荒れない雇用統計が年末ラリーに必要と考えられる理由とは?

荒れない雇用統計が年末ラリーに必要と考えられる理由とは?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2023/12/05

11月は2023年最大の上げ幅!最終週は反動で小幅安

11月第4週(11/27-12/1)末の日経平均株価は、前週末比194円2銭安(-0.58%)と5週ぶりに下落。11月は月間で2,628円(+8.5%)の大幅高となり、2023年の月間上げ幅が最大の月となりました。2024年からの米金融緩和開始観測の広がり等を背景に、月初から勢いづき上昇していた反動で、終盤である11月第4週は売られた格好です。年初来高値(終値ベース・7/3の33,753円)更新を何度か試す場面があったものの、壁が厚く、突破できませんでした。

市場では、楽観ムードが相場を下支える展開が続いています。FRB(米連邦準備理事会)メンバーの発言は“ハト派寄り”と捉えられる内容のものが多く、FRBによる2024年からの利下げ開始観測を後押しする材料となりました。金利先物市場では、直近1週間で、「2024/3から利下げ開始」の見方が主流に取って代わっています。
(▷ Fed Watchツール 12/4時点 :0.25%ptの利下げ予想53%、利下げなし39%
            11/27時点 :0.25%ptの利下げ予想22%、利下げなし70%    )

日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(11/27~12/1・図表7)の首位は、世界で唯一の半導体製造検査装置(EUV光を用いた装置)を展開するレーザーテック(6920)です。同期間は、10月末の7-9月期決算発表を受け、証券
会社による目標株価の引き上げが相次ぎました。2位には大規模な自社株買いと株主還元の方針を11/9(木)に発表したトレンドマイクロ(4704)がランクイン。12月末の権利確定では特別配当が実施される予定で、配当取りを意識した買いが入った模様です。

日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(11/27~12/1・図表8)の首位は、シャープ(6753)です。期中、業績立て直しに向けてのハードルの高さなどを理由に、証券会社が投資判断を3段階中の最下位「アンダーウエート」に引け下げを実施。目標株価も800円(従来810円)に引き下げられ、株価は年初来高値水準から下降の一途を辿っています。前週に騰落率下位のトップであったジーエス・ユアサ(6674)も引き続きランクイン。公募および第三者割り当てによる新株発行と売り出しを発表し、需給の悪化が嫌気されました。

12月第1週(12/4-8)は日米ともに下落スタート。週の最終営業日には米雇用統計の発表が予定されており、それに向け様子見ムードが広がっています。

図表1 日経平均・NYダウの動き

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(11/24~12/1)

図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(11/24~12/1)

荒れない雇用統計が年末ラリーに必要と考えられる理由とは?

日経平均株価は11月下旬に、7/3の年初来高値水準(終値:33,753円)をトライしたものの、結局、終値ベースでこれを更新することが出来ず、そうこうしているうちに徐々に上値を切り下げる展開となっています。

先週から今週初め(12/4)にかけての6営業日中、日経平均は5営業日で下落しました。しかし、それでも日経平均の騰落レシオ(25日)は121.9%と過熱圏とされる120%を上回っています。短期的には上値の重さが意識されやすい局面が続くことも想定されます。

図表9 日経平均と騰落レシオ

一方、米国株式市場では、12月初旬にNYダウとS&P500が揃って年初来高値を更新するなど堅調に推移しています。感謝祭が明けて、一見すると株式市場は年末ラリーに向けて幸先の良いスタートを切ったようにも見えます。

ただ、その傍らで気になるのが、マグニフィセントセブンと言われる米メガテックの株価上昇が一服していることです。代表的な成長株(グロース株)であるマグニフィセントセブンは、11月初旬のFOMC以降、米長期金利が低下基調を辿ったことを手がかりに、株価は大きく上昇しました。しかし、マグニフィセントセブンの一角である大手半導体メーカーのエヌビディアが、11/21に8-10月期決算を発表して以降、株価は調整局面が続いています。

11月下旬以降、米長期金利は一段と低下しているにも関わらず、投資家はエヌビディアを含めたマグニフィセントセブンへの投資から離れ、その資金が中小型株へシフトしていると指摘する声も聞かれます(日本でも同様、大型株から中小型株へ資金がシフトする動きが見られます)。

現状のマグニフィセントセブン離れの動きはあくまで一時的であり、中小型株などへのシフトは、相場全体が大きく上昇していくために値固めの時期である、との見方があります。ただ、その一方で、米国長期金利が低下する手掛かりになったインフレ懸念の後退や、来年の早いタイミングで利下げへ転じるとの見方は、期待が先行しすぎている(つまり現状の株価は期待を先取りしすぎている)との指摘があり、そうなれば当面、グロース株主導の株価調整局面が続くことも考えられます。

そもそも、今年の米国株式市場は、金融引き締めが大きく進むことなくインフレが抑制され、更に景気は後退することなく、緩やかに減速していく(ソフトランディング)、という楽観的な見方を背景に堅調に推移してきました。それだけに、今後もこうした見方が維持されていくことが、年末ラリーが続くか否かを見極める重要なポイントとなります。

図表10 米国株価指数とマグニフィセントセブン株価

今週は12/8(金)の11月雇用統計をはじめ、労働市場関連統計の発表が相次ぎます。その翌週である12/12・13には米連邦公開市場委員会(FOMC)が予定されていますが、金融当局者は対外的に金融政策に関して発言することが禁止されているブラックアウト期間に入っています。したがって、FOMCまで雇用統計を受けた金融当局者の見解を知ることが出来ず、FOMCにむけて市場の思惑が高まりやすいと考えられます。

雇用統計については、10月非農業部門雇用者数(速報値)が前月比+15.0万人と、徐々に増加ペースが鈍化しており、雇用市場の減速(縮小ではない)を期待させる内容となりました。

11月非農業部門雇用者数は、Bloomberg集計のエコノミスト予想(12/4時点)によると、前月比+18.9万人と、10月よりも増加ペースが加速する予想となっています。これには全米自動車労組(UAW)による大規模なストライキが終結し、加盟の労働者が職場復帰したことによる雇用の増加が見込まれています。市場予想通りの着地となれば、雇用市場の減速が続いているとの見方をフォローすることになるでしょう。

ただし、市場予想を大きく上回ると、雇用市場の過熱感、ひいては利下げ期待の後退による金利上昇を促すとともに、成長株を中心とする売りにつながる可能性があるでしょう。逆に、市場予想を大きく下回れば、利下げ期待とともに金利低下を促しそうですが、そうなれば今度は、雇用市場の縮小(減速ではない)懸念を強める可能性があります。今回の雇用統計については、市場予想を大きく外さないことが重要になると考えられます。

図表11 米非農業部門雇用者数と失業率

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