~フィッチの米国債格下げの影響、消費拡大策の中身~

~フィッチの米国債格下げの影響、消費拡大策の中身~

投資情報部 李 燕

2023/08/03

7/27-8/2の香港市場は小幅に続伸しました。景気支援をめぐり、中国当局が具体的な消費拡大策を発表し、好材料となりました。ただ、8/2はフィッチが予想外に米国債の格付けを引き下げたことがリスク回避を誘い、利益確定売りが進みました。

今回のトピックスは、「フィッチの米国債格下げの影響、消費拡大策の中身」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の推移(日足、6ヵ月)

注:8/2(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(8/2(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
06862 海底撈(Haidilao) 15.7% -0.2% 12.4% 火鍋チェーン中国最大手。会社側が2023年上期の継続事業からの純利益は22億人民元を超える見込みだと発表し、好材料となった。2022年通期の継続事業からの純利益が16.4億元だったことからすると、今年上期は力強く回復したことになる。
06098 CG SERVICES 14.6% 12.9% -15.2% 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。会社側が発行済株数の10%に相当する自社株の買いを実施し、好感された。
02628 中国人寿保険 [チャイナ・ライフ] 9.9% -1.8% -9.7% 大手保険会社。中国当局による不動産支援を受け、保険株が買われた。保険会社は不動産市場へのエクスポージャーが比較的高い。
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] 8.5% -5.1% -12.5% 大手光学機器メーカー。スマートフォンの販売回復期待を背景に、スマートフォン関連株が買われた。
02331 李寧 [リー・ニン] 8.3% -5.6% -18.9% 中国国産ブランドのスポーツウエア大手。大手証券会社がアパレル業界は在庫問題が改善しており、下期は回復が見込まれると分析。中国ブランドである同社が恩恵を受けるだろうと予想した。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00011 恒生銀行[ハンセン・バンク] -3.9% -6.6% -4.2% 香港の大手銀行。1-6月期の業績はおおむね市場予想通りだったが、貸し出しの伸びが鈍化し、売り材料となった。
00322 康師傅控股 [ティンイー] -4.4% -6.3% -17.7% 大手食品メーカー。ロシアがウクライナの穀物インフラ攻撃を続けていると報じられ、穀物先物価格が上昇し、売り材料となった。原材料価格の上昇が懸念された。
01177 中国生物製薬 [シノ・バイオファーマ] -4.6% -4.6% -21.7% 大手医薬品メーカー。フィッチが予想外に米国債の格付けを引き下げ、リスク回避の動きでヘルスケア株が売られた。ヘルスケア株はテック株と同様に投資家のリスク志向に影響されやすい。
03692 Hansoh Pharmaceutical -9.8% -8.9% -19.8% 医薬品大手。フィッチが予想外に米国債の格付けを引き下げ、リスク回避の動きでヘルスケア株が売られた。ヘルスケア株はテック株と同様に投資家のリスク志向に影響されやすい。
00968 信義光能 [シンイー・ソーラー] -10.9% -12.3% -11.0% 太陽光発電ガラスメーカー。1-6月期の純利益が前年同期比26.9%減となり、売りが膨らんだ。決算発表後、大手証券会社が目標株価を引き下げた。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09868 小鵬汽車[シャオペン] 16.7% -18.6% 83.1% 新興EVメーカー。中国当局が消費拡大策で新エネルギー車の購入を促すと改めて示し、買い材料となった。ただ、8/2はリスク回避の高まりで利益確定売りが顕著だった。(詳細は本文をご参照願います。)
09866 蔚来汽車 [ニオ] 16.3% -7.5% 76.2% 新興EVメーカー。上記同様。
02015 理想汽車[リーオート] 13.0% 1.5% 83.2% 新興EVメーカー。上記同様。
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] 8.5% -5.1% -12.5% 大手光学機器メーカー。スマートフォンの販売回復期待を背景に、スマートフォン関連株が買われた。
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] 7.2% -5.3% 9.9% ソフトウェア会社。中国本土の証券会社が買い推奨した。新製品の発売とともに、今後3年間は収益の拡大が期待できることを理由に挙げた。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
06618 京東健康(JD Health) 0.1% -4.0% -1.9% JDドットコム(09618)傘下のインターネットヘルス大手。200日移動平均線が上値抵抗線として意識されたもよう。8/1は約3ヵ月半ぶりに200日移動平均線の回復したが、8/2は市場全体のリスク回避の動きを受け、利益確定売りに押された。
00981 中芯国際 [SMIC] 0.0% -3.9% -15.9% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。半導体関連株がやや軟調だった。中国が旧型半導体の生産を急ぐことに対し、米国が警戒を強めていると報じられ、材料視された。
00020 SenseTime Group Inc 0.0% -4.9% -31.5% AIソフトウェア大手。前週はアリババ(09988)が同社株の保有分を全て売却したことが明らかになり、需給懸念の緩和で買い戻しが入ったが、勢いは続かず、8/2はリスク回避の高まりで利益確定売りに押された。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] -0.9% -2.7% -3.1% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。200日移動平均線が上値抵抗線として意識されたもよう。8/1は約3ヵ月ぶりに200日移動平均線の回復したが、8/2は市場全体のリスク回避の動きを受け、利益確定売りに押された。
01347 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] -1.2% -3.4% -19.8% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。半導体関連株がやや軟調だった。中国が旧型半導体の生産を急ぐことに対し、米国が警戒を強めていると報じられ、材料視された。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

7/27-8/2の香港市場では、ハンセン指数が0.8%上昇、ハンセンテック指数は4.0%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は0.3%下落しました。

中国当局が前週に景気支援を表明した後すぐ、消費拡大策を発表したことを受け、主要指数は7/31まで続伸しました。香港市場では、主に自動車をはじめとする消費関連業種が買われました。

しかしながら、8月に入ってからは高値警戒感が意識されたなか、8/2に格付け会社フィッチが予想外に米国債の格付けを引き下げ、リスク回避を誘いました。これまで上昇してきた銘柄を中心に、8/2は利益確定の売りが進みました。

HXC指数の下落率がより大きいのは、8/2の米国市場でナスダック100指数が2%超下落するなど、リスク回避の動きが強まったためです。ナスダック100指数の先物は、8/2のアジア取引時間帯では1%強の下落率でした。

なお、フィッチによる米国債格付けの引き下げは、高値警戒感と政策の不透明感がある中で、利益確定売りを誘った一因に過ぎない可能性があります。高値警戒感については、ハンセン指数でみた場合、20,000ポイントの大台回復(図表1参照)を維持できるかどうかが警戒されていたタイミングでした。

政策の不透明感は、主に中国当局が支援措置を「どこまで現実に落としていくか」に関して、多くの投資家がまだ「疑心暗鬼」に思っているためです。折しも、中国当局が8/2に未成年者のモバイル利用制限(たとえば、午後10時から翌日午前6時までのアクセス制限など)に関する意見公募を発表しました。若者の過度なネット依存による弊害を防止するための措置ですが、ネット大手にする支援表明を行った後の出来事だったこともあり、ネガティブ・サプライズとなりました。なお、意見公募の段階にあるため、実際の内容は変わる可能性があります。

また、過去の経験からすると、8月は総じてパフォーマンスが軟調だったことも警戒され(図表4と図表5)、利益確定売りが出やすかったかもしれません。8月の低調は中国株に限らず、米国市場でも同様な傾向があります(※)。よって短期的には、多少警戒しながら中国当局の政策実行を確認していく必要がありそうです。

(※米国市場の主要指数については、8/2付レポート”【米テック株ウォッチャー】テック株の決算からみる「AIの貢献度」と「半導体の底打ちタイミング」”をご参照願います。

図表4 ハンセン指数の月次パフォーマンス(過去20年間、%)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表5 MSCI中国指数の月次パフォーマンス(過去20年間、%)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「フィッチの米国債格下げの影響、消費支援の中身」です。

【フィッチの米国債格下げの影響】

格付け会社フィッチが8/2(アジア時間)に、予想外に米国債の格付けを引き下げ、ネガティブ・サプライズとなりました。フィッチの格下げ後、米長期金利がアジア取引時間帯で上昇したことを受け、香港市場では金利に敏感なテック株やヘルスケア株が売られました。市況の部分で確認したように、フィッチの格下げはリスク回避の売りを誘うきっかけとなりました。今後、その影響が一時的なものにとどまるか、それとも長引くかは、リスク回避の動きが続くかどうかに左右されそうです。

2011年8月に格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国債の格付けを引き下げた時の動きを確認してみると(図表6)、中国株の主要指数は世界的なリスク回避の動きを受け、S&Pの格下げ後、およそ1カ月間調整しました。当時は、世界2大格付け会社の一つであるS&Pが米国債を格下げしたことで、衝撃も大きかったようです。ただ、主要指数は10月は反発しました。

図表6 2011年に米国債の格下げが行われた時の相場動向 (株価指数は2010年12月末=100として指数化)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。


今回、フィッチが米国債の格付けを引き下げた後、世界2大格付け会社であるS&Pとムーディーズがどう動くかも注目されます。世界2大格付け会社がフィッチと同様な動きに出た場合は、リスク回避の動きが強まる恐れに注意が必要かもしれません。他方、フィッチが米国債格付けを引き下げた翌日(8/3)の香港市場(前場)の動きをみる限り、市場は初日の格下げショックから少し落ち着きを取り戻しているようです。特に、前日(8/2)のリスク回避局面で売りを浴びせられたテック株が買い戻されたことからすると、投資家は「過度な警戒」よりも「様子見しながら買いを入れている」感もあります。背景には、中国株をめぐっては、中国当局がとうとう景気支援に動き出したことが挙げられます。

【消費拡大策の中身】

中国当局が景気支援の大枠(7/27付レポート「~中国の景気支援は今度こそ本気か、意外な支援分野も浮上~」の図表4を参照)を発表した後、早速、消費拡大策を発表したことは、市場にとってややサプライズとなりました。なぜならば、多くの投資家は中国当局が今回も「口約束」だけにとどまるのではないかと考えているためです。しかしながら、中国当局は今回、立て続けに支援措置を打ち出しており、「今度こそ本気」かもしれません。

図表7 消費拡大策の主な項目と詳細

※中国国務院の発表資料をもとにSBI証券が作成。


上記を確認してみると、中国当局は引き続き自動車、特に新エネルギー車の消費拡大を促す予定です。新エネルギー車について中央政府レベルで支援措置も実施されています。一方、家電やサービス消費に関しては、今のところ地方政府に委ねようとしている感も否めません。したがって、これらの分野に関する具体的な支援措置については、今後確認する必要がありそうです。よって、足元は相場のボラティリティには留意する必要があるかもしれませんが、年後半は引き続き、EV関連銘柄に注目したいと思います(注:6/22付レポート「~中国の利下げとEV支援~」をご参照願います)。


※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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