経済分析パンデミックからエンデミックに移行できるか? パンデミック前には戻れない

パンデミックループからの脱却は実現するか

パンデミックからエンデミックへの移行の条件は、世界のワクチン接種の不均一性の解消、今後発生する変異種の下での致死率の低下継続、今後の変異種にも有効な治療薬の開発・供給、細胞免疫機能の継続、市中感染拡大初期の予防的社会的距離政策の導入と一定の補償であろう。入院・重症リスクが低減しても、基本的な感染対策を放置して経済再開を優先すれば、病床へのひっ迫は解消せず、手遅れになってから社会的距離政策の強化を余儀なくされ、パンデミックループから離脱できない国がまだ多いだろう。接種完了人口比率の重要性は低下し、ブースター接種人口比率がより重要な指標となるだろう。ブースター接種に手間取っている日本は、また、他の先進国比で周回遅れとなろう。

ジグザグ型経済活動の振れ幅は縮小するが、2022年中に解消するとは考えない。パンデミックは財サービス間、産業間の需要シフトを伴い、その長期化は、経済の供給側への調整圧力(資本、労働の産業間移動)を高める。これも負の供給ショックであり、供給側が瞬時には新たな需要に適応できないので、供給制約により実現しなかった需要、価格や賃金の上昇、実質購買力の低下という機会費用を伴う。パンデミックの長期化で、パンデミック前の経済構造、企業や家計の行動パターンへの回帰はより困難となる。日本経済は、鋭角的な景気拡大を見込まないが、緩慢だが持続的な景気拡大の余地が広がりつつある。ただし、検査・追跡・隔離インフラの構築、ブースター接種の早急な実施が最優先課題である。

米国のインフレ率、金融政策、中間選挙

米国インフレ率上昇の原因のかなりの部分は、各種の供給側撹乱要因に由来し、それは購買力の増加を伴わないため、インフレ率上昇は持続的とはならず、2022年前半にピークをつけて低下基調に向かうだろう。インフレ率上昇の持続には、購買力上昇の兆候と考えられる名目GDP成長率や信用創造の伸びの加速が必要だが、それは見込みづらい。インフレ率のピークを1~2四半期先送りする要因は、合成の誤謬に由来する最適在庫水準の瞬間的な上方シフトであろう。
米国連銀は金融政策正常化の前倒しをより明確にしたが、その真の理由が、i) インフレ期待の安定化、ii) 景気過熱予防、のいずれに重心を置くかによって、FF金利の経路は異なるだろう。前者であれば、2回程度の利上げの後、その時点の経済情勢によっては様子見の姿勢にシフトするかもしれない。後者であれば、ほぼ毎四半期の25bpの利上げが続くだろう。どちらの意図が強いかが分かるのは、早くても2022年7-9月期だろう。インフレ率のピークと利上げの開始がほぼ同じタイミングで2022年前半のどこかで訪れることを考えると、現在の前のめりのスタンスは容易には変わらず、タカ派的な景気過熱予防のメッセージが中心となりやすいだろう。ただし、負の供給ショックの中での利上げ継続は実体経済にブレーキをかけるため、途中で(2023年に)頓挫する可能性が高い。潜在成長率(≒自然利子率)の低下は続いているとみられ、これも利上げ継続のハードルを引き上げよう。

米国連銀の景気判断は景気循環で増幅される傾向があり、過去においても、2013年のTapering、2017~2018年の連続利上げなど違和感のある判断がなされた。平均的インフレ目標の導入や最大雇用重視という、数十年に一度の金融政策目標の変更にもかかわらず、従来型の判断が優先されそうである。連続利上げ路線が優勢になると、商業不動産、ハイイールド社債、SPAC、レバレッジドローン、株式など、リスク資産への調整圧力が高まるだろう。名目GDP成長率>10年債利回りという、資産価格にフレンドリーなレジームは残るだろうが、資産価格への追い風はかなり減退しよう。特に、米国連銀のバランスシート圧縮が議論され始めると、需給悪化を通じた長期金利上昇圧力が出始め、資産価格への逆風となりやすい。連銀のバランスシートがGDP比10%(約2兆ドル)圧縮されると、10年債利回りには40bp程度の上昇圧力が働くとみられる。

パンデミックの収束が見込めないこと、Build-Back-Better法案の上院可決の見通しがさらに厳しくなったこと、インフレ率の上昇継続など、バイデン政権への逆風は強くなっている。2022年11月の中間選挙での国勢調査を反映した選挙区割りの変更は、共和党に有利に働くと考えられ、上下院ともに共和党が過半数を獲得する可能性が高まっている。

中国: ゼロコロナ政策の持続性

中国経済の注目点は、ゼロコロナ政策をいつまで続けるのか、である。そのコストは、継続期間が長期化するほど累積し、既に多く存在する潜在成長率の下方屈折要因を増幅しそうだ。成長会計から見た投入要素の伸びの鈍化(資本ストックと技術進歩率)または低下(労働力人口)、負債蓄積による成長前倒しが続けられない、所得格差拡大への配慮、従属人口比率の上昇、時期尚早な脱工業化など、潜在成長率の低下要因は枚挙に事欠かない。

松岡 幹裕
SBI証券 金融調査部(チーフエコノミスト)

(株)三菱総合研究所、(株)大和総研でのエコノミストを経て、1997年から機関投資家向けサービスに従事。1999年からジャーディンフレミング証券(現JPモルガン証券)、2001年からドイツ証券を経て、2018年11月にSBI証券に入社。Institutional Investor All Japan Research Teamでは、2003-2006年2位、2007-2012年3位、2007-2012年4位、2017年5位にランクイン。米国ブラウン大学大学院経済学部修士取得。

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