~【バフェット氏とソフトバンクの売り】と【生成AIブーム】~

~【バフェット氏とソフトバンクの売り】と【生成AIブーム】~

投資情報部 李 燕

2023/04/13

4/6-4/12の香港市場はハンセン指数が小幅高、ハンセンテック指数は下落しました。不動産やヘルスケアが堅調だった一方、生成AI関連のハイテク株が堅調でした。テンセント(00700)やJDドットコム(09618)の大幅下落も指数を押し下げました。

今回のトピックスは、「【バフェット氏やソフトバンクの売り】と【生成AIブーム】」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:4/12(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(4/12(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02007 碧桂園 [カントリー・ガーデン] 14.8% 10.1% -15.4% 中国不動産大手。不動産市況の改善を好感した。大手証券会社がまとめたデータによると、主要46都市の住宅販売は4月1週目(4/2-4/9)に前年同期比23%増となった。
03692 Hansoh Pharmaceutical 14.0% 9.4% -10.2% 医薬品大手。大手証券会社が目標株価を引き上げた。理由として、先発医薬品(新薬)の比率が比較的高く、業績の伸び余地は大きいと予想されるためとした。
06098 CG SERVICES 12.7% 10.3% -26.3% 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。不動産市況の改善を好感した。大手証券会社がまとめたデータによると、主要46都市の住宅販売は4月1週目(4/2-4/9)に前年同期比23%増となった。
00981 中芯国際 [SMIC] 10.6% 46.8% 34.5% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。中国の大手証券会社が相次いで生成AIの応用拡大は半導体の需要拡大につながるとし、半導体株を推奨した。中国本土市場で生成AIブームの様相を呈し、同社の本土上場のA株が大幅に上昇した。
00960 龍湖集団 [ロンフォー・グループ] 10.5% 11.8% -3.0% 中国不動産大手。不動産市況の改善を好感した。大手証券会社がまとめたデータによると、主要46都市の住宅販売は4月1週目(4/2-4/9)に前年同期比23%増となった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00291 華潤ビール [チャイナリソーシズビール] -4.4% 6.3% 2.7% ビール大手。3/31に52週高値を付けた後、4月に入ってからは利益確定売りが優勢となった。ポジション調整による売りとみられる。
00669 創科実業 [テクトロニック・インダストリーズ] -5.0% -3.9% -15.0% 大手電動工具メーカー。米国の景気悪化懸念が警戒された。同社は売上高の約8割を北米が占めている。
09618 JDドットコム -6.7% -3.6% -38.2% EC大手。本文をご参照願います。
00700 騰訊 [テンセント・ホールディングス] -7.2% 7.7% -1.9% ゲーム・フィンテック大手。本文をご参照願います。
09888 百度 [バイドゥ] -8.7% 3.5% 1.1% 検索エンジン大手。生成AI関連銘柄が売られた流れの一つ。詳細は本文をご参照願います。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00981 中芯国際 [SMIC] 10.6% 46.8% 34.5% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。中国の大手証券会社が相次いで生成AIの応用拡大は半導体の需要拡大につながるとし、半導体株を推奨した。中国本土市場で生成AIブームの様相を呈し、同社の本土上場のA株が大幅に上昇した。
00772 閲文集団(China Literature) 8.2% 30.3% 11.1% オンライン文学プラットフォームを運営。前向きな業界レポートが買い手掛かりとなった。同レポートでは、業界全体の市場規模は2022年に2,520億元に達した可能性があり、2025年には3,000億元に拡大する見通しだと予想した。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] 4.5% 8.7% -20.1% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。200日移動平均線まで下落したタイミングで反発した。中国本土系の投資ファンドによる持ち株比率の引き上げがみられた。
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] 3.7% 10.5% -1.2% 大手光学機器メーカー。3月のスマートフォン用レンズの出荷台数は引き続き軟調で(前年同月比で3割減)だったが、回復の兆し(前月比では5%増)が示され、買われた。
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] 3.0% -3.4% -16.0% 大手家電メーカー。市場予想を下回った決算を発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き下げたが、同社の筆頭株主が持ち株比率の引き上げ計画を発表し、買い優勢となった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09618 JDドットコム -6.7% -3.6% -38.2% EC大手。本文をご参照願います。
00700 騰訊 [テンセント・ホールディングス] -7.2% 7.7% -1.9% ゲーム・フィンテック大手。本文をご参照願います。
09888 百度 [バイドゥ] -8.7% 3.5% 1.1% 検索エンジン大手。生成AI関連銘柄が売られた流れの一つ。詳細は本文をご参照願います。
03888 金山軟件 [キングソフト] -9.7% 38.4% 27.3% ゲーム・ソフトウェア大手。生成AI関連銘柄が売られた流れの一つ。詳細は本文をご参照願います。
02018 瑞声科技 [AACテクノロジーズ] -16.5% -6.9% -9.4% 音響部品メーカー。今年秋に発売される予定「iPhone 15 Pro」 は新たに感圧タッチ式のソリッドステートボタンが搭載されると予想されていたが、アップル関連の著名アナリストがその計画は見送れる見通しだと指摘した。同社はその計画の恩恵を受けると期待されただけに、売りが膨らんだ。同観測を理由に、大手証券会社2社が投資判断を引き下げた。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

4/6-4/12の香港市場では、ハンセン指数が0.2%上昇、ハンセンテック指数は1.6%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は3.2%下落しました。

米国市場で米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策姿勢を大きく左右する消費者物価指数(CPI)の発表を控え、ハイテク株の地合いが弱い(※)なか、米国上場の中国ADRは調整しました。(※4/12付レポート「【4月の米国株】1-3月と逆転し、S&P500指数>ナスダック100指数>SOX指数に?!」も併せてご参照願います。)

ハイテク株の調整は、中国当局が生成AI関連株への投機をけん制し、生成AIの規制案を発表したことも大きく響きました。生成AI関連銘柄の百度(09888)やキングソフト(03888)が大幅下落しました。詳細は「今回のトピックス」部分をご参照願います。

テンセント(00700)とJDドットコム(09618)の下落もハンセンテック指数を押し下げました。テンセントは、大株主であるNaspers(南アフリカ共和国の大手インターネット企業)の子会社Prosusが同社株を追加売却するとの観測で売られました。Naspersは昨年半ばに自社株買いの資金を捻出するためテンセント株の持ち分を段階的に縮小しましたが、その動きが再開される可能性があり、警戒を誘いました。Naspersが前回同様に立て続けに売却を進めれば、株価を抑制する可能性があります。

JDドットコムは、同社創業者の劉強東氏が保有株の一部を売却したことが明らかになりました。取締役会の会長でもある劉氏は売却により保有比率が68.98%から68.70%に低下しました。大手証券会社が米国上場のADR株の目標株価を引き下げたことも売りを誘いました。同証券会社は消費マインドの回復が予想より遅いペースで進んでいることを理由に、JDドットコムの業績予想を下方修正しました。

業種別では、生活必需品も軟調でした。ビール大手3社(華潤ビール(00291)、青島ビール(00168)、バドワイザーAPAC(01876))の下落が響きました。特段悪材料は出たわけではなく、ビール大手株が3月末まで上昇が続いたこともあり、ポジション調整による売りとみられます。

一方、素材や不動産は堅調でした。不動産市況の改善が好材料となりました。大手証券会社がまとめたデータによると、4月1週目に当たる4/2-4/9に主要46都市の住宅販売は前年同期比で23%増加しました。また、中国当局が発表した新規貸出データでは、個人向け中長期融資(主に住宅ローン)が回復し、不動産市場が上向き始めていることが示唆されました。不動産デベロッパー大手のカントリーガーデン(02007)や龍湖集団(00960)、アルミニウム大手の中国アルミ(02600)、コウセイコパー(00358)が買われました。金価格が2,000ドルを突破したことを好感し、ツージンマイニン(02899)や招金砿業(01818)も上昇しました。

ヘルスケアも買われました。ヘルスケアは3月末まで調整が続きましたが、4月に入ってからは主力銘柄で買い優勢が目立ちました。大手医薬品メーカーの翰森製薬(03692)やバイオ医薬品開発受託大手の薬明生物(02269)、バイオ医薬品メーカーの百済神州(06160)と再鼎医薬(09688)などが買われました。大手証券会社がこれらの主力株について買い推奨しました。

しかしながら、3月に大手証券会社が同じく買い推奨しても売り優勢だったことを考えると、ヘルスケアは3月まで調整が続いたことでバリュエーションが低下し、「お手頃感」が出てきたことが今回の反発の主因と言えそうです。過去の経験からすると、このような「リターンリバーサル」はしばらく続く可能性があります(図表4)。

図表4 ヘルスケアサブ指数の株価推移(2020年1月以降)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

なお、ヘルスケア関連株は比較的ボラティリティが高い傾向があります。特に個別銘柄がさらに高くなりやすいので、ETFの方が多少ボラティリティは抑えられる可能性があります。また、分散により個別銘柄リスクの低下も期待できます。SBI証券で取り扱っている中国のヘルスケア関連ETFは、チャイナバイオ(02820)が挙げられます(図表5)。詳細はリンク先も併せてご参照願います。

図表5 チャイナバイオ(02820)の情報

※当社ホームページをもとにSBI証券が作成。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「【バフェット氏とソフトバンクの売り】と【生成AIブーム】」です。

【バフェット氏とソフトバンクの売り】
1)バフェット氏によるBYDの追加売却
米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が、中国新エネルギー車最大手のBYD(01211)を追加売却したことが明らかになりました。4/11に公開された情報によると、バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが保有するBYDの比率は3/31時点で従来の11.87%から10.9%に低下しました。

BYD株に対する保有比率の引き下げについて、バークシャー・ハサウェイの副会長を務めるチャーリー・マンガー氏は過去取材でバリュエーション面での割高さを指摘したと報じられています。同報道によると、チャーリー・マンガー氏は当時(時期不明)、「BYDのPER(株価収益率)は50倍を超えており、既に割安とは言えない水準だ」との認識を示しました。

なお、3/31時点(今回売却時)のBYDのPERは35倍、予想PERは25倍でした。いずれも50倍を大きく下回っているものの、バークシャー・ハサウェイが追加売却したことからすると、まだ割安とは言えない水準と認識されているかもしれません。折しも、中国ではテスラ(TSLA)が仕掛けた値下げ競争が、自動車業界全体に広がっていた時期と重なります。BYDは厳しい競争の中でも販売好調が続きましたが、3月に予想外に一部車種で値下げを実施しました。3月は多くのガソリン車メーカーも値下げを実施し、競争激化が業界全体に広がっていることが示されました。

業界をめぐるこのような動向が、バークシャー・ハサウェイの追加売却に影響したかどうかはわかりません。他方、業界の競争激化とバフェット氏の売却が重なったことは、BYDだけでなく、新興EVメーカー3社(ニオ(09866)、リーオート(02015)、シャオペン(09868))にとっても重石となりそうです。

なお、バフェット氏は4/12にCNBCの取材で、「BYD株からキャッシュアウトされた資金をより有望な投資対象に投入する予定だ」としながら、「現時点では保有削減(追加売却)を急いでいないとも強調した」と報じられています。昨年のように立て続けの売却する意向はないとも読み取れるコメントと言えそうです。

2)ソフトバンクがアリババの持ち分売却へ動く
フィナンシャル・タイムズ(FT)は4/13に、「ソフトバンクグループは今年に入り前払いのフォワード契約を通じて、アリババの株式約72億ドル相当を売却した」と報じました。フォワード契約による売却で、ソフトバンクグループの持ち分は最終的に3.8%に低下する見通しだと報じられています。

このニュースを受け、4/13の香港市場ではアリババ(09988)が寄り付きで5%を超える下落となりました。ただ、場が明けると下げ幅を縮め、前場では2.3%の下落となりました。ソフトバンクグループがアリババの持ち分をほぼ売却することへ動いたことはサプライズですが、ソフトバンクグループが段階的にアリババの持ち分を減らしてきたこともあり、売却自体はサプライズではないと言えます。また、アリババの事業6分割とスピンオフ計画(※)が下値を支えていると考えられます。

(※3/30付レポート「~アリババの事業6分割、真意はECとAIの「二刀流」?!~」をご参照願います。)


【生成AIブーム】
中国本土市場では生成AI関連株への投資熱が冷めず、一部銘柄が急騰しています。投機マネーの流入も指摘される中、中国政府系経済紙は生成AI関連株への投機をけん制する記事を発表しました。同記事は、中国本土上場のAIセクターの株価収益率(PER)は136倍と高く、一部の生成AI関連企業は赤字状態にあると指摘しました。

なお、中国当局は3月にも生成AI関連株への投機をけん制する記事を発表しています。当時、生成AI関連株の調整(幅と期間)は限定的でした。今回、前回同様に短期間の調整で済むかどうかは不透明と言えそうです。

というのは、まず、米国の金融政策の動向をめぐる不透明感から、足元では投資家にとってリスクの取りづらい環境と言えそうです。加えて、米国市場では生成AIブームで急騰していたシースリーエーアイ A(AI)が前週に会計問題疑惑で急落し、足元も軟調さが続いています。生成AI関連銘柄に対する投資家の警戒感はまだ続くかもしれません。(香港市場は米国市場の影響をより受ける傾向があります。)

次に、今回、中国当局は生成AI関連株への投機をけん制すると同時に、生成AIの規制案(草案)を発表しました。同草案では、生成AIサービスの運用許可に先立ちセキュリティー審査を義務づける計画が示されました。急速に人気を集めている生成AIをめぐり、それがもたらし得るリスクを警戒し、規制を強化しようしています。ただ、この動きは中国に限ったことではありません。米バイデン政権は4/11にAIの規制案に向けて一般からの意見募集を開始すると発表しました。米中両国で生成AIをめぐる規制の不透明感はしばらく続くかもしれません。

一方、米中とも生成AIの有効性や実用性を否定しているわけではなく、中国はむしろAI技術を活用していく方針です。生成AIの規制案が発表された翌日、中国政府系経済誌は「プラットフォーム企業が大いに活躍することを支援する」と題した記事を掲載しました。同記事では、プラットフォーム企業の功績として「アリババの翻訳アプリは毎日200を超える言語で200万社を超える中小企業に翻訳サービスを提供しており、CATLや三一重工などの企業ではテンセントのクラウドサービスを利用し、工業のAI化(製造メーカーにおけるAIの活用)が実施されている」と記しました。

したがって、中国当局によるAIへの規制強化は株式市場での過熱感(中国本土では投機色が強い)への警戒や「安全性の確保」が目的で、AIの利用自体を禁じる意向ではないと言えます。むしろ、「安全性を確保しつつ、経済へのプラス面を生かす」方針と思われます。よって、生成AIへの投資熱(投機熱)は一旦冷めるかもしれませんが、経済への応用拡大が見込まれることから、中長期的な投資テーマとしては引き続き注目に値すると考えられます。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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