日米の株式市場が大幅変動へ!?カギを握るイベントは?
投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実
2024/07/30
日経平均は2,300円超の大幅続落。米テック株の下落や円高基調の継続が重しに
7月第4週(7/22-7/26)の日経平均は、前週末比2,396円38銭安(▲5.98%)と週足ベースで大幅続落。2週累計では、3,500円超の下落となり、調整色の強い展開でした。日米ともに決算発表を消化する中、米国の半導体株や大型テックが売られ、日経平均は連れ安した面もありました。また同期間も、1ドル157円▸153円と円高ドル安基調が前週から継続。海外勢の買い控え要因となったうえ、海外での売上高比率が高い自動車や半導体関連メーカーを中心に売り材料になりました。
日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(7/22~7/26・図表8)でも、円高進行を背景に、海外売上高比率が比較的高い、電気機器と輸送用機器から多数ランクイン。為替以外にも、決算内容が嫌気され売りが加速した面もあったもようです。首位は、マイコンや車載向けに強みを持つ半導体メーカー、ルネサスエレクトロニクス(6723)でした。25日(木)の取引時間中に行われた決算発表では、営業利益が前年同期比33%減と市場予想を下回る大幅減益となりました。産業機器向けの需要が想定より弱かったことや、電気自動車(EV)販売が落ち込んだことなどが痛手となった格好です。
日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(7/22~7/26・図表7)では、首位の中外製薬(4519)をはじめとし、3位の日野自動車(7205)や5位のキヤノン(7751)など決算内容が好感された複数の銘柄が顔を並べました。医薬品や食料品など内需関連が選好された銘柄の特徴として挙げられます。
7月第5週(7/29-8/2)の日経平均は800円超の大幅反発でスタート。インフレ指標が想定通り小幅な伸びに留まり、株高となった米国に連れ高しました。今週は「中銀ウィーク」で、日銀・金融政策決定会合とFOMCが開催予定です。
今回のFOMCでは、政策金利が現状維持となるという見方が95%(金利先物市場:7/29時点)で、会合後のFRB議長会見に注目が集まるでしょう。夏枯れ相場を前に、何かしらの手掛かりを得たいという市場参加者が多いと想定されます。
日銀の金融政策決定会合では、追加利上げが実施されるか否かが注目です。一部政府関係者から金融政策正常化を後押しする声も挙がっていますが、実質賃金がマイナスで推移するなど複数の経済指標が弱含みを示しています。国債買い入れの減額等に留まれば、円安とそれに伴う日本株の再上昇にも期待できるとの声が市場から聞こえます。さらに、米大型テック株やトヨタの決算発表(8/1)、最終営業日には米7月雇用統計(8/2)など注目材料が目白押しです。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(7/19~7/26)
図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(7/19~7/26)
日米の株式市場が大幅変動へ!?カギを握るイベントは?
今週は日米で注目イベントが目白押しとなります。その中でもハイライトされるのは7/30・31に日米それぞれで開催される金融政策会合でしょう。今回は日米ともに金融当局者から金融政策の新局面入りを見据えてどういった“布石”が打たれるのか、注目されています。
そこで本稿では、これまでの相場動向を踏まえた上で、日米会合の注目点と想定されうる市場の反応についても考えるのですが、それに先立って、まず最近の株式市場の動きを振り返ってみます。日経平均は、6月中旬から7月上旬にかけて上昇基調を辿り、7/11(木)に42,000円の大台に到達しました。しかし、その後、相場の流れは一変、7/17(水)から7/26(金)にかけては8営業日続落の動きとなり、日経平均は38,000円台割れとなりました。
6月中旬以降の日経平均上昇局面では、
1)円相場において円安・ドル高が進行
2)国内金利が日本の利上げ観測を背景に上昇
3)米金融緩和観測を背景に米テクノロジー株が上昇
が材料視されました。1)で輸出株が上昇、2)で金融株が上昇、3)で値がさ株やハイテク株が上昇と、いわばトリプル高の予想となったことが日経平均を大きく押し上げました。しかし、7/11以降はこの動きが逆転し、トリプル安となったことで日経平均は大きく調整することになりました。
これは簡単な振り返りですが、これら3つの材料は、並べてみると相場のセオリーとはことなる動きになっていることが分かります。つまり2)と3)は日本の金利上昇と米国の金利低下で日米金利差(米国金利-日本金利)は縮小となるため、円相場に対しては円高・ドル安要因となります。しかし、実際の円相場は日米の株価上昇を伴いながら6月下旬にかけて1ドル=160円台を超えるなど、円安・ドル高が大きく進みました。実は日米金利差と円相場の関係が崩れたのは今年4月末から5月初旬にかけて日本政府が為替介入し、一時的に円高・ドル安に揺り戻されたあとからです。市場では当面、為替介入が行われることはないだろうとの見方が強まるなか、日米金利差に関係なく投機筋と見られる円売り・ドル買いが進みました。この動きは、日本政府が再び為替介入に踏み切った(と見られる)7/11まで続き、介入を機に円売り・ドル買いの流れが変わったと見られます。現状は投機筋が円売りポジションの解消を進めていると見られ、日米金利差に関係なく円高が進みやすい状況と言えそうです。
図表9 円相場と日米金利差
こうした流れを踏まえ、日米会合の注目点と相場への影響を考察します。まず、時系列で先に結果が出てくるのは日本の日銀金融政策決定会合です(日本時間の7/31昼頃)。今回の会合では国債買入れの減額計画の内容と政策金利(無担保コール翌日物)の方向性が注目されています。
まず、国債買入れについて日銀は前回の会合(6月)で買入れ減額方針を示しつつ、具体的な計画は金融機関の実務担当者との会合(ヒヤリング)などを経て、今回の会合で示されるとのことです。市場では月間6兆円程度の国債買入れを、まずは月間5兆円程度に減額し、2年後に月間3兆円程度へ減額していくというのが中心的な見方のようです。ヒヤリングでは金融機関の間でバラつきがあったようですが、日銀が市場の声を聞いて計画を決める方針を打ち出している以上、市場の予想を大きく裏切るような計画が出てくることはなく、サプライズが生じる可能性は低いと考えられます。
今年3月に0.00-0.10%に設定された無担保コール翌日物(政策金利)については、エコノミストの約7割が据え置き(残りは利上げ)を予想しているようです。今会合で利上げされた場合はサプライズとなりますが、市場では今回の利上げはなくとも次回会合(9月)に利上げされるとの見方が強いだけに、大きなサプライズにはならない可能性があります。利上げの有無にかかわらず、記者会見で植田総裁が利上げに向けて前向きな、タカ派姿勢を打ち出せば、市場としては国内の金利上昇で反応すると思われます。国内株式市場では、金融株などに追い風となる一方、値がさ株やハイテク株などにとっては金利上昇そのものによる逆風が想定されるため、株式市場全体としては一時的に弱含むと想定されます。
ただし、日銀が発表する需要と供給のバランスを示したGDPギャップは、1-3月期が▲0.66%とマイナスとなっています。日本経済としては依然として供給が需要を上回っている状態であり、国際商品市況の上昇や円安の影響を除くと、インフレ圧力が強まっている訳ではありません。今回の日銀会合で利上げが行われるだけではなく、植田総裁が利上げに慎重な姿勢を示すなど、市場の期待ほどタカ派的な姿勢が示されないことも考えられます。その場合は、国内金利の低下により値がさ株やハイテク株が上昇し、日経平均は押し上げられることになりそうです。ただし、金利低下は金融株にとって逆風となり、更に前述のとおり、このところの円相場は日米金利差に依らず円高含みで推移しており、この傾向が続けば輸出株も物色され難くなります。日経平均の上値は限定的に留まるかもしれません。
図表10 日本の政策金利とマネタリーベース
一方、米国FOMC(連邦公開市場委員会)の結果は、7/31(日本時間の8/1、3:00)に発表されます。図表11はFFレート先物から見た市場参加者が予想する政策金利見通しですが、市場では今回のFOMCでの利下げの可能性がほとんど織り込まれていません。それに対して次回FOMC(9月)会合での利下げはほぼ100%織り込まれています。今回のFOMCではパウエルFRB議長が、市場が本命と睨む9月利下げ開始を前にどういった見解を示すのかが注目されます。
ただ、図表11を見ると市場では2024年に0.25%の利下げを2回から3回行われることが織り込まれているのに対し、6月FOMCで示された政策メンバーによるFFレート見通しでは同年に1回の利下げしか織り込まれておらず、両社の見解に相違がみられます。というよりも市場の期待がやや前のめりになっている可能性があります。今回のFOMCでパウエルFRB議長は、利下げに向けた道筋が示されるのは勿論なのですが9月以降について積極的な利下げ見通しを示す必要があります。市場の期待に応えるハト派姿勢が示されればリスク選好が強まりますが、そうならなければ市場の利下げ期待を失望させかねません。その場合、米国金利が上昇することでリスク回避的にハイテク株が売られ、日本の値がさ株、ハイテク株に波及する可能性があるでしょう。また、円高が進んで輸出株売りにつながれば、日本株も下げが厳しくなるため要注意となります。
日米の金融政策以外にも、今週は日米で重要イベントが目白押しです。国内では4-6月期決算発表がいよいよ本格化。その中で注目は8/1(木)発表のトヨタ自動車でしょう。型式指定の不正問題により一部車種の生産停止が長引き、更に関連企業もこの問題の影響で業績予想の下方修正を発表しています。当然、トヨタ自動車への影響についても関心が高く、決算の内容は同社株価だけではなく、相場全体にも影響を与える可能性があります。
日本よりも一足先に決算発表が本格化している米国では今週、7/30(火)にマイクロソフトとアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、7/31(水)にメタ、8/1(木)にアマゾン・ドット・コムなど、巨大テック企業の決算発表があります。更にマクロ面でも重要な経済統計の発表が相次ぎます。特に8/2(金)発表の7月雇用統計は、雇用市場の順調なスローダウンが確認されることで、米金融緩和シナリオを後押しするか注目されるでしょう。
図表11 FFレート見通し(市場予想 VS FOMC)
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