決算・経済指標発表の先にある日本株の行方は?
投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実
2023/11/14
日経平均は戻り順調!決算通過企業は内容で明暗分かれる
11月第2週(11/6-10)末の日経平均は、前週末比618円22銭高(+1.93%)と週足ベースで続伸。11月第1週からの回復局面が続き、2週で計1576円以上の大幅高となりました。
FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げ終了観測の広がりを背景に、一時5%を超える水準まで急騰していた米長期金利は4.6%台(日本時間、11/13時点)まで落ち着いています。米長期金利の低下を受け、日米両市場ともにグロース株が上昇相場の牽引役となりました。反面、米長期金利の上昇で株高となっていた銀行などのバリュー株は軟調でした。期中のTOPIX+0.6%、TOPIXグロース指数+1.6%に対し、TOPIXバリュー指数は▲0.3%と大きく差が開いた格好です。
また同期間、7-9月期の決算発表がシーズン真っ只中を迎え、主力企業の多くも発表日を迎えました。特に、日経平均への寄与高いソフトバンクグループ(9984)の影響が大きく、上半期(4-9月期)の赤字は1兆4,087億円(前年同期1,290億円の赤字)と急拡大。投資事業の不振などもあり、赤字額は市場予想を上回った結果でした。9日(木)の大引け後に決算発表が行われ、10日(金)は8%超の大幅安となり、1銘柄のみで日経平均を100円以上押し下げました。
決算動向での銘柄選別の動きは依然如実に表れており、騰落率ランキングのほとんどが期中に決算発表を通過した銘柄です。
日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(11/2~10・図表7)では、デジタルデータに特化したセキュリティの専門企業であるトレンドマイクロ(4704)が、約20%の大幅高と頭一つ抜けました。9日(木)の大引け後の決算発表で、大規模な自社株買いを中心とした株主還元の実施方針を発表しています。今期(23.12期)は普通配当と特別配当をあわせ、1,000億円の配当実施の方針で、1株当たりの配当目標金額が738円となる予定です。アナウンス前の株価(11/9終値)で単純計算すると、配当利回りが12%を超える見込みとなります。また、来期中(24.12期)には400億円の自社株買いを実施することも同時に発表し、株主還元意欲の高さが市場で好感された模様です。
日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(11/2~10・図表8)のトップは、清水建設(1803)です。7日(火)の場中に4-9月期の決算を発表。売上高は前年同期比で13%増でしたが、経常利益は同64%減と大幅減益となりました。資材価格の高騰や工期の遅れによる職人の追加等で労務費が増加したことが背景にあるようです。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(11/2~10)
図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(11/2~10)
決算・経済指標発表の先にある日本株の行方は?
3月期決算企業の決算発表シーズンは、今週でほぼ終了となります。それに先立ち、本稿では(暫定ですが)今回の決算発表を振り返ります。また、後半では今週発表の国内7-9月期GDP統計の注目点について解説することで、ミクロ、マクロの面から日本経済について考えてみたいと思います。
まず、ミクロの企業業績についてです。図表9は、日経平均採用銘柄のうち、3月期決算以外の企業も含めた(除く金融、ソフトバンクグループを除く。11/13までに決算発表を行った196社ベース)業績の推移です。今回の決算期に該当する23年度2Q(四半期)の売上高は、前年同期比+2.3%増収、経常利益は同+8.4%増益となりました。増収率の伸びは鈍化傾向にあるものの、増益率については、前四半期に比べて拡大していることが見て取れます。
一方、日経Quick社の集計によると、東証プライム市場に上場している3月期決算企業で11/13までに決算発表を行った968社のうち、経常利益が会社計画を上回った企業は631社に上りました。更に、通期会社計画を変更した企業の7割近くが上方修正(3割が下方修正)となっており、総じてみて良好な決算だったということが出来るでしょう。
業種別で見た場合、好調さが目立った業種としてまず挙げられるのが自動車でしょう。代表銘柄であるトヨタ自動車(7203)の7-9月期経常増益率は前年同期比+122%大幅増益となりました。世界的な半導体不足が緩和したことによる生産正常化や円安の進展が業績拡大に貢献しました。円相場は依然として円安圏での推移が続いており、自動車セクターを含めた外需株にとっては、追い風になることが期待できます。
内需企業についても好調さが目立ちました。特に訪日外国人旅行者の回復を手掛かりに、小売やサービス、空運、鉄道などインバウンド関連セクターが堅調となりました。また、円安や商品市況高がコストアップ要因になると言われがちな、電力やガス、食品、鉄鋼、紙パといった内需や素材関連企業についても、業績が堅調に推移する企業が見られました。仕入れ価格の上昇に対して、価格転嫁が進捗していることを伺わせる内容となりました。
一方、物足りない結果となったのが、電機や精密などハイテク関連や、機械など中国関連企業でした。ハイテク関連については、現状が底との見方がある一方で、シリコンサイクルの回復の遅れがやや気になるところ。中国関連企業についても、やや低迷が長引いている中国経済の回復待ちといったとこではないでしょうか。
図表9 日経平均構成銘柄の売上高、経常利益推移
一方、マクロ面に目を向けると、11/15(水)に7-9月期GDP統計が発表されます。
実質GDP成長率の市場予想(Bloomberg予想)は前期比▲0.1%(年率▲0.4%)と4四半期ぶりのマイナス成長が予想されています。予想通りとなれば、個人消費主導の景気回復が一服したとの印象を与える可能性があります。
もっともGDP構成項目に注目すると、個人消費に相当する民間消費支出の市場予想は前期比+0.3%とプラス成長であり、実質GDP成長率を押し上げることが予想されています。実質GDP成長率を押し下げるのは純輸出(輸出と輸入の差)と考えられています。対中国などの輸出が停滞する影響と、個人消費が堅調であるが故に輸入が増加する影響が、実質GDPの押し下げ要因となります。前述したように、今回の決算においてインバウンド需要を取り込んだ関連銘柄の業績堅調を併せてみても、内需主導の景気回復が鮮明となることが想定されます。
また、今回のGDP統計では、GDPデフレータが注目される可能性があるでしょう。GDPデフレータは実質GDPと名目GDPの差。名目GDPが価格×数量の金額ベースの統計であるのに対し、実質GDPは価格変動の影響を排除した数量ベースの統計となります。つまり、GDPデフレータは価格変動の影響をあらわした、(GDPベースの)物価関連指標の1つと言えます。このGDPデフレータの7-9月期市場予想は、前年同期比+4.8%と前四半期(4-6月期:同+3.5%)から伸びが更に拡大することが見込まれています。最近、国内市場ではインフレ進行を背景に、金融政策において出口戦略への思惑が高まりやすい状況にあり、GDPデフレータが上振れすれば、国内金利の上昇が株価の足かせとなる可能性があるため注意が必要でしょう。
図表10 日本 実質GDP成長率とデフレータ
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