~EV関連銘柄の調整要因と見通し~

~EV関連銘柄の調整要因と見通し~

投資情報部 李 燕

2023/08/10

8/3-8/9の香港市場は反落しました。中国の貿易統計の下振れと不動産情勢の悪化で、景気減速に対する懸念が強まりました。不動産の比重が高いハンセン指数が1%を超える下落率となり、ハイテク株の比重が高いハンセンテック指数は小幅安となりました。

今回のトピックスは、「EV関連銘柄の調整要因と見通し」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数とハンセンテック指数の年初来推移

注:8/9(水)までのチャートです。今回よりハンセンテック指数も合わせて載せております。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の年初来推移(2022年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。今回より年初来推移となっております。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(8/9(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00968 信義光能 [シンイー・ソーラー] 6.5% -6.6% -1.1% 太陽光発電ガラスメーカー。7/31に軟調な決算を発表してから大手証券会社が相次いで目標株価を引き下げたが、世界的な大手投資銀行1社は投資判断「買い」を維持すると表明し、買い戻しを誘った。
06862 海底撈(Haidilao) 5.1% 4.8% 25.8% 火鍋チェーン中国最大手。大手証券会社数社が目標株価を引き上げ、買い材料となった。
00316 東方海外 4.9% 2.2% -16.8% 海上貨物輸送を手掛ける。需給要因のもよう。緩やかな上昇トレンドが続いており、足元では200日移動平均線を試す展開となっている。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] 4.1% 1.3% 7.9% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。特段材料はなく、需給要因のもよう。8月初めは利益確定売りで株価が200日移動平均線を下回ったが、100日移動平均線が下値支持線となり、再び200日移動平均線を試す展開となっている。
01378 中国宏橋集団 4.0% 1.3% -0.9% アルミニウム製品メーカー。大手証券会社が電解アルミニウムの利益率改善を予想し、買い推奨した。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00001 長江和記実業[CKハチソン] -8.0% -10.2% -18.7% コングロマリット。1-6月期の純利益が前年同期比41%減となったほか、会社側が7-9月期についても慎重な見通しを示し、売り材料となった。
03692 Hansoh Pharmaceutical -8.7% -16.8% -23.7% 医薬品大手。米国のバイオ医薬品会社EQRsと、革新的な薬剤であるアリメクチニブの海外提携契約を終了したと発表し、売り材料となった。同社は中国国内市場をメインにしているが、EQRsとの提携で中国以外でのアリメクチニブの研究・開発・製造・商業化を進めてきた。
01997 九龍倉置業 [ワーフ・リアルエステート] -10.4% -12.7% -14.1% 香港地場の不動産会社。1-6月期は純損益ベースで黒字転換となったが、営業利益は前年同期比11%減となり、売り材料となった。大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。
06098 CG SERVICES -19.4% -9.0% -31.7% 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。親会社の債務危機懸念(下記を参照)を嫌気し、売りが膨らんだ。
02007 碧桂園 [カントリー・ガーデン] -24.0% -29.8% -44.2% 中国不動産大手。8/6が期日だったドル建て債2本の利払いを履行できなかった。30日の猶予期間はあるが、同社は8/8に利用可能な現金の減少が続いていると表明し、売りが膨らんだ。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] 6.5% 0.9% 19.0% ソフトウェア会社。大手証券会社が投資判断を「買い」に引き上げた。下期の回復により、年間経常利益の伸び率は50%に達する見込みだと予想した。
01024 快手(Kuaishou Technology) 4.2% 1.7% 36.6% ショート動画大手。大手証券会社が目標株価を引き上げ、買われた。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] 4.1% 1.3% 7.9% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。特段材料はなく、需給要因のもよう。8月初めは利益確定売りで株価が200日移動平均線を下回ったが、100日移動平均線が下値支持線となり、再び200日移動平均線を試す展開となっている。
09866 蔚来汽車 [ニオ] 2.6% -5.1% 73.8% 新興EVメーカー。他の新興EVメーカーに対する出遅れ感に着目した買いが入ったもよう。ただ、8/7以降は中国の景気鈍化懸念やリーオート(02015)の保守的な7-9月期見通しを受け、利益確定売りに押された。
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] 2.5% 2.1% 26.5% オンライン旅行サービス大手。猛暑にもかかわらず、国内外の旅行需要はパンデミック前の水準を上回ったと報じられ、買われた。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] -2.4% -7.4% -13.1% 大手光学機器メーカー。アップル関連銘柄の売られた流れの一つ。アップル(AAPL)は決算発表で4-6月期のiPhone販売が市場予想を下回ったほか、7-9月期も減収が続く見込みだと示した。
09888 百度 [バイドゥ] -3.8% -7.8% 22.0% 検索エンジン大手。7月の貿易統計の下振れや不動産情勢の悪化を受け、景気減速懸念が強まり、主力の中国株がそろって売られた。
00020 SenseTime Group Inc -4.0% -8.7% -25.6% AIソフトウェア大手。ソフトバンク・グループが同社株を売却したことが明らかになり、売り材料となった。今回の売却により、ソフトバンク・グループの持ち株比率は従来の13.04%から12.99%に低下した。かつての大株主であるアリババ(09988)は同社株を完全に売却したが、ソフトバンク・グループによる売却圧力は続く可能性がある。
09898 微博 -4.8% -7.5% -11.8% ソーシャルメディア・プラットフォーム運営会社。4-6月期の広告収入が予想を下回る見込みだとし、大手証券会社が投資判断を「ネガティブ」に引き下げた。
01347 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] -9.8% -12.9% -18.0% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。需要要因とみられる。同社のA株が8/7に中国本土市場に上場したが、上場初日に一時株価が15%高となるなか、香港市場のH株からA株へ乗り換えようとする動きがあったもよう。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

8/3-8/9の香港市場では、ハンセン指数が1.4%下落、ハンセンテック指数は0.3%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は0.9%下落しました。

中国の貿易統計の下振れと不動産情勢の悪化で、景気減速に対する懸念が強まりました。不動産の比重が高いハンセン指数が1%を超える下落となり、ハンセンテック指数はハイテク株の比重が高いがゆえに小幅安にとどまりました。

中国の7月の輸出は前年同月比14.5%減少し、輸入は同12.4%減少しました。いずれも市場予想以上の落ち込みとなり、外需と内需がともに弱いことが示されました。なお、中国の7月の製造業PMI指数は6月よりやや改善しましたが(図表4)、JPモルガン・グローバル製造業PMI指数は7月に横ばいになりました。世界の景気動向を示すJPモルガン・グローバル製造業PMI指数は過去数か月で低下傾向が続いており、世界経済の先行き不透明感は高まっています。外需への期待は持ちにくくなる可能性があり、今後は中国の内需がより重要さを増してくると思います。

図表4 中国の輸出入の伸び率、およびグローバルと中国の製造業PMI指数の推移

※Bloombergおよび各種報道をもとにSBI証券が作成。

その内需の重要な一部分を成す不動産をめぐっては、足元で業界大手のカントリーガーデン(02007)の債務危機問題が浮上しました。同社は8/6が期日だったドル建て債2本の利払いを履行できなかったことが明らかになりました。30日の猶予期間はありますが、同社は8/8に利用可能な現金の減少が続いていると表明しました。

業界の優等生だったカントリーガーデンの苦境は、中国当局の支援措置は必ずしも十分ではなく、不動産市場の回復は予想より遅れる可能性があることを示唆しました。中国現地紙によると、8月に「上層部」が北京・深セン・広州・上海の不動産担当者を招集し、会議を開く予定です。同記事では、「地方レベルでは支援措置の準備は済んでいる。今は上層部の”ゴーサイン”を待つのみだ。」と報じています。もしカントリーガーデンがデフォルトとなれば、その影響は恒大集団(03333)より大きくなる可能性があるため、一刻も早く中央政府の「ゴーサイン」が欲しいところです。

余談ですが、先週末に北京在住の筆者のいとこが家族旅行で日本を訪れました。中国経済の現状を聞きましたら、「まあ良くないけど、それほど悪くもない。けれど、悪くなっているから、(政府は)またも不動産を支援するしかないと思う。」とコメントしました。中国当局はこの「またも」を嫌がって躊躇しているようですが、外需の弱さからすると、一段と強力的な措置を打ち出す必要がありそうです。

業種別では、カントリーガーデンを筆頭に不動産株がそろって大幅安となったほか、不動産市場へのエクスポージャーが比較的高い銀行株や保険株も売られました。他方、不動産市場と直接関連性の低いハイテク株の下落幅は限定的でした。ただ、中国の景気減速懸念の強まりを受け、これまで好調だった電気自動車(EV)関連銘柄は利益確定売りが顕著でした。EV関連銘柄の動向については、「今回のトピックス」部分で取り上げます。

ヘルスケアは急落後、8/9に買い戻されました。急落要因は、中国当局が病院の職員を対象に反腐敗運動の取り締まりを強化したためです。ヘルスケア業界をめぐっては、数年続いてきた薬価改革(薬価の引き下げが主旨で医薬品メーカーにとってはネガティブ材料だった)は終盤に近付いていますが(※)、医薬品の採用などに関わる病院の職員に対する取り締まりは予想外に強まってきました。(※:7/27付レポート「中国の景気支援は今度こそ本気か、意外な支援分野も浮上」をご参照願います。)

業界の秩序を整備することは中長期的にポジィティブですが、短期的には不透明感をもたらすこととなりそうです。また、不動産政策とも合わせて考えると、中国当局が依然として中長期的な構造改革を優先しようとしている意向があるようです。しかしながら、足元の内外情勢からすると、短期的な経済成長をより重視すべきタイミングに来ていると思います。なお、ヘルスケア株が8/9に反発したのは、大手証券会社が反腐敗措置は主に病院の公務員を対象としているため、主力企業への影響は限定的になる見通しだとし、押し目買いを勧めたからです。

一方、業種別でエネルギーと電気通信は逆行高となりました。エネルギーは、主に原油高を好感し、石油・天然ガス大手のペトロチャイナ(00857)やCNOOC(00883)が買われました。電気通信は、通信キャリア大手のチャイナモバイル(00941)やチャイナユニコム(00762)が小幅ながら買い優勢でした。上記の4銘柄は配当利回りが比較的高く、軟調地合いの中で好配当銘柄が選好された格好となりました。

なお、米バイデン大統領は8/9に、半導体や量子コンピューティング、人工知能(AI)分野の一部の中国企業への米国の投資を規制する大統領令に署名しました。Bloombergは、「対中タカ派がより迅速で厳格な措置を主張する一方、米財務省などは発効までに時間を要するより狭い措置を主張していた。規則の詳細は今後取りまとめが必要だが、大統領令の文言からは、一段と慎重なアプローチを支持していた財務省などの主張が通ったことがうかがわれる。」と報じています。したがって、今回の米国の措置は市場予想より「ハト派」と言えそうです。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「EV関連銘柄の調整要因と見通し」です。

6月以降、株価の持ち直しが顕著だった電気自動車(EV)関連銘柄が足元で調整しています。「今週の中国株市況」の部分で確認したように、一つ目の要因は景気減速懸念です。二つ目の要因は、8/3付レポート「フィッチの米国債格下げの影響、消費拡大策の中身」で触れたように、過去の経験からすると、8月は総じてパフォーマンスが軟調だったことも警戒され、利益確定売りが出やすかったかもしれません。

そして、三つ目の要因は、EV販売の回復力に対する懸念が挙げられます。きっかけは、新興EVメーカーの理想汽車(02015)(通称、リーオート)が8/8に発表した7-9月期の納車台数見通しが市場予想を下回ったためです。

リーオートは新興EVメーカーの中でも販売好調が続いたこともあり、市場では同社に対して高い期待を寄せていました。しかしながら、リーオートは8/8の決算発表会で7-9月期の納車台数は10万-10.3万台になると予測しました。7月の納車台数が3.4万台だったことからすると、8-9月は平均して7月の納車台数台数を下回る可能性もあり、保守的なガイダンスとなりました。それを嫌気した売りが優勢となり、他のEV関連銘柄も利益確定売りに押されました。

もっとも、8-9月は中国で自動車販売が低調な時期であり、それもリーオートの保守的なガイダンスにつながったとみられます。他方、上記の一つ目(景気減速懸念)と二つ目(8-9月は歴史的に軟調相場の確率が高い)の要因も相まって、利益確定売りを助長したとみられます。

足元ではマクロ経済の不透明感と「夏枯れ相場」への警戒がやや強く、投資家のリスク志向は低下しています。よって、EV関連銘柄に対する利益確定売りはしばらく続くかもしれません。目先はリーオート以外のEVメーカーの決算発表が注目されます。リーオートと同様に他社も7-9月期に対して保守的なガイダンスを示した場合、売りは続く可能性があります。他のEVメーカーに対しても、販売好調を背景に業績予想が上方修正された(期待が高まっている)ためです(図表5)。他方、業績の実績や見通しが上振れた際は、押し目買いを誘うこととなりそうです。

中長期的にみた場合、EVの普及が加速している中国では、地場のEVメーカーが「勝ち組」として浮上してきたため、主力EVメーカーは今後も販売拡大が続く可能性があります。よって、EVは中長期的に有力な投資テーマとして引き続き、注目に値すると考えられます。

図表5 主なEV関連銘柄の決算発表予定日と、売上高・調整後EPS・目標株価の変化率

銘柄名 通称 決算発表予定日 市場予想の売上高の変化率(過去1ヵ月) 市場予想の調整後EPSの変化率(過去1ヵ月) 目標株価の変化率(過去1カ月)
理想汽車(02015) リーオート 8/8(発表済) 18.7% 55.8% 27.9%
比亜迪 (Byd)(01211) BYD 8/28 1.4% 7.3% 3.4%
ニオ インク A(09866) ニオ 8/29 0.4% 10.3% 19.9%
小鵬汽車 A(09868) シャオペン 8/30 3.8% -6.2% 70.7%

注:リーオートの市場予想の売上高と調整後EPSは7-9月期で、その他は間もなく決算発表が行われる予定の4-6月期に対する市場予想です。市場予想はBloombergが集計したものです。EPSは1株当り利益です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表6 主なEVメーカーの納車台数実績(四半期ベース、2020年以降)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表7 主なEVメーカーの納車台数実績(月次ベース、2023年)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。


※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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