アメリカNOW! ~ アルファベットがAIアクセラレーターを外販(?)で注目のAI半導体関連銘柄 ~

投資情報部 榮 聡
2025/12/01
先週の米国株式市場は、金融当局者の発言を受けて12月利下げ期待が復活したことに加え、テクノロジー株への利食い売りが一服したことから、大幅な反発となりました。今週の株価材料として、年末商戦の動向、11月ADP雇用統計、AI物色の回復が注目されます。
今回は市場で注目が高まっているAI半導体の関連企業として、アルファベット A(GOOGL)、ブロードコム(AVGO)、エヌビディア(NVDA)、アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD)、マーベルテクノロジーグループ(MRVL)を選んでご紹介いたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
「雲」が下値支持帯として機能しました。高値圏でのもみ合いに移行していく可能性が高そうに見えます。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率(「5日」は11/20(木)終値~11/28(金)終値によります。)
| S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
| コミュニケーションサービス | 8.2% | 6.3% | 14.2% |
| 一般消費財・サービス | 7.1% | -2.4% | 3.0% |
| 素材 | 5.4% | 4.0% | -3.6% |
| S&P500 | 4.7% | 0.1% | 6.0% |
| 情報技術 | 4.4% | -4.4% | 8.9% |
| 金融 | 4.3% | 1.7% | -1.2% |
| ヘルスケア | 4.0% | 9.1% | 14.7% |
| 資本財・サービス | 3.9% | -1.0% | 1.1% |
| 不動産 | 3.2% | 1.8% | -1.1% |
| 公益事業 | 2.9% | 1.3% | 7.5% |
| 生活必需品 | 2.5% | 3.9% | -0.6% |
| エネルギー | 1.5% | 1.8% | 0.0% |
| 騰落率上位(5日) | 騰落率 |
| インテル | 20.6% |
| ブロードコム | 16.2% |
| アルファベット | 10.6% |
| メルク | 10.4% |
| メタ・プラットフォームズ | 10.0% |
| 騰落率下位(5日) | 騰落率 |
| オラクル | -4.1% |
| ディア | -2.5% |
| ロッキード・マーチン | -2.2% |
| エヌビディア | -2.0% |
| エクソンモービル | -0.9% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
S&P500指数は週間で3.7%、ダウ平均は3.2%、ナスダック指数は4.9%の大幅上昇となりました。
11/21(金)のNY連銀ウィリアムズ総裁、11/24(月)のウォラーFRB理事の発言を受けて、市場の12月利下げ期待が復活して株価の支えになりました。FedWatchによる12月利下げ確率は、先々週に一時30%台まで低下していましたが、先週は80%台まで上昇しました(図表3)。
テクノロジー株に対する利食い売りも一巡となりました。AIバブル、AI過剰投資への懸念は完全になくなってはいないと見られますが、エヌビディアがベンダー・ファイナンス批判に対する反論のメモを米証券アナリストに配布したことが報じられ、一旦懸念が後退しました。
また、米大手証券がS&P500指数の2026年末目標値を公表し始めており、概ね7,100~8,000ポイントと強気の見通しが示されたことも安心感を生みました。
業種指数(「5日」は11/20(木)終値~11/28(金)終値によります)では、アルファベットがけん引したコミュニケーションサービス、テスラがけん引した一般消費財・サービスの上昇が大きくなっています。1ヵ月ではヘルスケアの9.1%上昇が目立っています。
個別銘柄で上昇トップのインテル(INTC)は、アナリストのミンチー・クオ氏がアップルの先進ノードサプライヤーになる可能性が高まっており、2027年にもローエンドのMシリーズチップ(アップルが設計したMac用の半導体)の製造を開始する可能性があるとコメントしたことで11/28(金)に10%上昇しました。
今週の米国株式市場
S&P500指数は、テクニカル的に重要な100日移動平均線や一目均衡表の「雲」の下限からきれいに反発して、一安心といったところです。テクニカルに重要なポイントをブレイクしなかったということは、重要なファンダメンタルズの変化が起きていないと解釈できます。米大手証券によるS&P500指数の2026年末目標値は、公表されているのはまだ一部ではありますが、7,100~8,000ポイントと上昇が見込まれています。
今週の株価材料として、年末商戦の動向、11月ADP雇用統計、AI物色の回復が注目されます。
年末商戦が本格化しており、今週早々にブラックフライデーからサイバーマンデーまでの速報が出てくる見通しです。全米小売業協会(NRF)によると、今年の年末商戦の売上高は前年比3.7%~4.2%増加して堅調な見通しです。マスターカードの調査では、ブラックフライデーの売上は前年比4.1%で、堅調でした。
通常であれば労働省の11月の雇用統計が発表されるタイミングですが、政府閉鎖の影響で発表は12/16(火)にずれ込む見通しです。このため、民間の雇用統計であるADP雇用統計が注目されます。11月分は前月比2.0万人増で、雇用市場の急激な悪化は免れるものの、引き続き鈍化傾向を示す見込みです。
AI投資が過剰か否かについて株式市場での議論は続いています。先週にはエヌビディアが証券アナリストに対して自社の主張を説明するメモを配布したと報じられましたが、リリースでの一般公開はありませんでした。
報道によると市場で「ベンダー・ファイナンス」と批判されているAI半導体顧客企業への投資に対して、通常顧客からは53日以内に代金を回収しており、「売上を膨らませるための典型的なベンダー・ファイナンス」とは性格が異なると反論したとされます。引き続き議論の行方を注視する必要がありそうです。
経済指標では、12/1(月)に米国の11月ISM製造業景気指数(前月の48.7から49.0に改善の予想)、12/3(水)に米国の11月ADP雇用統計(前月比1.0万人増の予想)、11月ISM非製造業景気指数(前月の52.4から52.0に改善の予想)、12/5(金)に米国の9月個人消費支出物価指数(総合指数は前年比+2.8%の予想、前月のデータなし、コア指数は同+2.8%の予想、前月のデータなし)、12月ミシガン大学消費者信頼感(前月の51.0から52.0に改善の予想)、などの発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は市場で注目が高まっているAI半導体の関連銘柄をご紹介いたします。
AI投資は過大ではないかという見方が市場参加者の一部にあり、ここ1ヵ月株価は大きく変動し、その動静が注目されています。さらに、アルファベットがこれまで自家消費に限ってきたカスタムAI半導体「TPU」(Tensor※ Processing Unit)を外販するのではないかとの観測があり、AI半導体市場が大きく動く可能性が出てきています。
※「Tensor」は、AI計算に使われる多次元配列の数学的な概念を指します。
「TPU」を擁するアルファベット A(GOOGL)、「TPU」の製造を請け負っているブロードコム(AVGO)、AI半導体を製造するエヌビディア(NVDA)、アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD)、マーベルテクノロジーグループ(MRVL)をご紹介いたします。
図表3 12月FOMCでの利下げ確率の推移(FedWatch)
※FedWatchの公表をもとにSBI証券が作成
図表4 今週の5銘柄の投資指標
注:予想PERは今期予想EPSに基づいて計算しています。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
| 取引 | チャート | 銘柄 | 株価 (11/28) |
予想PER (倍) |
ポイント |
| 買付 | アルファベット A(GOOGL) | 320.18ドル | 27.2 | 【「TPU」を外販する可能性】 ・これまで自社で使用していたAI半導体の「TPU」(Tensor Processing Unit)を外販する可能性が報じられて注目が高まっています。エヌビディアのAI半導体と同等の10年以上の歴史があります。汎用ではなく機能を絞っているものの、エヌビディアのAI半導体に比べて安価で消費電力も低いため、一定の分野で競争力があるとみられます。 ・TPUを擁するため、ハイパースケーラーの中でAI関連事業の採算性を高めやすいと考えられてきました。一方、外販するとすれば、このようなコスト優位は低下するものの、AI半導体事業で収益が稼得できます。本当にTPUを外販するのか、外販に踏み切ったときにエヌビディアからどれくらいシェアを奪えるか、注目されます。 | |
| 買付 | ブロードコム(AVGO) | 402.96ドル | 42.8 | 【アルファベットのTPU生産を担当】 ・同社はアルファベットのAIアクセラレーター「TPU」の生産を10年以上にわたって担ってきました。ここ数年はアルファベット以外にもカスタムAI半導体を生産する事業を拡大しています。 ・AI半導体の市場では、エヌビディアに次いで約10%のシェアを保有していると推定されています。ただ、「TPU」はアルファベットの自家消費で市場価格で評価されていないため、この数値は推定の考え方によって異なります。アルファベットが「TPU」を外販する場合には、同社には大きな恩恵が期待されます。 | |
| 買付 | エヌビディア(NVDA) | 177.00ドル | 23.2 | 【AI半導体での競合が強まる】 ・これまでAI半導体市場で80%以上の市場シェアをもつとされ、特にアルファベットによる自家消費の部分を除くとほぼ市場を独占してきました。しかし、AMDがOpenAI、オラクルと大型契約を締結したことで、市場シェアは一定程度低下すると見込まれ、初めて本格的な競争に直面する状況です。 ・また、アルファベットはこれまで自家消費にとどめていたカスタムAI半導体の「TPU」を外販する可能性があると報じられ、さらに競合が強まる可能性があり、今後の動向を注視していく必要があります。 | |
| 買付 | アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 217.53ドル | 33.5 | 【AI半導体で大型受注】 ・汎用のAI半導体市場に2023年10-12月期に参入して現在数%の市場シェアを保有していると見られています。2025年10月にはオラクル、OpenAIやオラクルと大型のAI半導体供給契約を締結しています。2025年12月期の66億ドルから、2026年12月期に121億ドル、2027年12月期に308億ドルと、急拡大が予想されています。 ・一方、OpenAIやオラクルとの契約は、OpenAIは赤字企業であること、オラクルは巨額の負債発行で投資を賄うことから、AIの過剰投資に関する懸念の矛先が向かい、同社株は足もとで急反落しています。 | |
| 買付 | マーベルテクノロジーグループ(MRVL) | 89.40ドル | 26.3 | 【カスタムAI半導体で台頭】 ・カスタムAI半導体市場で台頭しつつある半導体メーカーです。AI半導体の周辺技術に強く、AI半導体にまつわる複数の関連プロジェクトに関与していることを開示しています。 ・4大ハイパースケーラーおよび新興のハイパースケーラーに対して「カスタムXPU」で5件、「カスタムXPU attach」で13件のプロジェクトで生産実績があります。顧客と話を進めているパイプラインは、プロジェクト数が50個以上、対象顧客は10社以上、これらプロジェクトを受注できた場合の生涯売上は750億ドル以上に達すると説明しています(2025年6月の会社説明会)。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、エヌビディア、マーベルテクノロジーグループは2027年1月期、ブロードコムは2026年10月期、その他は2026年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
| 経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
| 12月 1(月) |
・米ISM製造業景気指数(11月) | モンゴDB |
| 2(火) | クラウドストライクホールディングス マーベルテクノロジーグループ、オクタ |
|
| 3(水) | ・米ADP雇用統計(11月) ・米ISM非製造業景気指数(11月) |
セールスフォース、スノーフレーク |
| 4(木) | ・米チャレンジャー人員削減(11月) ・米新規失業保険申請件数(11月29日に終わる週) |
ダラージェネラル、アルタビューティ |
| 5(金) | ・米個人所得・個人支出(9月) ・米個人消費支出物価指数(9月) ・米ミシガン大学消費者信頼感(12月、速報値) |
|
| 8(月) | ・NY連銀1年インフレ期待(11月) ・米3年国債入札 |
オラクル |
| 9(火) | ・米NFIB中小企業楽観指数(11月) ・米求人労働異動調査(10月) ・米10年国債入札 |
オートゾーン |
| 10(水) | ・FOMC政策金利 | アドビ |
| 11(木) | ・米生産者物価指数(11月) ・米新規失業保険申請件数(12月6日に終わる週) ・米30年国債入札 |
ブロードコム、コストコホールセール ルルレモンアスレティカ |
| 12(金) | ・ファイラデルフィア連銀ポールソン総裁の講演 |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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