(01211)吉利汽車(Geely)(00175)が買われました。海外売上高比率が0%のリーオート(02015)(米国上場ADRはリーオートADR(LI))も大幅に反発しましたが、主に1月の販売堅調が支えとなりました。

なお、中国自動車業界団体が公表したデータによると、1月の新車販売台数は243.9万台で前年同月比48%増加し、うち新エネルギー車は72.9万台で同79%増加しました。大幅増加の要因は、前年同月が旧正月だったことも大きく影響しています。今後の見通しについて業界団体は、旧正月連休(今年は2月が旧正月)の影響を考慮すると、今年は2月が販売の「底」になるだろうと予想しました。

図表5 主要指数の構成銘柄の騰落率

注:騰落率は2/8時点、過去5日間の株価騰落率です。ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数の主要構成銘柄は、2024年1月末を基準に時価総額ベースで上位10銘柄となっております。中国企業ADRの代表銘柄の一つであるPDDホールディングスADR(PDD)は、現時点で同指数の構成銘柄には含まれておりません。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「アリババ:グロース株からバリュー株へ」です。

米国や日本株式市場で決算発表がピークを迎える中、中国株はようやく決算発表シーズンに突入しました。中国株の代表格であるアリババ(BABA)がその先陣を切りました。

【アリババの決算】

2023年10-12月期の売上高は前年同期比5.1%増となり、小幅ながら市場予想を下回りました。増収ペースも四半期ごとに弱まっており(図表6)、本格回復にはまだ至っていないことが示されました。

図表6 アリババの売上高と調整後EPSの伸び率(四半期ベース)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

事業別では、主力の中国国内Eコマース「タオバオとT-Mall」が前年同期比2%増収、クラウド・インテリジェンスは同3%増収にとどまりました。一方、インターナショナル・デジタル・コマースは同44%増収、菜鳥スマートロジスティックス・ネットワークは同24%増収と好調でした。ただ、両部門の売上高構成比は依然として低く、全体の売上高に対する押し上げ効果は限定的でした。決算発表会で経営陣は、「我々の最優先事項は、中核事業であるEコマースとクラウド・インテリジェンスの成長を再び加速させることだ」と述べました。

図表7 アリババの事業別売上高の伸び率(2023年10-12月期)

注:売上高構成比は相殺消去を除いたものです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

なお、アリババは決算発表と当時に、自社株買いプログラムの増額(2027年3月までに250億ドルの増額)を明らかにしました。増額はプラス材料ですが、主力事業の回復遅れを相殺するには至らず、決算発表後は売り優勢となりました。

【アリババのバリュエーション】

米国上場のADR(BABA)と香港上場株(09988)を含めた機関投資家の売買動向を確認してみると、決算発表後は売り買いが交錯しました。他方、2/8までは買いのポジションを構築したファンドの数がより多かったです(Bloombergデータ)。

その理由として考えられのは、アリババをグロース株としてではなく、バリュー株としてみているファンドマネージャーがより多いことが挙げられると思います。足元のアリババ(BABA)の予想PER(株価収益率)を確認しているみると、8.3倍で10倍を大きく下回っており、過去長期レンジの下限に近い水準にあります(図表8)。したがって、同社株の買いポジションを増やした投資家は、短期より中長期的なバリュエーションの修正を期待して投資判断を下したと思われます。

図表8 アリババ(BABA)の株価と予想PERの推移(2017年以降)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

他方、「バリュートラップ」という言葉がありますように、割安さに注目して買った銘柄がいつまでも割安なまま放置される可能性もあります。「バリュートラップ」に陥らないためには、低いバリュエーションが修正されるトリガーが期待できるかとうかを確認する必要がありそうです。

アリババの場合は、まずは何といっても経営陣が示したように、「中核事業であるEコマースとクラウド・インテリジェンスの成長を再び加速させること」です。その成果を次の四半期決算で示されれば、バリュエーションの修正につながると思います。

次にアリババの事業内容を考慮すると、中国経済見通しの改善もトリガーとなり得ます。足元で中国当局は中国株離れや株安への対応策を打ち出していますが、それだけでは不十分との見方が多いようです。過去の経験からすると、市場の悲観センチメントがピークに達した際、中国当局は予想外に素早く対策を打ち出すことがあります。

当面は旧正月連休明け後、あるいは3月の全国人民代表大会(全人代)で中国当局が明確に景気対策を打ち出せるかどうかが注目されます。一部で期待されている大規模な景気支援策があった場合、アリババをはじめとする中国株の見直しにつながる可能性があります。逆に何もなかった場合、中国株は一段の売り圧力に直面するかもしれません。総合的にみると、先週の見方と同様ですが、今は「過度な悲観も過度な楽観も避けるべきかもしれません。」

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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