23年の日経平均を占う5つのポイント!?

23年の日経平均を占う5つのポイント!?

投資情報部 淺井一郎/栗本 奈緒実

2022/12/27

日銀の出口戦略が市場で意識され、大幅安

12月第3週(12/19-23)の日経平均株価は、前週末比1,291円87銭安(▲4.7%)と週足ベースで大幅続落しました。

12/19(月)-20(火)に開催された日銀金融政策決定会合で、長期金利の変動許容幅を従来の±0.25%から±0.5%へ引き上げることが決定。市場はこれを「実質的利上げ」と捉え、大規模金融緩和の出口戦略の地ならしとして受け止めました。

為替市場では、主要通貨に対して急速に円高が進行。ドル・円相場は12/21(水)未明に一時、1ドル130円半ばと、本年8月初旬以来の円高・ドル安水準を付けました。日本企業の7-9月期決算が好調であった背景には、円安による恩恵が大きかった面があります。決算発表では、10月以降の想定為替レートを円安方向に修正し、業績見通しを上方修正した企業も少なくありませんでした。よって、急速な円高進行と、日銀が大規模金融緩和を方向転換するのではとの先行き懸念から、日経平均は4営業日続落となりました。

日経平均が大幅安した同期間、TOPIXは▲2.7%と比較的堅調でした。同指数は、銀行や保険会社といった金利上昇が追い風となりやすい銘柄のウエイトが高く、下支え要因となりました。図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(12/19~26)は、全て銀行業、もしくは保険業です。

金利上昇⇒銀行・保険株の業績増はイメージしやすい方も多いと存じますが、日本では大規模金融緩和が長く続いているため、事業の多角化を図った企業も少なくありません。例えば、銀行以外の収益は三井住友(8316)が39%、みずほ(8411)が33%、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は69%と各社異なっています(2020年度業務純益・MUFG資料)。ひと口に金利上昇で業績増期待という中でも、収益構造等を吟味する必要がありそうです。

図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(12/19~26)では、輸送用機器の中でも海外売上高比率が8割以上(2021年度)を占める三菱自動車工業(7211)が円高を嫌気され、首位となっています。他には、市場で日銀の出口戦略開始が意識されたことで、住宅ローン金利の上昇と不動産市況の悪化が連想された不動産業が3銘柄ランクインしています。

12/26(月)の東京市場は、欧米市場がクリスマスで休場のため手掛かり材料に乏しい中、反発スタートとなっています。
同日、経団連の講演にて日銀の黒田総裁は「出口の一歩では全くない」と長期金利の変動許容幅拡大が大規模金融緩和の出口戦略であることを否定しています。一方、市場では2023/4に予定されている日銀総裁の交代に向けて政策修正観測が根強くあります。同会見を受けて10年債利回りは一時0.35%まで下落するも、12/27(火)10時時点では0.44%まで戻っています。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(12/19~26)

図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(12/19~26)

23年の日経平均を占う5つのポイント!?

2022年も残すところあと僅かとなりました。
本稿では来年(2023年)に向けて、日経平均を占う上で注目される5つのポイントをご紹介いたします。

(1) 米国の金融政策
言うまでもなく、米国のみならず世界の市場関係者にとって最大の関心事でしょう。

22年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)でパウエル議長は、23年もインフレを抑制するスタンスを維持し、年内の利下げ転換の可能性を否定しております。しかし、その一方で市場参加者の政策金利(FFレート誘導目標)予想であるFFレート先物を見ると(図表9)、依然として23年後半に利下げ転換することが見込まれています。

FRB(連邦準備制度理事会)の金融政策が、市場の期待通りに景気配慮(ハト派)の姿勢を強めれば、金融市場ではリスク選好による株高・債券高(金利低下)のいわゆる“金融相場”が期待できます。一方、FRBが従来のインフレ抑制(タカ派)の姿勢を維持すれば、市場の期待はいずれ剥落するでしょう。米国では株安・債券安(金利上昇)のいわゆる”逆金融相場”と厳しい相場状況になると予想されます。その際の日本株への影響は、米国株安が逆風になりますが、米金利上昇で円安が進展すれば、輸出株や銀行株が買われるため、米国株に比べて底堅い推移になると考えられます。

(2)日銀総裁人事
日銀の黒田東彦総裁は、23年4月8日に任期満了を迎えます。再任の可能性はありますが、同氏はメディアなどを通じて否定しており、金融政策の舵取りは次の総裁に託されることになりそうです。市場では、後任候補として雨宮正佳氏(現・日銀副総裁)や中曽宏氏(前・日銀副総裁)などが挙がっています。

黒田氏は日銀総裁就任時の13年4月に、アベノミクスを金融政策からバックアップするべく『量的・質的金融緩和』を打ち出しました。同政策では『物価安定の目標』として、安定的に消費者物価の2%上昇を目指す方針が示されました。現状、数字の上で消費者物価は2%を上回って上昇していますが、日銀において物価安定の目標が達成されたとの認識は持たれていないようです。依然として大規模な金融緩和措置は継続しており、次期総裁の体制のもと、目標達成に向けた取り組みが期待されます。

22年12月20日、日銀は金融緩和策の1つであるイールドカーブ・コントロール(YCC)の見直しを発表しました(図表10)。これまでに行われてきた大規模金融緩和から見れば市場の状況に沿った小さな変更なのですが、市場では日銀が金融緩和路線からの脱却に向けた”出口戦略”を目指した政策変化と受け止める動きがあります。次期総裁が、どういった方針で金融政策を進めるのかといった点も含めて、今後の日銀の動向に目が離せないでしょう。

図表9 政策金利(FFレート誘導目標)予想 (市場予想 VS FOMC予想)

  • ※FRB、BloombergデータをもとにSBI証券が作成

図表10 日本10年国債利回りとイールドカーブ・コントロール

  • ※日銀、BloombergデータをもとにSBI証券が作成

(3)春闘
春闘(春季生活闘争)は、毎年2~3月にかけて労働組合と経営陣で行われる、賃金や労働時間などの労使交渉です。今回は、円安や商品市況高で食品や身の回り品の価格が上昇するなど労働者の生活が厳しい中で行われることもあり、例年以上に春闘の結果に対する市場の関心は高いと考えられます。

22年12月初旬、国内企業の労働組合を取りまとめる連合(日本労働組合連合会)は、23年春闘で5%の賃上げを要求する方針を決めました。これは昨年まで7年連続の要求(4%)から上積みし、28年ぶりの高水準となります。ただし、企業サイドとしても、昨今の物価上昇に理解を示したとしても、大幅な賃上げを手放しに認めることは容易ではないと考えられます。実際、22年の春闘における賃上げ率は2.07%と要求水準(4%程度)を下回っており、23年春闘についてもぎりぎりの交渉が予想されます。なお、23年春闘の集中回答日は3月14~16日頃と見られます。

(4)国内回帰
22年の円相場は、一時約32年ぶりの円安(1ドル=150円台)に到達しました。その後、年末にかけて円安が一服し1ドル=130円台前半で推移していますが、それでも歴史的な円安圏で推移していると言えるでしょう。

23年は貿易面において、これまでに進んだ円安の効果が顕著になると考えられます。一般的に円安は輸出増加によって貿易収支を改善させますが、こうした効果が出てくるにはタイムラグが生じます(Jカーブ効果)。22年は大幅な円安が進行したものの、商品市況高も加わって輸入が大きく増加し、貿易収支は大幅赤字となりました。しかし、23年は円安効果による輸出増加で貿易収支が改善することが期待できます。

また、23年円相場が円安圏で推移すれば、これまで海外生産を強化してきた日本企業の国内回帰の動きを後押しすることになるでしょう。これは日本で生産して海外に輸出する外需企業だけではなく、海外で生産して日本国内に輸入するような内需企業についても、国内回帰の投資を促す可能性があります。

日銀短観によると、22年度の設備投資計画(全規模・全産業)は、国内回帰に向けた投資がみられる中で、例年に比べて強い推移となっています(図表12)。23年度は国内回帰の動きが一段と強まるか注目されます。

図表11 春闘における賃金上昇率の推移

  • ※連合資料をもとにSBI証券が作成

図表12 年度別 設備投資計画の推移(日銀短観 全規模・全産業)

  • ※日銀データをもとにSBI証券が作成

(5)インバウンド
円安は訪日外国人旅行者によるインバウンド消費の増加を促すことになるでしょう。

日本政府は22年6月以降、訪日外国人旅行者の入国規制を段階的に緩和しています。観光庁によると22年11月の訪日外国人旅行者数は93.4万人と100万人の大台に迫っていますが、それでもコロナショック前(19年)の年間3,000万人強ペースには及ばす、まだまだ回復途上と言えます(図表13)。

23年は中国からの訪日観光客が増加するか注目です。22年、中国政府はこれまでのゼロコロナ政策を事実上、放棄し、経済正常化へ向けて大きく舵を切りました。現状は、急激な政策の変化で新型コロナ感染者数が急増していますが、経済規制の緩和の初期段階で生じる混乱は、多かれ少なかれ欧米や日本でも経験したことであり、中国でもいずれ落ち着きを取り戻すのではないかと考えられます。

コロナショックの前、中国からの訪日観光客は全体の3割前後を占めておりました(図表13)。中国の渡航規制が緩和されれば、訪日外国人旅行が大きく増加し、インバウンド消費が一気に盛り上がることが期待されます。

図表13 訪日外国人旅行者の推移

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

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