来年の日本株にとって意外な米国金利のシナリオとは?

来年の日本株にとって意外な米国金利のシナリオとは?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2023/12/26

楽観ムードが続く。日銀は大規模緩和の維持を決定

12月第3週(12/18-22)末の日経平均は、前週末比198円5銭高(+0.60%)と週足ベースで続伸。

第2週から楽観ムードを引き継いだ形です。年内最後のFOMC(現地時間12/12-13)とFRB議長会見を通過後、FRBへのハト派期待が強まり、米債券利回りが大幅低下。株式市場の追い風となり、日米両市場で堅調な株価推移が続きました。第3週突入後、複数のFRB関係者が市場のハト派期待を抑制するための発言をしましたが、顕著な効果はありませんでした。米経済のソフトランディングが成功し、「適温相場」が続くとの楽観的な見方が広がり続け、現地時間12/19(火)に米主要3指数は揃って年初来高値を更新しました。

東京市場では、米株に連れ高した他、円安ドル高への揺り戻しが押し上げ材料となった格好です。12/19(火)の日銀金融政策決定会合では、大規模金融緩和の維持を決定。12/20(水)に日経平均は一時600円超高となり日中高値が年初来高値(終値・7/3)を上回る場面もありました。

第3週半ばの12/20(水)、米国市場で年末の長期休暇を控えた持ち高調整や、利益確定売りが発生。12/21(木)に東京市場は米株に連れ安。翌週明けには欧米市場の休場(クリスマス)を控え、様子見気味で終えた形です。12/25(月)には、東証プライム市場の売買代金が2.5兆円を割れ、本年最低を記録しました。

日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(12/15~22・図表7)では、海運大手3社がランクイン。首位の川崎汽船(9107)は、上場来高値も更新しています。紅海で、武装組織による襲撃が相次ぎ、商船の通航回避が続々と発生。海運運賃が上昇するとの見方が広がったことが背景にあります。※12/25(月)にデンマークの海運大手APモラー・マースクが紅海経由の運航再開に向け準備していると発表。日本大手海運3社は大幅安。

日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(12/15~22・図表8)の首位は、ゲーム大手のネクソン(3659)です。12/22(金)の取引時間中、中国当局がオンラインゲームへの規制強化に向けた草案を発表。中国向け売上高が全体の24%(22.12期)を占めているため、悪材料となりました。

図表1 日経平均・NYダウの動き

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(12/15~12/22)

図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(12/15~12/22)

来年の日本株にとって意外な米国金利のシナリオとは?

米国株は11月初旬以降、堅調に推移し、12月に入ると主要株価指数が連日で年初来高値を更新するなど、年末ラリーの様相を呈しています。一方、日経平均は11月初旬こそ、米国株高に連動して堅調でしたが、下旬から足元にかけて、上値の重い展開が続いています。

そもそも、米国株高の背景には米国金利の低下があります。前々回のFOMC(連邦公開市場委員会、10/31・11/1開催)で、FRB(連邦準備制度理事会)の金融政策スタンスがハト派化し、それ以降、市場においてFRBが来年(24年)にかけて利下げへ転換するとの見方が強まりました。米長期金利の低下が米国株高につながる、いわゆる“金融相場”となったのです。

日本株にとっても、米国株高は追い風となります。しかし、米金利が低下したことによるドル安・円高が、日本株の足かせになりました。また、米金利の低下に加え、日本では12月に入り、マイナス金利政策の解除など脱金融緩和の思惑が高まり、日本の金利が高まったことでドル安・円高に拍車がかかりました。来年(2024年)の株式市場を観る上でも、引き続き金利動向への注目が強いと考えられます(本稿では主に米国金利の見方について解説します)。

図表9 日米株価指数と米10年国債利回り

まず、筆者はかねてから米国市場について『山の尾根を歩いている』状況だと例えてきました。現在の米国市場が歩んでいる尾根は、経済とインフレが緩やかに減速していくソフトランディングに続く道であり、市場にとってもっとも望ましいシナリオです。しかし、尾根の両サイドには深い谷があり、片方の谷は急激な景気後退(ハードランディング)シナリオ、逆の谷は長期金利が再上昇するシナリオです。

図表10 米国相場のイメージ図

(1)ソフトランディングシナリオ
米国株にとってもっとも望ましいシナリオです。米10年国債利回りは10月下旬の5%超から大きく低下し、4%を少し下回った水準にあり米国株高につながりました。もともと、FRBは政策金利について『より高く、より長く(Higher for Longer)』とのスタンスを示していました。しかし、前々回のFOMCにおいて、このスタンスは事実上、撤回されました。FRBの金融政策スタンスがハト派へ急旋回したことが、米国金利が低下した大きな要因となりました。

一般的に長期金利は景気見通しを反映していると言われています。現状、米10年国債利回りは3.9%前後となっています。米予算局によると米国の潜在成長率はざっくり1.8%前後、これに長期のインフレ見通しとしてFRBのインフレ目標値(2%)を加えると、3.8%前後が景気見通しに対する長期金利の均衡点と考えられます。つまり、現状の10年国債利回りは、概ね景気に対して中立的な水準といえるでしょう。ソフトランディングシナリオに基づく、金利低下と米国株高(ひいては円高・ドル安)は、一応の目途がついたといえるのかもしれません。

(2)ハードランディングシナリオ
今のところ米国金利の低下が米国株高につながっていますが、景気見通しが悪化することで金利が一段と低下すれば、米国株にとって逆風になると考えられます。これはいわゆる逆業績相場であり、景気後退を嫌気してリスク資産である株式を売り、安全資産である債券が選好されます。日本株にとっては、米国株安に加え、米金利低下による円高・ドル安も逆風となります。現状、米国経済指標を見る限り、急激な景気後退を示唆するようなデータは見られずリスクシナリオとなりますが、米国株以上に日本株にとって避けたいシナリオと言えるでしょう。

(3)長期金利再上昇シナリオ
これは24年にかけて利下げが想定よりも進まないシナリオとなります。米金利上昇で米株安となる逆金融相場が想定されます。前回のFOMC(12/12-13開催)では、24年にかけて3回(0.25%pt×3)の利下げシナリオが提示されましたが、市場が予想する政策金利見通し(FFレート先物から算出)によると、現在は6回の利下げが織り込まれています。市場の利下げ見通しは(2)のハードランディングシナリオにつながりかねない急激なシナリオであり、過剰な利下げ期待が修正されるタイミングでも金利上昇が起こりうると考えられます。

また、金融政策の方向性を決める上で注目されるインフレについても注意が必要です。インフレ指標の1つであるPCEデフレータは前年同月比+2.6%、エネルギー価格と食品価格を除いたコアPCEデフレータが同+3.2%(いずれも11月統計)であり、FRBがインフレ目標に掲げる2%へ向けて鈍化してきています。インフレ率が、ここから最終的にインフレ目標にたどり着くまでの道のりを“最後の1マイル”と表現されているのですが、この1マイルを走り切ることは非常に困難なのではないか、との見方があります。

例えば、現状は金利低下を受けて住宅ローンなどの金利が下がり始めています。住宅購入を予定していた消費者にとって朗報ではありますが、少しローン金利が下がったからと言って、まだ上昇に転じる前に、焦って購入に踏み切れば(そういう消費者が多くなると)、住宅価格やローン金利の上昇を促す可能性があります。そうなればインフレの鈍化見通しに狂いが生じ、政策金利の引き下げを進めにくくなるでしょう。現状のようにインフレが鈍化してきたタイミングで、個人消費などが活性化する可能性に注意する必要があります。

米国株にとって金利上昇は逆風になるでしょうが、日本株にとっては米金利上昇により円安が進めば、外需株を中心に追い風になると考えられます。実際、2022年の株式市場は、米国が利上げ局面となる中で成長株(グロース株)中心に軟調となる中、日本株は相対的にしっかりとした値動きとなりました。

図表11 政策金利予想(FOMC VS. 市場)

要約しますと、(1)のシナリオは米国株にとって金融相場の継続であり、一見するとベストシナリオに映るかもしれません。しかし、米金利低下で円高が進めば、日本株にとってはかならずしもベストではないでしょう。また、現状の米金利水準が景気に対し中立であるとすれば、一段の金利低下で金融相場とならない可能性に注意する必要があります。また、(2)は、現状においてその兆候は確認されませんが、日米の株式にとって最も避けたいワーストシナリオになるでしょう。(3)は筆者の考えるメインシナリオであり、逆金融相場で米国株には逆風となりますが、日本株にとっては円安の追い風が期待できると考えられます。

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