経済分析世界的な景気後退と金融引締め: いずれも長期化

金融引締め長期化の波及に注目

2023年は世界的な景気後退と金融引締め継続という逆風に直面するだろう。主要先進国の各種景気先行指標は、2021年半ばから2022年初にピークをつけ、低下が続いている。OECD作成の景気先行指数にさらに12ヵ月先行するM1/(M3–M1)比率前年比も低下が続いている。これらは主要先進国の景気後退局面が2024年前半まで続くことを示唆する。各種景気先行指標の累積低下幅は2000年のITバブル崩壊後の後退局面を上回りつつある。しかし、供給側要因に由来するインフレ率上昇の寄与が高いにもかかわらず、インフレ抑制最優先の利上げが主要先進国で当面は続きそうだ。実体経済には相当な負荷がかかるとみられる。金融引締めスタンスの長期化は、1) 次の景気回復ペースの鈍化、2) 自然利子率(≒潜在成長率)の低下、3) 住宅価格を中心とする資産価格への調整圧力、4) EM諸国への波及(対外債務危機)、5) 意図せざる金融システム危機、などにも波及する可能性は2023年を通じて懸念材料となろう。

米国失業率は6%台へ

米国連銀の利上げは2023年3月にFF金利5.00%–5.25%で終了を見込む。コアPCEインフレ率前年比は2023年半ばに3%を下回り始めると見込むが、米国連銀は極めて強いインフレ率の慣性を想定しており、2023年中に利下げに転じるかどうか微妙である。すでに実現したかなり大幅な米国景気先行指数の低下に基づくと、2000年のITバブル崩壊後の景気後退をやや上回る規模の景気後退が見込まれる。労働市場の需給も緩和し始めており、名目雇用者報酬や時間当たり賃金の伸びの鈍化、失業率の上昇(2024年初には6%台に)が続くだろう。パンデミックによる産業間の需要シフト、それに伴う雇用ミスマッチの拡大、労働力率の低下はあまり解消せず、恒久的な変化と判断する。

インフレ圧力低下、商品市況の調整圧力、ドル高基調の修正

グローバルな一連の負の供給ショック(在庫不足、供給網への撹乱、エネルギー・食料価格上昇など)は2022年半ばから減退し始めた。先進国、EM諸国共に、川上の生産者物価インフレ率前年比は2022年3月または4月にピークをつけ、川下のコアCPIインフレ率前年比は7月から10月にかけてピークをつけつつある(いずれも中位数で見た場合)。商品市況は、実需(世界景気の後退)と投機的需要(金融引締め)の双方から下押し圧力が続きそうである。米国の利上げが終盤に差し掛かっていること、米国の利下げ見通しが金融市場では高まること、米国の経済と金融市場の世界に占めるシェアの乖離、ドル高基調はすでに11年以上継続していること、などを考えると、ドル高調整圧力は2023年を通じて高まろう。ドル円レートも購買力平価から70%以上の乖離が持続するとは考えにくく、2023年中に\115/$–\120/$程度までの円高が実現しても不思議ではない。

日銀の金融政策に注目

日本では、周回遅れの経済再開がサービス業に与えるプラスの影響が、世界景気後退が製造業に与える負の影響で相殺されそうである。少子化・高齢化による労働力率が頭打ちとなる中で、働き方改革(長時間労働忌避、最低賃金引上げ)、年収106万円の壁など、労働供給を阻害する負の誘因が残り、労働市場の好循環継続のハードルは高い。経済全体の名目総賃金はせいぜい年率2%~3%の伸びに止まりそう。金融緩和継続と経済再開の余熱で、景気後退には至らないが、緩慢な景気回復に終始しよう。インフレ圧力は、円安修正と外生的要因の部分の剥落により、2023年央以降はむしろ低下し始めよう。タカ派の日銀新総裁・副総裁(2名)の任命となれば、金融政策正常化への政策転換の可能性は高まる。ただし、2023年央以降に予想されるインフレ率の低下や、生じつつある円高、世界景気後退、という逆風の中での金融政策の正常化は時期尚早に終わり、過去の金融政策の失敗を繰り返す可能性が高い。

松岡 幹裕
SBI証券 金融調査部(チーフエコノミスト)

(株)三菱総合研究所、(株)大和総研でのエコノミストを経て、1997年から機関投資家向けサービスに従事。1999年からジャーディンフレミング証券(現JPモルガン証券)、2001年からドイツ証券を経て、2018年11月にSBI証券に入社。Institutional Investor All Japan Research Teamでは、2003-2006年2位、2007-2012年3位、2007-2012年4位、2017年5位にランクイン。米国ブラウン大学大学院経済学部修士取得。

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