【8月相場展望】日銀政策変更の影響は限定的!?米長期金利に注目

【8月相場展望】日銀政策変更の影響は限定的!?米長期金利に注目

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2023/08/01

日経平均は反発。YCC修正で一時急落するも、円安水準回復し、安心感が広がる

7月第4週(7/24-28)の日経平均は、前週末比454円98銭高(+1.41%)と週足ベースで反発。週半ばから後半にFOMCや日銀会合を控え、週前半は警戒感が漂う展開。ただ、本格的な決算発表シーズンを迎えていたこともあり、大型米テック株の業績内容や見通し次第で一喜一憂する場面もありました。

現地時間7/26(水)に結果発表された7月FOMCは、特段の波乱なく通過。一方、日本では6/28(金)未明、日経新聞社より日銀のYCC修正が観測報道されました。同日の金融政策決定会合では、報道通り指値オペの許容変動幅が±1%に拡大され、為替市場で円高ドル安が急激に進行。円安恩恵銘柄を中心に、日経平均は一時大幅となりました。しかし、引けにかけて下げ幅を縮小。会合後の日銀植田総裁の会見では、金融政策の正常化に関して後ろ向きな発言がありました。同発言等を受け同日の夜には、日銀会合の結果発表前まで円安ドル高水準が回復した格好です。為替が円安基調に戻ったこともあり、8月第1週の日経平均は大幅反発でのスタートとなりました。

日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(7/18~24・図表7)は、銀行業から6銘柄、保険業から2銘柄がランクイン。日銀会合での、指値オペの許容変動幅拡大が好感されました。日銀会合の開催日以降で大幅高となった銘柄が多数です。

下落率上位(7/18~24・図表8)では10銘柄中、7銘柄が期中に決算発表を行った会社となりました。内容は、特損で大幅減益したり、最高益だけれども成長鈍化したり等まちまちです。市場参加者は各社の業績を冷静に吟味するフェーズに入ったもようです。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(7/24~31)

図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位(7/24~31)

【8月相場展望】日銀政策変更の影響は限定的!?米長期金利に注目

先週は日米欧で金融政策を決める重要な会合が開催されました。7/25の225の『ココがPOINT!』では、各国金融政策に対する市場の目線と、サプライズ要素について解説しましたが、一連の会合でもっともサプライズだったのは日本でした。

7/27・28開催の日銀金融政策決定会合では、金融緩和策の1つであるイールド・カーブ・コントロール(YCC)政策の変更が発表されました。具体的には日本の10年国債利回りについて、従来は±0.50%以内に留まるように誘導されたのに対し、新たな方針では、毎営業日に1%の固定金利で指値オペを実施することとなり、事実上1.0%までの上振れが容認されます。とは言え、日銀は7/31に臨時の買いオペを実施するなど、急激な金利上昇を抑制する姿勢を見せており、一方的な金利上昇が進む可能性は低いと見られます。

一部の市場参加者は今回の政策変更を日銀による事実上の利上げ、あるいは金融緩和からの脱却(出口戦略)に向けた第一歩だ、との見方を強めている模様です。実際、金融政策決定会合の終了後、10年国債利回りは一時0.5%台後半へ上昇、日経平均も800円を超える下落(終値は131円安へ下げ幅縮小)となりました。

もっとも、植田総裁はYCC政策の修正について「金融緩和の持続性を高めるため」の措置として、出口戦略に向けた措置ではない、との旨を強調しております。また、同会合後に公表された経済・物価情勢の展望(展望レポート)では、消費者物価(除く生鮮食品)について、23年度予想が+2.5%へ上方修正された一方、24年度予想が+2.0%から+1.9%へ下方修正されており、25年度予想の+1.6%と併せて、日銀の物価安定の目標(2%)を下回る見通しが示されています(図表9参照)。植田総裁は、現状の物価情勢は日銀が目指す持続的・安定的な物価目標までに“まだ距離がある”との認識を示しており、当面は緩和的な金融政策が続くと見られます。

10年国債は7/31に0.595%と従来の上限である0.50%を上回っているものの、新たな上限目途である1.0%には届いておりません。長期金利が急上昇すれば、株安要因につながりかねないので注意が必要ですが、金融政策の変更リスクが小さいのであれば、株式市場への影響は限定的に留まると見られます。

図表9 経済・物価情勢の展望(展望レポート)で示された物価、経済成長見通し

  • ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成

では、8月相場を見る上で何が注目されるのか?と言えば、やはり米国市場の動向となるでしょう。米国株式市場はS&P500指数とナスダック総合指数が5ヵ月連続で上昇するなど堅調に推移しています。米国相場は、FRBによる利上げが続きながらも、米経済が急激に後退することはない(ソフトランディングする)との期待に支えられています。ただし、こうした見方の一方で、堅調な経済を背景に米国長期金利が上昇傾向にあることには注意が必要です。米国10年国債利回りが4%の節目を超えるか否かが、米国株式市場ひいては日本の株式市場の方向性を決めていくのではないか、と考えられます。

実際、過去1年程度の米10年国債利回りとS&P500株価指数の関係に注目すると(図表10)、10年国債利回りが4%の水準に近づく、あるいはこれを超えてくると、S&P500は顕著な調整に見舞われてきました。長期金利上昇の背景には、FRBがタカ派姿勢を示したこと受けて金利先高観が強まったことがあります。また、経済指標などを通じて米国経済が堅調に推移しているにも関わらず(結果的に金利先高観が意識されることになり)、金利上昇を受けて株価が調整することもありました。

最近では、7/6に発表された6月ADP雇用統計が、前月比+49.7万人と市場予想(同+22.5万人)を上回り、堅調な雇用情勢が示されたものの、10年国債利回りが約4ヵ月ぶりに4%を越えたことで、株式市場は軟調に反応しました。また、翌7日の6月雇用統計でも、賃金の伸びが市場予想を上回ったことを受けて長期金利が上昇し、株式市場の重石となりました。更に象徴的だったのが7/27の米国市場でした。この日は取引開始前に発表された4-6月期GDP統計で実質GDP成長率が前期比年率+2.4%と市場予想(同+2.0%)を上回る伸びとなりました。米国経済がソフトランディングへ向かっているとの見方が強まる中、取引開始後の米国株式市場は買い先行でとなりました。ところが、米10年国債利回りが4%台へ近づくと、米国株式市場は次第に上値の重い展開となり、金利上昇の動きが続くと米国株式市場は一転して売り優勢となりました。やはり10年国債利回りは4%が大きな節目になっていると捉えて良さそうです。

図表10 米10年国債利回りとS&P500株価指数(上段:過去1年、下段:7/27)

  • ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成

今週は2日に7月ADP雇用統計、4日に7月雇用統計など、前月が堅調だった雇用関連指標をはじめ、重要な経済指標の発表が相次ぎます。現状、米国10年国債利回りは3.9%台後半で推移しております。一連の経済指標が堅調な内容となれば、ソフトランディングに対する期待よりも、金利上昇への懸念が上回る可能性に注意する必要があると考えられます。

図表11 米国雇用統計(失業率と賃金の推移)

  • ※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成

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