2023年の注目テーマ(2)防衛 ~人気も業績も最有力!?

2023年の注目テーマ(2)防衛 ~人気も業績も最有力!?

投資情報部 鈴木 英之/栗本 奈緒実

2023/01/13

2023年の注目テーマ(2) 防衛~人気も業績も最有力!?

2022年の株式市場は、世界的に大きく動揺しました。足元はやや落ち着きを取り戻しましたが、本格反転には至っていないのが現実です。

ロシアがウクライナに軍事攻撃を始めたのが昨年2/24(木)で、それから間もなく11ヵ月になろうとしています。それにより、世界の安全保障体制が大きく動揺し、食料やエネルギー価格が上昇し、世界的にインフレが加速し、株価下落が長期化する要因になりました。

そうした中、欧米を中心に多くの国々で、軍事費を増やす動きが強まりました。我が国でも岸田政権が2023年度からの5年間で防衛費を計43兆円と、現行の中期防衛力整備計画(5年で27.4兆円)から5割超も増やす計画です。こうした動きを背景に、株式市場では「防衛関連」銘柄の人気が続いています。

図表1は、世界の防衛関連銘柄のうち、防衛関連売上高(2020年)の多い上位5社(全社が米国企業)の株価推移を示しています。2021年末株価に対し、米国株全体の値動きを示すS&P500は16.7%下げた水準(2023/1/11時点)ですが、防衛関連大手は5社平均で約19%上昇しています。グローバルな株式市場で「防衛関連銘柄」は好パフォーマンスをあげています。

そこで「日本株投資戦略」では、改めて「防衛関連」銘柄をご紹介することにしました。銘柄の抽出条件は以下の通りです。

(1)東証プライム市場に上場

(2)「防衛関連」であること

 ・2022/3/25「日本株投資戦略」の図表3において、世界の防衛関連企業トップ10の仕入れ先日本企業として紹介

 ・または、SBI証券のテーマ株分析・投資ツールである「テーマキラー!」において「防衛」関連銘柄として紹介

(3)直近四半期(累計)の経常利益が前年同期比で黒字転換、または前年同期比増益率が20%超

(4)直近四半期(累計)の経常増益率(前年同期比)が通期会社予想経常増益率を上回っていること、または進捗率が50%以上

図表2の銘柄は上記の条件をすべて満たしています。銘柄掲載の順番は四半期経常増益率の高い順(ただし黒字転換は最上位)です。

図表1 世界の防衛大手5社株価推移(日足)

※SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の公表データをともに、防衛関連売上高(2020年)の大きい銘柄5社の株価を2021年末株価を100として指数化し、グラフ化したもの。比較の対象としてS&P500指数を用いています。最新データは2023/1/11時点。

図表2 2023年の注目テーマ(2) 防衛~人気も業績も最有力!?

取引 チャート ポートフォリオ コード 銘柄 株価(1/12)
(円)
四半期経常増益率(前年比) 今期会社予想経常増益率
5726 5726 5726 5726 大阪チタニウムテクノロジーズ(注) 3,950 黒字転換 黒字転換
7408 7408 7408 7408 ジャムコ 1,402 黒字転換 黒字転換
7011 7011 7011 7011 三菱重工業 4,992 244.4% 9.4%
7012 7012 7012 7012 川崎重工業 2,915 143.3% 黒字転換
5302 5302 5302 5302 日本カーボン(12) 4,285 95.6% 12.8%
6301 6301 6301 6301 小松製作所 2,937.5 66.8% 33.1%
6473 6473 6473 6473 ジェイテクト 924 48.6% 35.4%
7013 7013 7013 7013 IHI 3,780 48.5% -8.7%
  • ※会社公表データ、Bloombergデータ、SBI証券webサイトをもとにSBI証券が作成
  • ※銘柄名右にカッコ付数字がない銘柄(日本カーボン以外の銘柄)は3月決算で、四半期は2022/4~9期累計、今期は2023/3期を示しています。
  • ※銘柄名右が(12)の日本カーボンは12月決算で、四半期は2022/1~9期累計、今期は2022/12期を示しています。
  • ※大阪チタニウムテクノロジーズは信用取引上の注意喚起銘柄になっておりますので、ご注意ください。
  • ※(4)のスクリーニング条件に関し、川崎重工業(7012)は2023/3期・上半期の経常利益が359億円で、通期会社予想経常利益680億円に対する進捗率が52%あり、標準(半期なので50%)を満たしていると考えます。

好業績「防衛」関連銘柄の投資ポイント

ここでは、図表2でご紹介した銘柄の投資ポイント(事業内容や業績等)をご説明します。なお、国際会計基準の企業で用いられる「税引前利益」については、「経常利益」として表現しています。



■大阪チタニウムテクノロジーズ(5726)

当社はスポンジチタンの世界的トップメーカーです。プレミアムグレードと称される重要部品用高品質チタンを提供できる技術力を有し、航空機用エンジン部品向けにも使用されています。生産国であるウクライナでの戦争開始を受けチタン価格が上昇。さらに、行動規制緩和による航空機需要増等を背景にパンデミック後は低迷していた需要が回復。今期(2023/3期)は3期ぶりに黒字となる見通しです。

同社の株価は、ロシアのウクライナ侵攻後に上昇が加速。最終的に2022年は年間で株価が5倍弱ほど上昇しました。売上高の60%以上が海外であるため、円安も追い風になりました。なお、今期の会社予想業績見通しは昨年11/2(水)に上方修正され、売上高が410億、経常利益が39億円です。会社計画の通りに進めば、パンデミック前である2019/3期を上回っての着地となります。

株価は昨年11/9(水)高値4,850円から調整中ですが、100日移動平均線が下値支持ラインになっているようです。



■ジャムコ(7408)

航空機内で使用される「ギャレー(厨房設備)」や「ラバトリー(化粧室)」が主力製品です。航空機製造で世界最大手のボーイングやエアバス社向けに製品を納入しています。創業来の基盤である航空機整備事業(2022/3期の売上高構成比は19%)では、防衛省、海上保安庁などが主な顧客です。パンデミック発生後は、旅客需要の落ち込みに伴い業績が悪化。2021/3期には117億円、2022/3期は35億円もの経常損失となりました。今期(2023/3期)会社予想は、経常利益18.6億円と3期ぶりに黒字転換する見通しで、上半期の段階では経常損益が前年同期比10.4億円改善し、3.5億円となっています。主力納入先であるボーイング社は1/10(火)、2022年の受注が前年比4割増と急回復したことを発表しており、同社にとっても追い風が強まっています。

株価は昨年11/7(月)高値1,795円から調整中ですが、200日移動平均線が下値支持ラインになりそうです。



■三菱重工業(7011)

三菱グループの重工メーカーであり、防衛関連銘柄の代表格です。航空・防衛・宇宙事業の売上高が占める割合は、全体の16%です(2022/3期)。防衛分野では、戦闘機や潜水艦、飛しょう体などを製造しています。売上高の10%以上が防衛省向けであることから、防衛費増額による恩恵をダイレクトに受けやすい銘柄といえます。今期(2023/3期)の会社予想は、売上高が4兆1,000億円(前期比6%増)、経常利益が1,900億円(同9%増)となっています。同社は防衛以外でも、SDGsの観点等から原子力発電が見直されていることも、原子力事業を手掛ける同社にとっての業績押し上げ要因になり得そうです。国策の風向きが、同社にとっての追い風となりつつあります。

株価は昨年12/15(木)高値5,687円から調整中ですが、下値抵抗ラインのひとつとみられる200日移動平均線に接近しています。



■川崎重工業(7012)

前述の三菱重(7011)と同様、防衛関連銘柄の代表的な銘柄です。防衛省向けに航空機や潜水艦の開発・製造を行っています。全体の売り上げに対し、防衛省が占める割合は15%(2022/3期)です。航空機を扱う航空宇宙システム事業では、民間向けの需要が変動する一方、防衛省向けが概ね安定した需要として存在しているとしています。今期(2023/3期)は売上高1兆7,200億円(前期比14.6%増)、経常利益680億円(同145.7%増)が会社予想です。今期中間決算では、航空宇宙システム事業は、防衛力強化という国の方針のもと、今後の需要増が期待されると述べられています。

株価は昨年12/16(金)高値3,285円から調整中ですが、10/3→12/16の上昇幅に対する3分の1押しは2,911円と計算されます。



■日本カーボン(5302)

半導体関連市場や黒鉛電極等に使用される炭素製品関連(2022/1~9期・売上構成比92.3%)、および航空産業等に向けた炭化ケイ素関連(同5.5%)等を製造販売しています。今年度第3四半期累計(2022/1~9期)では、主力の炭素製品関連が半導体市場からの旺盛な需要で拡大し、売上高266億円(前年同期比19.9%増)、経常利益46.8億円(同95.6%増)と好調。2022/12期は経常利益50億円(同12.8%増)が会社予想です。航空産業向けの需要も回復傾向にあるようです。株価は昨年12/15(木)高値4,480円から調整中ですが、下値抵抗ラインとみられる100日&200日移動平均線に接近しています。



■小松製作所(6301)

世界的な建設機械大手です。国内売上高(2023/3期・上期)は9.4%に過ぎず、米州向けが42.5%、欧州・CIS向けが13.7%等、海外売上高が圧倒的に多くなっています。2022/4~9期は北米向けの好調や円安を背景に、売上高1兆6,187億円(前年同期比25.3%増)、経常利益2,277億円(同66.8%増)と増収増益。会社側は予想通期経常利益を3,335億円→4,320億円(同33.1%増)と上方修正しました。下期の前提為替レートは1ドル140円となっています。防衛関連については、装甲車両や弾薬事業に展開していますが、前者の開発からは撤退しています。



■ジェイテクト(6473)

ベアリング大手の光洋精工とトヨタ系自動車部品の豊田工機が合併して誕生。売上構成比(今上半期)は、世界シェアトップのステアリング等を製造販売する「自動車」が68%、「産機・軸受」が22%、「工作機械」が11%等となっています。今上半期は売上高8,045億円(前年同期比21%増)、経常利益264億円(同48.6%増)と増収増益。全部門が増収となりましたが、うち、主力の「自動車」が生産回復や円安の恩恵を受けたこと、「工作機械」が大幅増益になったことが貢献しました。通期では経常利益595億円(前年比35.4%増)が会社予想です。

株価的には、昨年後半以降の円高が嫌気され、トヨタ(7203)が下落基調をたどったこともあり、当社株も冴えない動きです。しかし今後は挽回生産の本格化や、軸受け等の回復が期待できそうです。



■IHI(7013)

同社は総合重機の大手企業で、航空・宇宙分野に強みを持っています。ジェットエンジン製造では日本国内のシェアトップで、防衛省が使用する航空機のほとんどのエンジンの主契約者になっています。第二次世界大戦末期に開発された国産初のターボ・ジェットエンジン「ネ20」は同社製品です。戦後は日本の宇宙開発に当初から参画し、ロケットエンジンの心臓部となるターボポンプ、ガスジェット装置の開発・生産の推進役でもあります。

売上構成比(今上半期)は、ボイラやプロセスプラントなどの「資源・エネルギー・環境」が28%、橋梁・水門、都市開発、F-LNG・海洋構造物などの「社会基盤・海洋」が13%、物流・産業システム、パーキング・システム、シールド掘進機、ターボチャージャーなどの「産業システム・汎用機械」が34%、航空エンジン、ロケットシステム、防衛機器システムなどの「航空・宇宙・防衛」が25%となっています。

今上半期(2022/4~9期)は売上高5,944億円(前年同期比15.1%増)、経常利益395億円(同48.5%増)と増収・増益。「航空・宇宙・防衛」は前年同期比で受注高が72%、売上高39%増え、営業利益も311億円増えるなど、全体のけん引役になりました。株価は昨年12/15(木)高値4,130円から調整中ですが、押しも浅いため、きっかけ次第では再上昇に転じる可能性もありそうです。

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