円高進行でも日本株は崩れにくいと考えるその理由は?

投資情報部 鈴木英之
2026/09/08
急落後反発
日経平均株価は8/31(月)~9/3(木)に4営業日続落となり、累計で2,191円下落しました。特に9/2(水)には前営業日比で1,889円安と大幅安になりました。
世界的な金利上昇観測が株価急落につながりました。9/1(火)には米長期金利が2025年1月中旬に付けた4.789%を上回る4.803%まで上昇。これを受けて日本でも10年国債利回りが9/2(水)に一時3.015%と30年ぶりの高水準まで上昇しました。
しかし、日経平均株価は9/4(金)と9/7(月)に続伸し、累計で2,185円上昇、上記の下落分をほとんど取り返しました。日米で長期金利上昇が一服したことや、半導体株の上昇が追い風になりました。
今後はどうなるでしょうか。日本で金利上昇が続き、外為市場で円高・ドル安が進む可能性も十分ありそうです。金利上昇・円高を背景に日本株が売られる場面もありそうです。
9/18(金)に結果発表予定の日銀金融政策決定会合について市場は、政策金利の引き上げを織り込みつつあります。日本の政策金利は2024年3月以降およそ半年ごとに引き上げられてきましたが、より頻繁になる可能性もありそうです。今後は「一定のペースにとらわれず機動的な利上げを行う新たな局面」(9/2・日銀の高田審議委員)になるかもしれません。
ベッセント米財務長官は、日本のリフレ政策はやめるべきだと述べています。政策金利(1.0%)からインフレ率を差し引いた「実質政策金利」がマイナスにとどまる状態がリフレ政策の結果であるとするならば、政策金利は消費者物価上昇率を上回るまで引き上げられるかもしれません。ちなみに2026年7月の全国消費者物価(生鮮食品を除く)は前年同月比1.8%上昇でした。日銀には複数回の利上げ余地が残されているのかもしれません。
7月末以降の日米協調円買い介入の実施に加え、ベッセント米財務長官や日銀高田審議委員の発言等を総合すると、日本の実質金利は上昇し、外為市場で円高・ドル安が進む可能性は十分ありそうです。
しかし仮に「金利上昇・円高」をメインシナリオに据えるにしても、単純に「株売り」と考えることはむしろ危険とみられます。
円高進行でも日本株は崩れにくいと考えるその理由は?
日本の政策金利が今後複数回引き上げられ、日米協調介入が意図するように円高・ドル安が進んだ場合、株価はどうなるのでしょうか。図表1は、円安・ドル高が進んだ場合、主要指数や業種別株価がどの程度上昇しやすいのか、実際株価はどう変化したのかを示したものです。
ここで相関係数とは、-1~+1の値を取り、+1に近づくほど同方向に動きやすい、逆に-1に近づくほど逆に動きやすいことを示しています。ここでは2026年8月まで10年間の月足データから計算しています。あくまで過去データからの計算であり、将来の値動きを保証するものではない点をご承知おきください。表の上位の業種・指数ほど円安・ドル高時に上昇しやすいことになります。この図表から観察されることを羅列してみました。
円安・ドル高になった場合、輸送用機器がもっとも株価が上昇しやすいことを示しており(対象36業種・指数中1位、相関係数0.38)、多くの投資家が想像できる通りの計算結果です。ちなみに2016年8月末は1ドル103円43銭、2026年8月末は159円74銭(Bloombergデータ)で、この間ドルが対円で54%上昇する円安・ドル高でした。実際に輸送用機器の株価は上昇しています。ただ、その上昇率は+91.8%にとどまり、同じ10年間のTOPIX(+212.6%)や日経平均株価(+292.7%)を下回るなど、他の多くの業種に対しアンダーパフォームしました。米関税政策による混乱やEV(電気自動車)の失速等の不透明材料が円安・ドル高効果を弱めたようです。
保険業(同2位、相関係数0.33)や銀行業(同4位、同0.30)など広義の金融業が上位に入りました。輸出産業でもないのに意外と思われるかもしれません。日本の金利が正常化してきたのは最近のことであり、日米金利差は米国の金利が上昇するときに拡大する傾向が強くなっていました。すなわち、円安・ドル高が進むときは米国を中心に金利が上昇している時であり、銀行株等も上がりやすかったとみられます。実際、この10年間の株価上昇率は保険業が+423.6%、銀行業が+394.4%と、TOPIX(+212.6%)の2倍前後まで買われました。相関係数の順位以上に値上がりした背景には、円安・ドル高そのものよりも、その裏側にある日米金利差拡大・日銀の金融政策正常化への思惑が銀行・保険株の収益改善期待に直結したことがあるとみられます。
電気機器(同28位、相関係数0.14)やそれと関連が強い半導体株(ここでは日経半導体株指数、同31位、同0.12)は、輸出産業と位置付けられますが、円安・ドル高との相関性は他の業種と比べて高いわけではなく、むしろ下位グループに位置しています。それにもかかわらず株価パフォーマンスは良好で、この10年間の上昇率は電気機器が+394.6%、半導体株にいたっては+1,547.6%と、今回取り上げた5業種・指数の中で突出した伸びとなりました。為替との連動性の低さと株価の力強さが同居している点は一見不思議に映りますが、理由は後段でご説明します。
TOPIX(同7位、相関係数0.28)や日経平均株価(同13位、同0.25)等の指数は相関係数がプラスの値を取ってます。したがって「円安・ドル高」は日本株全般にプラス要因と考えられます。相関係数がマイナスの業種がないことも注目点です。逆に、円高・ドル安はマイナス要因になりやすいことも示しています。図表上位の業種ほど円高・ドル安はマイナスに働きやすいとみられます。
図表1 為替変動(円安・ドル高)と東証業種別株価指数の相関係数・株価変化率
今後、円高・ドル安が進んだ場合、日経平均株価はどうなるのでしょうか。図表1の相関係数が示すように、円高・ドル安はマイナス要因となるかもしれません。
しかし、日経平均株価の算出において半導体株の比率が大きく上昇したことを考慮すべきでしょう。日経平均株価を予想する際には、半導体株の予想も避けては通れないことであると考えられます。前掲の図表1のとおり、電気機器・半導体株はもともと為替との相関順位が下位であったことを踏まえると、これらの構成比率上昇は日経平均株価全体の為替感応度をやや弱める方向に働く可能性があります。
半導体指数に大きな影響を与えるのが半導体メーカー・半導体製造装置メーカーです。このうち、東京エレクトロンやアドバンテストをはじめ日本の製造装置は個別分野において高い世界シェアを有していることが多いです。強い競争力を背景に、複数の半導体装置メーカーが海外企業への販売を円建で行っており、受注残が為替変動で目減りするリスクは、その分限定的になるようです。無論、円高・ドル安が進めば、ライバル製品に比べてドル換算額が割高に映り不利になりますが、高いシェアの背景が技術力であれば容易に取引を変えられる心配は少なくなります。
したがって、円高・ドル安になり、輸出産業であることを理由に半導体株が売られたときは買い好機のひとつになる可能性もありそうです。また、円高への耐性が強いとみられる半導体株のウェイトが高まったことで、今後は日経平均株価の円高・ドル安への耐性もいっそう強まるかもしれません。
今回確認した5業種・指数を整理すると、輸送用機器・保険・銀行は円安・ドル高への感応度(相関係数の順位)こそ高いものの、この10年間の値上がり率で必ずしも上位ではなく、逆に電気機器・半導体は為替との感応度が低いにもかかわらず値上がり率が際立つという対照的な結果になりました。円安・ドル高という一つの物差しだけで業種の明暗を判断するのではなく、金利環境や需要構造の変化まで踏まえた業種分析が重要だと言えそうです。
図表2 半導体株と為替(ドル・円相場)の関係
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