米雇用統計悪化!今後どうなる?
投資情報部 鈴木 英之
2025/08/04
米雇用統計悪化!今後どうなる?
米国の雇用統計(2025年7月分)が大きく下振れました。非農業部門の雇用者数は市場予想(10.4万人増)を大きく下回る7.3万人増、過去2か月分も合計で25.8万人下方修正され、雇用の実態は想定以上に弱かったことが明らかになりました。失業率も4.2%(前回は4.1%)へ上昇し、労働市場の緩みが顕在化する形となりました。<br /><br />消費と景気の先行きに対する警戒感が強まった結果、市場はすぐに反応。米国債の利回りは急低下し、ドルは売られ円高が進行。株式市場ではナスダックを中心に大幅安となり、「景気悪化+利下げ期待」の織り込みが加速しています。FRBの9月利下げ観測は89%(日本時間8/4午前8時30分時点)に急上昇しており、金融政策の転換点が近いと見られます。
こうした状況は東京市場にとって逆風となり、円高が進行することによって輸出関連株が売られやすくなります。さらに、米国株の軟調や米金利の低下を受けて、投資家はリスク資産全体に対する慎重姿勢を強めるでしょう。日経平均は下落圧力が続く可能性が高いと見られ、日経平均株価は短期的には40,000円(心理的節目)前後、中期的には37,800円(7/24高値42,065円から10%押し水準)が下値支持ラインとなる見込みです。
しかし、ただ悲観するのではなく、「こうした局面で何が買われるのか」を見極めることが重要です。短期的には、通信や医薬品、インフラといった内需系・ディフェンシブセクターに資金が向かいやすくなります。逆に、円高の影響を強く受ける輸送機器や精密機器には注意が必要です。
中期的に見ると、利下げによる金利環境の改善が、再び成長株、特にAIや半導体セクターへの資金回帰につながる可能性があります。今は調整局面入りが濃厚ですが、GAA(Gate-ALL-Around:半導体構造の次世代技術)やHBM(高帯域メモリ)などの技術革新が進む中で、構造的な成長力が評価され直すタイミングも遠くないでしょう。経済的な混乱が、次世代技術を担う銘柄の買い場につながるかもしれません。
結論として、投資家は「雇用統計の崩れ=悲観」で終わらせずに、景気減速下の戦略的選別という視点を持つことが肝要です。市場全体では結論として、投資家は「雇用統計の崩れ=悲観」で終わらせずに、景気減速下の戦略的選別という視点を持つことが肝要とみられます。市場全体ではなく、「何が買われる局面か」「いつ買いに転じるべきか」を見極めることで、調整局面でも先を読む投資が可能になります。
★そもそも「米雇用統計」の何が重要なの?(初心者コーナー)
米雇用統計は「米経済の“体温計”」と言えます。米国労働市場の状況を示す最も重要な経済指標のひとつです。景気の強さや金融政策の方向性を判断する材料として、世界中の投資家や政策担当者が注目しています。
① 発表時期:いつ出るの?
原則、毎月12日を含む週の3週間後の金曜日です。通常は毎月第1金曜日となります。しかし、12日が日曜日で月30日しかない場合などは、翌月第2金曜日の8日になったりすることがあります。
② 注目すべき指標は?
雇用統計には多くのデータがありますが、特に以下の3つが重要です。
・非農業部門雇用者数(NFP)→農業を除く雇用者数の増減で、景気の強さを示します。増加数が増えれば米国経済の強さを示します。事前の市場予想と比較して強弱を語ることが多いです。発表と同時に過去2ヵ月のデータが修正されるので、そちらも考慮します。2025年7月の雇用統計では、雇用者数が事前予想を下回り、過去2ヵ月分も大きく下方修正され、市場の驚きにつながりました。
・失業率→労働力人口に対する失業者の割合を示し、上昇すれば景気減速懸念が強まります。失業率が低下しても、労働参加率(労働市場への参加者の比率)が低下する場合は割引が必要です。2025年7月の雇用統計では、失業率が前回から増加し、労働参加率も低下しました。
・平均賃金の伸び率→時間当たりの賃金が伸びることは消費の好調につながる反面、インフレ上昇圧力の要因となり、FRBの政策に影響を与えることになります。今回は時間当たり賃金も予想を上振れました。
③ 雇用統計から読み解く政策の影響:トランプ関税の例
トランプ政権下で強化された関税は、製造業や輸出関連企業に打撃を与えると懸念されます。雇用統計では、製造業の雇用者数の伸びが鈍化する傾向が強まるか否かに注目です。関税による景気・企業業績の悪化がこれまではあまり表面化してこなかったため、米雇用統計が市場の波乱要因になるケースは少なかったようですが、今後の景況感次第では雇用の悪化が加速する可能性もありそうです。
米雇用統計は単なる数字の羅列ではなく、米経済の健康状態を測る体温計のようなものです。数字の変化だけでなく、「なぜその数字になったのか?」という背景を読み解く力が、経済を理解する第一歩になります。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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