相続放棄とは?遺産放棄(財産放棄)との違いや手続きのやり方などを解説

執筆:辻本郷ITコンサルティング株式会社

更新:2026年08月21日

亡くなった方に多額の借金や未払いの税金があった、相続したくない財産があるなどの場合、相続放棄を行うことで財産や債務を相続する必要がなくなります。

しかし、相続放棄は期限内に家庭裁判所で必要な手続きを行う必要があります。また、相続放棄をすることで発生するデメリットもあります。

本記事では、相続放棄とは何か、遺産放棄との違い、メリットとデメリット、具体的な手続きなどを解説します。

相続放棄とは

相続放棄とは、亡くなった方の財産に対する権利と義務を一切引き継がないための手続きです。家庭裁判所に申述(申立て)を行い、受理されることで成立します。

相続放棄を行うことで、現預金などのプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も相続する必要はありません。なお、相続放棄すると現預金だけ相続して、借金は放棄するということはできません。

相続放棄は話し合いだけでは成立しない

相続人同士の話し合いによって財産を相続しないことを決めることができます。これを一般的に遺産放棄(財産放棄)といいます。

他の相続人が財産を受け取ることを希望している一方で、1人だけが『自分は相続しなくていい』と希望する場合、相続人同士の話し合いによって、その1人は財産を受け取らないと決めることができます。

しかし、法的に遺産を放棄したわけではないため、マイナスの財産を引き継ぐ義務が残る可能性があります。

もし、空き家や借金など、相続したくない財産や債務がある場合は家庭裁判所で相続放棄の手続きが必要です。

相続放棄の期間は3か月以内

相続放棄は原則として、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所で手続きをしなければなりません。

あくまで相続の開始があったことを知った時から3か月であるため、亡くなった日から3か月を過ぎていても相続放棄できることもあります。

また、「財産が各地に散らばっていて、3か月では借金の全容が把握しきれない」といった特別な事情がある場合は、期限が切れる前に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることで、期限を延ばしてもらえる可能性があります。

特に何もせずに3か月が過ぎた場合、すべての財産を無条件で引き継ぐことに同意したとみなされ、相続放棄できなくなります。借金が多い、相続したくない財産がある場合は早めに相続放棄を検討しましょう。

なお、3か月を過ぎてしまった場合は専門家へ相談することで、相続放棄が例外的に認められるケースもあります。

相続放棄以外の相続の種類

相続の種類には相続放棄以外に、単純承認と限定承認があります。

単純承認とは、プラス・マイナス問わず、すべての財産をそのまま引き継ぐ方法です。家庭裁判所での手続きは必要ありません。

限定承認は、プラスの財産の範囲内で、マイナスの財産を清算し、プラスの財産に余りがあれば引き継ぐことができる方法です。手続きが非常に複雑で時間がかかる上、相続人全員が共同で申し立てる必要があるため、実際に利用されるケースは極めて少ないのが実情です。

相続放棄のメリット・デメリット

相続放棄は、債務などを手放せる一方、一度手続きをしてしまうと取り返しがつかないという側面も持っています。

まずはご自身の状況において、相続放棄をするべきかをメリットとデメリットの両面から比較検討することが重要です。

相続放棄のメリット

相続放棄のメリットは主に3つあります。

1つ目は、亡くなった方が残した借金、未払いの家賃や税金、さらには誰かの連帯保証人になっていたというマイナスの財産を一切引き継がずに済むことです。ご自身の財産を持ち出してまで亡くなった方の借金を肩代わりする必要がなくなります。

2つ目は、遺産分割協議に参加しなくてもよくなる点です。複数の相続人がいる場合、誰がどの財産をもらうかを話し合う遺産分割協議を行う必要があります。親族間で揉め事が起きている場合や、疎遠な親族と連絡を取り合いたくない場合、相続放棄をすることで初めから相続人ではなかったことになるため、話し合いから抜け出すことができます。

3つ目は、不要な財産の管理から逃れられる点です。売るに売れず、固定資産税や維持費ばかりがかかる空き家や山林などを相続したくない場合、相続放棄すれば基本的には引き継がずに済みます。

相続放棄のデメリット

相続放棄のデメリットは主に4つあります。

1つ目は、プラスの財産も相続できなくなる点です。相続放棄はすべて放棄することが条件であるため、相続したいプラスの財産があったとしても、マイナスの財産と一緒にすべて手放さなければなりません。

2つ目は、一度受理されると原則として撤回できない点です。家庭裁判所で相続放棄が受理された場合、後から多額の隠し財産が見つかったなどがあり、気が変わったとしても原則として撤回することは不可能です。

3つ目は、次の順位の親族に相続権が移る点です。例えば、法定相続人全員が相続放棄をすると、相続権が次の順位へ移ります。事前に相続放棄を行ったことを伝え、相続権が移ることを伝えておかなければ、突然借金の督促状が親族に届き、新たなトラブルに発展するおそれがあります。

4つ目は相続税が高くなる可能性があることです。相続税において、死亡保険金は500万円×法定相続人の数までは非課税となります。しかし、相続放棄した方が受け取った死亡保険金には非課税枠が適用されず、相続税の課税対象となります。相続放棄しなければ、相続税を抑えられたというケースも存在します。

相続放棄すべき人・すべきでない人のチェックリスト

「自分は相続放棄をしたほうがいいのか?」と迷った方のために、判断の目安となるチェックリストを作成しました。ご自身の状況と照らし合わせてみてください。

なお、実際の判断は個別の状況によって大きく異なります。少しでも迷う点がある場合は専門家へご相談ください。

相続放棄ができなくなるケースに注意

相続放棄を考えていても、ある特定の行動をとってしまったり、期間を過ぎてしまったりすると、相続放棄ができなくなることがあります。

ここでは、相続放棄ができない可能性があるケースを解説します。

遺産を使ってしまった場合

亡くなった方の財産を勝手に処分したり、自分のために使ってしまったりすると、遺産を相続する意思があると判断され、相続放棄ができなくなります。

例えば、以下のようなケースが該当します。

・亡くなった方の預金を引き出し、自分の生活費に充てた

・亡くなった方の未払い金を、亡くなった方の財産から払った

・亡くなった方の家にあった貴金属を売却した

・遺産分割協議に参加した

・携帯電話などの名義変更を行った、解約した

なお、亡くなった方の預貯金から葬儀費用を支払う場合、社会通念上妥当な範囲であれば、例外的に単純承認にはあたらないとされるケースが多いです。しかし、判断基準が曖昧な部分もあるため、相続放棄を検討している場合は遺産には一切手を付けないのが安全です。

相続開始を知ってから3か月を過ぎた場合

前述の通り、相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所で手続きを完了しなければなりません。

この3か月の間に何も手続きをせずに放置してしまうと、すべての財産・借金を引き継いだとみなされ、相続放棄ができなくなります。

なお、3か月の期限を過ぎても、亡くなった方と生前全く交流がなく、借金があることを知る由もなかったといった正当な理由がある場合、相続放棄が認められる可能性があります。

ただし、期限を過ぎてからの相続放棄の手続きはハードルが高くなります。期限を過ぎてしまった場合や、期限ギリギリの場合は弁護士や司法書士などの専門家へ相談してください。

相続放棄の手続きの流れ・必要書類・費用

相続放棄の基本的な手続きは、以下のステップで進行します。

① 必要書類の収集(戸籍謄本など)

② 相続放棄申述書の作成

③ 管轄の家庭裁判所へ提出(郵送または持参)

④ 家庭裁判所から「照会書(質問状)」が届く

⑤ 照会書に回答して返送する

⑥ 「相続放棄申述受理通知書」が届き、手続き完了

相続人との関係性によって種類は異なりますが、基本的には以下の書類が必要です。

・相続放棄申述書(裁判所のホームページからダウンロード可能)

・被相続人の住民票除票、または戸籍附票

・申述人(放棄する人)の戸籍謄本

・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本

ご自身で手続きを行う場合、裁判所へ支払う実費は1人あたり3,000円〜5,000円程度です。

・収入印紙:800円(申述書に貼付)

・連絡用の郵便切手:数百円分(裁判所によって金額が異なります)

・戸籍謄本などの取得費用:数千円程度

自分で進める方法と専門家に頼む違い

手続き自体はご自身で行うことも可能ですが、弁護士や司法書士といった専門家に依頼することもできます。

ご自身で行うメリットとしては、専門家へ依頼する費用を抑えられることが挙げられます。しかし、手続きの方法を調べ、戸籍などを集め、申述書を作成し、家庭裁判所へ提出する必要があります。不備があれば修正なども必要なため、時間や手間をかけてでも費用を抑えたい方しかおすすめできません。

専門家へ依頼すれば、費用はかかるものの、戸籍の収集や申述書の作成を丸投げできるため、時間や手間をかけずに相続放棄を行うことができます。

申述書が受理されない・照会書が届いた場合の対処法

家庭裁判所に申述書を提出してしばらくすると、裁判所から「照会書」と呼ばれる書類が自宅に郵送されてきます。

これは「誰かに脅されて無理やり放棄させられていないか」「自分の本当の意思か」「すでに遺産に手をつけていないか」を確認するための、裁判所からの確認書です。

ありのまま事実を記入し、署名・捺印をして速やかに裁判所へ返送してください。回答内容に問題がなければ無事に受理されます。

「遺産をすでに使ってしまっていた」「期限の3か月を過ぎており、遅れた正当な理由も認められなかった」といった場合、家庭裁判所で相続放棄が却下されることがあります。

結果に納得がいかない場合は、通知を受け取ってから2週間以内に高等裁判所へ「即時抗告(そくじこうこく)」という不服申立てを行う必要があります。

即時抗告は法的な知識が不可欠な非常に高度な手続きとなるため、弁護士へ相談してください。

特定の親族が相続放棄した場合の扱い

相続放棄することで、権利と義務は次順位の親族へ移ります。他の親族を新たなトラブルに巻き込んでしまうリスクや、意図しない人が権利を有するリスクがあるのです。

相続放棄した際の兄弟への影響

法律上、遺産を相続する順番(法定相続人)は以下のように決められています。

  • 配偶者:常に相続人
  • 1順位:子(子が亡くなっていれば孫)
  • 2順位:親(親が亡くなっていれば祖父母)
  • 3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていれば甥・姪)

例えば、父親が亡くなって第1順位である「子供全員」が相続放棄をしたとします。すると、第2順位である「父親の親(祖父母)」へ相続権が移ります。祖父母がすでに他界している場合は、第3順位である「父親の兄弟姉妹(おじ・おば)」へと相続権が移ります。

このように、相続放棄し続ければ、亡くなった方の兄弟へと相続権が移ります。

意図しない人が権利を有するリスク

相続放棄することで意図しない人が権利を有するリスクもあります。

例えば、法定相続人が配偶者と子1名で、子が配偶者にすべて相続させようと相続放棄した場合、相続権は子から亡くなった方の親に移ります。親が亡くなっていた場合、兄弟へと相続権が移ります。

もし、配偶者と亡くなった方の兄弟が疎遠だった場合、遺産分割協議に手間がかかり、兄弟が「遺産が欲しい」といった場合、配偶者へすべての財産を相続させるのは難しくなります。

配偶者にすべて相続させようとした結果、配偶者の取り分は法定相続分の3/41/4は被相続人の兄弟となる可能性もあるために安易に相続放棄するのはよくありません。

全員が相続放棄するとどうなるのか

子供、親、兄弟姉妹など、法律上の相続人になれる親族が全員相続放棄をした場合、最終的にその遺産はどうなるのでしょうか。

マイナスの財産は、相続人が誰もいなくなった時点で、債権者は誰に対しても返済を請求できなくなるため、親族は誰も借金を返す必要はなくなります。

プラスの財産は、最終的に国庫に帰属します。しかし、自動的に国が引き取ってくれるわけではありません。必要に応じて、家庭裁判所で相続財産清算人を選任する手続きを行い、その清算人が残った借金を返済したり、不動産を売却したりした上で、余った財産を国に納めるという流れになります。

相続放棄後も財産の管理義務が残る可能性がある

相続放棄したとしても空き家などの管理義務が残る可能性があります。

現在の法律では「相続放棄をした時点で、その財産を現に占有している人」は、次の相続人や相続財産清算人に財産を引き継ぐまでの間、引き続きその財産を適切に管理する義務を負うとされています。

反対に、遠方に住んでおり、実家の鍵も持っておらず、長年立ち入っていないような場合は「現に占有している」とはみなされないため、原則として管理義務は負いません。

もし管理義務があるにもかかわらず放置し、建物の倒壊などで第三者に損害を与えた場合、損害賠償を請求されるおそれがあります。このような事態を避けるためにも、放棄する財産に不動産が含まれる場合は、自己判断せずに専門家へ相談することが重要です。

相続放棄に迷ったら期限内に専門家へ相談を

相続放棄すべきかどうか、どのように相続放棄をすればいいのか悩んでいる場合は、弁護士や司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。

期限が決まっている手続きのため、早めに行動してください。

相続放棄しない場合、他の相続手続きが必要

相続放棄せず、不動産などを相続する場合、名義変更や相続税の申告などの手続きが必要になります。専門家へ依頼することもできますが、報酬が発生するため、ご自身で行いたいという方もいらっしゃいます。

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自分で難しい場合は税理士へ依頼することもできます。

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