不安なのはみんな一緒 まずはできることから始めてみる【後編】

アメリカの大学を卒業後、メーカー勤務を経て、どこの金融機関にも属さない、中立公正な独立系FP(ファイナンシャルプランナー)として活動する山中伸枝さん。講演、執筆のほか個人相談も行っており、人事業務・海外業務の経験も豊富なことから、特に女性のためのキャリア&マネーのアドバイスを多数手がけています。

【後編】では30代からでもできる、老後のイメージと心がまえについて聞きました。

>>不安なのはみんな一緒 まずはできることから始めてみる【前編】はこちら

老後の暮らしは「基本的に、現在の延長」と心得る

――私たちが抱える漠然とした不安の大部分は、老後の不安だと思います。老後の生活はなかなか想像がつきませんが、どんな風にイメージしたらいいのでしょう?

山中氏: 今の60代の方々は、とても若々しく行動的ですよね。ですから60代になったからといって、暮らしが突然質素になるとは考えづらいですよね。行動範囲が狭くなり、その結果としてお金を使うことが少なくなるのは80代、90代になってからの話です。

現役世代の家計を圧迫している年金保険料や、子どもの教育費の負担はなくなるので、支出は減らせます。でも時間がありますから、娯楽費は増えてしまいます。

プラスマイナスすると、やはり現役世代の今とそう変わらないとイメージしておいた方がいいかもしれません。やっぱり皆様、あるものは使ってしまうんですよ。

今「お金がない」人は、老後もその状態が続く

――私たちは何となく、現在と老後を分けて考えがちですが、結局、老後というのは、現在からつながっているということなのですね。

山中氏:そうです。「いくら必要か」ということは「自分はいくら使うだろうか」という裏返しです。

気になっているのは、公的年金をイメージするときに、よく「もらえる」という言い方をしますよね。まるで、すごくたくさんお金がもらえるようなイメージを受けがちです。

でもそれは違います。会社員や公務員が、国民年金に上乗せして受給できる厚生年金は、現役時代にお給料が高くてたくさん稼いでいる人と、そうでない人には金額に差が出ます。ですから、今、「給料が十分でなくてお金に困っている」という人は、老後になって公的年金で一発逆転、ということは起こらないのです。

給与アップが、厚生年金受給額のアップにつながる

――事実を突きつけられると「どうすればいいのか教えてください」と聞きたくなります。

山中氏:相談でも、興味を持ってもらったところで、全員が受給できる国民年金と、会社員や公務員が国民年金に上乗せして受給できる厚生年金の話をします。

公的年金は分かりにくいのですが、気になる「いくら受給できるか」を単純化するとこう説明できます。

国民年金の場合、加入1年あたりが年金約2万円に相当します。ですから、20歳から60歳までの40年間加入すると、年間およそ80万円ですよね。

厚生年金は、会社員や公務員として働いた全期間の年収をならした金額に0.55%をかけて、さらにそこに働いた年数をかけると計算できます。あくまでも今の制度の話ですから、現役世代があまり細かく計算することには意味がないので、「だいたいの数字」を把握してみてください。日本年金機構が運営する「ねんきんネット」に登録して、シミュレーションしてみるのも良いですね。

この数字を見ると、会社を50代で退職するのか、定年退職まで勤務するかで厚生年金の金額も変わってくることが分かります。

――つまり、自分の給与を上げていくことが、将来の年金額アップにつながるのですね。

60代の自分に、今から「仕送り」するつもりで

山中氏:よく「老後の暮らしにはこれだけの金額が必要」と言われます。それぞれの金額には根拠があります。でも、いくら必要ですかと言われて「3,000万円」と答えてしまったら、どうでしょう?大きな数字を前にやる気がなくなってしまいますし、そこで思考停止してしまいますよね。

もちろん、相談では色々な方向からお話はします。例えば「今の高齢者の方でも年金だけで足りているわけではなく、月5万円は足りないので、自分の貯金から取り崩すなどして生活している」という事実です。

将来、子どもなどに迷惑をかけたくないと考えているのなら、60代からの自分を扶養家族だと思って「老後の自分への仕送り」をしないと間に合わないことになります。30歳の自分が60歳の自分に、31歳の自分が61歳の自分に、というように、仕送りをして、未来の自分の家計を助けてあげるイメージです。

「さすがに月5万円ずつ出すのは難しい」となったら、預貯金でなく、運用の力を借りることが必要になりますよね。そこで投資のスキルが必要だ、と決心したら、私はサポートしていきます。

――そうした気づきがあると、みなさんiDeCoを始めるなど、意識や行動が変わっていくのでしょうか?

山中氏:人それぞれですね。でも決心がつかなくて帰ってしまった人も、何年かして必ず相談に来ますね。やっぱり、言われたことが心に残ったということです。独身だったから正直ピンとこなかったけれど、結婚したり、子どもを持ったりしたことをきっかけに、結びつくようです。

決めるのはその人本人で、考える時期がその人に合っていなかった、というのはよくあることです。決心がつかないなら、次のタイミングで行動すればいいということですよね。

投資をやると決めたらちょっとした「無理」も大事

――投資を始めようと思っても、そもそも先立つお金がない場合は、どこから変えていけばいいのでしょう?

山中氏:自分自身を甘やかさないことも大事なんですよ。ダラダラしていたらいつまでたっても投資は始められません。

まず基本として、いざというときのために、3ヵ月分の生活資金は手元に置いておかなければなりません。そこからはみ出た部分を投資資金として回していきますが、それすら確保できていない人が多い。社会人としてそれはダメでしょうということですよね(笑)

投資というのは、夏休みの宿題みたいなものです。やらなきゃと思っていても、どうもやる気にならない、という風に。でも投資の場合、「今からやらなきゃ」という危機感ももっていかないと、どんどん時間が過ぎてしまいます。「早く始めたほうが有利」ということは、理解しておくべきだと思います。

お金は「人生の選択」を大きく左右する

山中氏:お金がないということは、その人の選択肢を狭めてしまうことです。さすがに70代を迎えた方には、こんなお話はできません。高齢者になってからの場合、現状を少しでもいい方向に変えるプランニングが大切ですから。

でも若い世代には時間があるのです。いくらでも自分の人生を変えていけるんですよ。そこで諦めちゃダメですよね。

ファイナンシャルプランナーのライフプランでは「今」を起点に将来を見てきますが、この方法で注意しなければならないのは、今を起点に将来を見て行くと、ちょっと縮こまってしまうということです。

例えば20代、30代の人に「20年後にいくら欲しいですか?」と聞いて「うーん、1億円ですかね」という答えなら、そこをゴールに逆のライフプランを考えてもいいのです。ドーンとファイナンシャル・ゴールを設定して、そこから現在を逆算していく方法って、やる気になりませんか? 相談に来られる人にはそういったお話しすることが多いですね。

「自分の市場価値を上げる」は、老後の豊かさにもつながる

山中氏:私は昔、シンガポールで働いていました。現地で女性を採用したところ、出勤してきた当日に求人雑誌を見ているのです。「もう辞めてしまうの?」と非常に驚きました。

ところが聞いてみたところ、シンガポーリアンは皆「ジョブホッパー」と言われていて、自分の市場価値を確認するために求人雑誌を見ているというのです。自分のマーケットバリューを客観的に見て、どんな勉強したらキャリアアップができるのかということも考えているのだと。私は当時20代でしたが、若い頃にそういう考え方に出会えたことがラッキーだったと思っています。

よく「好きなことを仕事にしましょう」といいますが、現在と老後の豊かさのためには、「どのくらい稼げる仕事であるか」という要素も、欠かすことはできません。

現在は未来につながっています。キャリアアップで給与が上がっていくことで将来の厚生年金の額も上がりますし、給与が増えれば投資できる金額も多くなります。そういった意識を常に持っておくことも、大事ですよね。

山中伸枝(やまなかのぶえ)
心とお財布を幸せにする専門家。ビジネスパーソンの「これから」を応援するファイナンシャルプランナー(CFPR)。講演活動の他、執筆も多く金融庁の有識者コラムも分かりやすいと好評。
http://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/column/column-07.html

【オススメ記事】
なぜ主婦(夫)が確定拠出年金に入れるようになったのか
意外と知られていない個人型確定拠出年金「iDeCo」の落とし穴
確定給付年金との違いをおさらい
銀行預金は税金を引かれている!?それを防止できるiDeCoとは?
確定拠出年金で選べる金融・投資商品はどんなものがあるのか