大正製薬MBOに観る日本株上昇のシナリオとは?

大正製薬MBOに観る日本株上昇のシナリオとは?

投資情報部 淺井一郎 鈴木英之

2023/11/28

33年ぶり高値水準を回復

11月第4週(11/20-24)末の日経平均株価は、前週末比40円33銭高(+0.1%)と小幅ながら4週続伸となりました。米国でインフレ懸念後退・金利低下の傾向が続き、同国の株価が堅調に推移したことが追い風になりました。

米10年国債利回りは10月末4.93%から11/21(火)には4.39%まで低下し、9月下旬以来の低金利となりました。これを受けて、米国でもNYダウが4週続伸となりました。

日経平均は11/20(月)に一時33,853円まで上昇し、6/19(月)に付けた33年ぶりの高値33,772円を上回りました。その後も、11/24(金)および11/27(月)に33,800円台まで上昇しましたが、終値ベースでの33年ぶり高値である33,753円(7/3)を回復できずに終わりました。目先、日経平均株価の33,800円台が抵抗ラインとなっているようです。

日経平均株価の上値が重くなっている要因としては、株価が短期間で一気に上昇したことで利益確定売りが出やすくなっていることがあげられます。11/27(月)現在、日経平均株価は10月末終値に対する上昇勝率が8.4%に達しました。上昇相場を支えた米長期金利の低下も11/21(火)をボトムに一服傾向です。また、好調な企業業績も株高材料であったと考えれば、決算発表シーズンが終わり、好決算の発表という「好材料」の提供がなくなったことも、上値を重くする一因と言えそうです。

日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(11/17~24・図表7)の首位はサイバーエージェント(4751)でした。子会社が開発・運営する人気アニメ「呪術廻戦」の配信開始が材料視されました。日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(11/17~24・図表8)では、GSユアサ(6674)の下げが目立ちました。公募・第3者割当増資の発表が嫌気されました。

今週に入り、11/27(月)の東京市場では、大正製薬ホールディングス(4581)がストップ高となり、話題を集めました。11/24(金)の取引終了後に、MBO(経営陣の参加による企業買収)を実施すると発表したことが理由です。これに先立つ11/10(金)には、ベネッセホールディングス(9783)がMBOを発表し、直後の株価は大幅高となりました。こうしたMBOが増えることにより、日本株がさらに上昇するシナリオに期待したいところですが、実際はどうでしょうか。次項で解説します。

図表1 日経平均・NYダウの動き

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(11/17~24)

図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(11/17~24)

大正製薬MBOに観る日本株上昇のシナリオとは?

11/24(金)の取引終了後、東証スタンダード市場に上場し、大衆薬の大手である大正製薬HD(4581)がMBO(経営陣の参加による企業買収)を実施すると発表しました。創業家出身の上原茂副社長が代表を務める企業がTOB(公開買い付け)を行い、これが成立すれば大正製薬HD株式は上場廃止になる見通しです。TOB価格は1株あたり8,620円と11/24終値(5,545円)を5割超上回り、買付総額は7,100億円と国内企業としては過去最大規模になるとのことです。週明け11/27(月)の取引では、TOB価格を目指してストップ高となりました。

大正製薬HDに留まらず、最近は馴染みのある上場企業が、株式の非公開化を目指す動きが目立っています。例えば、進研ゼミで有名なベネッセHD(9783)は、来年2月頃を目途にMBOを実施する方針を発表しました。また、MBOではないですが、経営再建中の東芝(6502)についても、投資ファンドである日本産業パートナーズ(JIP)などが同社株のTOBを実施。12/20(水)に上場廃止となり、74年続いた上場の歴史に幕を下ろします。

こうした企業が株式非公開を選択する背景は様々なのですが、主な理由としては、株式非上場により株主が限定されることで企業の意思決定の迅速化が図られること、短期的な収益化が難しく長期的な視野で行うような事業が取り組みやすくなること、株式を上場させることで生じる様々なコストを削減できること、などが挙げられます。

もっとも、株式を非上場化すれば、モノ言う株主のような、経営陣に歓迎されない株主が突如として出現するリスクがなくなります。結果的に株式非上場化は敵対的買収から企業を守ることが出来るため、ある意味で究極の買収防衛策の1つと言えるでしょう。

今年春に東京証券取引所が、PBR(株価純資産倍率)で1倍を下回る企業に対し、PBRの改善策を要請したことは記憶に新しいところです。あれから半年以上経過しましたが、東証プライム市場で見ても、いまだに半数近くの企業はPBRが1倍割れとなっています(図表9)。PBR1倍割れの企業は、理論的に言えば株価が企業の解散価値を下回っているということになります。乱暴な言い方をすれば、PBR1倍割れの企業を買収し、その企業が保有する資産を全て売却すれば、買収企業に利益が残ることになります(実際はそんなに単純ではないですが・・・)。

更に言えば、為替相場において円相場が歴史的な円安圏で推移しています。海外の企業から見れば、(安い)円で上場している日本企業が、非常に割安に見えていることでしょう。海外企業による日本企業買収のハードルが、大きく下がっており、場合によっては敵対的な買収(M&A)に向けた動きが活発になる可能性があります。日本企業としては、買収防衛策を早急に講じていくことが必要となるでしょう。

図表9 東証プライム上場企業のPBR分布

  • Quick Workstation Astra Manager データを基にSBI証券が作成


前述しましたが、MBOなどによる株式非公開化は、有効な買収防衛策の1つとなります。しかし、この選択肢は企業が市場へのアクセス手段を手放すことにもなり、資金需要の強い企業をはじめ多くの企業にとって、現実的な選択肢とは言えないでしょう。

企業としては、上場を維持しつつ企業価値(株価や時価総額)を引き上げていくことこそが現実的な選択肢となります。企業にとっては、資金調達などにより設備投資を行って、業容を拡大していくことが理想的な価値向上の手段となりますが、これは事業が軌道に乗るまでに相応の時間がかかるし、そもそも有望な投資先の選定が容易でないと考えられます。

そうなれば、企業価値を高める有効な手段となるのが配当や自社株買いといった株主還元でしょう。図表10は月毎の自社株買い金額について、過去の平均と2023年の推移を示したグラフです。今年は過去平均を上回るペースで推移していることが分かります。

特に3月期決算企業にとって中間決算発表が集中する11月は、本決算が発表される5月の次に自社株買いの発表が増える月となりますが、今年は27日時点で平均の3倍近い金額の自社株買いが発表されています。それだけ、企業が株主還元を通じた価値向上に注力している姿がうかがえます。株主還元を含めた企業価値の向上は、MBOなどを含めて、海外企業からの買収防衛策といった側面から見ても、息の長い投資テーマになると考えられます。

図表10 自社株買いの季節性

  • Quick Workstation Astra Manager データを基にSBI証券が作成


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