一段ときな臭さが増した米国!?今後の展開は?

一段ときな臭さが増した米国!?今後の展開は?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2023/05/09

好調が期待される日本企業の決算発表。米債務上限問題の動向に要注意

5/1(月)~2(火)の日経平均は続伸し、連日で年初来高値を更新。節目である29,000円台を、昨年8月以来約9ヵ月ぶりに回復しました。5/3(水)~5(金)はGWで休場でした。

5/8(月)は休場中の材料を消化する形でスタートし、休場期間中の円高や米国株安を背景に反落した形です。また、休場前までの株高を受け、利益確定で売られた面もあります。日経平均株価採用銘柄の下落率上位(5/1~8・図表8)では三越伊勢丹ホールディングス(3099)や資生堂(4911)といった、足元で上昇が続いていたインバウンド関連銘柄が反動売りとみられる形でランクインしています。この2銘柄に関しては、今週決算発表を予定しており、5/8(月)からコロナが第5類に引き下げられたことも今後の業績見通しのプラス材料として期待できるでしょう。

資生堂(4911)に関しては、米大手化粧品会社エスティ・ローダー(EL)の業績見通し下方修正で、連想売りから下落率トップとなりましたが、GW直前の5/2(火)には同社株は年初来高値を更新していました。図表7・8の日経平均の騰落率ランキングに関しては測定期間が今回は3営業日と短く、市場全体が動意に欠けていたため、あまり目立った値動きの銘柄はありませんでした。

東京株式市場では1-3月期の決算発表のピークは今週であるため、好決算銘柄がけん引する形での株高にも期待が持てます。一方、米国での債務上限問題等が上値抑制要因になり得ると想定されます。

5月第1週(5/1~5)の米国市場は、S&P500が前週末比▲0.8%、構成銘柄のほとんどがグロース株のNASDAQは同+0.1%でした。5月FOMCでは市場予想通り0.25%の追加利上げが実施され、大過なく終えた格好です。

現在、市場で浮上している懸念として米債務上限問題があげられます。2011年に同様の問題が発生した際は、米国債が格下げされ、市場心理が急速に悪化。主要株価指数がおよそ半月で15%以上安となった苦い歴史があります。なお、喫緊の同問題に関してイエレン米財務長官は、6/1(木)にもデフォルトとなる恐れがあるとの警告をしています。米国債のデフォルトを望む議員がいるとは考えづらいですが、与野党の交渉時間切れとなってしまうリスクもゼロではないでしょう。米国経済の混乱は、世界、ひいては日本にも大きな影響を及ぼすことから、同問題に関しては通常より一層注意深く、今後の動向に注目する必要があるでしょう。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(5/1~8)

図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(5/1~8)

一段ときな臭さが増した米国!?今後の展開は?

ゴールデンウィーク明けの国内株式市場は、決算発表シーズンの後半戦がスタート。日本取引所グループ(JPX)は、上場企業に対し、決算期末から45日以内に決算発表を行うように定めており(45日ルール)、今週(8から12日)は大きなヤマ場となります。実際、この1週間において3月末に本決算(又は四半期決算)を迎える企業の約3分の2が決算発表を予定しております。今週の国内株式市場は、それぞれの企業の決算内容に一喜一憂する個別株物色の動きが強まるでしょう。

図表9 国内企業の決算発表数の推移

  • ※日本取引所グループ(JPX)よりSBI証券作成
  • ※集計対象は3月に本決算または四半期決算を迎えた企業


一方、米国市場は金融引き締めや景気後退への懸念、あるいは米地銀の破綻に端を発した金融システム不安など、様々な不安材料に見舞われながらも、これまでのところ何とか持ちこたえて推移しました。しかしながら、ここにきて米国市場は、新たに債務上限問題が浮上しており、きな臭さが一段と増したように思えます。

米国は連邦政府の債務の上限が法律で定められており、この上限に到達すると、新たな借り入れや利払いなどが出来なくなり、いわゆるデフォルト(債務不履行)に陥ります。これまで連邦債務は増加の一途を辿っていますが、債務が上限に近づくと、その都度、議会の承認を経て債務上限額が引き上げられました。現在、連邦債務は既にほぼ上限に到達しており、財務省の特別措置により、財政が破綻しないように凌いでいる状況です。政府は一刻も早く債務上限の引き上げを望んでいるのですが、上院は民主党が、下院は共和党が、それぞれ多数を占めるねじれ議会にある中、この交渉が難航を極めているのです。米国は基本的に“大きな政府(歳出増+増税)“を目指す民主党と、”小さな政府(歳出減+減税)“を目指す共和党の2大政党で構成されています。両党の意見の相違は小さくないのですが、それでもこれまでは両党の”超党派(あるいは穏健派)“と言われる議員の存在が、債務引き上げ交渉の妥結に大きく貢献してきました。しかし、近年、特に共和党において超党派の存在が希薄となり、逆にフリーダム・コーカスなどの強硬派が台頭してきたことから、両党の対立が激しくなってきました。

図表10 米国 連邦債務残高の推移

  • ※BloombergをもとにSBI証券が作成


過去、債務上限の引き上げが難航したのは2011年と2013年で、この当時も民主党のオバマ政権、上院が民主党、下院が共和党、と現在と構成が同じでした。2011年の交渉は、財務省の特別措置の効力が切れ、財政が枯渇すると言われていた8月2日の当日、土壇場で両党が辛うじて合意しました。株式市場は合意前から急落するなどの影響が見られ、合意してからも数日後に大手格付け機関が米国債の長期発行体格付けの引き下げを発表したこともあり、混乱が続きました(図表11)。一方、2013年は、債務上限交渉とともに、本予算の審議でも両党の衝突が見られました。債務上限が時限措置として撤廃されたことでデフォルトは回避されましたが、本予算の成立が遅れたことで、政府機関の一部が閉鎖するなど、経済に大きなダメージを負うことになりました。

今回の債務上限の引き上げ交渉に際し、イエレン財務長官は現状で行われている特別措置は、早ければ6月1日に使い切る可能性があると警告しています。実際に、この期限は多少、後ズレする可能性がありますが、兎に角、議会は早急に債務上限の引き上げで妥結することが望まれます。

もし、債務上限の引き上げに失敗すると、米国債はデフォルトすることになりますが、この場合、米国の利払い能力が完全に喪失した訳ではなく、あくまで技術的なもの(テクニカル・デフォルト)と見なされる可能性があるそうです。その場合、短期的に利払い能力が回復(つまり債務上限の引き上げ合意)すれば、経済への影響は小さいという見方があります。また、バイデン政権は、南北戦争後に制定された憲法修正第14条を拡大解釈することで、議会の承認を経ずに債務上限を超えて新たな債務を負うという、ウルトラC的な打開策を打つのでは、との憶測もあります。(2011年時にもこの手法の可能性が浮上しました)。ただ、いずれにせよ連邦債務上限の引き上げ失敗は、金融市場にとって経験したことのない事態であり、投資家に安全だと信じられてきた米国債の地位が揺らぐようであれば、金融市場への影響は決して小さくないと思われます。世界的にもリスク回避の動きが強まり、国内市場では円高、株安の影響が顕著になると考えられます。

もちろん、そんな事態を望む人はほとんどないし、それは債務上限交渉を行っている米国の議員たちも同様でしょう。しかし、同交渉において民主党と共和党の双方が意地の張り合いを行っており、そうした中で偶発的に交渉妥結が行われない可能性を否定することは出来ないでしょう。交渉の難航が続き、現状のデッドラインである6月1日が近づくにつれ、米国株、ひいては日本株のリスク回避要因になることに注意する必要があるでしょう。

※修正第14条では「公的債務の効力が問われてならない」と規定されています。これは南北戦争で敗北した南軍が抱えていた債務について責任を問わないことを意図したものですが、これを政府が議会の合意なしに債務の支払いを続けられると解釈することで、債務上限の引き上げなしに新たな債務を負うことを可能にさせます。

図表11 株価指数と円相場の推移(2011年1月から2014年3月まで)

  • ※BloombergをもとにSBI証券が作成

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