円安一服で海外投資家の日本株買い再開へ?

円安一服で海外投資家の日本株買い再開へ?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2022/11/08

東京市場では、好決算銘柄が相場を下支える展開

11月第1週(10/31~11/4)の日経平均株価(週足)は、前週末比94円54銭高(+0.3%)と週足ベースで続伸しました。
同週の東京市場では、FRB(米連邦準備制度理事会)のタカ派的スタンスが長期化するとの米国の懸念が日本に持ち越される中、7~9月期の決算発表シーズンを迎え、好決算銘柄が相場を下支えた形です。

同期間の米国市場は、NYダウが▲1.4%、NASDAQが▲5.6%と日経平均を下回るパフォーマンスとなりました。週前半は、決算発表の内容に反応する銘柄も一定程度ありましたが、基本的には11/2(水)に結果発表のFOMC(米連邦公開市場委員会)を見極めようとする動きが続きました。

米国市場では当初、一部の経済指標等が弱い内容を示していたことや、FRBメンバー等が過度な金融引締めに懸念を示した発言等から、FRBの長期化する積極的金融引締めに緩和期待が入っていました。

そのような中、11/2(水)の11月FOMC会合後の議長会見では、FRBパウエル議長が利上げのペース減速に関しては示唆しつつも、一時停止に関しての検討は「非常に時期尚早」と述べました。議長発言によってFRBのタカ派姿勢が緩和されるとの期待は打ち消され、さらにパウエル議長はターミナルレート(政策金利の最終到達水準)の引き上げを示唆するような発言も行いました。事前に一部の市場参加者が織り込んでいた金融引締め緩和期待が打ち砕かれたような形です。金融引締め緩和期待が後退したFRB議長会見通過後、11/2(水)から翌11/3(木)にかけての米国主要株価指数は大きく続落しました。

一方11/4(金)は、米10月雇用統計の結果に市場の注目が集まりました。失業率は上昇していたものの、雇用者数が市場予想を上振れる等で強弱入り交じった内容で、正直、市場参加者が反応しづらい結果でした。ただ、FRBメンバーの一人であるシカゴ連銀総裁が、将来的な利上げ一時停止に関し、検討可能性があると言及したことが好感され全面高商状で同日の取引を終えました。

東京市場の傾向として米国市場に連れて動くという面があります。11月第1週も全体的にはその面がありました。しかし、日本企業では好決算を示す企業が多くあり、そういった銘柄への物色が強く進んでいたことで、米国市場に比べて高パフォーマンスとなりました。好決算については、日本企業の独自要因によるものとみられる発表内容が多々見受けられました。

主には、円安によって好決算となった銘柄が多く、図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(10/31~11/7)でトップの三菱自動車工業(7211)や大手商社などが該当します。表に掲載されている以外でも、海運大手は円安によって収益が大きく押し上げられ、通期業績見通しが上方修正となり、3社揃って2期連続で最高益となる見通しを示しました。他にも、ローム(6963)、日立(6501)、アルプスアルパイン(6770)、東邦チタニウム(5727)等、多くの企業が円安効果で市場予想を上振れ、増収増益や業績見通しの上方修正、増配等といった好決算を発表するに至っています。また、世界に周回遅れと称される行動規制や水際対策の緩和が寄与し、阪急阪神ホールディングス(9042)やJR本州3社の4~9月期決算が3年ぶり最終黒字となった等の日本独自の上昇要因もありました。

円安による好業績があった半面、図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(10/31~11/7)では原材料等のコストが円安進行によって増えたことが、業績や業績見通しの重しになったとみられる企業が多い印象です。

今回の決算発表では、いわゆるバリュー銘柄と呼ばれる銘柄の好調さが目立っています。11月第1週のTOPIXグロース指数が▲0.09%であったのに対し、TOPIXバリュー指数は+1.84%です。同期間のTOPIXのパフォーマンスが+0.86%であったことから、いわゆるバリュー銘柄に関して、7-9月期決算内容の堅調さが見て取れるでしょう。今年(2022年)から始まったFRBによる金融引締めによって米長期金利が上昇傾向にあることが、日本企業に影響を及ぼしていることがわかります。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(10/31~11/7)

図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(10/31~11/7)

円安一服で海外投資家の日本株買い再開へ?

日経平均株価の年初来騰落率は▲4.4%(11/7時点)。主要国との比較では英国FT100指数(▲1.1%)には及びませんが、米国NYダウ(▲9.7%)、ナスダック(▲32.5%)、汎欧州のStoxx Europe600指数(▲14.2%)、ドイツDAX指数(▲14.8%)、中国上海総合指数(▲15.4%)、香港ハンセン指数(▲29.1%)をアウトパフォームしております。相対的に見れば今年の日本株は堅調に推移していると言えるでしょう。

日本株が堅調な背景には、急激な金融引き締めで景気の先行き不透明感が強まっている欧米に対し、日本はインフレ率が相対的に低く、金融緩和スタンスが継続しているため、景気の不透明感が小さいことが挙げられます。とはいえ、日経平均は今年1/5(水)の高値を超えておらず、上値の重さに“もどかしさ”を感じる方が多いかもしれません。

日本株の上値が重い要因としては、過去に日本株が大幅上昇した局面で主な買い手となった海外投資家の動きの鈍さが挙げられます。図表9に注目すると、海外投資家は今年の春先から8月中旬にかけて日本株を買い越す動きがみられましたが、8月下旬以降、急激な円安進行や世界的なリスクオフの動きの中、再び売り越しに転じております。

一方、図表10は日経平均株価のドル建て、および円建ての推移を見たものです。ドル建て日経平均は、海外投資家が日本株を見る上で注目していると言われています。今年のドル建て日経平均のパフォーマンスは円建てを大きく下回っています。これは急激に円安が進展したことが要因ですが、これにより海外投資家から見たドル建て日経平均は、円建てに比べて割安水準にあると言えるでしょう。急速に円安が進んでいる最中では、海外投資家としても(日経平均が割安と感じても)手を出し難かったようですが、円相場が落ち着きを取り戻してくれば、再び海外投資家の動きが活発化する可能性があります。

先週、米国では4会合連続となる0.75%ptの大幅利上げが行われました。金融当局のFRB(米連邦準備制度理事会)は、インフレ鎮静化に向けて依然として全力で取り組む姿勢を堅持しておりますが、その一方でパウエルFRB議長は、これまでの利上げの累積効果もあり、今後は利上げペースが鈍化する可能性を指摘しております。日米の金利差急拡大を手掛かりにした円安・ドル高についても、早晩、頭打ちになる可能性があります。海外投資家による日本株買いの動きが再開されれば、日経平均株価を大きく押し上げることも期待できるでしょう。

<おまけ>
本日(11/8)、米国では中間選挙(上院選挙、下院選挙)が行われます。今後の米国政治・経済の動向、ひいては世界の金融市場の動きを占う上で注目されていることはいうまでもありません。中間選挙の結果は、米国時間の夜、日本時間の9日朝方から順次、判明していくとみられます。米国株式市場は取引を終了した後であり、中間選挙の結果が初めに相場に織り込まれていくのは、日本を含めたアジアのマーケットとなります。初動として相場の変動が大きくなる可能性がある点には注意する必要がありそうです。

図表9  海外投資家による日本株売買動向と日経平均株価

  • 東京証券取引所、ブルームバーグをもとにSBI証券が作成。

図表10  日経平均株価(ドル建て、円建て)の推移

  • ブルームバーグをもとにSBI証券が作成。

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