今年最後の大一番を控えてリスクを点検!
投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実
2022/12/13
重要日程を翌週に控え、リスクオフ姿勢
12月第1週(12/5-9)の日経平均株価は、前週末比123円11円高(+0.4%)と週足ベースで反発しました。
同期間の米国市場では、NYダウが▲2.8%、S&P500が▲3.4%、グロース株中心に構成されたナスダックは▲4.0%もの大幅安となっていました。12月第2週に11月消費者物価指数(CPI)発表やFOMC(米連邦公開市場委員会・現地時間12/13-14)開催等の重要日程を控え、リスク回避の売り圧力が強まりました。
週中は大手銀行トップや幹部たちの景気見通しに対するネガティブな観測発言が相次ぎました。市場センチメントが悪化する中で、12月ミシガン大学消費者態度指数の向こう1年の期待インフレ率も15ヶ月ぶり低水準を示す等、景気後退懸念が意識される場面が続きました。
特筆すべき好材料が見受けられぬまま、週終盤の経済指標でも11月生産者物価指数(PPI)が前月比・前年同月比ともに市場予想を上回り、インフレペース減速への期待感が後退。FRBによる積極的利上げ観測が継続するとの見方を後押しする形となっています。
米国市場が弱含んでいた半面、東京市場は堅調でした。背景として、中国ゼロコロナ政策の規制緩和を受けて、同期間のアジア株式市場が好調なパフォーマンスであったことが想定されます。同期間の上海総合指数は+1.6%、香港のハンセン指数は+6.6%まで上昇していました。中国景気の影響を受けやすい資生堂(4911)やファナック(6954)、安川電機(6506)等は堅調な株価推移でした。
ただ、日本でも翌週12月第2週に予定されている米国の重要日程はかなり意識されており、投資家の様子見気分が高まり、手掛かり材料自体も乏しい状態が続きました。
図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(12/5~12/12)では、銘柄やセクター等での固有材料で上昇した銘柄がランクインしています。同週内では、政府が防衛費増額の方針を示しました。これを受け、防衛相が使用する航空機のほとんどのエンジンの主契約であり、国内ジェットエンジン製造大手であるIHI(7013)や川崎重工業(7012)の姿があります。
図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位(12/5~12/12)では、事業ポートフォリオ見直しのため物流子会社の株式譲渡を発表した日立造船(7004)がトップです。世界的な景気後退懸念が広がる中、原油価格が大幅安となりINPEX(1605)も5%安となりました。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(12/5~12/12)
図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位(12/5~12/12)
今年最後の大一番を控えてリスクを点検!
今週は国内外で重要なイベントや経済指標の発表が相次ぎます。
その中で最大のイベントと言えば、やはり米国で13・14日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)でしょう。
同会合を受けて日米をはじめとする世界の金融市場がどう動くのか?については、非常に関心の高いところだと思います。
そこで、本稿ではFOMCの注目点と相場への影響を考えていこうと思いますが、それに先立ち、まず以下の点について確認しておきます。
株式市場は、金利との関係で4つのフェーズ(局面)に分類することができます(図表9)。
金融相場:
金融緩和が景気(企業業績)を支える局面。金利の低下が株価を支える構図であり、景気後退の後期から景気拡大の初期にかけてみられる。
業績相場(グレートローテーション):
景気拡大(企業業績の拡大)が本格化する局面。投資家がリスクを取る動きが強まり、債券を売って(金利上昇)、株式を買う(株価上昇)という、いわゆる”グレートローテーション”となる。
逆金融相場:
金融引き締めが景気(企業業績)の足かせとなる局面。金利の上昇が株価を抑制する構図であり、景気拡大の後期から景気後退の初期にかけてみられる。
逆業績相場:
景気後退(企業業績の悪化)が本格化する局面。投資家がリスクを回避する動きが強まり、株式を売って(株価下落)、債券を買う(金利低下)の動きとなる。
そして、
通常は1)⇒2)⇒3)⇒4)をたどり、また1)のフェーズに戻ります。
現状の日本は、日銀による金融緩和が景気を支えているとみられるため、相場フェーズは1)金融相場に相当すると考えられます。一方、米国はこれまでの金融引き締めが景気を悪化させるとの見方が強まっており、4)逆業績相場にあると思われます。米国株式市場にとって、本来は厳しい相場フェーズとなりますが、実際には、市場参加者の間で悲観的な見方は広がっていない模様です。市場参加者は、米国の金融政策は来年にも金融緩和へ転換し、相場フェーズも4)逆業績相場から1)金融相場に移行することを期待しているためだと考えられます。
図表9 4つの相場の局面(フェーズ)
- ※SBI証券作成
こうした市場の期待を反映しているのが、FF金利先物から見た政策金利の予想です(図表10)。同グラフによると、政策金利は23年の春先にかけて上昇してピークを打ち、その後、年末にかけて利下げに転換することが織り込まれております。
そうした中で行われる今年最後のFOMCでは、政策メンバーによる政策金利見通し(ドットチャート)やFRB議長の記者会見などを通じて、来年に向けて、どういった金融政策の方向性が示されるのか注目されます。つまり、今回のFOMCにおいて、何らかの形で来年に向けて金融緩和に転換する可能性が示唆されるか(ハト派)、あるいは来年も金融引き締め局面が継続するのか(タカ派)、ということになります。
図表10 FF金利先物から見た政策金利予想 (12月12日時点)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券作成
前述したように、現状の米国の相場フェーズは4)逆業績相場にあり、市場参加者はこれが早期に1)金融相場に移行することを期待しております。そのために今回のFOMCではハト派的な見解が示されることが望ましいのですが、FRBの金融政策は依然として景気配慮ではなくインフレ抑制に注力するスタンスを維持しており、こうした期待が裏切られる可能性は否定できません。その場合、相場フェーズは4)逆業績相場から3)逆金融相場へ戻ることとなり、投資家のリスク回避の動きが強まるとともに、金利上昇、株価下落となることが想定されます。
一方、FRBが市場の期待に応える格好でハト派姿勢を示したとしても、やはり米国金利は上昇に転じる可能性があります。これは過去にも見られたことですが、FOMCを控えて市場の期待が高まりすぎた場合、FRBが市場の期待に応える政策判断を行ったとしても、材料が一巡したことによる反動が生じやすいためです。
つまり、今回のFOMCがハト派でもタカ派でも、会合後に米国金利が上昇する可能性は高いのではないでしょうか。その場合の日本株への影響としては、リスク回避の動きに注意しながらも、銀行などの金利上昇メリットセクターや、輸送機などの円安メリットセクター、商品市況高を背景とする資源株など、バリュー株優位の展開が想定されるでしょう。
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