不透明感漂う国内株式市場!?夏場に向けて有効な投資戦略は?
投資情報部 淺井 一郎
2024/07/19
ここまでの株式市場動向
6月中旬から月末にかけての日経平均は堅調に推移しました。
6/17(月)は、フランスの政治不安への懸念が高まりリスク回避が強まる中、日経平均は前日比で712円安と大幅に下落しました。しかし、その後は同国の政治不安が緩和したことや、米国の5月小売売上高(6/18発表)が市場予想を下回ったことで米金融緩和期待が高まったことなどを手掛かりに、買い戻しの動きが強まりました。バリュー株(割安株)主導で日本株は堅調に推移し、6月末の日経平均は前月比+2.85%の39,583円となりました。
一方、同期間の円相場は日米株式の堅調に歩調を合わせて円安が進行。神田財務官など通貨当局者による円安けん制発言が聞かれたものの、円安進行に歯止めがかかりませんでした。17日(月)に1ドル=157円台だった円相場は、26日(水)に160円台へ円安が進行。更に28日(金)は、一部報道で「神田財務官が7月末に退任する方針」と伝わったことで円相場は一時161円台前半へ上昇しました。
7月に入ってからも日経平均は堅調を維持。バリュー株物色が続く中、日経平均は2日(火)に約3ヵ月ぶりに4万円の大台を回復しました。更に米国が独立記念日の祝日だった4日(木)には、東証株価指数(TOPIX)が1989年以来となる史上最高値を更新しました。
米国で5日(金)に発表された6月雇用統計は、失業率が前月比で上昇するなど雇用市場の減速を示唆する内容でした。同統計結果を受け、米国市場では早期利下げ観測が強まり、テクノロジー株などのグロース株(成長株)が買われました。この流れで国内株式市場もハイテク株や値がさ株が主導して上昇し、日経平均は11日(木)に42,000円台に到達しました。
しかし、同日、米国で6月消費者物価指数が発表された直後、円相場が1ドル=161円台から一時157円台を付けました。日本政府による為替介入(円買い介入)が行われたとの見方が強まりました。また、翌12日(金)の朝には、一部報道で日銀が対ユーロでレート・チェック(※)を行ったと報じられると、円相場は再び円高に振れ、その日の日経平均は1,000円を超す大幅下落となりました。
そして13日(土)、米ペンシルヴェニア州でドナルド・トランプ前大統領が、大統領選挙に向けた演説中に銃撃される暗殺未遂事件が発生。同事件を機にイーロン・マスク氏など一部の有力者がトランプ氏の支持を表明したことで、市場では同氏が大統領に還り咲く可能性が高まったとの見方から週明けの米国株式市場は堅調に推移。減税政策や規制緩和など企業よりの政策が行われるとの期待を手掛かりとするトランプ・トレードが活発になりました。国内株式市場でも同様の見方からインフラ関連や防衛関連、また金利上昇を受けて金融株を物色する動きが強まりました。
17日(水)は、バイデン政権が同盟国に対し対中半導体規制で最も厳格な措置を検討していると警告したと報じられたことを手掛かりに、国内市場ではハイテク株が下落。また、同日の米国株式市場でも同材料でハイテク株が売られると、翌18日(木)の国内株式市場で改めてハイテク株を売る動きが見られました。日経平均は前日比で900円超の下落、円相場も一時1ドル=155円台半ばへ円高が進みました。
※レート・チェック:日銀が銀行等の為替ディーラーなどに為替レートの取引水準を確認する行為。市場では為替介入を実施するための準備段階と見られています。
日経平均とNYダウ
円安の背景にあるのはリスク許容度の改善
日経平均は7/11に42,000円台に到達した後、調整局面にあります。日経平均の下げを主導しているのはハイテク株や値がさ株です。ハイテク株については、17日に報じられたバイデン政権による対中国半導体規制の強化が嫌気された格好ですが、それよりも大きな、株価下落の引き金となったのは為替介入による急激な円高進行と考えられます。
そもそも、円相場は今年4月末から5月初旬に実施された為替介入以降、通常のセオリーとは異なる動きを辿っています。図表2は円相場と日米金利差(10年国債利回り差)の推移を示したグラフですが、為替介入が行われるまでは、円相場と日米金利差には、例えば円安進行時には日米金利差の拡大が手掛かりになるなど、高い相関性がありました。しかし、5月以降は日米金利差が縮小傾向を辿っているにも関わらず円安が進みました。円相場が日米金利差とは別の要因で動いていたということが見て取れます。
また、米国金利は5月以降、緩やかな低下トレンドを辿っていました。雇用市場の軟化やインフレ率の伸び率鈍化など、金融緩和への期待を強める材料が相次ぎました。特に6/12のFOMCでは、メンバーによるFFレート見通し(ドットチャート)の中央値で2024年末までに1回(0.25%×1回)の利下げシナリオが示されていたのに対し、市場はこのシナリオを拒否するかの如く、一段とハト派的な見方を強めています。最近のFFレート先物レートから見た市場が予想するFFレート見通しでは、9月の利下げ確率がほぼ100%、2024年内に2回から3回の利下げが織り込まれています。そして米国市場では早期利下げにより米国経済が軟着陸するという楽観的な見通しを手掛かりに投資家のリスク許容度が改善し、テクノロジー株主導の株高と共に、ドルを買う(円を売る)動きにつながったと考えられます。
しかし、日本政府による為替介入はリスク許容度の低下を伴いながら、円高・ドル安とテクノロジー株主導の株安につながりました。
日米金利差と円相場
円相場は日米金利差に対し円高修正の余地が大きい
当面の日本株の動きを占う上でカギを握るのは円相場の動きになると考えられます。
7/11に急激な円高が進みましたが、足元の円相場は1ドル=157円前後で推移しており、円高一巡後の戻りは鈍いです。為替介入は22年10月・11月や、24年4月・5月に行われました。今回も為替介入が行われたとすれば、それは前回までと同様に市場の意表を突くタイミングとなります。しかし、今回は翌12日に対ユーロでレート・チェックが行われた模様であり、政府の円安対策は対ドルだけではなく対ユーロに広がった可能性があります。それだけに政府の円安対策はこれまでよりも広範かつ大規模になることも考えられ、それだけに市場も円高修正に対し警戒が強まると考えられます。
図表3は円相場と日米金利差のマトリクスです。同図表を見ると日米金利差に対し円相場の水準は円安方向に位置していることが分かります。日米金利差が一定として円相場が回帰直線上に戻るとすれば、1ドル=140円程度へ円高が進むことになります。短期的にそこまで円高が進まずとも、145円から150円程度への円高は十分に想定されるところでしょう。現状の水準よりももう一段の円高が進めば、リスク許容度の更なる低下を招くとともに、株式市場の下押し圧力になるため注意する必要があると考えられます。
円相場と日米金利差のマトリクス
行き過ぎた米国金融緩和期待の修正に要注意
前述したように、最近の米国株高には早期利下げなど金融緩和への期待があると指摘しました。それだけに緩和期待が後退すれば米国株安、ひいては日本株の下押しにつながる可能性があります。金融緩和期待の後退は、米金利上昇(ひいては日米金利差の拡大)となりますが、日米金利差と円相場の相関性が低下している局面にある中で、日米金利差が拡大しても株価が下落するようであれば、リスク回避の円高が進む可能性があります。
ここもとの米国ではインフレ指標や雇用指標の軟化を手掛かりに金融緩和期待が高まっているのは確かなのですが、現状の市場の金融緩和期待はやや行き過ぎではないかと考えられます。
図表4は政策金利であるFFレート誘導目標(黒線)とS&P500株価指数(青線)の推移です。今回の利上げ局面は2022年3月がスタートしました。利上げ前のFOMC時点での“市場が予想するFFレート見通し(赤線)”では、緩やかな利上げ軌道が見込まれていました。しかし、実際のFFレート誘導目標は大きく引き上げられ、それに伴って“市場が予想するFFレート見通し”も大きく引き上げられたのですが、この見通しが引き上げられる過程で株価は軟調に推移しました。利上げ中盤の“市場が予想するFFレート見通し(緑線)や、利上げ終盤から利上げ打ち止め後の”市場が予想FFレート見通し(紫線)“についても同様、上方修正されるとともに株価は軟調でした。要は、市場はFRBの金融政策に対してハト派バイアスを強めやすいと考えられ、今回も同様の動きになる可能性は否定できません。市場の金融緩和期待が後退すれば、リスク回避の円高、(テクノロジー株主導の)米国株安が日本株の重石になる可能性に注意する必要があるでしょう。
FFレート誘導目標とS&P500株価指数
夏場は中小型株選好が継続する可能性
6月中旬から7月上旬にかけて日経平均は42,000円台へ一気に駆け上がりましたが、これは少しスピードが速すぎたのかもしれません。日本企業の資本改革や業績改善を期待した日本株買いの動きが失われた訳ではなく、中長期的な日本株上昇期待は変わらないと考えられます。ただし、短期的には、ここから夏場にかけて売買高の減少など市場エネルギーの低下も想定されるなか、主力株の値動きは乏しくなるかもしれません。
そうした中で注目したいのは中小型株へのマネーシフトです。これまで日経平均株価の上昇基調に対して取り残されていた(といっても過言ではない)東証グロース250指数は、日経平均が伸び悩みで主役を後退するかの如く堅調に推移し始めています。個人投資家などのマネーが大型株から中小型株にシフトすることで、当面は堅調な地合いが期待できそうです。具体的な中小型株については、7/17付け新興株ウィークリー『中小型株反発で、有望銘柄を見逃すな!好決算銘柄10選』をご参考ください。
東証グロース250指数と日経平均
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