~人民元安とバフェット氏のBYD株売り~

~人民元安とバフェット氏のBYD株売り~

投資情報部 李 燕

2023/06/29

6/23-6/28の香港市場はハンセン指数が小反落、ハンセンテック指数は上昇しました。好悪材料が混在するなか、主要指数はまちまちの展開となりました。

今回のトピックスは、「人民元安とバフェット氏のBYD株売り」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の推移(日足、6ヵ月)

注:6/28(水)までのチャートです。今回より一目均衡表ではなく、移動平均線の表示となります。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(6/28(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
06098 CG SERVICES 9.1% 13.6% -17.3% 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。経済見通しに対する李強首相の前向きな発言と中国人民銀行の元安抑制への取り組みが好材料となり、不動産関連株が買われた。
02313 申洲国際 [シェンジョウインター] 6.2% 24.1% -3.0% ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。7-9月期の受注はプラスの伸びに転じる見込みだとし、大手証券会社が買い推奨した。
00669 創科実業 [テクトロニック・インダストリーズ] 6.1% 14.5% 4.5% 大手電動工具メーカー。米国の5月の新築住宅販売件数が予想に反して増加し、買い材料となった。同社は北米市場の売上高構成比が8割と高い。
01810 小米集団 [シャオミ] 5.5% 3.2% -10.7% スマートフォン・IoT家電大手。スマホ関連銘柄が買われた流れの一つ。中国国内のスマホ出荷台数は1-5月に前年同期比0.7%減と軟調だったが、5月は前年同月比25%増となり、回復がみられた。
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] 4.9% 2.3% -14.2% 大手光学機器メーカー。スマホ関連銘柄が買われた流れの一つ。中国国内のスマホ出荷台数は1-5月に前年同期比0.7%減と軟調だったが、5月は前年同月比25%増となり、回復がみられた。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01997 九龍倉置業 [ワーフ・リアルエステート] -4.3% -0.4% -10.1% 香港地場の不動産会社。200日移動平均の維持に失敗した後、売り優勢が続いた。
01211 比亜迪 [BYD] -4.7% 7.5% 19.3% 中国EV最大手。バークシャー・ハサウェイの追加売却を嫌気し、利益確定売りに押された。今回の売却によりバークシャー・ハサウェイの保有比率は従来の9.21%から8.98%に縮小した。
01177 中国生物製薬 [シノ・バイオファーマ] -4.7% -11.9% -20.8% 大手医薬品メーカー。バイオ医薬品関連銘柄をめぐる地合いの軟調が続き、続落した。大手投資ファンドが保有株比率を引き下げた。
00762 中国聯通[チャイナ・ユニコム] -6.7% -16.1% -14.2% 通信キャリア。特段材料はなく、6月末に向けたポジション調整の売りが続いたもよう。
00267 中国中信 [シティック] -7.0% -2.8% 1.2% コングロマリット。資源関連事業も手掛ける。配当落ちによる影響。配当の権利落ち日が6/26だった。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01810 小米集団 [シャオミ] 5.5% 3.2% -10.7% スマートフォン・IoT家電大手。スマホ関連銘柄が買われた流れの一つ。中国国内のスマホ出荷台数は1-5月に前年同期比0.7%減と軟調だったが、5月は前年同月比25%増となり、回復がみられた。
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] 4.9% 2.3% -14.2% 大手光学機器メーカー。スマホ関連銘柄が買われた流れの一つ。中国国内のスマホ出荷台数は1-5月に前年同期比0.7%減と軟調だったが、5月は前年同月比25%増となり、回復がみられた。
02018 瑞声科技 [AACテクノロジーズ] 3.9% 11.3% -1.8% 音響部品メーカー。スマホ関連銘柄が買われた流れの一つ。中国国内のスマホ出荷台数は1-5月に前年同期比0.7%減と軟調だったが、5月は前年同月比25%増となり、回復がみられた。
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] 3.6% -2.3% -14.8% ソフトウェア会社。特段材料はなく、6月末に向けたポジション調整を背景とした需給要因のもよう。大手投資ファンドによる売り買いが交錯した。
01024 快手(Kuaishou Technology) 3.3% 5.4% 2.4% ショート動画大手。端午節を挟んだ6/18-6/24の1週間、同社のECアプリの取引額が前週比で45%増加したと伝わり、買い材料となった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01347 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] -2.2% -1.6% -27.0% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。米バイデン政権が6/12に韓国と台湾の大手半導体メーカーに対し、半導体の対中輸出規制の適用除外措置を延長する方針だと報じられた後、売り優勢が続いた。同措置より、同社への代替需要は減少すると懸念された。
09618 JDドットコム -3.2% 6.1% -11.6% EC大手。「6/18」の販促イベントを巡り、競争激化と販売額の伸び鈍化が報じられ、売り材料となった。
00772 閲文集団(China Literature) -4.3% 13.6% -19.6% オンライン文学プラットフォームを運営。テクニカル要因のもよう。RSIが短期的に買われ過ぎサインとされる70%に達した後、売り優勢となった。
09698 万国数拠服務 -4.8% 11.6% -38.9% データセンターを運営。テクニカル要因のもよう。MACDから売りシグナルが示唆され、売り優勢となった。
09898 微博 -6.3% -17.9% -29.2% ソーシャルメディア・プラットフォーム運営会社。テクニカル要因のもよう。MACDから売りシグナルが示唆され後、売り優勢が続いた。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

6/23-6/28(※)の香港市場では、ハンセン指数が0.2%下落、ハンセンテック指数は1.0%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は0.6%下落(※)しました。

(※香港市場は6/22は端午節のため休場でした。米国市場は通常取引でしたので、HXC指数の騰落率は6/22-6/28のデータです。)

好悪材料が混在するなか、ハンセン指数とHXC指数は6/28の終値で200日移動平均をやや下回って引けましたが、ハンセンテック指数は200日移動平均線を上回りました。

好材料は、李強首相が6/27の夏季ダボス会議で「今年のGDP成長率目標の達成に自信を示し、内需拡大に向けてより実務的で効果的な措置を講じると表明した」ことです。また、中国人民銀行が6/27に人民元の中心レートを2営業日連続で予想よりも元高水準に設定したことも、投資家のセンチメントを支えました。中国当局が元安の抑制に向けて動き出したと評価されました。ただ、中国人民銀行は6/28は人民元の中心レートを市場予想とおおむね一致した水準に設定しました。

悪材料は、米中関係を巡る不透明感が再び強まったことです。ブルームバーグ通信によると、「米イエレン米財務長官は7月初めに北京を訪問し、中国政府の新しい経済閣僚と初のハイレベル経済協議を行う計画」です。一方、ウォール・ストリート・ジャーナルは6/27に「米バイデン政権は中国へのAI半導体輸出に対する新たな規制を検討している」と報じました。米中間のハイレベルでの対話は再開される一方で、ハイテク戦争はまだまだ続くことが示唆されました。

業種別では、ヘルスケアと金融が下落を主導しました。ヘルスケアは、前週の軟調地合いを引き継いだもので、主力銘柄が続落しました。金融は、一部主力銘柄の権利落ちによる影響が主因です。

一方、工業やエネルギーは比較的堅調でした。工業は、主にスマートフォン関連株が買い戻され、指数を押し上げました。中国国内のスマホ出荷台数は1-5月に前年同期比で0.7%減と軟調でしたが、5月は前年同月比で25%増となり、回復がみられました。それを受け、スマートフォン・メーカーの小米(01810)や、部品メーカーの瑞声科技(02018)や舜宇光学(02382)、受託・製造メーカーのBYDエレクトロ(00285)がそろって上昇しました。

エネルギーは、商品価格の持ち直しが支えとなりました。経済見通しに対する李強首相の前向きな発言が背景とみられます。

なお、主要指数と主力中国株の株価変動幅からすると、中国当局に対する政策期待が米中間の不透明感をある程度相殺しました。したがって今後は、李強首相が自ら示したように「内需拡大に向けてより実務的で効果的な措置」を早期に打ち出せるかどうかがより重要になってきます。政策の発表と実施が大幅に遅れる場合、主要指数は再び200日移動平均を下回る可能性があります。一方、早期の政策発表が行われれば、200日移動平均を上回る推移となりそうです。ただ、いずれに対しても市場の期待値は低下しているため、当面は下値も上値も限定的となるレンジ推移が続く可能性があります。

その際は、図表3の指数構成銘柄の騰落率とその要因からも分かるように、個別銘柄はファンダメンタルズ要因よりもテクニカル指標を参考にする短期のオプション取引が株価を左右する可能性があります。香港市場では個人投資家による短期のオプション取引が活発で、特にレンジ相場では証券会社がテクニカル指標を参考にその日のコールオプションやプットオプション銘柄を積極的に勧める傾向が強いです。したがって、レンジ推移の相場における株価変動に対しては「過度に意味をくみ取ろうとする」必要はなく、短期的には様子見姿勢を取る必要もあるかもしれません。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「人民元安とバフェット氏のBYD株売り」です。

【人民元安】

中国の景気見通しや米中関係をめぐる不透明感を背景に人民元安が進んでいます。特に5月以降の元安に対して、中国当局が容認姿勢を示してきたため、急激な元安を警戒し、元安は中国株のポジションを減らす動きにもつながっています。今後、元安がどこまで進むのか、中国人民銀行(中央銀行)の対応と過去の経験を確認してみたいと思います。

過去の経験からすると(図表4)、元安が急激に進んだ場合(①と②の部分)、中国人民銀行が設定する中心レート(対ドル、以下同様)の実績値対予想値は大きくマイナスとなりました。中国人民銀行が中心レートを市場予想より元高方向へ設定したことを意味し、いわば当局が元安抑制に向けて取り組んでいることを示します。その取り組みが続いた場合、元安は一定期間で終息し、その後は元高へ転じました。

図表4 人民元の中心レート(対ドル)の実績値対予想値、および人民元対ドルレートの推移(過去5年、元/ドル)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表4の③の部分を確認してみると、中国人民銀行は5月に入ってからの急激な元安に対し、しばらく容認する姿勢を取りました。しかし、足元では(6/26以降)人民元の中心レートを元高方向に設定し、元安抑制へ動き出しました。過去の経験からすると、中国人民銀行が元安抑制に動いた当初は、元安がしばらく続く可能性があります。したがって、足元は市場と中国人民銀行との攻防として、前回の安値である1ドル=7.3015元あたりが意識されやすい水準となりそうです。

もし、人民元が対ドルで7.30元台を上回って元安となった場合、中国株にとっても売り要因となりかねます。したがって、当面は元安を警戒する動きとなりそうです。他方、中国人民銀行は6/29に人民元の中心レートを大幅な元高方向に設定しました。過去同様に、中国人民銀行が元安抑制への取り組みを強化することが示唆されました。

ただ、最終的に元安に歯止めがかけられるかどうかは、中国人民銀行の取り組みに加え、中国経済に対する見通し改善も重要になってくると思います。たとえば、図表4の②部分では、中国人民銀行が元安抑制を続けただけでなく、中国当局が「ゼロコロナ政策」の撤廃と景気支援を表明したことが元高への転換につながりました。

よって今回も、中国人民銀行の取り組みに加え(当面は1ドル=7.30元台への突入となるかどうかに注視)、中国当局が「内需拡大に向けてより実務的で効果的な措置」を早期に打ち出せるかどうかも注目されます。李強首相が自ら景気支援を表明したことからすると、一段の景気支援策は早晩打ち出されることとなりそうです。他方、その時期や中身については不透明感も強いため、当面は既に政策が明らかになっている電気自動車(EV)関連銘柄などが物色の対象となりやすいかもしれません。

【バフェット氏のBYD売り】

中国当局が引き続き、EVへの支援を表明したことを受け、EV関連銘柄が比較的堅調に推移しています。しかし、中国EV最大手のBYD(01211)はやや調整気味です。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイが同社株を追加売却したことが明らかになったためです。

しかしながら、5/11付レポート「~バフェット氏売却でも、BYD株が上昇する理由~」でご紹介したように、バフェット氏の売りによる影響はどんどん低下しています。BYDの好業績とEVの販売実績が株高を支えてきました。したがって、今回もバフェット氏の売りによりBYDの株価は短期的に調整するかもしれませんが、その影響は一時的なものにとどまる可能性がありそうです。BYDは中国のEV業界における勝ち組(※)として引き続き、中長期投資に値するすると考えられます。

(※詳細は、ブルームバーグの記事「中国EV業界、淘汰進む-勝ち組はテスラとバフェット氏出資のBYD」をご参照願います。)

図表5 BYD(01211)の株価とバークシャー・ハサウェイの保有株数の推移(2000年1月から)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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