乱高下続く株式市場。改めて「トランプ関税」の本質を探る
投資情報部 鈴木 英之
2025/04/11
4/11(金)の東京株式市場は、大きく売りが先行する形で取引が開始されました。ホワイトハウスの発表によると、中国から米国への輸入品にかかる関税が145%に上昇するとのことです。これまでの125%に、合成麻薬フェンタニルの流入を理由に課される20%が加えられることになります。「トランプ関税」を巡る一連の動きは、米中貿易戦争の様相を呈しつつあり、4/10(木)の米株式市場は再び急落し、東京株式市場はその流れを引き継いでいます。
「トランプ関税」の大きな目的は、中国との貿易不均衡の是正にありそうです。米国の不満は「中国はこれまで、WTO(世界貿易機関)に参加し、世界貿易にアクセスできる恩恵を受けながら、知的財産を軽視し、補助金で輸出産業を保護するなど、反自由貿易主義的行為を行ってきた」という点であるとみられます。その結果、米国は財政赤字に加え貿易赤字が膨らんでいるので、それを是正したいということだと考えられます。多くの国で相互関税の上乗せ部分が90日間停止され、中国からの輸入品にかかる関税だけ引き上げられた理由もここにあるとみられます。
今のところ、米国と中国の間で本格的な交渉がスタートする兆しはみえないようです。「トランプ関税」により、すでに不動産価格下落で痛手を受けている中国経済にさらに悪化の可能性が出てきました。また、米国も今後輸入物価の上昇を経て、物価高騰の悪影響が本格化してくるとみられます。4/10(木)に発表された米消費者物価指数(CPI)は予想を下回りましたが、関税の影響は時間差をもって米経済に影響してくるとの理解から、材料視する向きは少なかったようです。
米国と中国という2大経済大国に経済悪化懸念が強まってきたことは、世界の株式市場および商品市場にとってもネガティブな材料になるとみられます。
一方で「トランプ関税」には大きな問題点があります。米国の主力IT企業の多くも、世界的な水平分業を活用しており、中国から米国へ輸入される「米国製品」(たとえばスマホ・半導体・EV)も多いためです。実は、これまでの自由貿易体制の恩恵を受けてきた一方の主体者は、米国の代表的テック企業であり、中国に課せられた関税の影響を大きく受け、打撃を受けるとみられます。したがって、今後は米国の産業界からも「トランプ関税」の是正を求める声(イーロン・マスク氏の「関税反対」は一例)は強まりそうです。なお、日本の製造業も中国で生産した商品を米国に輸出しているケースは多い(たとえばゲーム機、電子機器、自動車部品他)とみられ、業績への影響が懸念されます。
ただ、4/11(金)時点の日本経済および東京株式市場自体はすでに最悪期を通過している可能性が大きいとみられます。日経平均株価が一時31,000円を割り込んだ4/7(月)に、日本から米国への輸入に係る「相互関税24%」が織り込まれたとみられるためです。世界中の他国に先駆けて、日本は米国との通商交渉に臨んでおり、その成果を先行して享受できる可能性があります。
そもそも、米国への輸入にかかる関税は、鉄鋼・アルミ、自動車を含め世界の国々を対象に同じ率で課されており、日本の国際競争力が米国以外の他の国々よりも低下する可能性は低いとみられます。また、米国内ですぐに輸入品を代替できる商品はそう多くはないとみられ、結局、関税の負担は米消費者や企業が負うことになりそうです。
国内では野党から消費税引き下げを求める要求が強まっているようです。一部報道によると、政権与党である自民・公明両党も食料品を念頭に消費税減税を検討し始めていると伝えられています。7月には参議院選挙を控え、政権与党の苦戦が予想される中「消費減税」が主要論点になる可能性もあります。米トランプ政権は「消費税は関税と同じ」と主張しており、消費減税は取引材料となりやすいため、今後の議論の盛り上がりが期待されます。
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