世界をリードするあの国の金融政策!?

世界をリードするあの国の金融政策!?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2022/12/20

比較的堅調であった東京市場

12月第2週(12/12-16)の日経平均株価は、前週末比373円89銭安(▲1.3%)と週足ベースで反落しました。

同期間の米国市場は、NYダウが▲1.7%、構成銘柄がグロース株中心のナスダックが▲2.7%と東京市場を下回る軟調な株価推移となりました。

米国では、インフレ鈍化への期待感が続く中、12/13(火)発表の11月消費者物価指数(CPI)が注目されました。エネルギーを中心に伸び率鈍化が確認されたことが、株式市場で好感されました。インフレ鈍化傾向が徐々に続いていることから、米10年国債利回りは4.1%台まで低下しています。市場が既にインフレ鈍化を織り込み始めていることを示唆していると考えられます。

その後、年内最終の12月FOMC(米連邦公開市場委員会)会合(12/13-14)通過後は、景気後退懸念が継続し、株価は下落傾向となっています。同会合後、2023年末のドット・チャート(FOMC参加者による政策金利見通し)が9月の4.6%から5.1%に引き上げられ、FRBのタカ派的金融政策への警戒感を増幅させたとの見方が強まっていました。しかし、金利先物市場では、FOMC開催前時点で既に2023年末の金利見通しが5%近辺で織り込まれていたため、決してサプライズであったとは言いづらい状況です。

同週では欧州でECB(欧州中銀)や英中銀が相次いで今後のタカ派姿勢継続を示していました。弱気商状が続いた要因として、米国のみならず世界的な景気後退懸念が改めて意識された点がありそうです。そのような中、同週末はデリバティブ取引の決済が重なるクアドルプル・ウィッチングであったため、一層値動きが増幅したとみられます。

東京市場も基本的には米国市場に連動し、軟調な展開が続きましたがいくつかの下支え材料がありました。

まず、1つ目に12月に入り、急激な円高が一服してきたことが挙げられます。日本では、円安状態が企業業績に対しプラスとなる場合が多いため10月半ば以降の急激な円高が株式市場では嫌気されていました。そのため、円高進行が小康状態になったことが、投資家にとっての安心材料になった形です。

2つ目は、12月調査の日銀短観では大企業全産業業況判断指数が市場予想をわずかながら上振れたことです。世界的に景気見通しが悪化の一途を辿っていることを鑑みると、同指数は日本企業の堅調な現状を示せたといえそうです。

また、同期間の東京市場の特徴としては、バリュー株優位の展開になったことが指摘されます。TOPIXグロース指数は▲1.2%と下落しているのに対し、TOPIXバリュー指数は+0.01%というパフォーマンスでした。市場では、日銀の大規模緩和政策の出口戦略に市場の関心が集まっていると指摘する声も見られました。

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(12/12~19)では、バリュー株の代表格である地銀の顔ぶれが目立ちました。千葉銀行(8331)や ふくおかフィナンシャルグループ(8354)、首都圏大手地銀グループのコンコルディア・フィナンシャルグループ(7186)がランクインしています。

図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(12/12~19)では、景気後退懸念が意識されたことで、景気敏感株の電気機器に属する銘柄が多かったです。トップのシャープ(6753)は2023年春に米国のテレビ市場に再参入することが明らかとなり売られました。同社は2016年に、経営不振から米国のテレビ市場から撤退した歴史があります。

日銀は12/19-20開催の金融政策決定会合で、実質的な利上げを決定しました。長期金利の変動許容幅が従来の±0.25%から±0.5%へと引き上げられています。日経平均株価の動きが波乱となりやすい反面、前述した図表7の地銀銘柄に追い風が吹くとみられます。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(12/12~19)

図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(12/12~19)

世界をリードするあの国の金融政策!?

日経平均の先行きを読む上では主要国の金融政策の動きを見逃すことが出来ません。先週は12/14(水)のFOMC(連邦公開市場委員会)、翌12/15(木)はユーロ圏でECB理事会、英国でMPC(金融政策委員会)が行われた他、ノルウェーやスイス、メキシコでも会合があり、これら全ての国・地域で利上げが行われました(全て開催日は現地時間の終了日ベース)。世界的に金融引き締めの動きが進んでいることを手掛かりに、主要国の株式市場は軟調に推移しました。

図表9はユーロ圏(独国、仏国)、英国、米国、日本の主要株価指数について、14・15・16日の騰落率をまとめました。まず、米国(NYダウ、ナスダック)の騰落率は、FOMCの結果を受けた14日が、NYダウが▲0.42%、ナスダックが▲0.76%と下落しました。これに対し、ユーロ圏や英国で会合が行われた翌15日は▲2.25%、▲3.23%となり、FOMCの材料消化が一巡したにもかかわらず、一段と大きな下げとなりました。

今回のFOMCは、来年に利下げ転換を見込んだ一部の市場参加者の期待に反し、FRBは来年も金融引き締めを継続する姿勢を示すなど、株式市場にとって逆風の内容でした。一方、ユーロ圏などで利上げが相次いだ12/15は、改めて主要国で金融引き締めが続いていることが意識され、米国株は前日を上回る下落となりました(独や仏の株価も大幅下落)。欧米では今回のようにFOMCが開催された翌日にECB理事会やMPCが行われるパターンが多く、金融政策の方向性を受けた金融市場の反応は、これら3つの会合をまとめて評価する必要があると考えられます。

図表9  主要国株価指数の前日比・騰落率(12月14・15・16日)

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

また、図表9では英国株(FT100指数)の下落率が、独国株や仏国株、米国株に比べて小さいことがわかります。15日開催のMPCでは、0.50%ptの利上げと、前回(0.75%pt)から利上げ幅は縮小しました。この決定自体は、市場予想通りでしたが、政策決定の投票では一部のメンバーが政策金利の据え置きを支持したとのことです。市場に利上げ打ち止めのタイミングが近づいていると、ハト派の印象を与えたことが英国株を下支えしたものと考えられます。

英国の金融政策は、対露経済制裁で商品市況が急騰する前から、新型コロナ禍から経済が回復することに伴うインフレを強く警戒する動きが見られました。実際、英国はウクライナで戦争が始まる前、21年12月にユーロ圏や米国に先駆けて利上げを開始しました(図表10)。米国やユーロ圏の金融政策は、インフレへの対応が遅れたとの印象がもたれているのに対し、英国はインフレ対策に先手を打ったと認識されており、これが株式市場の評価の違いにもつながっていると見られます。

図表10 米国、ユーロ圏、英国の政策金利

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券作成

米国の金融政策を巡っては、早期の金融緩和転換を期待する市場と、インフレ抑制に強い姿勢を続けるFRBとの間で綱引きが続いています。インフレに関しては、依然として予断を許さない状況ですが、金融政策で米国よりも先行する英国で、多少なりともハト派色がみられることは、米国の金融政策の先行きを占う上で悪い話ではないでしょう。今後、英国の金融引き締めがピークアウトし、緩和へ転換してくれば、米国の金融政策についても、引き締め懸念が後退することが想定されます。米国の金融政策(ひいてはグローバル株式市場)の先行きを占う上でも、英国の金融政策の方向性が注目されると考えられます。

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