「トランプ関税」への懸念が再燃、でも抗う力は?

「トランプ関税」への懸念が再燃、でも抗う力は?

投資情報部 鈴木英之 栗本奈緒実

2025/06/03

日経平均は反発するも、「38,000円の壁」依然として厚い

5月第4週(5/23~5/30)の日経平均株価は、前週末比804円63銭高(+2.17%)と週足ベースで反発。週初は、トランプ米大統領がEUへの50%関税発動延期を発表し、リスクオンムードが広がりました。週半ばは、AI向け半導体大手の米エヌビディア(NVDA)が決算発表を実施。内容が好感され、5/29(木)の日経平均株価はハイテク株が上昇をけん引し大幅高。終値では本年2月下旬以来となる38,000円台を回復しました。ただし、5-7月期のガイダンスが対中規制を考慮すると強さを示したものの、一部の高すぎた市場の期待数値には届きませんでした。結果として、エヌビディア(NVDA)決算による株高は長続きせず、5/30(金)の東京株式市場では利益確定とみられる売りが広がり、日経平均株価は38,000円を再び割り込みました。

日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(5/23~5/30・図表7)の首位は、川崎重工業 (7012)です。4月半ば、日本の防衛省は、2025年度の防衛関連予算の合計がGDPに占める割合が前年から上昇したと発表。以降、重工大手を中心に、防衛関連株全体が堅調な株価推移を続けています。防衛関連予算の割合増加が伝わる前からの株価騰落率(4/14~5/23)は、各社の25.3期業績が過去最高売上および経常利益を更新したことも加わり、三菱重工業 (7011)が+30.4%、IHI (7013)が+35.6%と軒並み堅調でした。川崎重工業 (7012)は同期間+22.4%と出遅れ感が生じていたもようです。

日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(5/23~5/30・図表8)の首位は、リコー(7752)です。5/14(水)に発表された今期(26.3期)の会社計画の業績見通しは、トランプ関税や円高などを背景に市場予想を下回りました。ペーパーレス化でOA機器への需要が世界的に減少する中、デジタルサービス企業への変革を掲げていますが、業績改善期待が後退し、株価は軟調な推移が続いています。

6月第1週(6/2~6/6)の日経平均株価は、下落してスタート。米国が中国ハイテク部門に対する規制を拡大する計画と報じられたことや、トランプ大統領がアルミ・鉄鋼への関税引き上げ計画を表明したことなどが嫌気されました。再びトランプ大統領の関税政策を巡る動向に、左右される展開が予想されます。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の騰落率上位(5/23~5/30)

図表8 日経平均株価採用銘柄の騰落率下位(5/23~5/30)

「トランプ関税」への懸念が再燃、でも抗う力は?

6/2(月)の東京株式市場では、日経平均株価が前週末比で大幅続落となりました。5/30(月)にトランプ米大統領が、USスチールと日本製鉄のパートナーシップに関わる演説の中で、海外から米国への鉄鋼の輸入にかかる関税を25%から50%に引き上げると公表し、貿易戦争への懸念が再び高まったことが要因です。

図表9は、昨年10月以降の日経平均株価の動きを、おもに「トランプ関税」の動きと合わせてグラフにしたものです。昨年10月以降、本年2月下旬までの日経平均株価は「トランプ関税」に一喜一憂しつつも、38,000円~40,000円のボックス相場を維持してきました。米国株が概ね高値圏を維持していたことや、外為相場が1ドル150円以上の円安・ドル高水準で推移していたこと等が下値を支えていました。

しかし、2月下旬に上記のボックス圏を下放れると、下落基調が強まり、4/7(月)にかけて下げが加速する展開となりました。関税が日本の基幹産業の一翼を占める自動車を巻き込んできたこと、それにとどまらず、日本を含む世界から米国への輸出に広く関税が課されることになったことが嫌気されました。その後は、米国が中国に関税145%を課し、中国が報復関税を仕掛けたあたりが株価のボトムとなりました。

4月上旬ごろを境に、「トランプ関税」に関するニュースフローは「懸念後退」の方に進みました。5/9(金)には米英で貿易交渉が妥結し、米国が各国への相互関税を引き下げることを示唆し、米中が関税引き下げで合意し、5/13(火)には日経平均株価は一時、3万8千円台を回復しました。

さて、改めて「トランプ関税」の現状を、とくに中国、日本について整理しておく必要がありそうです。

・中国・・・①相互関税125%は34%まで引き戻され、うち24%分の執行は90日間停止(現状の相互関税は10%)

      ②合成麻薬フェンタニルの流入防止を目的とした中国原産品に対する20%の追加関税は維持

      ③鉄鋼・アルミ関税25%、自動車・同部品関税25%の追加関税は維持

      ④米国へのスマホを含む電子機器を相互関税から除外

・日本・・・①相互関税のベース部分である10%適用中

      ②鉄鋼・アルミ関税25%、自動車・同部品関税25%の追加関税は維持

このままいけば、鉄鋼・アルミに関しては、米国への輸入すべてに25%の関税が追加(計50%)されることになります。

打撃が大きそうなのは自動車産業とみられます。自動車の製造コスト(原材料費)に占める鉄鋼の比率が大きいため、米国内で製造している分についてコスト増が避けられないとみられるためです。6/2(月)の東京株式市場では、トヨタ(7203)、ホンダ(7267)などの自動車株や、同業界と関係が深いブリヂストン(5108)等タイヤメーカーが大幅安となりました。

鉄鋼については、日本から米国への鉄鋼輸入は限定的で、品目的にも高級鋼板等の代替が効きにくいものが多く、その意味での影響は限定されそうです。ただ、鉄鋼業界の顧客先企業(自動車、機械など)の業績悪化や、日本へ安価な輸入品流入が加速する懸念は残ります。6/2(月)の鉄鋼株は、日本製鉄(5401)を含め、軟調でした。ただ、日本製鉄(5401)にとっては、USスチール買収が成功できれば、高級鋼板の世界的な需要地である米国で拠点を築くことになります。

アルミについては、日本から米国への輸出は少ないため、悪影響は少なそうです。逆に、世界的大手UACJ(5741)の米国ビジネスは米国内生産が主体となるため、関税が追い風になると期待され、6/2(月)の東京株式市場では逆行高となっていました。

日経平均株価が38,000~40,000円のボックスを超えて上抜けるには、「トランプ関税」を克服し、企業業績が上向く必要がありそうですが、それまでは時間を要しそうです。建設、不動産、情報サービスなどの内需株や、防衛関連、金利上昇メリットが追い風の銀行株等への選別物色が続きそうです。

図表9  「トランプ関税」と日経平均株価

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