9月相場で日経平均のカギを握るのは?

9月相場で日経平均のカギを握るのは?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2024/09/03

日経平均3週続伸。エヌビディア決算発表は無難に通過

8月第4週(8/26-30)の日経平均は、前週末比283円48銭高(+0.74%)と週足ベースで3週続伸。週初は38,000円台前半での推移が続きましたが、注目を集めていたAI向け半導体のエヌビディア(NVDA)の決算発表を無難に通過した後は、週末にかけてジリ高の展開となりました。「夏枯れ相場」という言葉を表すかのように、8/26-29の東証プライム市場の売買代金は3兆円台(参考:年初来平均4.5兆円)と低調でした。ただ、4‐6月期決算発表が一巡し、アナリストによる投資判断や目標株価の変更による影響が目立った格好です。

日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(8/23~8/30・図表7)の首位は、楽天グループ(4755)でした。国内大手証券会社が、苦戦が続いていたモバイル事業の価値顕在化による業績上振れ可能性を背景に、目標株価と投資判断の引き上げを実施しました。7位のソニーグループ(6758)は、プレイステーション(PS)5の本体価格を9/2(月)から19%値上げすると発表後、収益性改善期待から買いが広がりました。

日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(8/23~8/30・図表8)の首位は、SUMCO(3436)でした。シリコンウエハの世界的大手で知られる同社ですが、ウエハ需要の回復遅れなどを要因に、複数の証券会社から目標株価や投資判断の引き下げが行われました。その他は、三越伊勢丹ホールディングス(3099)など百貨店大手から3銘柄がランクイン。為替市場で円高が進行したことや、南海トラフ地震への注意報が発表され、インバウンド需要が後退するとの見方が拡大したことが嫌気されました。

9月第1週(9/2-6)の日経平均は、小幅高でスタート。前週の米株高を受け、一時は39,000円を突破する場面もあったものの、同日の米国市場が休場で、手掛かり材料に乏しく上げ幅が縮小した格好です。また、週内最終営業日に米8月雇用統計の発表を控え、警戒感が漂っています。

前回7月の米雇用統計では、失業率が約3年ぶりの高水準となり、米景気の減速が示されました。円相場ではFRBによる利下げ観測が加速し、円高ドル安が進行し、日経平均の歴史的大幅安につながった形です。市場では、前回の失業率の悪化は、ハリケーンによる影響だと指摘する声が一部から聞こえます。そのため、8月の同指標は労働市場の減速が一時的なものなのかを見極める重要イベントとなるでしょう。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(8/23~8/30)

図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(8/23~8/30)

9月相場で日経平均のカギを握るのは?

株式市場は今週から9月相場に入りました。

8月相場は月初から大幅安で始まる波乱の展開になりながらも、その後は順調に?株価が回復する展開。日経平均は7月終値の39,101円に対し、8月終値が38,647円となり8月の月間騰落率は▲1.2%と、終わってみれば小幅な下落に留まりました。

更に、今週初9/2(月)には取引時間中に一時39,000円台を超え、急落前の水準をほぼ回復しました。ここまで順調な株価の回復を見ると、まるで初旬の相場下落がそれほど大事ではなかったとの印象すらあるかもしれません。

8月の相場急落の背景は、7月末にサプライズで利上げを行うなどタカ派姿勢を強めた日銀の金融政策スタンスと、米国経済の不透明感があったと言われています。このうち、米国経済については、7/30・31(水)のFOMC(連邦公開市場委員会)において、金融政策のスタンスがこれまでのインフレ抑制から景気配慮へシフトする姿勢が明確になりました。そうした中で8/2(金)発表の7月雇用統計は、失業率が大きく上昇するなど、雇用市場の軟化が示唆されたことで景気後退懸念が高まり、株価下落につながりました。しかし、その後は米国景気の過度な後退懸念は鳴りを潜めたことで米国株は買い戻しの動きが強まり、それが日本株にも波及したようです。つまり、日本株の戻りを支えたのは米国株の上昇だったと言えるでしょう。

そうした中での9月相場入りとなりますが、日経平均を見る上で最大の注目は、この戻り相場から更に上昇して4万円回復を目指す展開になるのか、あるいは戻り一服となるのかでしょう。そのカギを握るのは、やはり米国株の動向と言えそうです。

S&P500株価指数の月毎の平均騰落率を見ると(図表9)、9月は月間騰落率が最も悪く、勝率(月間上昇率がプラスの割合)も1月に続く低さとなっています。これはいわゆるアノマリーではありますが、米国株の先行きを観る上では気になるデータではあります。

図表9 S&P500株価指数の月毎の平均騰落率

FRBは7月FOMCにおいて、景気に配慮した金融政策スタンスを示したことで、市場としても米国経済の動向に、これまで以上に(そしてインフレ動向以上に)注目していると考えられます。

そうした中、今週の米国は、9/2(火)に8月ISM製造業景況指数、9/5(木)に8月ISM非製造業景況指数、そして8/6(金)に8月雇用統計など、重要な経済指標の発表が相次ぎます。特に雇用統計は、前月(7月)統計が、米国株安(ひいては日経平均の急落)の引き金となっただけに要注意となります。

7月雇用統計は非農業部門雇用者数(速報値)が前月比+11.4万人と市場予想を下回り、3ヵ月ぶりの低い伸びに留まり、失業率は4.3%と4ヵ月連続で上昇しました。特に失業率については、サーム・ルール(※)の発動要件に抵触したことで、市場では米景気が既に後退期に入ったとの警戒が強まりました。

7月雇用統計の軟化については、同月にテキサス州を襲ったハリケーンの影響で一時的との指摘があります。8月雇用統計の事前予想は、非農業部門雇用者数が前月比+16.5万人、失業率は4.2%と、それぞれ7月統計から改善することが見込まれています。ただ、それでもなお非農業部門雇用者数の伸びは直近6ヵ月の平均を下回っており、雇用の伸びが鈍化しているとの見方を変えるものではないと思われます。更に、米労働統計局が8/21に発表した年次改定(速報値)では、2024年3月までの過去1年間の雇用者の伸びが、従来値よりも81.8万人下方修正されており、想定よりも雇用の伸びが鈍いことが示唆されました。8月雇用統計が市場予想よりも悪化するようであれば、再び米経済の先行き不透明感が嫌気される可能性が高いと考えられます。

※サーム・ルール:

元FRBエコノミストのクラウディア・サーム氏が考案。失業率の3ヵ月移動平均が12ヵ月間の水準を0.5%上回った際に発動する。1953年以降、サーム・ルールは今回を除いて11回発動しており、うち10回で経済は既に後退期に突入、残り1回はサーム・ルール発動後から5か月後に景気後退が始まった。

図表10 米国非農業部門雇用者数と失業率

日経平均は春先以降、円相場と連動して推移してきました。7月には円相場が1ドル=160円台を超えて円安が進む一方で日経平均は42,000円台に到達しました。8月初旬の急落後、日経平均は米国株高の影響を受けて大きく値を戻したものの、円相場は1ドル=140円台半ばから後半の推移と戻りが限定的であり、日経平均と円相場の乖離が顕著となっています。それだけに、米国株の支えがなくなった際の日経平均の調整に注意する必要があると考えられます。

図表11 円相場と日経平均

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